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ガールズトーク

ー/ー




 日が暮れた頃。
タレントのルミは、バラエティ番組の心霊ロケに呼ばれていた。

 連れて来られたのは、心霊スポットとして噂される、古くて大きな日本家屋(かおく)だった。

「怖いけど、がんばルミミ~⭐︎」

 ルミは明るく笑いながら、お決まりの台詞(せりふ)を口にすると、恐る恐る建物の中へ足を踏み入れた。
 木の床は(きし)み、古い障子の隙間からは、頼りなさげに光が()れ出ている。


「さて…番組に届いたお便りによると、二階に、座敷牢(ざしきろう)みたいな部屋があるらしく、そこに、小さな子供くらいの日本人形が置かれているとか……。
……あ、多分この先ですね」

 ルミが一段、また一段。
ギシ…ギシ…と踏み鳴らして階段を上った、その瞬間――

「ヒィッ…!」


 目の前には、十字架(じゅうじか)(はりつけ)にされた、髪の長い日本人形があった。
 小さな子供ほどの身長で、髪はキシキシバサバサで、切れ端は不揃(ふぞろ)い。
 無表情な顔はどこか冷たく、ただそこにいるだけで、不気味さを放っていた。


「キャー!こわいー!無理無理!顔が無理ー!」
「お前…失礼…」
「!!」

 人形から低く(こも)った声が聞こえて気がして、ルミは思わず後ずさった。

「…え?なんか今声が聞こえた…?え〜うそ!ヤダヤダあ~!」
「はしゃぐな、落ち着け」
「無〜理〜!」
「いいから落ち着け」

 人形の口は、嘘みたいにヌルヌルと動き、明らかにルミに話しかけている。

「口が動っ…喋っ..!」
「ワタシは、呪いの人形と呼ばれる人形。何か聞きたいことはあるか?」
「えっと、じゃぁ…名前は?」
「名前などない」
「質問させといて、ないんだ」

 会話が成立してしまった瞬間、ルミの恐怖は急速に薄れていった。
 怖いはずなのに、返事が妙に常識的すぎる。

「(この人形、仕込み?)」

 それなら、タレント・ルミミの役割を全うするまでだ。
 そう思ったルミは、いつもの調子で人形に絡んでいった。

「じゃあ、私がつけてあげる。えーっと…バリカタ!髪がギシギシでバリバリしてるもん!」
「お前…本当に失礼」
「まあまあ、女の子なんだから笑った方が可愛いよ?あ、これあげる!」

 ルミは、持っていたイチゴ味のチョコレートを、人形の口元に押し付けた。

「お前、無神経」
「でも、食べてるじゃん」
「お前、呪いの人形が全員不幸を背負っていると思っているだろう?」
「うん。違うの?」
「違うね。そもそも私は呪いの人形などではない」
「え、でも喋ってるじゃん」
「人形は魂が宿りやすいからな。
元は、肝試(きもだめ)し好きの美大生が作って、それっぽく(まつ)られて放置された、無意味で(あわ)れな人形さ…」
「へぇ、可哀想ぉ〜」
清々(すがすが)しいくらい、心がこもってないな」


「あ、いたいた!ルミミさ〜ん!」

 ルミとバリカタが和気藹々(わきあいあい)としているところに、イケメンADがやってきた。
 歩くだけで、清涼感(せいりょうかん)粒子(りゅうし)を振り()くようなイケメンで、この古民家に一番似合っていない存在だった。

「ルミミさん、ディレクターが呼んでいるので、一旦戻りましょうか!」
「は~い、分かりました!じゃあね、バリカタ!」
「連れてけ」
「ん?」
「私も連れてけ」
「何で?」
「…良き…」
「え?」
「胸がワサワサする」
「ミセス(Mrs.GREEN APPLE)かよ。えっと、どうやって連れていけばいいかな?」
「おんぶしろ」
「ああ、はい。おんぶね」

 すっかり恐怖心が抜けたルミは、躊躇(ちゅうちょ)なくバリカタを十字架から外して、背中に担いだ。

「よいしょ…」

 しかし、グラッと体のバランスを崩して、ルミは前のめりに転んでしまった。

「わわっ!」


 すると、少し前を歩いていたADが異変に気づき、すぐに戻ってきた。
 
「ルミミさん大丈夫ですか?」
「あ、はい!大丈夫です!」

 ADに手を差し伸べられ、ルミは支えられながら立ち上がると、双方(そうほう)の顔が自然と近づいて、二人とも少し照れた。

「あの、ありがとうございます…」
「ていうか、ルミミさん。何で人形をおぶっているんですか?」
「あ、何か連れてけって言われて…」
「ルミミさん、人形と喋れるんですか!?」
「あはは…みたいです…」

 そんな会話を交わしながら、ルミとバリカタ、そしてADはその場を後にした。





 その後。

 ルミは自宅でテレビを見ていた。
 
 画面の中では、ルミミが恐怖に震え、おどろおどろしいナレーションが番組を盛り上げていた。

「すると突然、カメラの画面が落ちた。」
『ルミミさん大丈夫ですか!?』
「ADが駆けつけると、人形とルミミが倒れていた。」


「たまに見返したくなるんだよねぇ。
ね、面白い?まだ分かんないか」

 ルミの膝には、小さな子供が座っていた。


 子供はテレビを見ながら、目を三日月のように細めた。

「(私には、あの人の遺伝子が流れている)」



   終わり




みんなのリアクション

 日が暮れた頃。
タレントのルミは、バラエティ番組の心霊ロケに呼ばれていた。
 連れて来られたのは、心霊スポットとして噂される、古くて大きな日本|家屋《かおく》だった。
「怖いけど、がんばルミミ~⭐︎」
 ルミは明るく笑いながら、お決まりの|台詞《せりふ》を口にすると、恐る恐る建物の中へ足を踏み入れた。
 木の床は|軋《きし》み、古い障子の隙間からは、頼りなさげに光が|漏《も》れ出ている。
「さて…番組に届いたお便りによると、二階に、|座敷牢《ざしきろう》みたいな部屋があるらしく、そこに、小さな子供くらいの日本人形が置かれているとか……。
……あ、多分この先ですね」
 ルミが一段、また一段。
ギシ…ギシ…と踏み鳴らして階段を上った、その瞬間――
「ヒィッ…!」
 目の前には、|十字架《じゅうじか》に|磔《はりつけ》にされた、髪の長い日本人形があった。
 小さな子供ほどの身長で、髪はキシキシバサバサで、切れ端は|不揃《ふぞろ》い。
 無表情な顔はどこか冷たく、ただそこにいるだけで、不気味さを放っていた。
「キャー!こわいー!無理無理!顔が無理ー!」
「お前…失礼…」
「!!」
 人形から低く|籠《こも》った声が聞こえて気がして、ルミは思わず後ずさった。
「…え?なんか今声が聞こえた…?え〜うそ!ヤダヤダあ~!」
「はしゃぐな、落ち着け」
「無〜理〜!」
「いいから落ち着け」
 人形の口は、嘘みたいにヌルヌルと動き、明らかにルミに話しかけている。
「口が動っ…喋っ..!」
「ワタシは、呪いの人形と呼ばれる人形。何か聞きたいことはあるか?」
「えっと、じゃぁ…名前は?」
「名前などない」
「質問させといて、ないんだ」
 会話が成立してしまった瞬間、ルミの恐怖は急速に薄れていった。
 怖いはずなのに、返事が妙に常識的すぎる。
「(この人形、仕込み?)」
 それなら、タレント・ルミミの役割を全うするまでだ。
 そう思ったルミは、いつもの調子で人形に絡んでいった。
「じゃあ、私がつけてあげる。えーっと…バリカタ!髪がギシギシでバリバリしてるもん!」
「お前…本当に失礼」
「まあまあ、女の子なんだから笑った方が可愛いよ?あ、これあげる!」
 ルミは、持っていたイチゴ味のチョコレートを、人形の口元に押し付けた。
「お前、無神経」
「でも、食べてるじゃん」
「お前、呪いの人形が全員不幸を背負っていると思っているだろう?」
「うん。違うの?」
「違うね。そもそも私は呪いの人形などではない」
「え、でも喋ってるじゃん」
「人形は魂が宿りやすいからな。
元は、|肝試《きもだめ》し好きの美大生が作って、それっぽく|祀《まつ》られて放置された、無意味で|哀《あわ》れな人形さ…」
「へぇ、可哀想ぉ〜」
「|清々《すがすが》しいくらい、心がこもってないな」
「あ、いたいた!ルミミさ〜ん!」
 ルミとバリカタが|和気藹々《わきあいあい》としているところに、イケメンADがやってきた。
 歩くだけで、|清涼感《せいりょうかん》の|粒子《りゅうし》を振り|撒《ま》くようなイケメンで、この古民家に一番似合っていない存在だった。
「ルミミさん、ディレクターが呼んでいるので、一旦戻りましょうか!」
「は~い、分かりました!じゃあね、バリカタ!」
「連れてけ」
「ん?」
「私も連れてけ」
「何で?」
「…良き…」
「え?」
「胸がワサワサする」
「ミセス(Mrs.GREEN APPLE)かよ。えっと、どうやって連れていけばいいかな?」
「おんぶしろ」
「ああ、はい。おんぶね」
 すっかり恐怖心が抜けたルミは、|躊躇《ちゅうちょ》なくバリカタを十字架から外して、背中に担いだ。
「よいしょ…」
 しかし、グラッと体のバランスを崩して、ルミは前のめりに転んでしまった。
「わわっ!」
 すると、少し前を歩いていたADが異変に気づき、すぐに戻ってきた。
「ルミミさん大丈夫ですか?」
「あ、はい!大丈夫です!」
 ADに手を差し伸べられ、ルミは支えられながら立ち上がると、|双方《そうほう》の顔が自然と近づいて、二人とも少し照れた。
「あの、ありがとうございます…」
「ていうか、ルミミさん。何で人形をおぶっているんですか?」
「あ、何か連れてけって言われて…」
「ルミミさん、人形と喋れるんですか!?」
「あはは…みたいです…」
 そんな会話を交わしながら、ルミとバリカタ、そしてADはその場を後にした。
 その後。
 ルミは自宅でテレビを見ていた。
 画面の中では、ルミミが恐怖に震え、おどろおどろしいナレーションが番組を盛り上げていた。
「すると突然、カメラの画面が落ちた。」
『ルミミさん大丈夫ですか!?』
「ADが駆けつけると、人形とルミミが倒れていた。」
「たまに見返したくなるんだよねぇ。
ね、面白い?まだ分かんないか」
 ルミの膝には、小さな子供が座っていた。
 子供はテレビを見ながら、目を三日月のように細めた。
「(私には、あの人の遺伝子が流れている)」
   終わり


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