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#104 領主親子の依頼 (カグヤ視点)

ー/ー



「私がフェンデリン家の当主モルジェオだ」
「お初にお目に掛かります。カグヤと申します」


 今居るここは領主の城、その応接室だ。


 負傷者の治療や建物の修復、暴徒の鎮圧も一段落(いちだんらく)したため、休息も兼ねて、モルジェオへの挨拶と事情の説明の時間に入った。
 部屋には他に、オズガルド、エレノア、ジェフ、ダスク、ベリオも居る。


「あなたのことは父上たちから伺った。まずは我が一族とルーンベイルのために尽力して頂いたことについて、心より感謝申し上げる」
「私からも御礼申し上げます」


 正面に腰掛けるモルジェオが深々と頭を下げ、隣の嫡男カルステッドもそれに倣う。


「フェンデリン家が(かくま)って下さったからこそ、右も左も分からないこの世界で今日まで生き延びることができました。その御恩に少しでも報いることができたのであれば、私も嬉しく思います」


 捕縛したヌンヴィス司教は地下牢に入れられ、このルーンベイルに於ける栄耀教会の脅威は無くなった。
 まだ城内には負傷者が多数居て、街の方でも後始末に追われているが、モルジェオはそちらへの対応は妻や部下に任せ、私たちとの談合を優先した。


「さて、早速本題に入らせて頂くが……あなたが宿すという闇の極大魔力『望月』について、確かめなければならないことがある」
「瘴気の吸収ですね?」
「然様」


 領主の立場からすれば、それが最大の関心事だ。


「え……何だって? 吸収だと……? 瘴気の? 今そう言ったのか……!?」


 耳を疑ったのはサリーの兄ベリオ。
 ダスクやジェフと共に、暴徒の鎮圧や負傷者の救助と搬送に勤しんでいた彼だけは、まだオズガルドとエレノアから私の『望月』について聞かされていない。


「まだ話の途中だ。静かにしていろ」
「むぅ……」


 隣のダスクに胸を軽く叩かれたベリオが、不満そうに口を(つぐ)む。


「あなたやお爺様たちの言葉を疑う訳ではありませんが、これは我が領、我が一族に留まらず、国家全体の未来をも左右する極めて重要な事柄と捉えています。瘴気を吸収して『邪神の息吹』を鎮めるなどという突拍子も無い話を、伝聞だけで信じ、受け入れることはできません」


 モルジェオもカルステッドもこの地の統治者として重責を担っているのだから、それに多大な影響を及ぼす力を慎重に見極めようとするのは当然のことだ。


「カグヤ殿、あなたが本当に瘴気を吸収できると言うのなら、実際にその様子を見せて頂きたい」
「承知しました。元よりそのつもりで来ましたし、そろそろ瘴気を摂取して魔力を回復しなければと思っていた所です」


 この街に来てからというもの、事態を収束させるために『原点へ立ち返る期(リターン・オブ・ザ・ネイティヴ)』や『無明の極致(ダーケスト・イグノランス)』のような強力な魔法を多用して、かつて無いほどに魔力を消耗してしまった。
 魔法を使い過ぎて魔力量が大きく減ると、魔力欠乏症に陥り、軽い眩暈(めまい)や寒気を覚えたり、精神的にネガティヴになるなどの症状が表れることはエレノアから教わっていたが、知識ではなく自分の身で体験したのはこれが初めてだ。


「領内にある瘴気の源泉の場所は判明しています。何でもあなたは空間を飛び越えることで、遠い帝都からこの街まで一瞬で来られたそうですが、源泉まで瞬時に行くことも可能ですか?」
「おおよその距離と方角さえ分かれば、今すぐにでも」


 色々あって精神的にも肉体的にもいくら疲労を感じてはいるものの、こうしている間にも『邪神の息吹』で悲劇を強いられている人々が居る。


 以前に吸収したのは地脈の瘴気であり、それを上回る源泉の瘴気を吸収したことはまだ無いため、上手くいくかどうかは分からず不安があるが、いずれは試さなければならないのだ。
 この夜が終わって朝が来るまでに、やれるだけのことはやっておきたい。


「ならば今すぐに」


 寸刻を惜しむようにモルジェオが立ち上がると、


「あの~、差し出がましいとは思いますが、俺も同行して構いませんかね?」


 手を挙げてそう言ったのはベリオ。
 口調こそ遠慮がちだが、こんなチャンスを逃す訳にはいかない、何が何でも付いて行ってやる、と言わんばかりの強い意志がその眼には宿っていた。


 彼とはこれが初対面だが、サリーやジェフから話は聞いている。
 栄耀教会の謀略で滅ぼされたファーツ一族の無念を晴らすため、悪質な活動を続けるかの教団を打倒すべく、サリーをフェンデリン家に預けて、レジスタンス『黄昏の牙』に入ったのだとか。


「私は構わない。カグヤ殿は?」


 私の『望月』が『黄昏の牙』の今後の戦略にも大きな影響を及ぼすと考えたからこそ、ベリオは同行を願い出、モルジェオはそれを承諾した。
 これからは『黄昏の牙』とも連携していく場面も訪れると思われるため、その際はベリオを仲介役に立てることになるだろう。


「では、一緒に行きましょう」
「どうも、感謝しますぜ」


 元貴族にしては品性を欠いた雑な言葉遣いだが、不快な感じは全くしなかった。


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「私がフェンデリン家の当主モルジェオだ」
「お初にお目に掛かります。カグヤと申します」
 今居るここは領主の城、その応接室だ。
 負傷者の治療や建物の修復、暴徒の鎮圧も|一段落《いちだんらく》したため、休息も兼ねて、モルジェオへの挨拶と事情の説明の時間に入った。
 部屋には他に、オズガルド、エレノア、ジェフ、ダスク、ベリオも居る。
「あなたのことは父上たちから伺った。まずは我が一族とルーンベイルのために尽力して頂いたことについて、心より感謝申し上げる」
「私からも御礼申し上げます」
 正面に腰掛けるモルジェオが深々と頭を下げ、隣の嫡男カルステッドもそれに倣う。
「フェンデリン家が|匿《かくま》って下さったからこそ、右も左も分からないこの世界で今日まで生き延びることができました。その御恩に少しでも報いることができたのであれば、私も嬉しく思います」
 捕縛したヌンヴィス司教は地下牢に入れられ、このルーンベイルに於ける栄耀教会の脅威は無くなった。
 まだ城内には負傷者が多数居て、街の方でも後始末に追われているが、モルジェオはそちらへの対応は妻や部下に任せ、私たちとの談合を優先した。
「さて、早速本題に入らせて頂くが……あなたが宿すという闇の極大魔力『望月』について、確かめなければならないことがある」
「瘴気の吸収ですね?」
「然様」
 領主の立場からすれば、それが最大の関心事だ。
「え……何だって? 吸収だと……? 瘴気の? 今そう言ったのか……!?」
 耳を疑ったのはサリーの兄ベリオ。
 ダスクやジェフと共に、暴徒の鎮圧や負傷者の救助と搬送に勤しんでいた彼だけは、まだオズガルドとエレノアから私の『望月』について聞かされていない。
「まだ話の途中だ。静かにしていろ」
「むぅ……」
 隣のダスクに胸を軽く叩かれたベリオが、不満そうに口を|噤《つぐ》む。
「あなたやお爺様たちの言葉を疑う訳ではありませんが、これは我が領、我が一族に留まらず、国家全体の未来をも左右する極めて重要な事柄と捉えています。瘴気を吸収して『邪神の息吹』を鎮めるなどという突拍子も無い話を、伝聞だけで信じ、受け入れることはできません」
 モルジェオもカルステッドもこの地の統治者として重責を担っているのだから、それに多大な影響を及ぼす力を慎重に見極めようとするのは当然のことだ。
「カグヤ殿、あなたが本当に瘴気を吸収できると言うのなら、実際にその様子を見せて頂きたい」
「承知しました。元よりそのつもりで来ましたし、そろそろ瘴気を摂取して魔力を回復しなければと思っていた所です」
 この街に来てからというもの、事態を収束させるために『|原点へ立ち返る期《リターン・オブ・ザ・ネイティヴ》』や『|無明の極致《ダーケスト・イグノランス》』のような強力な魔法を多用して、かつて無いほどに魔力を消耗してしまった。
 魔法を使い過ぎて魔力量が大きく減ると、魔力欠乏症に陥り、軽い|眩暈《めまい》や寒気を覚えたり、精神的にネガティヴになるなどの症状が表れることはエレノアから教わっていたが、知識ではなく自分の身で体験したのはこれが初めてだ。
「領内にある瘴気の源泉の場所は判明しています。何でもあなたは空間を飛び越えることで、遠い帝都からこの街まで一瞬で来られたそうですが、源泉まで瞬時に行くことも可能ですか?」
「おおよその距離と方角さえ分かれば、今すぐにでも」
 色々あって精神的にも肉体的にもいくら疲労を感じてはいるものの、こうしている間にも『邪神の息吹』で悲劇を強いられている人々が居る。
 以前に吸収したのは地脈の瘴気であり、それを上回る源泉の瘴気を吸収したことはまだ無いため、上手くいくかどうかは分からず不安があるが、いずれは試さなければならないのだ。
 この夜が終わって朝が来るまでに、やれるだけのことはやっておきたい。
「ならば今すぐに」
 寸刻を惜しむようにモルジェオが立ち上がると、
「あの~、差し出がましいとは思いますが、俺も同行して構いませんかね?」
 手を挙げてそう言ったのはベリオ。
 口調こそ遠慮がちだが、こんなチャンスを逃す訳にはいかない、何が何でも付いて行ってやる、と言わんばかりの強い意志がその眼には宿っていた。
 彼とはこれが初対面だが、サリーやジェフから話は聞いている。
 栄耀教会の謀略で滅ぼされたファーツ一族の無念を晴らすため、悪質な活動を続けるかの教団を打倒すべく、サリーをフェンデリン家に預けて、レジスタンス『黄昏の牙』に入ったのだとか。
「私は構わない。カグヤ殿は?」
 私の『望月』が『黄昏の牙』の今後の戦略にも大きな影響を及ぼすと考えたからこそ、ベリオは同行を願い出、モルジェオはそれを承諾した。
 これからは『黄昏の牙』とも連携していく場面も訪れると思われるため、その際はベリオを仲介役に立てることになるだろう。
「では、一緒に行きましょう」
「どうも、感謝しますぜ」
 元貴族にしては品性を欠いた雑な言葉遣いだが、不快な感じは全くしなかった。