第55話 愚問だ

ー/ー



 金属に囲まれた冷たい部屋、奥から聞こえてくる轟音がただただけたたましい。
 ここで得られた真実。それは、レッドアイズ国王はどうやらよからぬことを企んでいる、と確定したことだ。

 これ以上の真実を追うとなると、我としてもかなり分が悪い。
 例えば、チンピラ風情が密輸や密造に関わってる程度の話ならソイツらを捕まえて城にでも突き出して解決する話だった。

 だが、国王が関わっていると確定した以上、このまま来た階段を上って引き返すのが賢明だと思うが、さてコリウスはどう考えているのだろう。

「さあ、どうするコリウス。もうここまでにして帰るか?」
 さっき破壊した魔導機兵(オートマタ)の処分、どうしよっかなぁ……。
 そう簡単に新しいのと取り替えられないだろうしなぁ……。
 かといって、あんなの我では直せそうにない。詰んだか。

「いいえ、ボクはまだ何も真実を見ていません。父上はここで何をしているのかハッキリとこの目で確かめたいです!」
 どうやらコリウス、まだ納得していないようだ。

「ふぅ……仕方ないか。お前の気の済むところまで付き合うと言ってしまった手前、我も腹をくくらねばな」
 変な騒ぎを起こしてロータスに怒られないかなぁ。
 アイツと交わした契約はパエデロスにおいて余計なことをするな、って話だし、レッドアイズなら許してくれるかなぁ。いや無理っぽそうだなぁ……。

 いざとなったらコリウスを突き出して、「コイツに全部頼まれました! サーセン!」で押し通すしかない。

「で、お前はどうするつもりだ?」
 オキザリスの方に向き直り、問う。

「こっちは王子、向こうは国王だ。対立するのか?」
「今回の件に王族であることは関係ありません。レッドアイズは軍事国家ですので、国王は一人の軍人として軍法会議に掛けられます」
 どうやらまだ手を貸してくれるっぽい。

「貴女こそ、部外者でこれ以上の深入りは唯の自殺行為ですよ。貴女の実力は認めますが、先ほども申し上げました通り、王子の一存では貴女をお守りする事は極めて難しい問題でしょう」
 そして、ここで手を引けとの最終警告だ。やっぱ目つき怖い。

「愚問だ」
 同じ言葉を繰り返すのも飽きた。

 まったく……最悪な一日から逃げ出してきたつもりが、もっとさらに最悪な一日が待っていようとは。
 これだったらマルペルとお祭りを巡りながらソレノス王子からのプロポーズを受けていた方がずっとマシだったじゃないか。

「お姉さん、ありがとうございます!」
「そろそろお前との貸し借りをチャラにしておきたかっただけだ」
 もうこれ以降は絶対に手は貸さんからな。絶対にだ。

「しかし、それにしてもわざわざお祭りの最中に国王が自らこんな工場に出向いてくるとはな。他の城の連中は何をしているんだ」
「催事の指揮はソレノス王子が執っておりますので、動きやすかったのでしょう。また、今日はそれだけ多くの人員が割かれております」
 だからといって国王が姿をくらまして違和感ないのかこの国は。いや、今まさに目の前で姿をくらませている王子がいるしな。とんでもない国だわ、マジで。

「父上はきっとここにボクや兄上にも言えない秘密を隠しているはずです。証拠をつかんだら兄上に知らせましょう」
 この場にいるのは問題児の王子と、ただのメイドと、完全なる部外者の我だけ。
 これで「秘密の地下工場があったぞー」などといっても信憑性も薄いしな。
 何のごっこ遊びだと言いたくなる。

「おそらく、いや間違いなく工場内にも魔導機兵の見張りが多くいるはずだ。いざとなったときには死ぬ気で逃げろ」
「ワタクシめも、全力で王子を護衛致します」

 ここで「王子は危険だからすっ込んでろ」という発想が出てこない辺り、オキザリスもこんな王子から片時も目を離してはいけないということを熟知している。
 かといって、部外者である我単独で工場に潜入とかあり得ん。
 そんなこと、コリウスが許してもオキザリスが許すまい。

「ワタクシがお守りするのは王子だけです。貴女の面倒までは見切れません」
「構わん。我の身は我で守る」
 王子の面倒を見てくれるなら逆に好都合だ。

 我だって余計な魔石は持ってきておらんわ。
 魔石がないとロクに魔法使えないんだぞ、我。

 前回はソレで酷い目にあったのを忘れてないからな。王子を守るのに魔石を全部使い切って危うく死にかけたんだ。あんなのはもうごめん被りたい。

「この扉の先で何を見ても驚くなよ?」
 そういって我は鉄の扉を開く。鳴り響く轟音に耳を刺激されつつも、開いた隙間から周囲を確認する。さっきはチラっとしか見なかったが、やはり広い。

 地下だというのに天井も高ければ、吹き抜けで下にもまだ階層が見えている。
 ふと目に付く。国王とその一行の姿が下の階層に見えた。この騒音では何か話していたとしても聞こえないが、逆を言えばこちらも多少の音では気付かれまい。

 よし、見張りはいない。魔導機兵も見当たらない。工場内へと足を踏み入れた。
 後ろからついてくるようにコリウスと、その真後ろにオキザリスがピッタリとくっついてきた。

 まずはこの階層を調べよう。そんなジェスチャーを送り、オキザリスだけが了解の合図を返してくる。そしておそらく大声で返事しようとしていたであろうコリウスの口を腕で塞ぐ。ナイスだ、オキザリス。そのまま絞め殺してもいいぞ。

 それはさておき、工場内の機械とやらはどれもこれもゴテゴテと変な形をして不気味だ。かなり膨大な魔力がそこら中を動き回っている。

 素材を溶かしたり、混ぜたり、形を整えたり。人間という奴は知恵の働くものだな。ここまで生産性の効率化ができてしまえるとは。

 急に化石にでもなった気分だ。人間の技術ってスゲー。

 問題なのは、どうしてこれだけのものを隠しておく必要があったのかという点。
 レッドアイズ国は既に魔導機兵を製造する工場を城に設けている。新しい兵器だってそこで造っている。それを秘密裏に隔離する意図とはなんだ。

 増設するだけなら城の中でもできることだし、何かとんでもない秘密を抱え込んでいることは間違いないだろう。

 昨日は、あの鬱陶しいソレノス王子の丁寧な解説とご案内によって、魔導機兵についてのおおまかな仕組みを知ることができた。
 だから、ここにある機械の工程が延長線上にあることは理解できる。

 ただ、どうにも解せないところがあった。
 ソレノス王子の説明した魔導機兵では、パフォーマンスが足りていない。具体的に言えば、簡単な動作はできても、生き物のように振る舞うまでには至らない。

 二足歩行。簡単な会話、受け答え。その程度なら別に我も不思議には思わん。
 しかし、見張りや交戦といった自律的な行動まではできない。

 最近になって急激に技術力が上がったと言っていたが、それでも説明つかない。
 おそらくその技術力が上がった時期にこの工場が造られたのだろうが、だとしたらソレは一体どういうことを指し示しているのか。

 工場の奥へ、奥へと進んでいくと、異様なほどに魔素の濃い場所があった。
 巨大な球体の窯のようなものが数十、数百と並び、数え切れない。
 常人には何も感じられないだろうが、我には霧が立ちこめているのではないかというくらい、その球体から魔素が漏れ出して見えた。気持ち悪い。

 一体、この中には何が入っているんだ。

「――――」

 多分うるさくて聞こえなかったと思うが、透視の魔法を唱える。
 我の視界に、無数に並ぶ窯の中身が透けて見えた。

 ああ、なんてことだ。こんな、こんなものが……。


次のエピソードへ進む 第56話 ただ、立ち去った


みんなのリアクション

 金属に囲まれた冷たい部屋、奥から聞こえてくる轟音がただただけたたましい。
 ここで得られた真実。それは、レッドアイズ国王はどうやらよからぬことを企んでいる、と確定したことだ。
 これ以上の真実を追うとなると、我としてもかなり分が悪い。
 例えば、チンピラ風情が密輸や密造に関わってる程度の話ならソイツらを捕まえて城にでも突き出して解決する話だった。
 だが、国王が関わっていると確定した以上、このまま来た階段を上って引き返すのが賢明だと思うが、さてコリウスはどう考えているのだろう。
「さあ、どうするコリウス。もうここまでにして帰るか?」
 さっき破壊した魔導機兵《オートマタ》の処分、どうしよっかなぁ……。
 そう簡単に新しいのと取り替えられないだろうしなぁ……。
 かといって、あんなの我では直せそうにない。詰んだか。
「いいえ、ボクはまだ何も真実を見ていません。父上はここで何をしているのかハッキリとこの目で確かめたいです!」
 どうやらコリウス、まだ納得していないようだ。
「ふぅ……仕方ないか。お前の気の済むところまで付き合うと言ってしまった手前、我も腹をくくらねばな」
 変な騒ぎを起こしてロータスに怒られないかなぁ。
 アイツと交わした契約はパエデロスにおいて余計なことをするな、って話だし、レッドアイズなら許してくれるかなぁ。いや無理っぽそうだなぁ……。
 いざとなったらコリウスを突き出して、「コイツに全部頼まれました! サーセン!」で押し通すしかない。
「で、お前はどうするつもりだ?」
 オキザリスの方に向き直り、問う。
「こっちは王子、向こうは国王だ。対立するのか?」
「今回の件に王族であることは関係ありません。レッドアイズは軍事国家ですので、国王は一人の軍人として軍法会議に掛けられます」
 どうやらまだ手を貸してくれるっぽい。
「貴女こそ、部外者でこれ以上の深入りは唯の自殺行為ですよ。貴女の実力は認めますが、先ほども申し上げました通り、王子の一存では貴女をお守りする事は極めて難しい問題でしょう」
 そして、ここで手を引けとの最終警告だ。やっぱ目つき怖い。
「愚問だ」
 同じ言葉を繰り返すのも飽きた。
 まったく……最悪な一日から逃げ出してきたつもりが、もっとさらに最悪な一日が待っていようとは。
 これだったらマルペルとお祭りを巡りながらソレノス王子からのプロポーズを受けていた方がずっとマシだったじゃないか。
「お姉さん、ありがとうございます!」
「そろそろお前との貸し借りをチャラにしておきたかっただけだ」
 もうこれ以降は絶対に手は貸さんからな。絶対にだ。
「しかし、それにしてもわざわざお祭りの最中に国王が自らこんな工場に出向いてくるとはな。他の城の連中は何をしているんだ」
「催事の指揮はソレノス王子が執っておりますので、動きやすかったのでしょう。また、今日はそれだけ多くの人員が割かれております」
 だからといって国王が姿をくらまして違和感ないのかこの国は。いや、今まさに目の前で姿をくらませている王子がいるしな。とんでもない国だわ、マジで。
「父上はきっとここにボクや兄上にも言えない秘密を隠しているはずです。証拠をつかんだら兄上に知らせましょう」
 この場にいるのは問題児の王子と、ただのメイドと、完全なる部外者の我だけ。
 これで「秘密の地下工場があったぞー」などといっても信憑性も薄いしな。
 何のごっこ遊びだと言いたくなる。
「おそらく、いや間違いなく工場内にも魔導機兵の見張りが多くいるはずだ。いざとなったときには死ぬ気で逃げろ」
「ワタクシめも、全力で王子を護衛致します」
 ここで「王子は危険だからすっ込んでろ」という発想が出てこない辺り、オキザリスもこんな王子から片時も目を離してはいけないということを熟知している。
 かといって、部外者である我単独で工場に潜入とかあり得ん。
 そんなこと、コリウスが許してもオキザリスが許すまい。
「ワタクシがお守りするのは王子だけです。貴女の面倒までは見切れません」
「構わん。我の身は我で守る」
 王子の面倒を見てくれるなら逆に好都合だ。
 我だって余計な魔石は持ってきておらんわ。
 魔石がないとロクに魔法使えないんだぞ、我。
 前回はソレで酷い目にあったのを忘れてないからな。王子を守るのに魔石を全部使い切って危うく死にかけたんだ。あんなのはもうごめん被りたい。
「この扉の先で何を見ても驚くなよ?」
 そういって我は鉄の扉を開く。鳴り響く轟音に耳を刺激されつつも、開いた隙間から周囲を確認する。さっきはチラっとしか見なかったが、やはり広い。
 地下だというのに天井も高ければ、吹き抜けで下にもまだ階層が見えている。
 ふと目に付く。国王とその一行の姿が下の階層に見えた。この騒音では何か話していたとしても聞こえないが、逆を言えばこちらも多少の音では気付かれまい。
 よし、見張りはいない。魔導機兵も見当たらない。工場内へと足を踏み入れた。
 後ろからついてくるようにコリウスと、その真後ろにオキザリスがピッタリとくっついてきた。
 まずはこの階層を調べよう。そんなジェスチャーを送り、オキザリスだけが了解の合図を返してくる。そしておそらく大声で返事しようとしていたであろうコリウスの口を腕で塞ぐ。ナイスだ、オキザリス。そのまま絞め殺してもいいぞ。
 それはさておき、工場内の機械とやらはどれもこれもゴテゴテと変な形をして不気味だ。かなり膨大な魔力がそこら中を動き回っている。
 素材を溶かしたり、混ぜたり、形を整えたり。人間という奴は知恵の働くものだな。ここまで生産性の効率化ができてしまえるとは。
 急に化石にでもなった気分だ。人間の技術ってスゲー。
 問題なのは、どうしてこれだけのものを隠しておく必要があったのかという点。
 レッドアイズ国は既に魔導機兵を製造する工場を城に設けている。新しい兵器だってそこで造っている。それを秘密裏に隔離する意図とはなんだ。
 増設するだけなら城の中でもできることだし、何かとんでもない秘密を抱え込んでいることは間違いないだろう。
 昨日は、あの鬱陶しいソレノス王子の丁寧な解説とご案内によって、魔導機兵についてのおおまかな仕組みを知ることができた。
 だから、ここにある機械の工程が延長線上にあることは理解できる。
 ただ、どうにも解せないところがあった。
 ソレノス王子の説明した魔導機兵では、パフォーマンスが足りていない。具体的に言えば、簡単な動作はできても、生き物のように振る舞うまでには至らない。
 二足歩行。簡単な会話、受け答え。その程度なら別に我も不思議には思わん。
 しかし、見張りや交戦といった自律的な行動まではできない。
 最近になって急激に技術力が上がったと言っていたが、それでも説明つかない。
 おそらくその技術力が上がった時期にこの工場が造られたのだろうが、だとしたらソレは一体どういうことを指し示しているのか。
 工場の奥へ、奥へと進んでいくと、異様なほどに魔素の濃い場所があった。
 巨大な球体の窯のようなものが数十、数百と並び、数え切れない。
 常人には何も感じられないだろうが、我には霧が立ちこめているのではないかというくらい、その球体から魔素が漏れ出して見えた。気持ち悪い。
 一体、この中には何が入っているんだ。
「――――」
 多分うるさくて聞こえなかったと思うが、透視の魔法を唱える。
 我の視界に、無数に並ぶ窯の中身が透けて見えた。
 ああ、なんてことだ。こんな、こんなものが……。