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第70話 盗賊、戦士、荷物持ち、魔王

ー/ー



「けっけっけ……」
 下品な声、気色悪い笑みを浮かべ、コーベが魔石袋をぷらんぷらんとわざと見せつけるようにぶら下げてくる。

 本当にコイツは一体なんなんだ。いつの間にか我の懐から魔石をくすねたこともそうだが、それはただ単に手癖が悪いだけの話じゃない。

 我が魔法を放とうとしたタイミングで盗んで見せた。
 つまり、コーベは我が魔法を使えることを知ってて、かつ魔法を発動する条件を把握していたということになる。あり得るのか、そんなこと。

「か、返せ! それを、ただちに返せ!」

 腕を伸ばすも、コーベには指一本かすりもしない。
 驚くほどに静かで、単純な最低限の動きだけで完璧に避けられた。
 二度、三度と宙に拳が舞ったが、それも虚しく空ぶった。

 この身のこなし、本当にただの冒険者か?
 隙もないし、無駄もない。チャラさだけならウザいくらいあるのに。

「キサマ、どうして我が魔法を使うことを……いや、どうして魔石を使っていることを知っていたのだ?」
 そうだ、普通に魔法使いといえば自前の潜在魔力を練って構築する。わざわざ魔石なんて利用する輩は魔法のセンスがないものに限られる。

 我はコーベの前で魔法を使うところを見せてもいないし、ましてや魔石をちらつかせてもいないはずだ。どんな洞察力を持ってしても無理だろう、それは。

「んー、勘」
 んなワケあるかボケ!
 くっそぉ……殴ってやりたいのに、さっきから一発も当たらない。くやしすぎる。

 魔石がないということは、我にとっては死活問題だ。
 とどのつまり魔法が使えない。魔法なしではこの洞窟を抜けられないだろう。
 それ以前の問題として、目の前の男三人に対抗する手段すらも何もない。

「カシアちゃん、この魔石がないと魔法使えないんだねぇ~」

 詰んだ? 我、詰んだ?
 男どもに囲まれて何されちゃうの!?
 こんな洞窟の奥じゃ誰も助けにこれないしっ!

「これさ、返してほしかったらオレと付き合ってくれよ」
 ヒィィィ……顔近い、顔キモい、顔怖い、男怖い、男嫌い、誰か助けてーっ!

「そのくらいにしなって、コーベ。カシアさんガチでドン引いてるから」
 そういってコーベの肩に手を掛けたのはケノザだった。

「ちぇー……いいじゃんかよぉー。ぶー」
 バツの悪い、萎えた表情を浮かべ、コーベはその手に持った袋をひょいっと我の方に向けて投げる。慌てて魔石の入った袋をキャッチする。た、助かったのか、我。
 ぁー、もう、心臓が破裂せんばかりにバクバクいってる。

 今度こそ骨も残らぬほど燃やし尽くしてやろうか。

「ごめんな、カシアちゃん。アイツさ、あれでも俺らの中じゃダンチの冒険者なんよ。元盗賊っつーか、ま、今も盗賊か」
 ヤツリが割り込み、庇うようにしてコーベと我との距離をとる。
 できれば、最初からそうしてくれない? いや、実力差が違うのか。

「おいおいおいおーい、変なこといいふらすなよーっ、言いがかりは勘弁なー」
 多分、言いがかりでも何でもなく本当に盗賊に違いない。手慣れすぎだ。

「無理かもしんないけどキモいのはガマンしてもらわないと、ぶっちゃけ俺らもこの洞窟から無事に生還できるか分かんないんだよね」
 ヤツリに爆弾発言される。お前みたいな見るからに屈強でバリバリの戦士の恰好をした奴がそんな謙遜――いや、コーベを評価するとは。

 そらまあ、こんな危険度の高い洞窟で余裕かましてハイテンションでいられるような奴だ。神経のどっかがイカれてるわけじゃなければ、本物の実力者に違いない。
 頭がイカれてることも相違ないのだがな。

 このままコイツらとは解散して、サッサと魔法をフル活用して洞窟を攻略、あるいは一気に洞窟から脱出してしまっても何ら問題ない状況ではある。
 どうせ、行きずりの冒険者どもだ。情を沸かせたって仕方ないとも思う。

 今、一番やりたいこととしては、コーベをいかにして嬲り倒すということだが、ヤツリにこうも言われてしまえば拳を引っ込めざるをえないか。
 別にヤツリにもケノザにも恨みがあるわけでもなし、コーベを吸血蛭の餌にでもして困るのは何よりこの二人だ。

「ンフフ~ン♪」
 細切れにするのは勘弁しておいてやろう。命拾いしたな、キモキモチャラ男。

 さもあらば、ここで突きつけられるのは我自身の選択肢だ。
 まだ、コイツらと同行を続けるべきか、否か。
 正直言ってしまえば、さっきよりも天秤がアンバランスだぞ。

 一緒にいて、また今みたいに魔石をスられたら今度こそ危うい。時と場合によっては命をも落としかねない。その危険性が露呈してしまった。
 じゃあ逆に、同行することのメリットはいえば、この洞窟を極力安全に攻略できるという点だ。魔法が使える我でも、別段万能ではないしな。

 うっかり魔石を使いすぎて洞窟の奥で何もできず死を待つだけ……なんてことも十分にありうる可能性。このメリットは、決して小さいものではない。
 この洞窟に入る前には存在しなかった選択肢。今なら十分すぎるくらいの保証のついたメリットだ。

 コーベは人間として、男として信用するに値しないカスのカスだが、一流の冒険者として、その実力はもう認めざるを得ない。
 奴だってこの洞窟の危険度を理解しているだろうから、いざというときにはふざける余裕もないはず。まさか命の危険が迫ってる状態でバカやるとは思えん。

 くやしい、くやしいが、甚だくやしいが、このクソクソのカスカスでキモキモのチャラ男は腕前だけは信用できる。人間のくせに、この我を脅かすとは。
 ロータスやダリア、マルペル以来ではないか? ぐぬぬ、侮れんな、人間。

「ヤツリ、ケノザ……全力で我を守ってくれ。その条件だけは破ってくれるな」
 二人とも、あからさまにキョトンとした表情を浮かべたが、我の視線の先、その目配せを理解したのか、合意と見られる苦笑いを返してくれた。

 ※ ※ ※

「っし、そろそろ出発すっか」

 しばしの休息をはさみ、緊張感の解けない男どもの洞窟攻略を再開することとなった。相変わらずもコーベは頻りにこちらの方をチラチラを覗かせては気持ち悪いにやけ面を見せてくる。

 洞窟の中は、入り口の時と違い、かなり広い空間になっており、ひんやり具合も格段に上がっていた。厚手の恰好をしていなかったら凍えていたところだ。
 ついでにいってしまえば、ケノザのスープも心持ち、暖かくしてくれた。

「気ぃ張れよ、こっから本番だしよ。鉱脈までもさっきのうじゃうじゃよりキモいの、いっぱい巣喰ってっから。ヒッヒッヒ」
 お前よりもキモいのがいてたまるか。

「カシアさん、一応教えておくけど、あまり炎系統の魔法は使わない方がいいよ。ガスが発生しているところだと引火する可能性もある」
「ガス……ねぇ。変な臭いがしたら注意すればいいのか?」
 そう返事したら「あ、これは」という顔をされてしまった。
 何、我、変なこと言った?

「天然ガスに臭いなんてないよ。硫黄か何かと勘違いしちゃってる?」
 コーベにそう言われ、途端に顔が熱くなった気がする。寒い洞窟なのにな。

「……ガスには色も臭いもないと覚えておいた方がいい」
 ケノザにものっそい気を遣われてしまった! 泣きたい! 我、泣きたい!
 明らかに「コイツ、何も知らないのか」的な対応されたんですけど!

 だって知らんもん!! 洞窟で暮らしたことないんだもん!!!!

「あはは……あと、たまに吸っただけで即死するガスもあるから気をつけてね」
 ヤツリにまで笑い飛ばされてしまった。
 もはや我がいかに素人の冒険者かが完全に露呈してしまったようだ。


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「けっけっけ……」
 下品な声、気色悪い笑みを浮かべ、コーベが魔石袋をぷらんぷらんとわざと見せつけるようにぶら下げてくる。
 本当にコイツは一体なんなんだ。いつの間にか我の懐から魔石をくすねたこともそうだが、それはただ単に手癖が悪いだけの話じゃない。
 我が魔法を放とうとしたタイミングで盗んで見せた。
 つまり、コーベは我が魔法を使えることを知ってて、かつ魔法を発動する条件を把握していたということになる。あり得るのか、そんなこと。
「か、返せ! それを、ただちに返せ!」
 腕を伸ばすも、コーベには指一本かすりもしない。
 驚くほどに静かで、単純な最低限の動きだけで完璧に避けられた。
 二度、三度と宙に拳が舞ったが、それも虚しく空ぶった。
 この身のこなし、本当にただの冒険者か?
 隙もないし、無駄もない。チャラさだけならウザいくらいあるのに。
「キサマ、どうして我が魔法を使うことを……いや、どうして魔石を使っていることを知っていたのだ?」
 そうだ、普通に魔法使いといえば自前の潜在魔力を練って構築する。わざわざ魔石なんて利用する輩は魔法のセンスがないものに限られる。
 我はコーベの前で魔法を使うところを見せてもいないし、ましてや魔石をちらつかせてもいないはずだ。どんな洞察力を持ってしても無理だろう、それは。
「んー、勘」
 んなワケあるかボケ!
 くっそぉ……殴ってやりたいのに、さっきから一発も当たらない。くやしすぎる。
 魔石がないということは、我にとっては死活問題だ。
 とどのつまり魔法が使えない。魔法なしではこの洞窟を抜けられないだろう。
 それ以前の問題として、目の前の男三人に対抗する手段すらも何もない。
「カシアちゃん、この魔石がないと魔法使えないんだねぇ~」
 詰んだ? 我、詰んだ?
 男どもに囲まれて何されちゃうの!?
 こんな洞窟の奥じゃ誰も助けにこれないしっ!
「これさ、返してほしかったらオレと付き合ってくれよ」
 ヒィィィ……顔近い、顔キモい、顔怖い、男怖い、男嫌い、誰か助けてーっ!
「そのくらいにしなって、コーベ。カシアさんガチでドン引いてるから」
 そういってコーベの肩に手を掛けたのはケノザだった。
「ちぇー……いいじゃんかよぉー。ぶー」
 バツの悪い、萎えた表情を浮かべ、コーベはその手に持った袋をひょいっと我の方に向けて投げる。慌てて魔石の入った袋をキャッチする。た、助かったのか、我。
 ぁー、もう、心臓が破裂せんばかりにバクバクいってる。
 今度こそ骨も残らぬほど燃やし尽くしてやろうか。
「ごめんな、カシアちゃん。アイツさ、あれでも俺らの中じゃダンチの冒険者なんよ。元盗賊っつーか、ま、今も盗賊か」
 ヤツリが割り込み、庇うようにしてコーベと我との距離をとる。
 できれば、最初からそうしてくれない? いや、実力差が違うのか。
「おいおいおいおーい、変なこといいふらすなよーっ、言いがかりは勘弁なー」
 多分、言いがかりでも何でもなく本当に盗賊に違いない。手慣れすぎだ。
「無理かもしんないけどキモいのはガマンしてもらわないと、ぶっちゃけ俺らもこの洞窟から無事に生還できるか分かんないんだよね」
 ヤツリに爆弾発言される。お前みたいな見るからに屈強でバリバリの戦士の恰好をした奴がそんな謙遜――いや、コーベを評価するとは。
 そらまあ、こんな危険度の高い洞窟で余裕かましてハイテンションでいられるような奴だ。神経のどっかがイカれてるわけじゃなければ、本物の実力者に違いない。
 頭がイカれてることも相違ないのだがな。
 このままコイツらとは解散して、サッサと魔法をフル活用して洞窟を攻略、あるいは一気に洞窟から脱出してしまっても何ら問題ない状況ではある。
 どうせ、行きずりの冒険者どもだ。情を沸かせたって仕方ないとも思う。
 今、一番やりたいこととしては、コーベをいかにして嬲り倒すということだが、ヤツリにこうも言われてしまえば拳を引っ込めざるをえないか。
 別にヤツリにもケノザにも恨みがあるわけでもなし、コーベを吸血蛭の餌にでもして困るのは何よりこの二人だ。
「ンフフ~ン♪」
 細切れにするのは勘弁しておいてやろう。命拾いしたな、キモキモチャラ男。
 さもあらば、ここで突きつけられるのは我自身の選択肢だ。
 まだ、コイツらと同行を続けるべきか、否か。
 正直言ってしまえば、さっきよりも天秤がアンバランスだぞ。
 一緒にいて、また今みたいに魔石をスられたら今度こそ危うい。時と場合によっては命をも落としかねない。その危険性が露呈してしまった。
 じゃあ逆に、同行することのメリットはいえば、この洞窟を極力安全に攻略できるという点だ。魔法が使える我でも、別段万能ではないしな。
 うっかり魔石を使いすぎて洞窟の奥で何もできず死を待つだけ……なんてことも十分にありうる可能性。このメリットは、決して小さいものではない。
 この洞窟に入る前には存在しなかった選択肢。今なら十分すぎるくらいの保証のついたメリットだ。
 コーベは人間として、男として信用するに値しないカスのカスだが、一流の冒険者として、その実力はもう認めざるを得ない。
 奴だってこの洞窟の危険度を理解しているだろうから、いざというときにはふざける余裕もないはず。まさか命の危険が迫ってる状態でバカやるとは思えん。
 くやしい、くやしいが、甚だくやしいが、このクソクソのカスカスでキモキモのチャラ男は腕前だけは信用できる。人間のくせに、この我を脅かすとは。
 ロータスやダリア、マルペル以来ではないか? ぐぬぬ、侮れんな、人間。
「ヤツリ、ケノザ……全力で我を守ってくれ。その条件だけは破ってくれるな」
 二人とも、あからさまにキョトンとした表情を浮かべたが、我の視線の先、その目配せを理解したのか、合意と見られる苦笑いを返してくれた。
 ※ ※ ※
「っし、そろそろ出発すっか」
 しばしの休息をはさみ、緊張感の解けない男どもの洞窟攻略を再開することとなった。相変わらずもコーベは頻りにこちらの方をチラチラを覗かせては気持ち悪いにやけ面を見せてくる。
 洞窟の中は、入り口の時と違い、かなり広い空間になっており、ひんやり具合も格段に上がっていた。厚手の恰好をしていなかったら凍えていたところだ。
 ついでにいってしまえば、ケノザのスープも心持ち、暖かくしてくれた。
「気ぃ張れよ、こっから本番だしよ。鉱脈までもさっきのうじゃうじゃよりキモいの、いっぱい巣喰ってっから。ヒッヒッヒ」
 お前よりもキモいのがいてたまるか。
「カシアさん、一応教えておくけど、あまり炎系統の魔法は使わない方がいいよ。ガスが発生しているところだと引火する可能性もある」
「ガス……ねぇ。変な臭いがしたら注意すればいいのか?」
 そう返事したら「あ、これは」という顔をされてしまった。
 何、我、変なこと言った?
「天然ガスに臭いなんてないよ。硫黄か何かと勘違いしちゃってる?」
 コーベにそう言われ、途端に顔が熱くなった気がする。寒い洞窟なのにな。
「……ガスには色も臭いもないと覚えておいた方がいい」
 ケノザにものっそい気を遣われてしまった! 泣きたい! 我、泣きたい!
 明らかに「コイツ、何も知らないのか」的な対応されたんですけど!
 だって知らんもん!! 洞窟で暮らしたことないんだもん!!!!
「あはは……あと、たまに吸っただけで即死するガスもあるから気をつけてね」
 ヤツリにまで笑い飛ばされてしまった。
 もはや我がいかに素人の冒険者かが完全に露呈してしまったようだ。