第53話 王子とメイドと極刑と

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 この王子、放っておいていい存在じゃないな。ソレノス王子も国王も一体何をやっているんだ。それとも放任主義という奴なのか?

「お姉さん、お願いします! どうかボクに力を貸してください!」
 何度目かのおねだり攻撃だ。逆にな、お前、自分が王子だということを分かっているのだろうな。気軽に国家反逆罪の片棒を担がせるなよ、と言いたい。

 だが、まあ、我自身、興味がないかといえばそうでもない。レッドアイズ国の裏には何やらよからぬものが動いているような気がしてならない。
 今の我は魔具で正体も隠しているし、直ちに危険と言うこともない。

 なんだったら、既に表を歩けないレベルになってしまっている。
 むしろこのままコリウスを放置して勝手に危険な目に遭うのと、このままコリウスと解散して我が魔導機兵(オートマタ)に殺されるのと選択するだけなのでは。

 無論、そこまで極端な話ではないが、コリウス王子には何だかんだミモザを助けてもらった恩もあるし、国家機密に触れて消されるのは勘弁願おうか。

「仕方ない。乗りかかった船だ。お前の気の済むところまで付き合ってやろう」
「ありがとうございます!」
 目を離したら蜂の餌になっていたかもしれない王子だ。どうせ止めても断っても一人で行くのだろうしな。願わくば、くだらない真実であってほしいところだ。

「ボクの見立てでは、この先に秘密工場があるはずなんです。行きましょう」
 コリウスが我の腕を引く。何をワクワクしているのだ、コイツは。
 そんな少年みたいに純粋無垢な瞳をキラキラさせんでも……。
 確かにお前は少年だし、純粋無垢な点は否定できないのだが。

 これから向かう先は楽しい楽しい工場見学ではないのだぞ。
 お前は少し、自分の発言の重みを知れ。クソガキ王子め。

「……あそこです」
 そこにあった丁度良い大きさの木箱の物陰に隠れながら、コリウスが指さす。一見するとただの建物だが、確かに入り口には魔導機兵が立っている。

 地下への階段が続いているようだが、これだけでは何も判断できない。人気(ひとけ)の少ない裏路地に見張りがついているだけだ。
 ひょっとしたらただのいかがわしい店かもしれないじゃないか。

「周りを調べて見ましたが、入り口はあそこだけです」
 いちいち地図を広げながら見せてくる。狭い狭い。いらんからそういうの。
 見つかったらどうするんだ。

『不審者・ハ・排除』
 のわーっ!? まだ何もしてないのにいきなり魔導機兵がこっちに向かって走ってくるんですけどぉ!? ちょっとチラ見しただけじゃないのか。

「え? な、なんで?」
 なんではこっちのセリフだ! と、そうこうしているうちにガシーンガシーンと裏路地に足音を響かせながら急接近してくる。やむを得ない。

星々の挿入歌(エクラルミナ)っ!」
 我の手の先から放たれるは無数の魔法弾。

『不審者・ハ・排除』
 見ろ、魔導機兵が走ってくるよ! こわいね!
 バチン、バチン、バチィィンと肩や脚の部位に魔法弾が直撃する。

『ガガガガガ……――』
 避けようともしないから魔導機兵は倒れて動かなくなってしまいました。
 コリウスのせいです。
 あ~あ。

「お前のところの魔導機兵、どういう教育しておるんだ。直ぐに殺しにかかってくるではないか」
「そんなはずは……よほどのことがない限りは人に危害を加えないようになってるのに。外からやってきた人は入国時に顔認証されて共有もされるから――お姉さん、まさかちゃんと正規の手続きをとらずに入国したんですか?」

 そう言われても心当たりはない。ちゃんと入国のときもあの赤いピカピカに見つめられていたし、あれが正規の手続きじゃなかったら何なんだ。

「ちゃ、ちゃんと手続きを踏んだに決まっておるだろう!」

 しかし待てよ。我がこの国に入ったときはフィーの姿だったではないか。
 今は魔具で髪の色も目の色も身長までも変えている。完全に別人だ。
 ひょっとして、今の我は記憶されていないから不審者扱いなのでは……。

 もしかしなくても、表通りで襲われたのもソレが原因じゃないか。

「まあ、細かいことはいいですよね! これで中に入れます!」
 深くツッコまれなくてセーフ……なのか、コレ?
 魔導機兵も一体壊してしまったし、どっちみち言い逃れできんし。

「まったく……本当に無罪放免になるんだろうな」
「大丈夫です。兄上ならきっと分かってくれますって」
 その自信は一体何処から。あの残念イケメン王子なら言いくるめられそうな気はしなくもないが、不安しか残らんぞ。

「断言は出来かねます」
 ん、誰だ。何処だ? 今、声が聞こえたような……?

 そう思った矢先、空から何かがストンと着地してくる。
 建物の上から誰かが落ちてきたのか? こんな高い建物の上から?

「あっ……」
 その質素なメイド服には見覚えがあった。記憶していたものよりもまた少し薄汚れているような気もするが。

「うぇぇ……っ、オキザリスぅ!?」
 コリウスの方が一歩引く。間違いない。空から降ってきたメイドは、先ほど我と同行していたボディガードのオキザリスだった。

「コリウス王子。何故この様な場所におられるのでしょうか。また、何点かワタクシの質問に答えていただけませんか」
「お、オキザリスこそ、今日はお仕事だったはずじゃあ……」
「少々トラブルが発生致しました。しかし優先事項を考慮しますと王子の安否が何より第一。それよりワタクシの質問にもお答え下さい」

 こ、こわぁ……目つき悪いし、服の下は筋肉ムキムキだし。
 お仕事のトラブルって十中八九、我のことだよなぁ。
 まさか今までずっと建物の上に登って探し回っていたのか。

「何故この様な場所におられるのか。どうして魔導機兵が破壊されているのか。そして其処に居る不審な女性は何者なのか」
 ずいずいずいと距離を詰めてくる。
 我の方を見上げて、ギロリと睨み付けてきた。小さいのに魔導機兵より怖いっ!

「ぼ、ボクは城の秘密を探りに来た。この魔導機兵もお姉さんに頼んで壊してもらった。あ、あと、このお姉さんはボクの命の恩人で、ミモザさんのお姉さんです」
 全部ストレートに回答したな。圧に負けて告白したともう言うのか。

「ミモザさん……お姉さん……、それでは貴女様が巨大蜂(ビッグホーネット)より王子を守っていただいたあの。それは大変失礼致しました。その節はワタクシどもめの王子の命を救っていただき感謝の極み。何もお礼が出来ず申し訳御座いません」
 コリウスの曖昧な言葉尻を捉えて推察してくれた。
 その辺りは王子から話を聞いているのか。そりゃあそうか。
 オキザリスは堅苦しく、仰々しく、恭しく我に深く頭を下げた。

「この度は王子の奇行に付き合わせてしまい大変ご迷惑をお掛け致しました」
 奇行て。

「このままですとこの方の極刑は免れません。コリウス王子、また厄介な事をしでかしましたね。貴方の一存で決定出来る事ではないのですよ」
 やっぱり「また」が付くのだな。どんだけトラブルメーカーなんだ、コリウス。
 我も他人のことをとやかく言える立場ではないのだがな。魔王だし。

「第一、城の秘密を探る等という曖昧な言葉では承認出来かねます。貴方の日頃おっしゃってる妄言に少しでも信憑性が有るとお思いなのですか?」
 このメイド、王子相手だというのにキツい言葉で責めてくるな。きっと日頃も王子に振り回されて迷惑しているに違いない。

「うぅぅ~……お姉さぁん……」
 なんでそこで我にすがりついてくるんだ。言い負かされて泣きつくな!
 全部お前が言い出したことじゃないか!

 少しでも同意した我がアホみたいじゃないか。


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 この王子、放っておいていい存在じゃないな。ソレノス王子も国王も一体何をやっているんだ。それとも放任主義という奴なのか?
「お姉さん、お願いします! どうかボクに力を貸してください!」
 何度目かのおねだり攻撃だ。逆にな、お前、自分が王子だということを分かっているのだろうな。気軽に国家反逆罪の片棒を担がせるなよ、と言いたい。
 だが、まあ、我自身、興味がないかといえばそうでもない。レッドアイズ国の裏には何やらよからぬものが動いているような気がしてならない。
 今の我は魔具で正体も隠しているし、直ちに危険と言うこともない。
 なんだったら、既に表を歩けないレベルになってしまっている。
 むしろこのままコリウスを放置して勝手に危険な目に遭うのと、このままコリウスと解散して我が魔導機兵《オートマタ》に殺されるのと選択するだけなのでは。
 無論、そこまで極端な話ではないが、コリウス王子には何だかんだミモザを助けてもらった恩もあるし、国家機密に触れて消されるのは勘弁願おうか。
「仕方ない。乗りかかった船だ。お前の気の済むところまで付き合ってやろう」
「ありがとうございます!」
 目を離したら蜂の餌になっていたかもしれない王子だ。どうせ止めても断っても一人で行くのだろうしな。願わくば、くだらない真実であってほしいところだ。
「ボクの見立てでは、この先に秘密工場があるはずなんです。行きましょう」
 コリウスが我の腕を引く。何をワクワクしているのだ、コイツは。
 そんな少年みたいに純粋無垢な瞳をキラキラさせんでも……。
 確かにお前は少年だし、純粋無垢な点は否定できないのだが。
 これから向かう先は楽しい楽しい工場見学ではないのだぞ。
 お前は少し、自分の発言の重みを知れ。クソガキ王子め。
「……あそこです」
 そこにあった丁度良い大きさの木箱の物陰に隠れながら、コリウスが指さす。一見するとただの建物だが、確かに入り口には魔導機兵が立っている。
 地下への階段が続いているようだが、これだけでは何も判断できない。人気《ひとけ》の少ない裏路地に見張りがついているだけだ。
 ひょっとしたらただのいかがわしい店かもしれないじゃないか。
「周りを調べて見ましたが、入り口はあそこだけです」
 いちいち地図を広げながら見せてくる。狭い狭い。いらんからそういうの。
 見つかったらどうするんだ。
『不審者・ハ・排除』
 のわーっ!? まだ何もしてないのにいきなり魔導機兵がこっちに向かって走ってくるんですけどぉ!? ちょっとチラ見しただけじゃないのか。
「え? な、なんで?」
 なんではこっちのセリフだ! と、そうこうしているうちにガシーンガシーンと裏路地に足音を響かせながら急接近してくる。やむを得ない。
「|星々の挿入歌《エクラルミナ》っ!」
 我の手の先から放たれるは無数の魔法弾。
『不審者・ハ・排除』
 見ろ、魔導機兵が走ってくるよ! こわいね!
 バチン、バチン、バチィィンと肩や脚の部位に魔法弾が直撃する。
『ガガガガガ……――』
 避けようともしないから魔導機兵は倒れて動かなくなってしまいました。
 コリウスのせいです。
 あ~あ。
「お前のところの魔導機兵、どういう教育しておるんだ。直ぐに殺しにかかってくるではないか」
「そんなはずは……よほどのことがない限りは人に危害を加えないようになってるのに。外からやってきた人は入国時に顔認証されて共有もされるから――お姉さん、まさかちゃんと正規の手続きをとらずに入国したんですか?」
 そう言われても心当たりはない。ちゃんと入国のときもあの赤いピカピカに見つめられていたし、あれが正規の手続きじゃなかったら何なんだ。
「ちゃ、ちゃんと手続きを踏んだに決まっておるだろう!」
 しかし待てよ。我がこの国に入ったときはフィーの姿だったではないか。
 今は魔具で髪の色も目の色も身長までも変えている。完全に別人だ。
 ひょっとして、今の我は記憶されていないから不審者扱いなのでは……。
 もしかしなくても、表通りで襲われたのもソレが原因じゃないか。
「まあ、細かいことはいいですよね! これで中に入れます!」
 深くツッコまれなくてセーフ……なのか、コレ?
 魔導機兵も一体壊してしまったし、どっちみち言い逃れできんし。
「まったく……本当に無罪放免になるんだろうな」
「大丈夫です。兄上ならきっと分かってくれますって」
 その自信は一体何処から。あの残念イケメン王子なら言いくるめられそうな気はしなくもないが、不安しか残らんぞ。
「断言は出来かねます」
 ん、誰だ。何処だ? 今、声が聞こえたような……?
 そう思った矢先、空から何かがストンと着地してくる。
 建物の上から誰かが落ちてきたのか? こんな高い建物の上から?
「あっ……」
 その質素なメイド服には見覚えがあった。記憶していたものよりもまた少し薄汚れているような気もするが。
「うぇぇ……っ、オキザリスぅ!?」
 コリウスの方が一歩引く。間違いない。空から降ってきたメイドは、先ほど我と同行していたボディガードのオキザリスだった。
「コリウス王子。何故この様な場所におられるのでしょうか。また、何点かワタクシの質問に答えていただけませんか」
「お、オキザリスこそ、今日はお仕事だったはずじゃあ……」
「少々トラブルが発生致しました。しかし優先事項を考慮しますと王子の安否が何より第一。それよりワタクシの質問にもお答え下さい」
 こ、こわぁ……目つき悪いし、服の下は筋肉ムキムキだし。
 お仕事のトラブルって十中八九、我のことだよなぁ。
 まさか今までずっと建物の上に登って探し回っていたのか。
「何故この様な場所におられるのか。どうして魔導機兵が破壊されているのか。そして其処に居る不審な女性は何者なのか」
 ずいずいずいと距離を詰めてくる。
 我の方を見上げて、ギロリと睨み付けてきた。小さいのに魔導機兵より怖いっ!
「ぼ、ボクは城の秘密を探りに来た。この魔導機兵もお姉さんに頼んで壊してもらった。あ、あと、このお姉さんはボクの命の恩人で、ミモザさんのお姉さんです」
 全部ストレートに回答したな。圧に負けて告白したともう言うのか。
「ミモザさん……お姉さん……、それでは貴女様が巨大蜂《ビッグホーネット》より王子を守っていただいたあの。それは大変失礼致しました。その節はワタクシどもめの王子の命を救っていただき感謝の極み。何もお礼が出来ず申し訳御座いません」
 コリウスの曖昧な言葉尻を捉えて推察してくれた。
 その辺りは王子から話を聞いているのか。そりゃあそうか。
 オキザリスは堅苦しく、仰々しく、恭しく我に深く頭を下げた。
「この度は王子の奇行に付き合わせてしまい大変ご迷惑をお掛け致しました」
 奇行て。
「このままですとこの方の極刑は免れません。コリウス王子、また厄介な事をしでかしましたね。貴方の一存で決定出来る事ではないのですよ」
 やっぱり「また」が付くのだな。どんだけトラブルメーカーなんだ、コリウス。
 我も他人のことをとやかく言える立場ではないのだがな。魔王だし。
「第一、城の秘密を探る等という曖昧な言葉では承認出来かねます。貴方の日頃おっしゃってる妄言に少しでも信憑性が有るとお思いなのですか?」
 このメイド、王子相手だというのにキツい言葉で責めてくるな。きっと日頃も王子に振り回されて迷惑しているに違いない。
「うぅぅ~……お姉さぁん……」
 なんでそこで我にすがりついてくるんだ。言い負かされて泣きつくな!
 全部お前が言い出したことじゃないか!
 少しでも同意した我がアホみたいじゃないか。