「丁度良かったわ、隼人」
隼人が言うより早く、楓乃が切り出す。
「私ね、いいこと聞いちゃったの。聞きたいでしょ?」
隼人の心が騒めく。警鐘がなっている、どんどん大きくなる。うるさいほどに。楓乃の口が次の句を告げようと動き出そうとしているのが、スローモーションのように分かる。
「楓乃!」
辛うじて隼人が先に声を出せた。楓乃の口は音を出す寸前で留まるも、遮られた不満が顔に表れている。隼人はとりあえず的な話を振るので精一杯だ。
「楓乃、部室……行かないか?」
「……さっき顔出したから……」
(みんなの前で、言ってもいいかも……)
否定の言葉を言いながら、楓乃にそんな気持ちも過った。しかし思い直す。楓乃の今の最大の目的は、隼人から舞羽への気持ちを奪うことだから。
楓乃は気づけていない。そんなことをしたところで、隼人の気が楓乃に移る確証なんてありもしないことを。しかし女の嫉妬は判断を狂わせる。隼人が舞羽を諦めたら、その愛情は自分に向く以外ありえないと、信じて疑わない。
『嫉妬は千の目を持っている。しかし、一つも正しく見えない』まさしくユダヤの格言そのものだ。
「それよりも隼人、私のいい話、聞いてよ」
楓乃は再び微笑んだ。