嫌な予感しかしない隼人は、すでに人の姿はほとんどないが、廊下での会話を避け、目の前の教室へ入る。幸い中には誰もいない。
教室に入ると楓乃が一気に距離を詰める。パーソナルゾーン深くに侵入された感覚をもつ隼人。
楓乃は待ちきれない子供のよう。
「私ね、すごいこと知ってるんだ。隼人も聞いたら絶対驚くよ」
「舞羽ってね……」
言葉をわざと切る。生唾が呑み込まれる。
「頭に醜い傷があるんだって! ウィッグで隠してるんですって!」
無言を押し通す隼人に業を煮やした楓乃が、もう一言重ねる。
「酷いよねぇ。騙してたんだって、本当は醜い顔なのに」
楓乃は笑う。三度笑う。それは嘲り、それは見下し、そしてそれは、劣等感から生まれてくる行為だ。
「楓乃お前、それ他の誰かに言ったか?」
「ううん、まだ誰にも。隼人に一番に教えたくって」
「誰にも言うな」
「……? いいわよ。隼人がどうしてもって言うなら」
「もうやめろよ、楓乃。そんなこと……とにかく絶対誰にも言うなよ!」