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ー/ー



プロローグ

 二十年ぶりの、母校。
 変わっていないようで、変わっている。
 校舎は建て替えられ、校庭は人工芝になっていた。

 でも、あの場所だけは、変わらない。
 校庭の隅、大きな桜の木の下。
 二十年前、私たちがタイムカプセルを埋めた場所。

「久しぶりだな、みんな」
 幹事の田中が、笑いながら言う。

 集まったのは七人。
 小学校六年三組、仲良しグループだった私たち。

 田中、佐藤、鈴木、高橋、伊藤、渡辺。
 そして、私。

 全員、三十二歳。
 それぞれの人生を歩んできた。

 田中は、地元で会社を経営している。
 佐藤は、東京で弁護士をしている。
 鈴木は、結婚して二児の母になっていた。
 高橋は、教師になっていた。
 伊藤は、フリーライターをしている。
 渡辺は、実家の病院を継いでいた。

 そして私は——IT企業で、プログラマーをしている。

「じゃあ、掘り起こすか」
 田中が、スコップを持って言う。

 私たちは、二十年前の記憶を辿りながら、土を掘り始めた。


一章

 三十分ほど掘ると、固い感触があった。

「あった!」
 高橋が叫ぶ。

 金属製の箱。
 錆びているが、しっかりと封がされている。

 田中が、慎重に箱を開ける。

 中には、私たちが二十年前に入れたものが、そのまま残っていた。

 鈴木が入れた、お気に入りのぬいぐるみ。
 高橋が入れた、野球のボール。
 伊藤が入れた、漫画の単行本。
 佐藤が入れた、家族写真。
 渡辺が入れた、将来の夢を書いた作文。
 田中が入れた、ゲームのソフト。

 そして、私が入れた——

「あれ?これ、何だ?」
 田中が、一枚の紙を取り出す。

 新聞記事のような体裁。
 でも、私はこんなものを入れた覚えはない。

「誰が入れたんだ?」
 佐藤が聞く。

 みんな、首を振る。

 田中が、その紙を読み上げる。

「『二〇二五年十一月二十三日、元小学校同級生七名、同窓会中に全員死亡』......は?」

 一瞬、静まり返る。

 そして、鈴木が笑った。

「何それ、冗談でしょ?」
「でも、日付が今日だぞ」
 高橋が、顔を青くする。

 確かに、今日は二〇二五年十一月二十三日。
 そして、私たちは七人。

「誰かのイタズラだろ」
 伊藤が、余裕の表情で言う。
「二十年前に、未来の新聞記事なんて作れるわけないし」

 でも、その紙は、確かに古びていた。
 二十年間、土の中にあったような——

「とりあえず、気味が悪いから、捨てようぜ」
 田中が言う。

 でも、佐藤が止める。

「待て。念のため、持っておいた方がいい」
「何で?」
「......わからないが、何かあるかもしれない」

 佐藤は弁護士だ。
 証拠を残すことに、慣れている。

 結局、その紙は佐藤が持つことになった。

「じゃあ、飯でも食いに行くか」
 田中が、場の雰囲気を変えようと言う。

 私たちは、近くのファミレスに向かった。

二章

 ファミレスで、私たちは二十年間の出来事を語り合った。

 結婚した人、離婚した人。
 成功した人、失敗した人。
 夢を叶えた人、諦めた人。

 それでも、みんな、それなりに幸せそうだった。

 でも——

 渡辺だけは、どこか暗い表情をしていた。

「渡辺、どうした?」
 私が聞く。

「......いや、何でもない」
 渡辺は、そう言って視線を逸らす。

 気になったが、深くは聞かなかった。

 食事が終わり、トイレに立った渡辺が、なかなか戻ってこない。

「遅いな」
 田中が、心配そうに言う。

 伊藤が、トイレを見に行く。

 数分後。

 伊藤の、絶叫が聞こえた。

「誰か!救急車!」

 私たちは、トイレに駆け込んだ。

 そこには——

 渡辺が、倒れていた。
 口から泡を吹き、痙攣している。

「渡辺!」
 私が叫ぶ。

 佐藤が、すぐに救急車を呼ぶ。

 でも——

 渡辺は、救急車が来る前に、息を引き取った。

 死因は、毒物。
 飲み物に、何か混入されていたらしい。

 警察が来て、私たちは事情聴取を受けた。

 でも、誰も渡辺に毒を盛った覚えはない。

 そして——

 佐藤が、あの新聞記事を警察に見せた。

「これ、タイムカプセルから出てきたんです」

 警察は、半信半疑だった。
 でも、事実として、渡辺は死んだ。

「念のため、皆さんは今日一日、お互いに監視し合ってください」
 刑事が言う。
「そして、何か異変があれば、すぐに連絡を」

 私たちは、恐怖に震えながら、頷いた。

三章

 その夜。

 私たちは、田中の会社の事務所に集まった。
 六人で、一晩を過ごすことにしたのだ。

 誰も、一人になりたくなかった。

「本当に、あの新聞記事の通りになるのか?」
 鈴木が、震えながら聞く。

「まさか。偶然だろ」
 伊藤が答えるが、声に自信がない。

 佐藤が、あの新聞記事を改めて見る。

「これ、詳しく書いてあるな」
「どういうこと?」
 私が聞く。

「『第一の犠牲者、渡辺。毒殺。午後七時三十二分死亡』......時間まで合ってる」
「じゃあ、次は?」
 高橋が、青ざめながら聞く。

 佐藤が、続きを読む。

「『第二の犠牲者、伊藤。転落死。午後十一時十五分』......」

 時計を見る。
 今は、午後十時三十分。

 あと四十五分。

「嘘だろ......」
 伊藤が、壁際に座り込む。

「大丈夫だ。みんなで見張っていれば、何も起こらない」
 田中が、力強く言う。

 私たちは、伊藤の周りに集まった。

 時間が、ゆっくりと過ぎていく。

 午後十時四十五分。
 午後十一時。

 あと十五分。

 伊藤は、ずっと震えていた。

「大丈夫、大丈夫......」
 鈴木が、伊藤の手を握る。

 午後十一時十分。

 あと五分。

 私たちは、息を詰めて見守った。

 午後十一時十四分。

 あと一分。

 そして——

 午後十一時十五分。

 突然、事務所の電気が消えた。

「停電か!?」
 田中が叫ぶ。

 真っ暗闇。

 そして、ガラスが割れる音。

 誰かの悲鳴。

 電気が戻る。

 そこには——

 窓が割れ、伊藤がいない。

「伊藤!」

 私たちは、窓に駆け寄る。

 五階建ての事務所。
 下を見ると——

 伊藤が、地面に倒れていた。

 動かない。

四章

 警察が来た。
 でも、説明できない。

 誰も、伊藤を窓から突き落としていない。
 停電の間、みんな一緒にいた。

 でも、伊藤は死んだ。

 佐藤が、刑事に新聞記事を見せる。

「これ、本当に二十年前のものなのか?」
 刑事が聞く。

「わかりません。でも、タイムカプセルから出てきたのは事実です」

 刑事は、頭を抱える。

「科学的に、ありえない」
「でも、事実です」

 私たちは、完全にパニックになっていた。

 二人が死んだ。
 新聞記事の通りに。

 佐藤が、続きを読む。

「『第三の犠牲者、鈴木。刺殺。午前二時四十分』」

 今は、午前零時三十分。

 あと二時間十分。

 鈴木が、泣き崩れる。

「嫌、死にたくない!」

 私たちは、鈴木を守ろうとする。
 でも、どうやって?

 目に見えない敵と、どう戦えばいい?

 私は、必死に考える。
 プログラマーとして、論理的に。

 タイムカプセルに、未来の新聞記事。
 ありえない。

 でも、現実に起こっている。

 ということは——

 予言ではない。
 計画だ。

 誰かが、二十年前に、今日のことを計画した。

 でも、誰が?

 そして、なぜ?

五章

 午前二時。

 私たちは、全員が目を見開いて、鈴木を見守っていた。

 あと四十分。

 でも——

 鈴木が、突然立ち上がった。

「トイレ......」

「一人で行かせるな!」
 田中が言う。

 私と、高橋が、鈴木に付き添う。

 トイレに入る鈴木。

 私と高橋は、外で待つ。

 数分後。

 鈴木が、出てくる。

「大丈夫?」
 私が聞く。

「ええ......」

 鈴木は、青ざめていた。

 事務所に戻る。

 時計を見る。
 午前二時三十五分。

 あと五分。

 私たちは、鈴木の周りに集まる。

 午前二時三十九分。

 あと一分。

 そして——

 午前二時四十分。

 鈴木が、突然胸を押さえる。

「痛い......」

 そして、倒れる。

 胸から、血が流れている。

「鈴木!」

 でも——

 誰も、刺していない。

 私たちは、ずっと見ていた。

 なのに、鈴木は刺された。

 どうやって?

 救急車を呼ぶが、鈴木はすでに——

 三人目の犠牲者。

六章

 残りは、四人。

 田中、佐藤、高橋、そして私。

 私たちは、完全に理解した。

 これは、止められない。

 新聞記事の通りに、私たちは死ぬ。

 佐藤が、震えながら続きを読む。

「『第四の犠牲者、高橋。焼死。午前五時』」

 今は、午前三時。

 あと二時間。

 高橋が、泣いている。

「なんで......なんで俺たちが......」

 田中が、高橋の肩を抱く。

「大丈夫だ。まだ、時間がある」

 でも、その声は震えていた。

 私は、考え続ける。

 誰が、こんなことを?

 そして、なぜ?

 二十年前——

 私たちの小学校。
 六年三組。

 何か、あったか?

 必死に記憶を辿る。

 そして——

 思い出した。

 クラスに、もう一人いた。

 山田。

 いつも、一人でいた女の子。

 私たちは、彼女を——

 いじめていた。

「......山田さんだ」
 私が呟く。

「え?」
 みんなが、私を見る。

「山田さん。覚えてる?」

 一瞬、沈黙。

 そして、田中が言う。

「......ああ、いたな。でも、あいつ——」

「自殺した」
 佐藤が、続ける。

 そうだ。

 山田さんは、小学校卒業の直前に、自殺した。

 いじめが原因だと言われていた。

 私たちが、やったいじめが。

「まさか......」
 高橋が、顔を青くする。

「山田さんが、タイムカプセルに新聞記事を入れた?」
 鈴木が——いや、もう鈴木はいない。

 田中が言う。

「でも、どうやって未来の新聞を?」

「予言じゃない」
 私が答える。
「計画だ。山田さんは、二十年後の今日、私たちを殺す計画を立てた」

「でも、山田さんはもう......」

「死んでいる。でも、計画は残った」

 私は、理解した。

 山田さんは、自殺する前に、すべてを準備した。

 二十年後、私たちが同窓会を開くことを予測して。

 タイムカプセルに、新聞記事を入れた。

 そして——

 私たちを、一人ずつ、殺すための仕掛けを。

「でも、どうやって?」
 田中が聞く。

 私は、考える。

 渡辺の毒殺。
 伊藤の転落。
 鈴木の刺殺。

 どれも、誰かがやったわけではない。

 ということは——

 仕掛けだ。

 トリックが、あるはずだ。

七章

 午前五時が近づく。

 高橋が、震えている。

「火......火なんて、どうやって......」

 私は、周りを見渡す。

 事務所の中に、燃えるものは?

 そして——

 気づいた。

 ガスストーブ。

 古い型の、ガスストーブが置いてある。

「田中、そのストーブ、いつから置いてる?」
 私が聞く。

「え?あれ?昔からだけど......」

 私は、ストーブに近づく。

 裏を見ると——

 タイマーが仕掛けられている。

「これだ!」

 午前五時に、ガスが漏れるように設定されている。

 そして、自動着火。

「逃げろ!」

 私たちは、事務所から飛び出す。

 午前五時。

 爆発。

 事務所が、炎に包まれる。

 私たちは、無事だった。

 でも——

 高橋が、いない。

「高橋!」

 田中が叫ぶ。

 でも、高橋は事務所の中。

 炎の中。

 私たちは、何もできなかった。

八章

 四人目の犠牲者。

 残りは、三人。

 田中、佐藤、そして私。

 私たちは、警察署にいた。

 もう、警察も信じざるを得なかった。

 新聞記事の通りに、四人が死んだ。

 佐藤が、続きを読む。

「『第五の犠牲者、田中。溺死。午前十時』」

 今は、午前七時。

 あと三時間。

 田中が、机を叩く。

「もう、やめろ!こんなの、おかしいだろ!」

 でも、止まらない。

 計画は、粛々と進む。

 私は、考える。

 溺死。

 警察署の中で、どうやって?

 でも、山田さんなら——

 いや、山田さんは死んでいる。

 でも、計画は生きている。

 そして——

 午前十時が近づく。

 私たちは、ずっと一緒にいた。

 でも——

 田中が、トイレに立つ。

「一人で行かせるな」
 佐藤が言う。

 私と佐藤が、田中に付き添う。

 トイレに入る田中。

 数分後。

 出てこない。

「田中!」

 私たちは、トイレのドアを叩く。

 でも、返事がない。

 ドアを壊して、入る。

 そこには——

 田中が、便器の中に顔を突っ込んで、動かなくなっていた。

 溺死。

 便器の水で。

九章

 五人目の犠牲者。

 残りは、二人。

 佐藤と、私。

 私たちは、完全に諦めかけていた。

 佐藤が、続きを読む。

「『第六の犠牲者、佐藤。墜落死。午後二時』」

 今は、正午。

 あと二時間。

 そして——

「『第七の犠牲者、______。自殺。午後五時』」

 最後の犠牲者の名前は、消えていた。

 いや、最初から書かれていなかったのかもしれない。

 でも、間違いない。

 それは、私だ。

 私が、最後の犠牲者。

 そして——

 自殺?

 私は、自殺する?

 佐藤が、私を見る。

「......お前が、犯人なのか?」

「え?」

「だって、お前だけ、最後まで生き残る」

 私は、首を振る。

「違う!私は何もしていない!」

 でも、佐藤は信じない。

「じゃあ、なんでお前だけ最後なんだ?」

 私は、答えられない。

 そして——

 午後二時が近づく。

 佐藤は、窓のない部屋に閉じこもる。

 警察も、完全に監視している。

 でも——

 午後二時。

 突然、建物が揺れた。

 地震だ。

 そして——

 佐藤がいる部屋の天井が、崩れ落ちた。

 佐藤は、即死だった。


エピローグ

 残ったのは、私だけ。

 午後五時まで、あと三時間。

 私は、警察の厳重な監視の下にいた。

 自殺なんて、させない。

 でも——

 午後四時。

 私は、気づいた。

 渡辺、伊藤、鈴木、高橋、田中、佐藤。

 みんな、死んだ。

 私が、殺した?

 いや、違う。

 私は、何もしていない。

 でも——

 タイムカプセルを掘り起こしたのは、誰だ?

 私たちだ。

 新聞記事を読んだのは、誰だ?

 私たちだ。

 そして、新聞記事の通りに、恐怖し、パニックになった。

 その結果——

 みんな、死んだ。

 私は、理解した。

 これは、自己成就予言。

 予言を信じることで、予言が実現する。

 山田さんは、私たちの心理を利用したんだ。

 新聞記事を見せることで、私たちを恐怖させ、
 恐怖が、死を招いた。

 トリックは、あったかもしれない。
 でも、本当の凶器は——

 私たちの、恐怖そのものだった。

 そして、私は最後の犠牲者。

 自殺。

 でも、私は死なない。

 絶対に。

 午後五時が来た。

 私は、生きている。

 新聞記事の予言は、外れた。

 私は、勝った。

 でも——

 ふと、鏡を見る。

 そこに映っているのは——

 私じゃない。

 山田さんだ。

 私は、理解した。

 最初から、私は——

 山田さんだった。

 記憶を失っていた。

 いや、違う。

 作り替えられていた。

 二十年前、いじめで死んだのは、山田さんじゃない。

 私だ。

 私の名前は——

 私は、誰?

 鏡の中の山田さんが、笑っている。

 そして、私の手には——

 ナイフが握られていた。

 私は、自分の喉に、ナイフを当てる。

 なぜ?

 私は、死にたくない。

 でも、手が勝手に動く。

 これが、山田さんの復讐。

 私に、すべての罪を背負わせ、
 最後に、私自身の手で、
 私を殺す。

 ナイフが、喉に食い込む。

 痛い。

 血が、流れる。

 私は——

 誰——

(了)























みんなのリアクション

プロローグ
 二十年ぶりの、母校。
 変わっていないようで、変わっている。
 校舎は建て替えられ、校庭は人工芝になっていた。
 でも、あの場所だけは、変わらない。
 校庭の隅、大きな桜の木の下。
 二十年前、私たちがタイムカプセルを埋めた場所。
「久しぶりだな、みんな」
 幹事の田中が、笑いながら言う。
 集まったのは七人。
 小学校六年三組、仲良しグループだった私たち。
 田中、佐藤、鈴木、高橋、伊藤、渡辺。
 そして、私。
 全員、三十二歳。
 それぞれの人生を歩んできた。
 田中は、地元で会社を経営している。
 佐藤は、東京で弁護士をしている。
 鈴木は、結婚して二児の母になっていた。
 高橋は、教師になっていた。
 伊藤は、フリーライターをしている。
 渡辺は、実家の病院を継いでいた。
 そして私は——IT企業で、プログラマーをしている。
「じゃあ、掘り起こすか」
 田中が、スコップを持って言う。
 私たちは、二十年前の記憶を辿りながら、土を掘り始めた。
一章
 三十分ほど掘ると、固い感触があった。
「あった!」
 高橋が叫ぶ。
 金属製の箱。
 錆びているが、しっかりと封がされている。
 田中が、慎重に箱を開ける。
 中には、私たちが二十年前に入れたものが、そのまま残っていた。
 鈴木が入れた、お気に入りのぬいぐるみ。
 高橋が入れた、野球のボール。
 伊藤が入れた、漫画の単行本。
 佐藤が入れた、家族写真。
 渡辺が入れた、将来の夢を書いた作文。
 田中が入れた、ゲームのソフト。
 そして、私が入れた——
「あれ?これ、何だ?」
 田中が、一枚の紙を取り出す。
 新聞記事のような体裁。
 でも、私はこんなものを入れた覚えはない。
「誰が入れたんだ?」
 佐藤が聞く。
 みんな、首を振る。
 田中が、その紙を読み上げる。
「『二〇二五年十一月二十三日、元小学校同級生七名、同窓会中に全員死亡』......は?」
 一瞬、静まり返る。
 そして、鈴木が笑った。
「何それ、冗談でしょ?」
「でも、日付が今日だぞ」
 高橋が、顔を青くする。
 確かに、今日は二〇二五年十一月二十三日。
 そして、私たちは七人。
「誰かのイタズラだろ」
 伊藤が、余裕の表情で言う。
「二十年前に、未来の新聞記事なんて作れるわけないし」
 でも、その紙は、確かに古びていた。
 二十年間、土の中にあったような——
「とりあえず、気味が悪いから、捨てようぜ」
 田中が言う。
 でも、佐藤が止める。
「待て。念のため、持っておいた方がいい」
「何で?」
「......わからないが、何かあるかもしれない」
 佐藤は弁護士だ。
 証拠を残すことに、慣れている。
 結局、その紙は佐藤が持つことになった。
「じゃあ、飯でも食いに行くか」
 田中が、場の雰囲気を変えようと言う。
 私たちは、近くのファミレスに向かった。
二章
 ファミレスで、私たちは二十年間の出来事を語り合った。
 結婚した人、離婚した人。
 成功した人、失敗した人。
 夢を叶えた人、諦めた人。
 それでも、みんな、それなりに幸せそうだった。
 でも——
 渡辺だけは、どこか暗い表情をしていた。
「渡辺、どうした?」
 私が聞く。
「......いや、何でもない」
 渡辺は、そう言って視線を逸らす。
 気になったが、深くは聞かなかった。
 食事が終わり、トイレに立った渡辺が、なかなか戻ってこない。
「遅いな」
 田中が、心配そうに言う。
 伊藤が、トイレを見に行く。
 数分後。
 伊藤の、絶叫が聞こえた。
「誰か!救急車!」
 私たちは、トイレに駆け込んだ。
 そこには——
 渡辺が、倒れていた。
 口から泡を吹き、痙攣している。
「渡辺!」
 私が叫ぶ。
 佐藤が、すぐに救急車を呼ぶ。
 でも——
 渡辺は、救急車が来る前に、息を引き取った。
 死因は、毒物。
 飲み物に、何か混入されていたらしい。
 警察が来て、私たちは事情聴取を受けた。
 でも、誰も渡辺に毒を盛った覚えはない。
 そして——
 佐藤が、あの新聞記事を警察に見せた。
「これ、タイムカプセルから出てきたんです」
 警察は、半信半疑だった。
 でも、事実として、渡辺は死んだ。
「念のため、皆さんは今日一日、お互いに監視し合ってください」
 刑事が言う。
「そして、何か異変があれば、すぐに連絡を」
 私たちは、恐怖に震えながら、頷いた。
三章
 その夜。
 私たちは、田中の会社の事務所に集まった。
 六人で、一晩を過ごすことにしたのだ。
 誰も、一人になりたくなかった。
「本当に、あの新聞記事の通りになるのか?」
 鈴木が、震えながら聞く。
「まさか。偶然だろ」
 伊藤が答えるが、声に自信がない。
 佐藤が、あの新聞記事を改めて見る。
「これ、詳しく書いてあるな」
「どういうこと?」
 私が聞く。
「『第一の犠牲者、渡辺。毒殺。午後七時三十二分死亡』......時間まで合ってる」
「じゃあ、次は?」
 高橋が、青ざめながら聞く。
 佐藤が、続きを読む。
「『第二の犠牲者、伊藤。転落死。午後十一時十五分』......」
 時計を見る。
 今は、午後十時三十分。
 あと四十五分。
「嘘だろ......」
 伊藤が、壁際に座り込む。
「大丈夫だ。みんなで見張っていれば、何も起こらない」
 田中が、力強く言う。
 私たちは、伊藤の周りに集まった。
 時間が、ゆっくりと過ぎていく。
 午後十時四十五分。
 午後十一時。
 あと十五分。
 伊藤は、ずっと震えていた。
「大丈夫、大丈夫......」
 鈴木が、伊藤の手を握る。
 午後十一時十分。
 あと五分。
 私たちは、息を詰めて見守った。
 午後十一時十四分。
 あと一分。
 そして——
 午後十一時十五分。
 突然、事務所の電気が消えた。
「停電か!?」
 田中が叫ぶ。
 真っ暗闇。
 そして、ガラスが割れる音。
 誰かの悲鳴。
 電気が戻る。
 そこには——
 窓が割れ、伊藤がいない。
「伊藤!」
 私たちは、窓に駆け寄る。
 五階建ての事務所。
 下を見ると——
 伊藤が、地面に倒れていた。
 動かない。
四章
 警察が来た。
 でも、説明できない。
 誰も、伊藤を窓から突き落としていない。
 停電の間、みんな一緒にいた。
 でも、伊藤は死んだ。
 佐藤が、刑事に新聞記事を見せる。
「これ、本当に二十年前のものなのか?」
 刑事が聞く。
「わかりません。でも、タイムカプセルから出てきたのは事実です」
 刑事は、頭を抱える。
「科学的に、ありえない」
「でも、事実です」
 私たちは、完全にパニックになっていた。
 二人が死んだ。
 新聞記事の通りに。
 佐藤が、続きを読む。
「『第三の犠牲者、鈴木。刺殺。午前二時四十分』」
 今は、午前零時三十分。
 あと二時間十分。
 鈴木が、泣き崩れる。
「嫌、死にたくない!」
 私たちは、鈴木を守ろうとする。
 でも、どうやって?
 目に見えない敵と、どう戦えばいい?
 私は、必死に考える。
 プログラマーとして、論理的に。
 タイムカプセルに、未来の新聞記事。
 ありえない。
 でも、現実に起こっている。
 ということは——
 予言ではない。
 計画だ。
 誰かが、二十年前に、今日のことを計画した。
 でも、誰が?
 そして、なぜ?
五章
 午前二時。
 私たちは、全員が目を見開いて、鈴木を見守っていた。
 あと四十分。
 でも——
 鈴木が、突然立ち上がった。
「トイレ......」
「一人で行かせるな!」
 田中が言う。
 私と、高橋が、鈴木に付き添う。
 トイレに入る鈴木。
 私と高橋は、外で待つ。
 数分後。
 鈴木が、出てくる。
「大丈夫?」
 私が聞く。
「ええ......」
 鈴木は、青ざめていた。
 事務所に戻る。
 時計を見る。
 午前二時三十五分。
 あと五分。
 私たちは、鈴木の周りに集まる。
 午前二時三十九分。
 あと一分。
 そして——
 午前二時四十分。
 鈴木が、突然胸を押さえる。
「痛い......」
 そして、倒れる。
 胸から、血が流れている。
「鈴木!」
 でも——
 誰も、刺していない。
 私たちは、ずっと見ていた。
 なのに、鈴木は刺された。
 どうやって?
 救急車を呼ぶが、鈴木はすでに——
 三人目の犠牲者。
六章
 残りは、四人。
 田中、佐藤、高橋、そして私。
 私たちは、完全に理解した。
 これは、止められない。
 新聞記事の通りに、私たちは死ぬ。
 佐藤が、震えながら続きを読む。
「『第四の犠牲者、高橋。焼死。午前五時』」
 今は、午前三時。
 あと二時間。
 高橋が、泣いている。
「なんで......なんで俺たちが......」
 田中が、高橋の肩を抱く。
「大丈夫だ。まだ、時間がある」
 でも、その声は震えていた。
 私は、考え続ける。
 誰が、こんなことを?
 そして、なぜ?
 二十年前——
 私たちの小学校。
 六年三組。
 何か、あったか?
 必死に記憶を辿る。
 そして——
 思い出した。
 クラスに、もう一人いた。
 山田。
 いつも、一人でいた女の子。
 私たちは、彼女を——
 いじめていた。
「......山田さんだ」
 私が呟く。
「え?」
 みんなが、私を見る。
「山田さん。覚えてる?」
 一瞬、沈黙。
 そして、田中が言う。
「......ああ、いたな。でも、あいつ——」
「自殺した」
 佐藤が、続ける。
 そうだ。
 山田さんは、小学校卒業の直前に、自殺した。
 いじめが原因だと言われていた。
 私たちが、やったいじめが。
「まさか......」
 高橋が、顔を青くする。
「山田さんが、タイムカプセルに新聞記事を入れた?」
 鈴木が——いや、もう鈴木はいない。
 田中が言う。
「でも、どうやって未来の新聞を?」
「予言じゃない」
 私が答える。
「計画だ。山田さんは、二十年後の今日、私たちを殺す計画を立てた」
「でも、山田さんはもう......」
「死んでいる。でも、計画は残った」
 私は、理解した。
 山田さんは、自殺する前に、すべてを準備した。
 二十年後、私たちが同窓会を開くことを予測して。
 タイムカプセルに、新聞記事を入れた。
 そして——
 私たちを、一人ずつ、殺すための仕掛けを。
「でも、どうやって?」
 田中が聞く。
 私は、考える。
 渡辺の毒殺。
 伊藤の転落。
 鈴木の刺殺。
 どれも、誰かがやったわけではない。
 ということは——
 仕掛けだ。
 トリックが、あるはずだ。
七章
 午前五時が近づく。
 高橋が、震えている。
「火......火なんて、どうやって......」
 私は、周りを見渡す。
 事務所の中に、燃えるものは?
 そして——
 気づいた。
 ガスストーブ。
 古い型の、ガスストーブが置いてある。
「田中、そのストーブ、いつから置いてる?」
 私が聞く。
「え?あれ?昔からだけど......」
 私は、ストーブに近づく。
 裏を見ると——
 タイマーが仕掛けられている。
「これだ!」
 午前五時に、ガスが漏れるように設定されている。
 そして、自動着火。
「逃げろ!」
 私たちは、事務所から飛び出す。
 午前五時。
 爆発。
 事務所が、炎に包まれる。
 私たちは、無事だった。
 でも——
 高橋が、いない。
「高橋!」
 田中が叫ぶ。
 でも、高橋は事務所の中。
 炎の中。
 私たちは、何もできなかった。
八章
 四人目の犠牲者。
 残りは、三人。
 田中、佐藤、そして私。
 私たちは、警察署にいた。
 もう、警察も信じざるを得なかった。
 新聞記事の通りに、四人が死んだ。
 佐藤が、続きを読む。
「『第五の犠牲者、田中。溺死。午前十時』」
 今は、午前七時。
 あと三時間。
 田中が、机を叩く。
「もう、やめろ!こんなの、おかしいだろ!」
 でも、止まらない。
 計画は、粛々と進む。
 私は、考える。
 溺死。
 警察署の中で、どうやって?
 でも、山田さんなら——
 いや、山田さんは死んでいる。
 でも、計画は生きている。
 そして——
 午前十時が近づく。
 私たちは、ずっと一緒にいた。
 でも——
 田中が、トイレに立つ。
「一人で行かせるな」
 佐藤が言う。
 私と佐藤が、田中に付き添う。
 トイレに入る田中。
 数分後。
 出てこない。
「田中!」
 私たちは、トイレのドアを叩く。
 でも、返事がない。
 ドアを壊して、入る。
 そこには——
 田中が、便器の中に顔を突っ込んで、動かなくなっていた。
 溺死。
 便器の水で。
九章
 五人目の犠牲者。
 残りは、二人。
 佐藤と、私。
 私たちは、完全に諦めかけていた。
 佐藤が、続きを読む。
「『第六の犠牲者、佐藤。墜落死。午後二時』」
 今は、正午。
 あと二時間。
 そして——
「『第七の犠牲者、______。自殺。午後五時』」
 最後の犠牲者の名前は、消えていた。
 いや、最初から書かれていなかったのかもしれない。
 でも、間違いない。
 それは、私だ。
 私が、最後の犠牲者。
 そして——
 自殺?
 私は、自殺する?
 佐藤が、私を見る。
「......お前が、犯人なのか?」
「え?」
「だって、お前だけ、最後まで生き残る」
 私は、首を振る。
「違う!私は何もしていない!」
 でも、佐藤は信じない。
「じゃあ、なんでお前だけ最後なんだ?」
 私は、答えられない。
 そして——
 午後二時が近づく。
 佐藤は、窓のない部屋に閉じこもる。
 警察も、完全に監視している。
 でも——
 午後二時。
 突然、建物が揺れた。
 地震だ。
 そして——
 佐藤がいる部屋の天井が、崩れ落ちた。
 佐藤は、即死だった。
エピローグ
 残ったのは、私だけ。
 午後五時まで、あと三時間。
 私は、警察の厳重な監視の下にいた。
 自殺なんて、させない。
 でも——
 午後四時。
 私は、気づいた。
 渡辺、伊藤、鈴木、高橋、田中、佐藤。
 みんな、死んだ。
 私が、殺した?
 いや、違う。
 私は、何もしていない。
 でも——
 タイムカプセルを掘り起こしたのは、誰だ?
 私たちだ。
 新聞記事を読んだのは、誰だ?
 私たちだ。
 そして、新聞記事の通りに、恐怖し、パニックになった。
 その結果——
 みんな、死んだ。
 私は、理解した。
 これは、自己成就予言。
 予言を信じることで、予言が実現する。
 山田さんは、私たちの心理を利用したんだ。
 新聞記事を見せることで、私たちを恐怖させ、
 恐怖が、死を招いた。
 トリックは、あったかもしれない。
 でも、本当の凶器は——
 私たちの、恐怖そのものだった。
 そして、私は最後の犠牲者。
 自殺。
 でも、私は死なない。
 絶対に。
 午後五時が来た。
 私は、生きている。
 新聞記事の予言は、外れた。
 私は、勝った。
 でも——
 ふと、鏡を見る。
 そこに映っているのは——
 私じゃない。
 山田さんだ。
 私は、理解した。
 最初から、私は——
 山田さんだった。
 記憶を失っていた。
 いや、違う。
 作り替えられていた。
 二十年前、いじめで死んだのは、山田さんじゃない。
 私だ。
 私の名前は——
 私は、誰?
 鏡の中の山田さんが、笑っている。
 そして、私の手には——
 ナイフが握られていた。
 私は、自分の喉に、ナイフを当てる。
 なぜ?
 私は、死にたくない。
 でも、手が勝手に動く。
 これが、山田さんの復讐。
 私に、すべての罪を背負わせ、
 最後に、私自身の手で、
 私を殺す。
 ナイフが、喉に食い込む。
 痛い。
 血が、流れる。
 私は——
 誰——
(了)


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