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第60話 ガチムチ新人メイドが有能すぎる件

ー/ー



 少し人員を増やしてみるか。そう、なんとなく思ったのはほんの気まぐれだったのかもしれない。

 なんといっても、このパエデロスにおいて、我の屋敷は有名になりすぎたし、今もまたミモザの店での売り子の件であったり、レッドアイズ国のプロポーズの件であったりと、話題に事欠かない。

 この街の名物令嬢と言われても否定することができない。それに関しては誠に不服であり、さらにいえば、変な輩も驚くほど増えた。

 あろうことか、我の屋敷に火を放とうとする者が現れたのだ。それも、何人も。

 無論、我の使用人たちもプロフェッショナル揃い。燃やされる前にいち早く取り押さえて火事になることはなかったが、無視するのも気分が悪い。

 一応は現在も使用人の求人も貼り出してはいたのだが、それでも何となく人員を増やしたいなー、という気分になったのだ。

 見知らぬ誰かに恨まれるような心当たりは十分すぎるくらいにありまくるわけだし、今後さらに過激になってくるんじゃないかなー、という予想もつきない。

 気まぐれといってしまえばその通りで、実際問題、集団でよからぬ輩が襲撃してきたところで、我の使用人たちや我自身、はたまたパエデロスの治安を守る自警団の連中がいればどうとでもなりそうと思っている面もある。

 なんだったら、求人しても新しく入ってくる奴がスパイ的な存在である可能性すらあるのだから、考えとしては浅はかなのでは、というのも否めない。

 だが、今、こうして我の采配によって大々的に我の屋敷に勤めることのできるものを募った結果、エントランスには数多くの使用人候補たちが集まってきてくれちゃったわけだ。

 ずらりずらりと揃いも揃った美男美女。執事にメイド、併せて三十人。綺麗に整列している。これから我とその屋敷を任せる精鋭たちだ。よくもまあ、こんなに。どっから出てきたんだか。

 これまで勤めてきてもらっていた使用人の半数以上はパエデロスに連れてこられて失業した者だったり、奴隷だったりが占めているが、今目の前に並んでいるのはパエデロスよりも遠方の者も含まれている。

 さて、これでじゃあ全員採用、というわけにもいかない。今日集まってもらったのはちゃんと我の目で見極めるためだ。

 一応、この時点でも現役の使用人に書類選考を任せて絞り込まれた人員なので露骨に怪しい者はいないとは思うが、念には念を入れてな。

 変な企みをしていたり、妙なものを持っていれば我の感知魔法で全てお見通しよ。素の魔力がなくたってそんくらいはできる。

 並んだ使用人候補たち。これまでも何度か求人自体はしていたが、この大人数を一気に採用するのはパエデロスに屋敷を建てたときくらいだろう。

「では、自己紹介をしてもらおうか」

 書類を手に取り、使用人候補たちのもとへと足を運ぶ。

 我が目の前まで現れると、既に統率がとれているのか、バラバラではなく端から順に思い思いの自己紹介をしてくれる。さすが使用人。仕えるべき主に対しての敬意が感じられる。

 どれも顔つきからしても、立ち振舞いからしても甲乙つけがたい優秀さが見てとれる。いっそ全員採用でもいいのだが、さて、誰を雇用したものか。

「オキザリスです。宜しくお願い致します」

 いや、なんでお前が!?

 なんか背が低くて、質素なメイド服で、目付きの悪い少女がいるな、と思ったらよりにもよってオキザリスとは。思わず二度見してしまったではないか。

「お前、レッドアイズ国の城に所属していたのではなかったのか!?」

 そうだ。コイツはついぞ先日、レッドアイズ国でメイドやっていたではないか。よく分からん経緯ではあるが、国の案内兼我のボディガードも務め、王子の身を案じていた、あのメイドではないか。

 なんだって我の屋敷の求人にしれっと入り込んできておるのだ。

「失業しました故」

 きっぱりと短く言う。

 そう言われてしまえば返せる言葉もないのだが、納得できないこともない。
 レッドアイズ国の状況をまかり間違っても平穏などとは言えない。むしろ真逆。一言で言うならばヤバい。それに尽きる。

 細かい事情までを汲み取ることはできないが、失業するはずがないなどと断言はできないし、むしろそうなって当然なのではなかろうか。

「そ、そうか。お前も辛かったのだろうな。だが、雇用するにあたっては私情を挟まず厳正な判断を下すぞ」
「御意」

 それにしたって我、別にレッドアイズ国まで求人広告なんて出した記憶はないのだがなぁ? 一体何処から聞き付けてきたのやら。

 こうやって、一流の風格が滲み出ている使用人が並んでいる中、頭一つ分くらい小さいオキザリスはイヤに目立つ。
 なんだか奇異の目で注目を浴びている気もするし。

 しかし、オキザリスは腐ってもあのレッドアイズ国に勤めていた経歴がある。何より、我の護衛にまで割り当てられた人材だ。

 たかだか一日足らずの付き合いではあるものの、そこいらの馬の骨なんかとは違うことは分かっているつもりだ。

 だって、あの服の下は筋肉もりもりでムッキムキだし。

 それに、今回の増員は、どちらかといえば屋敷の守りを固める意味合いが強い。ともなれば、オキザリスほどの人材をこのまま逃すのは選択としてはないに等しい。

「ふむ……」

 ずらりずらりと並んでいた使用人候補たちの自己紹介を一通り聞き終えて、書類をパラパラとめくってみる。

 この時点で何となしに少しの違和感を覚えていた。その場でその対処を我自身がしてもよかったのだが、ここであえて一つ試してみることにしよう。

「さて、優秀なる諸君。今日は遠方より遙々このパエデロスまでご苦労であった。皆には今日より是非とも我に忠義を果たしてもらいたい――」

 使用人たちが胸を撫で下ろすような表情を僅かに見せようとしていたが、矢継ぎ早に言葉を続ける。

「――ところだが、どうやらその心積もりのない者も紛れておるようだな」

 一瞬にして、一様に感情のざわつきが見てとれた。それはそうだ。ここに集結したのは我のために尽くすべく訪れた者ばかりなのだから。

「オキザリス」
「はい、何で御座いましょうか」
 徐に、声を掛ける。
 しかし、コイツは相変わらず表情を変える様子もなく返事する。

「教えろ」
「御意」
 オキザリスに向け、短い指示を出す。
 すると次の瞬間、オキザリスはその場で他の候補たちの背丈を余裕で越える跳躍を見せ、そしてそのまま並んだ使用人候補たちの人垣に飛び込む。

 繰り出されたのは、空中での二回転、そして蹴りを二発。二名の執事がそこからバキッ、バコッとものの見事に弾け飛ぶ。

 現役の我の使用人たちがすかさず取り押さえると、どちらの執事も刃物を隠し持っていた。護身用ではないだろうな、明らかに。

 我からしてみれば殺気もだだ漏れだったし、なんだったらいつ襲いかかるかタイミングも見計らっていた。

 ついでに言ってしまえば――

「か、顔がっ!?」

 オキザリスの蹴り一発で気絶した執事候補の顔に向けて手のひらをかざす。するとまるで顔の表面が泥のように溶けて床に落ちた。

 その直ぐ下には先ほどとはまるで違う男の顔があった。メイド候補の一人が悲鳴をあげるくらいには異様な光景ではある。

 とどのつまり、こういうことだ。刃物を隠し持っていて、殺気を漏らしている、魔法で顔を変えた男。こんな者が我に仕える気なんてさらさらないだろう。

「いいだろう、オキザリス。お前は採用だ」
「有り難う御座います、お嬢様」

 この直後、他の候補たちが一斉に辞退したのは少し誤算だった。


次のエピソードへ進む 【使用人】新人の彼女は都会っ子


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 少し人員を増やしてみるか。そう、なんとなく思ったのはほんの気まぐれだったのかもしれない。
 なんといっても、このパエデロスにおいて、我の屋敷は有名になりすぎたし、今もまたミモザの店での売り子の件であったり、レッドアイズ国のプロポーズの件であったりと、話題に事欠かない。
 この街の名物令嬢と言われても否定することができない。それに関しては誠に不服であり、さらにいえば、変な輩も驚くほど増えた。
 あろうことか、我の屋敷に火を放とうとする者が現れたのだ。それも、何人も。
 無論、我の使用人たちもプロフェッショナル揃い。燃やされる前にいち早く取り押さえて火事になることはなかったが、無視するのも気分が悪い。
 一応は現在も使用人の求人も貼り出してはいたのだが、それでも何となく人員を増やしたいなー、という気分になったのだ。
 見知らぬ誰かに恨まれるような心当たりは十分すぎるくらいにありまくるわけだし、今後さらに過激になってくるんじゃないかなー、という予想もつきない。
 気まぐれといってしまえばその通りで、実際問題、集団でよからぬ輩が襲撃してきたところで、我の使用人たちや我自身、はたまたパエデロスの治安を守る自警団の連中がいればどうとでもなりそうと思っている面もある。
 なんだったら、求人しても新しく入ってくる奴がスパイ的な存在である可能性すらあるのだから、考えとしては浅はかなのでは、というのも否めない。
 だが、今、こうして我の采配によって大々的に我の屋敷に勤めることのできるものを募った結果、エントランスには数多くの使用人候補たちが集まってきてくれちゃったわけだ。
 ずらりずらりと揃いも揃った美男美女。執事にメイド、併せて三十人。綺麗に整列している。これから我とその屋敷を任せる精鋭たちだ。よくもまあ、こんなに。どっから出てきたんだか。
 これまで勤めてきてもらっていた使用人の半数以上はパエデロスに連れてこられて失業した者だったり、奴隷だったりが占めているが、今目の前に並んでいるのはパエデロスよりも遠方の者も含まれている。
 さて、これでじゃあ全員採用、というわけにもいかない。今日集まってもらったのはちゃんと我の目で見極めるためだ。
 一応、この時点でも現役の使用人に書類選考を任せて絞り込まれた人員なので露骨に怪しい者はいないとは思うが、念には念を入れてな。
 変な企みをしていたり、妙なものを持っていれば我の感知魔法で全てお見通しよ。素の魔力がなくたってそんくらいはできる。
 並んだ使用人候補たち。これまでも何度か求人自体はしていたが、この大人数を一気に採用するのはパエデロスに屋敷を建てたときくらいだろう。
「では、自己紹介をしてもらおうか」
 書類を手に取り、使用人候補たちのもとへと足を運ぶ。
 我が目の前まで現れると、既に統率がとれているのか、バラバラではなく端から順に思い思いの自己紹介をしてくれる。さすが使用人。仕えるべき主に対しての敬意が感じられる。
 どれも顔つきからしても、立ち振舞いからしても甲乙つけがたい優秀さが見てとれる。いっそ全員採用でもいいのだが、さて、誰を雇用したものか。
「オキザリスです。宜しくお願い致します」
 いや、なんでお前が!?
 なんか背が低くて、質素なメイド服で、目付きの悪い少女がいるな、と思ったらよりにもよってオキザリスとは。思わず二度見してしまったではないか。
「お前、レッドアイズ国の城に所属していたのではなかったのか!?」
 そうだ。コイツはついぞ先日、レッドアイズ国でメイドやっていたではないか。よく分からん経緯ではあるが、国の案内兼我のボディガードも務め、王子の身を案じていた、あのメイドではないか。
 なんだって我の屋敷の求人にしれっと入り込んできておるのだ。
「失業しました故」
 きっぱりと短く言う。
 そう言われてしまえば返せる言葉もないのだが、納得できないこともない。
 レッドアイズ国の状況をまかり間違っても平穏などとは言えない。むしろ真逆。一言で言うならばヤバい。それに尽きる。
 細かい事情までを汲み取ることはできないが、失業するはずがないなどと断言はできないし、むしろそうなって当然なのではなかろうか。
「そ、そうか。お前も辛かったのだろうな。だが、雇用するにあたっては私情を挟まず厳正な判断を下すぞ」
「御意」
 それにしたって我、別にレッドアイズ国まで求人広告なんて出した記憶はないのだがなぁ? 一体何処から聞き付けてきたのやら。
 こうやって、一流の風格が滲み出ている使用人が並んでいる中、頭一つ分くらい小さいオキザリスはイヤに目立つ。
 なんだか奇異の目で注目を浴びている気もするし。
 しかし、オキザリスは腐ってもあのレッドアイズ国に勤めていた経歴がある。何より、我の護衛にまで割り当てられた人材だ。
 たかだか一日足らずの付き合いではあるものの、そこいらの馬の骨なんかとは違うことは分かっているつもりだ。
 だって、あの服の下は筋肉もりもりでムッキムキだし。
 それに、今回の増員は、どちらかといえば屋敷の守りを固める意味合いが強い。ともなれば、オキザリスほどの人材をこのまま逃すのは選択としてはないに等しい。
「ふむ……」
 ずらりずらりと並んでいた使用人候補たちの自己紹介を一通り聞き終えて、書類をパラパラとめくってみる。
 この時点で何となしに少しの違和感を覚えていた。その場でその対処を我自身がしてもよかったのだが、ここであえて一つ試してみることにしよう。
「さて、優秀なる諸君。今日は遠方より遙々このパエデロスまでご苦労であった。皆には今日より是非とも我に忠義を果たしてもらいたい――」
 使用人たちが胸を撫で下ろすような表情を僅かに見せようとしていたが、矢継ぎ早に言葉を続ける。
「――ところだが、どうやらその心積もりのない者も紛れておるようだな」
 一瞬にして、一様に感情のざわつきが見てとれた。それはそうだ。ここに集結したのは我のために尽くすべく訪れた者ばかりなのだから。
「オキザリス」
「はい、何で御座いましょうか」
 徐に、声を掛ける。
 しかし、コイツは相変わらず表情を変える様子もなく返事する。
「教えろ」
「御意」
 オキザリスに向け、短い指示を出す。
 すると次の瞬間、オキザリスはその場で他の候補たちの背丈を余裕で越える跳躍を見せ、そしてそのまま並んだ使用人候補たちの人垣に飛び込む。
 繰り出されたのは、空中での二回転、そして蹴りを二発。二名の執事がそこからバキッ、バコッとものの見事に弾け飛ぶ。
 現役の我の使用人たちがすかさず取り押さえると、どちらの執事も刃物を隠し持っていた。護身用ではないだろうな、明らかに。
 我からしてみれば殺気もだだ漏れだったし、なんだったらいつ襲いかかるかタイミングも見計らっていた。
 ついでに言ってしまえば――
「か、顔がっ!?」
 オキザリスの蹴り一発で気絶した執事候補の顔に向けて手のひらをかざす。するとまるで顔の表面が泥のように溶けて床に落ちた。
 その直ぐ下には先ほどとはまるで違う男の顔があった。メイド候補の一人が悲鳴をあげるくらいには異様な光景ではある。
 とどのつまり、こういうことだ。刃物を隠し持っていて、殺気を漏らしている、魔法で顔を変えた男。こんな者が我に仕える気なんてさらさらないだろう。
「いいだろう、オキザリス。お前は採用だ」
「有り難う御座います、お嬢様」
 この直後、他の候補たちが一斉に辞退したのは少し誤算だった。