それは村はずれの廃屋の目の前。もう使われなくなった倉庫の道具を拝借して作ったカマクラだ。
最初は大人達にならってイグルーを作ろうと思っていたのだが非常に面倒だったので、シャベルで盛大に雪を盛って水を掛け一晩固め、後は中身をくり抜くだけで出来る遠い異国の簡易住居が彼の秘密基地だった。漫画で学んだそれは時間こそかかるが子供一人でも容易に作れ、風向きも考えられた半球はおそらく春まで十分に持つだろう。
少年は一応周囲を警戒しながら雪原にひっそり立つカラマツの根元に辿り着き、自作住居のぽっかり空いた穴を塞いでいる雪レンガを退けて中に身を隠す。
自宅の倉庫に忍び込み村に電気が通うようになりめっきり使われなくなって久しいキャンドル、今は亡き祖父の狩ったグリズリーの毛皮で拵えた絨毯、ドーム内壁を支えるように置かれた漫画箱。そしてホームステイ先から帰郷の際に買い漁った異国の菓子袋達。天井の小さな空気穴が埋まりかけていたので指でほじくり開通させ明かりを点けると、そこには少年の大好きな物が所狭しと溢れかえっている。
入り口は少年と犬が潜れればいいので小さいが、加減が分からず雪を盛り過ぎたため内部は広く子供ならば四人は座れるほどの面積があるのに、作り手は相棒の犬以外、誰一人招く気が無かったので酷く取っ散らかっていた。
一番奥に座る彼の目の前には入り口をふさぐように背を向けて伏せるマラミュート犬のタローがいて、右手にはお菓子とキッチンからくすねた保存食。左手には司書をかどわかしネットを介してタダで手に入れたはいいものの、想定以上の嵩に焼却される運命から救った漫画達が鎮座している。
お菓子はともかく書物に関しては雪に埋もれさせる訳にいかないので自宅に持ち帰る必要はあるが、本当は燃やしたくなかった司書が気を利かせて段ボール一杯のそれを大きなビニル袋に入れてくれたので取り合えずそのまま安置していた。少年は毎日母にばれぬよう狭い懐に数冊ずつ忍ばせて帰っているが、あと二週間はかかるだろう。
なにはともあれ、いつでも読めるそれらは後に回し、先程借りてきたばかりの本の世界に飛び込むべく、少年は読書用に倉庫から持ち込んだカンテラを木箱の上に移動し物語の中に身を投じた。