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第61話 天使の店からメイドキック

ー/ー



 かつて軍事国家としてその名を世界にとどろかせたというレッドアイズ国。
 そんなところから遠く離れた辺境の街、パエデロスにもとうとう良からぬ報せが届くようになってしまった。

 内容に関しては一応、当事者に含まれる我の知らないものはなかった。
 国王が裏で魔王軍の残党たちを材料にした兵器を製造していたということが露呈し、ビックリするほどバッシングの嵐になっているのだとか。

 ふむ。人種差別の激しい国ではあったが、やはり他の種族の命を弄ぶような行為ともなれば非難囂々なのだな。仮にも、世界を恐怖に陥れた魔王軍にも人権があると考えている種族がいることの方が驚きだ。

 一体何処にどう線引きをしているのやら。
 それを我が言うのも何だが。

 んだもんで、レッドアイズ国は現状、ヤバい。めっさくそヤバい。
 今ならさぞかし我にとって居心地のいい場所なのだろうな。
 人間どもの負の感情は我のおやつみたいなものだし。

 レッドアイズ国の二人の王子、ソレノスとコリウスは肩身の狭い思いをしているのだろうか。それとも、そういう状況だからこそへこたれない精神で頑張っていたりするのだろうか。

 存外、後者のような気がするのは何故なんだろうな。

 ま、我には関係のないことだ。関わりたくもない。しょうもない新聞を折り畳み、サイドテーブルに放り投げる。

 今日は久しぶりにミモザの店を開ける日だ。例のプロポーズ騒動からかなり日は空いているが、パエデロスではホットなニュースであることにはかわりない。

 また変な客が現れないことを願うばかりだ。今日という日のために警備も厚くしてある。使用人たちの教育もバッチリだ。

「フィーさん、そろそろ時間れす!」
 気合いの入った声でミモザが寄ってくる。なんといっても久しぶりの開店だし、ミモザの魔具もますます磨きが掛かってきている。新作をお披露目したくてうずうずしているのだろう。

 ライバル店との差を埋めるためにも、今日は奮闘しなければな。

「よし、行くとするか。店を閉めていた分を取り戻すとしよう」
 ミモザの太陽に照らされる小麦のような髪をさわさわと撫で、先日までの油まみれのギトギトヘアーではないことを確認しつつ、ついでにズレたメガネを直す。

 ミモザも普段からこう、身なりに気を遣っていれば可愛らしいものなのだがな。いかんせん、ミモザ自身、自分のことに関しては無頓着なのが玉に瑕か。

 まったくもって、手の掛かる妹分だ。
 我がしっかり守ってやらねばな。

「今日はいっぱい売れるといいでふねぇ」
「ああ、ミモザの新作なら心配することもあるまい」
「ふへへぇ」
 なんともだらしなくにやけた顔をしたミモザの手を取り、店へと向かった。

 ※ ※ ※

 都合の良いくらいに空は青く、不穏な雲も見当たらない。
 陽気な街中は、いつも以上に賑わっているように感じるほど。

 いついつに開店するというのも貼りだしてあったからだろう、ミモザの店の前には既に多くの客たちが押し寄せていた。どれもよく見かける常連客ばかり。

 この店が建った当時から、休みの多かったことはとうに周知されてしまっているし、客の方も理解していると見える。今回は特に休みが長かったのだがな。

「ミモザ様、こちらの商品はこのような感じでよろしいでしょうか」
「はい、ありがとうございまふ!」
「フィーお嬢様、御髪(おぐし)が乱れておりますよ」
「うむ、すまないな」

 いつもの通り、使用人や執事も動員し、キビキビ、テキパキと動き回り、店の中もなかなかに賑やかなものだ。
 こう、カウンターの前に立つと、すっぽりハマってしまった感がある。

 別に我は店員になりたかったわけではないのだがな。
 ミモザのため、仕方なく、だ。

 店の看板にも我とミモザをかたどった天使のような彫刻もあしらってしまったことだし、看板娘として立つことに何の異議もあるまい。

「それでは、お店を開けます」
 使用人の一人が、その扉を開く。

「お待たせしました! ただいまより開店いたします!」
 その次の瞬間には、客たちが群れをなして店内へと押し寄せてきた。それはもうあっという間に店の中は満員御礼だ。

 こういう光景を見ていると懸念していたことも吹っ飛ぶ。だからといって、いつまでも甘えてばかりもいられまい。客に愛想をつかされたら終わりだ。

「この魔具はどのようにして使うのですか?」
 身なりのよさそうな冒険者がミモザに訊ねる。
「こちらはれすね、こう、構えて――」
 接客もだいぶ板についてきているようだ。もう心配することもないだろう。

「フィー様、こちらの魔具はおいくらぐらいになりますでしょうか?」
 なんかよく見る顔の常連客がにへらにへらと笑いながら我のところにくる。
「ふむ、これは7シルバだな。少し値は張るが上等なものだぞ」
「はひぃ! 三つ買いますぅ!」
 そういってジャラリと金貨や銀貨を出してくる。こいつ、見かけによらず金持ちなのか? さすがに三つも買う必要もないだろうに。

「取り扱いには十分注意してくれ。それは玩具ではないのだからな」
 と、金を受け取るが、分かっているのかどうかは不明だ。売買成立しているのだから、こちらからこれ以上言えることもないのだが。
「ありがとうございますフィー様! 大事に使わせていただきます!」
 はたして、ちゃんと正しく使ってもらえるのだろうか。あのアホ面を見ていると不安ばかりがよぎってくる。

「ミモザさん、これ、もう少しお安くなりませんか?」
「んーとでふねぇ……これでも結構お値段調整したんれしゅよ。すみましぇん」
「そうですか、分かりました。ではこちらをいただきます」
「はい、毎度ありがとうございましゅ。またのお越しをお待ちしておりまふ」
 心なしか、ミモザの方の客が上品に思えてくる。身なりもそうだし、素振りもそうだし、貴族ではないにしても格の違いが見て取れる。

「フィー様! フィー様! レッドアイズの王子との婚約を破棄されたというのは本当ですか!?」
 逆に、なんで我のところにはこういう変な客ばかり寄ってくるのだ。
 別段、下劣とまでは言わんが、少し差がありすぎなのでは?

「事実はその通りだ。だからといってあまりみだりに吹聴してくれるな」
「やったぁ!! あの噂は本当だったんだぁ!!」
「お、おい……我の話を……」
 はしゃぐ常連男はそのまま店の外へと飛び出していってしまった。ただの冷やかしではないか。礼儀というのか何というのか、なってない輩だな。

 こんな調子ではあるものの、我とミモザとで目を見張るほどの売り上げの差がないのが不思議なものだ。
 ミモザはミモザで、我は我で、異なる客層を獲得しているらしい。
 ミモザとは横に並んでおるのに、どうしてこうも違う客がついてくるのやら。

「お嬢様、如何なさいましょうか」
 傍に立っていた目つきの怖いメイド、オキザリスが獲物を狙うような視線で先ほどの客を追いかけている。もう店の外なのだから追うなよ。

「過度な防衛は勘弁してくれ。店の評判が落ちる。損害に関わる場合に絞れ」
「分かりました」
 何を持ってそう発言したのかは定かではないが、我の横にいたはずのオキザリスが店内の天井スレスレまでの高さまで跳躍し、そしてそのまま客の頭の上に着地。

「ぐぎゃぁっ!?」
「万引きは損害賠償ものですよ」
 見知らぬ冒険者がオキザリスに押し倒され、いつの間にか関節もキメられて身動きも取れなくなっていた。なるほど、損害に関わる場合。いやいやいや……。

 この直後、他の客たちが恐れをなして去っていったのは言うまでもない。




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 かつて軍事国家としてその名を世界にとどろかせたというレッドアイズ国。
 そんなところから遠く離れた辺境の街、パエデロスにもとうとう良からぬ報せが届くようになってしまった。
 内容に関しては一応、当事者に含まれる我の知らないものはなかった。
 国王が裏で魔王軍の残党たちを材料にした兵器を製造していたということが露呈し、ビックリするほどバッシングの嵐になっているのだとか。
 ふむ。人種差別の激しい国ではあったが、やはり他の種族の命を弄ぶような行為ともなれば非難囂々なのだな。仮にも、世界を恐怖に陥れた魔王軍にも人権があると考えている種族がいることの方が驚きだ。
 一体何処にどう線引きをしているのやら。
 それを我が言うのも何だが。
 んだもんで、レッドアイズ国は現状、ヤバい。めっさくそヤバい。
 今ならさぞかし我にとって居心地のいい場所なのだろうな。
 人間どもの負の感情は我のおやつみたいなものだし。
 レッドアイズ国の二人の王子、ソレノスとコリウスは肩身の狭い思いをしているのだろうか。それとも、そういう状況だからこそへこたれない精神で頑張っていたりするのだろうか。
 存外、後者のような気がするのは何故なんだろうな。
 ま、我には関係のないことだ。関わりたくもない。しょうもない新聞を折り畳み、サイドテーブルに放り投げる。
 今日は久しぶりにミモザの店を開ける日だ。例のプロポーズ騒動からかなり日は空いているが、パエデロスではホットなニュースであることにはかわりない。
 また変な客が現れないことを願うばかりだ。今日という日のために警備も厚くしてある。使用人たちの教育もバッチリだ。
「フィーさん、そろそろ時間れす!」
 気合いの入った声でミモザが寄ってくる。なんといっても久しぶりの開店だし、ミモザの魔具もますます磨きが掛かってきている。新作をお披露目したくてうずうずしているのだろう。
 ライバル店との差を埋めるためにも、今日は奮闘しなければな。
「よし、行くとするか。店を閉めていた分を取り戻すとしよう」
 ミモザの太陽に照らされる小麦のような髪をさわさわと撫で、先日までの油まみれのギトギトヘアーではないことを確認しつつ、ついでにズレたメガネを直す。
 ミモザも普段からこう、身なりに気を遣っていれば可愛らしいものなのだがな。いかんせん、ミモザ自身、自分のことに関しては無頓着なのが玉に瑕か。
 まったくもって、手の掛かる妹分だ。
 我がしっかり守ってやらねばな。
「今日はいっぱい売れるといいでふねぇ」
「ああ、ミモザの新作なら心配することもあるまい」
「ふへへぇ」
 なんともだらしなくにやけた顔をしたミモザの手を取り、店へと向かった。
 ※ ※ ※
 都合の良いくらいに空は青く、不穏な雲も見当たらない。
 陽気な街中は、いつも以上に賑わっているように感じるほど。
 いついつに開店するというのも貼りだしてあったからだろう、ミモザの店の前には既に多くの客たちが押し寄せていた。どれもよく見かける常連客ばかり。
 この店が建った当時から、休みの多かったことはとうに周知されてしまっているし、客の方も理解していると見える。今回は特に休みが長かったのだがな。
「ミモザ様、こちらの商品はこのような感じでよろしいでしょうか」
「はい、ありがとうございまふ!」
「フィーお嬢様、御髪《おぐし》が乱れておりますよ」
「うむ、すまないな」
 いつもの通り、使用人や執事も動員し、キビキビ、テキパキと動き回り、店の中もなかなかに賑やかなものだ。
 こう、カウンターの前に立つと、すっぽりハマってしまった感がある。
 別に我は店員になりたかったわけではないのだがな。
 ミモザのため、仕方なく、だ。
 店の看板にも我とミモザをかたどった天使のような彫刻もあしらってしまったことだし、看板娘として立つことに何の異議もあるまい。
「それでは、お店を開けます」
 使用人の一人が、その扉を開く。
「お待たせしました! ただいまより開店いたします!」
 その次の瞬間には、客たちが群れをなして店内へと押し寄せてきた。それはもうあっという間に店の中は満員御礼だ。
 こういう光景を見ていると懸念していたことも吹っ飛ぶ。だからといって、いつまでも甘えてばかりもいられまい。客に愛想をつかされたら終わりだ。
「この魔具はどのようにして使うのですか?」
 身なりのよさそうな冒険者がミモザに訊ねる。
「こちらはれすね、こう、構えて――」
 接客もだいぶ板についてきているようだ。もう心配することもないだろう。
「フィー様、こちらの魔具はおいくらぐらいになりますでしょうか?」
 なんかよく見る顔の常連客がにへらにへらと笑いながら我のところにくる。
「ふむ、これは7シルバだな。少し値は張るが上等なものだぞ」
「はひぃ! 三つ買いますぅ!」
 そういってジャラリと金貨や銀貨を出してくる。こいつ、見かけによらず金持ちなのか? さすがに三つも買う必要もないだろうに。
「取り扱いには十分注意してくれ。それは玩具ではないのだからな」
 と、金を受け取るが、分かっているのかどうかは不明だ。売買成立しているのだから、こちらからこれ以上言えることもないのだが。
「ありがとうございますフィー様! 大事に使わせていただきます!」
 はたして、ちゃんと正しく使ってもらえるのだろうか。あのアホ面を見ていると不安ばかりがよぎってくる。
「ミモザさん、これ、もう少しお安くなりませんか?」
「んーとでふねぇ……これでも結構お値段調整したんれしゅよ。すみましぇん」
「そうですか、分かりました。ではこちらをいただきます」
「はい、毎度ありがとうございましゅ。またのお越しをお待ちしておりまふ」
 心なしか、ミモザの方の客が上品に思えてくる。身なりもそうだし、素振りもそうだし、貴族ではないにしても格の違いが見て取れる。
「フィー様! フィー様! レッドアイズの王子との婚約を破棄されたというのは本当ですか!?」
 逆に、なんで我のところにはこういう変な客ばかり寄ってくるのだ。
 別段、下劣とまでは言わんが、少し差がありすぎなのでは?
「事実はその通りだ。だからといってあまりみだりに吹聴してくれるな」
「やったぁ!! あの噂は本当だったんだぁ!!」
「お、おい……我の話を……」
 はしゃぐ常連男はそのまま店の外へと飛び出していってしまった。ただの冷やかしではないか。礼儀というのか何というのか、なってない輩だな。
 こんな調子ではあるものの、我とミモザとで目を見張るほどの売り上げの差がないのが不思議なものだ。
 ミモザはミモザで、我は我で、異なる客層を獲得しているらしい。
 ミモザとは横に並んでおるのに、どうしてこうも違う客がついてくるのやら。
「お嬢様、如何なさいましょうか」
 傍に立っていた目つきの怖いメイド、オキザリスが獲物を狙うような視線で先ほどの客を追いかけている。もう店の外なのだから追うなよ。
「過度な防衛は勘弁してくれ。店の評判が落ちる。損害に関わる場合に絞れ」
「分かりました」
 何を持ってそう発言したのかは定かではないが、我の横にいたはずのオキザリスが店内の天井スレスレまでの高さまで跳躍し、そしてそのまま客の頭の上に着地。
「ぐぎゃぁっ!?」
「万引きは損害賠償ものですよ」
 見知らぬ冒険者がオキザリスに押し倒され、いつの間にか関節もキメられて身動きも取れなくなっていた。なるほど、損害に関わる場合。いやいやいや……。
 この直後、他の客たちが恐れをなして去っていったのは言うまでもない。