超短編

ー/ー





 目を覚ましたらもう一人のあたしがいた。


「「だれよあんた!?」」


 布団から同時に飛び起きて、互いを指さす。


「「あたしは波田楽子(はたらくこ)よ!!」」


 同時に名乗り、同時に目を見開いた。


「「真似すんじゃないわよ!!!?」」


 なによこの状況!?


 なんであたしがもう一人????


「まって、ちょっと落ち着きましょう?」


 らちが明かないと思ったのかアッチのあたしがストップをかけた。


 こっちのあたしもちょうどらちが明かないと思ったところだ。


 ……先に言われてちょっと悔しぃ。


「そうね落ち着きましょう。……これ、どういう状況だと思うあたし?」


 どっかり布団に胡坐をかいて座る。


 まったく心当たりがない。しいて言えば昨日の夜、バイトに行きたくなさ過ぎて星に願ったくらいだ。関係ないだろう。


 そっちのあたしも全く同じように座って力なく首を横に振った。


「わからない……なんであたしの偽物が目の前に……」


 あん? こいつ今なんつった? このあたしが偽物だって?


「いやいや、偽物はそっちでしょ? 本物はあ・た・し!」


「はァ? あ・た・し!が本物なんですけどぉ? コンビニバイト風情が本物名乗らないでくれる??」


「ああ? コンビニバイトいいでしょコンビニバイト!! 廃棄弁当持って帰れるのよ最高じゃない!! 見下してんの!?」


「廃棄弁当が最高なのは認めるけど、いい加減就職しなさいよあたし! もう25歳よ!? だから恋人できないのよ!!」


「はぁあああ!? それそっくりそのままブーメランでしょが! そんなこと言って心が痛まないのあたしは!!」


「超痛いわよ! 泣きそうよ! ふざけんじゃないわよ!?」


「自分で言ったんでしょが!!」


 お互いヒートアップして額と額をゴンゴンぶつけながら叫び散らかした。


 しばらくにらみ合い、どちらともなくため息をついた。


「……やめましょう。虚しいだけだわ」


「今日もバイトだし、体力は温存しとかなきゃね……」


 バイト……はッ!?


 瞬間、あたしたちはバチっと視線をが合い互いに笑顔を浮かべた。


「仕方ないから本物は譲ってあげるわあたし。だから今日のバイト行ってきて?」


 ニコリとあたしはあたしに告げた。


 するとあっちのあたしもニコリと首を横に振る。


「いいえ? あたしは偽物よ?? 本物のあたしならバイトに行くべきよねぇ?」


 静かに笑みを交わし合うあたしたち。


 びゅうう!ガタガタ!! と、木枯らしで窓が揺れる。


 1時間後にはバイトだった。


 あたしが働いているコンビニでは本日よりおでんセールが開催される。


 おでんセール期間中のバイトは、正月の神社のように無限に人々が押し寄せてくる終わらない悪夢……いや、地獄なのだ。

 笑顔を浮かべ合うあたしたちは両者一歩も退かない凛々しい顔つきをしていた。

 やれやれ、仕方ないか……。

 互いに笑みを崩し布団をたたんで四畳半の部屋の左右に分かれ、拳を握りしめた。


「ふー……負けた方が本物でバイトよ? いいわね?」


「ええ、敗者は死地へ。勝てば官軍。それで構わないわ」


 それ以上の言葉は不要。


 あたし達はすり足で互いに距離を測り、そして。


「「偽物はこのあたしだぁあああああああ!!」」


 あたしたちはバイト(に行かない権利)を賭けた愚かな殴り合いを始めるのだった。




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 目を覚ましたらもう一人のあたしがいた。
「「だれよあんた!?」」
 布団から同時に飛び起きて、互いを指さす。
「「あたしは|波田楽子《はたらくこ》よ!!」」
 同時に名乗り、同時に目を見開いた。
「「真似すんじゃないわよ!!!?」」
 なによこの状況!?
 なんであたしがもう一人????
「まって、ちょっと落ち着きましょう?」
 らちが明かないと思ったのかアッチのあたしがストップをかけた。
 こっちのあたしもちょうどらちが明かないと思ったところだ。
 ……先に言われてちょっと悔しぃ。
「そうね落ち着きましょう。……これ、どういう状況だと思うあたし?」
 どっかり布団に胡坐をかいて座る。
 まったく心当たりがない。しいて言えば昨日の夜、バイトに行きたくなさ過ぎて星に願ったくらいだ。関係ないだろう。
 そっちのあたしも全く同じように座って力なく首を横に振った。
「わからない……なんであたしの偽物が目の前に……」
 あん? こいつ今なんつった? このあたしが偽物だって?
「いやいや、偽物はそっちでしょ? 本物はあ・た・し!」
「はァ? あ・た・し!が本物なんですけどぉ? コンビニバイト風情が本物名乗らないでくれる??」
「ああ? コンビニバイトいいでしょコンビニバイト!! 廃棄弁当持って帰れるのよ最高じゃない!! 見下してんの!?」
「廃棄弁当が最高なのは認めるけど、いい加減就職しなさいよあたし! もう25歳よ!? だから恋人できないのよ!!」
「はぁあああ!? それそっくりそのままブーメランでしょが! そんなこと言って心が痛まないのあたしは!!」
「超痛いわよ! 泣きそうよ! ふざけんじゃないわよ!?」
「自分で言ったんでしょが!!」
 お互いヒートアップして額と額をゴンゴンぶつけながら叫び散らかした。
 しばらくにらみ合い、どちらともなくため息をついた。
「……やめましょう。虚しいだけだわ」
「今日もバイトだし、体力は温存しとかなきゃね……」
 バイト……はッ!?
 瞬間、あたしたちはバチっと視線をが合い互いに笑顔を浮かべた。
「仕方ないから本物は譲ってあげるわあたし。だから今日のバイト行ってきて?」
 ニコリとあたしはあたしに告げた。
 するとあっちのあたしもニコリと首を横に振る。
「いいえ? あたしは偽物よ?? 本物のあたしならバイトに行くべきよねぇ?」
 静かに笑みを交わし合うあたしたち。
 びゅうう!ガタガタ!! と、木枯らしで窓が揺れる。
 1時間後にはバイトだった。
 あたしが働いているコンビニでは本日よりおでんセールが開催される。
 おでんセール期間中のバイトは、正月の神社のように無限に人々が押し寄せてくる終わらない悪夢……いや、地獄なのだ。
 笑顔を浮かべ合うあたしたちは両者一歩も退かない凛々しい顔つきをしていた。
 やれやれ、仕方ないか……。
 互いに笑みを崩し布団をたたんで四畳半の部屋の左右に分かれ、拳を握りしめた。
「ふー……負けた方が本物でバイトよ? いいわね?」
「ええ、敗者は死地へ。勝てば官軍。それで構わないわ」
 それ以上の言葉は不要。
 あたし達はすり足で互いに距離を測り、そして。
「「偽物はこのあたしだぁあああああああ!!」」
 あたしたちはバイト(に行かない権利)を賭けた愚かな殴り合いを始めるのだった。