「そう言えば最近、金に困ってる風だったな」
一颯は恍けるように話題を変えた。瑞稀はそれには応えない。ジッと一颯を見つめる。一颯はコーヒーを一口含むと、ゴクリと呑み込んだ。
「前の会社に借金、あるみたいだな」
一颯がこの話題をどこに着地させようとしているのか瑞稀は不安でしかない。更に応えない瑞稀に一瞥すると一颯は言葉を続ける。
「確かに俺は彼女に『同情』した。それに期待もあった、瑞稀にそこまで言わせるポテンシャルに。パーティーへ間に合わせるために時間的に追い詰められてもいた……」
(『同情』? 確かに俺も彼女を『気の毒だ』と思った……でもそれは『同情』からではない。それは一颯だって同じではなかったのか?)
瑞稀は考えが私的だった、一颯のように公的に思考に入り切れなかった。
「でも……」
瑞稀が絞り出せた言葉はそれだけだった。一颯はまたコーヒーのカップに口をつけるとゆっくり傾け、その間を開けた。そして言葉が続かない瑞稀を助けるように次の句を吐いた、それはコーヒーの香りと共に。
「そう、でも彼女は誠実だった。仕事もよく覚えてくれている」