音色は瑞稀の到着で目を覚ました。昨日のこともあって二人に顔を合わせるのが憂鬱だ。
そっと二人の声がするダイニングの方へと足を忍ばせた。
(夜光さん、辞めちゃったんだ……みんな忙しい時期なのに……私のせいだ……)
音色は胸を痛めた。夜光はずっと一颯の会社を支えてきた一人なのだろう……。音色の気持ちだけを考えれば、このまままた夜光と二人の空間で仕事なんかできるはずもない、顔を合せるのも怖いと思う。しかし音色とどちらがこの先一颯のためになるかと考えれば、会社が受けた打撃は大きいと思われる。
(瑞稀さんも知ってたんだ……どうして何も聞かれなかったんだろう?)
よく考えれば『夜光だけしか知らない』なんて状況があるはずもない。もしそんな状況が起こり得るのならばそれは、夜光が個人的に調べたに他ならない。つまりは初めの身元調査段階、ってことは、瑞稀は『分かっていて』一颯に隠して採用させたことになる。
思い返せば『夜光から報告があった』『身体のサイズまで』と瑞稀は言っていた。
これはきっと瑞稀にも多大な迷惑が掛かるに違いない……音色の心の枷がキツく重くなる。
一颯の言葉からは僅かながらでも音色への否定感が垣間見られる。履歴書を提出したわけでもなければ訴えられたわけでもないので前科があるわけでもない……だから『詐称』等ではないが、それは逆に一颯の『独断と偏見』で雇用されたことを意味してしまう。会社から給料が払われている段階で、一颯の私設社員とは言えない訳だから。経営者としての責任というものがあるのだろう。
このままではみんなに迷惑が掛かる……。
音色はこの場を黙って後にしたのだった……。