ep53 ロットン

ー/ー



  【2】


 外はよく晴れていた。爽やかな秋を思わせる気候だ。

「行こう」
「はい」
 
 翌日の朝早くから俺たちは、西に向かって走る馬車に乗りこんだ。布製の屋根のついた客席には、俺たち以外には商人らしき中年客が一人いるだけ。
 
「今ぐらいの季節が一番ちょうど良いですよね。朝晩は寒いけど、全体的にはちょうど良いです」

 ガタガタと走る馬車に揺られながら何げなくシヒロが言った。彼女は旅を楽しんでいる。得体の知れない魔剣使いとの旅を。大胆なのか変わっているのか、純朴そうだがどこか不思議な女の子だ。

「この辺は冬でも雪は降らないし穏やかなんだよな」

「はい。北方に行けば雪景色も楽しめると思いますが、寒すぎるのは苦手です」

「ところで次に行く街なんだが」

「〔ロットン〕ですよね?」

「大きいのか?」

「中都市、ですかね? ぼくも行ったことがないので知識としてしか知りませんが」

「まあまあってところか……」

「なにか気になるんですか?」

「有事の際を考えただけだよ」

「有事?」

「おたくら、ロットンなんかに寄ってどうすんだ?」
 不意に商人らしき中年男が俺たちの会話に入ってきた。
「旅行ってわけでもなさそうだが」

「まあ、野暮用でね」

 俺は素っ気なく答えるが、構わず中年男は話を続ける。

「余計なお世話だが、最近あの街には〔サンダース〕から流れてきた輩が増えてきているらしくてね」

「サンダース?」

「知ってんだろ? ロットンよりデカい街さ。なんでもサンダースのよくわからない連中がロットンにも流れてきてるって噂さ」

「治安が悪いのか?」

「まっ、おれも詳しいことはよく知らんがね」

「はあ」

 中年男はそれ以上はなにも語らず、居眠りの姿勢についた。
 このおっさんの発言、どう受け止めるべきだろう。親切心から言ったのか、俺たちを脅かして楽しんでいるだけなのか。いずれにしても、俺の行動予定に変更はない。

「まあ、ひとつの情報として、念のため覚えておくか」

「そ、そうですね、クローさん」

 とりあえず頭の片隅に留めておくことにした。
 数刻後。
 ロットンに到着する。馬車は俺とシヒロを降ろして再びガラガラと走っていった。

「ここがロットンか。思ったよりも寂しい感じだな」

「ここはまだ郊外なんで、きっと中心部に行けばもっと賑わってますよ」

 俺たちは街の中心部に向かって歩を進めていく。

「ロットンには方々から旅人や商人が訪れるみたいです。父もよく商売で行ったと言っていました。なので馬車でおじさんが言ってたことは、ここ最近はサンダースから流れくる人が多いという意味だと思うんですけどね」

 シヒロの説明どおり、中心部に向かっていくにつれ賑わいが増し、旅人や商人とおぼしき者たちの姿が目立つようになった。
 街自体は、木造二階建てと一階建ての建物が半々ぐらいのバランスでごちゃごちゃとあり、道はこまごまとしている。

「活気はあるけど、なんというか……ちょっと雑な感じだな。それとも下町っていうのか? 貴族や金持ちはいなそうだな。こうして見ると俺が住んでいた〔クオリーメン〕は小都市だったけど綺麗な街だったんだな。金持ちもそこそこいたし。今んなってクローがあの街を選んだのがわかるな」

「えっ、クローさん?」

「あっ、いや、なんでもない。ハハハ……(ヤバいヤバい。転生前のクローは俺じゃなかったからつい間違えてしまった)」

 そうやって俺が頭を掻いて笑って誤魔化した時、ぐぅ〜という音が隣から聞こえる。

「?」
 
 俺はシヒロの方をチラッと見た。彼女は顔を真っ赤にしてうつむく。

「あ、あの、お腹が空きました......」

 俺は微笑する。俺も空いていたところだ。

「そうだよな。朝から食べてなかったもんな。メシ行くか」

「すすすスイマセン!」

 俺たちはテキトーにその辺にある庶民的な食堂に入った。

「ここで腹ごしらえしてから宿を見つけるか」

「そ、そうですね」

 狭いカウンター席の端に二人は肩を寄せて座った。
 店内はまあまあ広いが混んでいて、街の人間たちと旅人や商人が混在しているようだ。俺はなんとなく馬車でおっさんから聞いた話が気になり〔サンダース〕から来た人間もいるのかな〜と、それとなく周りを見まわしてみた。

「クローさん? なにか気になるんですか?」

「……なんでもない。さっさと食おう」

 出てきた料理は芋と野菜と肉が入ったスープにパンを合わせたごくシンプルなもの。味はまあまあといったところだ。

「モグモグ……あの、クローさん」

「なんだ?」

「〔フリーダム〕はいつごろやって来るんでしょう」

「シヒロ」

「はい」

「そのワードは出すな」

「えっ? そ、それって」

「いや、あえて出すのもいいかもな」

「あ、あの?」

「今、店内でひとり、俺たちに意識を向けている者がいる」


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  【2】
 外はよく晴れていた。爽やかな秋を思わせる気候だ。
「行こう」
「はい」
 翌日の朝早くから俺たちは、西に向かって走る馬車に乗りこんだ。布製の屋根のついた客席には、俺たち以外には商人らしき中年客が一人いるだけ。
「今ぐらいの季節が一番ちょうど良いですよね。朝晩は寒いけど、全体的にはちょうど良いです」
 ガタガタと走る馬車に揺られながら何げなくシヒロが言った。彼女は旅を楽しんでいる。得体の知れない魔剣使いとの旅を。大胆なのか変わっているのか、純朴そうだがどこか不思議な女の子だ。
「この辺は冬でも雪は降らないし穏やかなんだよな」
「はい。北方に行けば雪景色も楽しめると思いますが、寒すぎるのは苦手です」
「ところで次に行く街なんだが」
「〔ロットン〕ですよね?」
「大きいのか?」
「中都市、ですかね? ぼくも行ったことがないので知識としてしか知りませんが」
「まあまあってところか……」
「なにか気になるんですか?」
「有事の際を考えただけだよ」
「有事?」
「おたくら、ロットンなんかに寄ってどうすんだ?」
 不意に商人らしき中年男が俺たちの会話に入ってきた。
「旅行ってわけでもなさそうだが」
「まあ、野暮用でね」
 俺は素っ気なく答えるが、構わず中年男は話を続ける。
「余計なお世話だが、最近あの街には〔サンダース〕から流れてきた輩が増えてきているらしくてね」
「サンダース?」
「知ってんだろ? ロットンよりデカい街さ。なんでもサンダースのよくわからない連中がロットンにも流れてきてるって噂さ」
「治安が悪いのか?」
「まっ、おれも詳しいことはよく知らんがね」
「はあ」
 中年男はそれ以上はなにも語らず、居眠りの姿勢についた。
 このおっさんの発言、どう受け止めるべきだろう。親切心から言ったのか、俺たちを脅かして楽しんでいるだけなのか。いずれにしても、俺の行動予定に変更はない。
「まあ、ひとつの情報として、念のため覚えておくか」
「そ、そうですね、クローさん」
 とりあえず頭の片隅に留めておくことにした。
 数刻後。
 ロットンに到着する。馬車は俺とシヒロを降ろして再びガラガラと走っていった。
「ここがロットンか。思ったよりも寂しい感じだな」
「ここはまだ郊外なんで、きっと中心部に行けばもっと賑わってますよ」
 俺たちは街の中心部に向かって歩を進めていく。
「ロットンには方々から旅人や商人が訪れるみたいです。父もよく商売で行ったと言っていました。なので馬車でおじさんが言ってたことは、ここ最近はサンダースから流れくる人が多いという意味だと思うんですけどね」
 シヒロの説明どおり、中心部に向かっていくにつれ賑わいが増し、旅人や商人とおぼしき者たちの姿が目立つようになった。
 街自体は、木造二階建てと一階建ての建物が半々ぐらいのバランスでごちゃごちゃとあり、道はこまごまとしている。
「活気はあるけど、なんというか……ちょっと雑な感じだな。それとも下町っていうのか? 貴族や金持ちはいなそうだな。こうして見ると俺が住んでいた〔クオリーメン〕は小都市だったけど綺麗な街だったんだな。金持ちもそこそこいたし。今んなってクローがあの街を選んだのがわかるな」
「えっ、クローさん?」
「あっ、いや、なんでもない。ハハハ……(ヤバいヤバい。転生前のクローは俺じゃなかったからつい間違えてしまった)」
 そうやって俺が頭を掻いて笑って誤魔化した時、ぐぅ〜という音が隣から聞こえる。
「?」
 俺はシヒロの方をチラッと見た。彼女は顔を真っ赤にしてうつむく。
「あ、あの、お腹が空きました......」
 俺は微笑する。俺も空いていたところだ。
「そうだよな。朝から食べてなかったもんな。メシ行くか」
「すすすスイマセン!」
 俺たちはテキトーにその辺にある庶民的な食堂に入った。
「ここで腹ごしらえしてから宿を見つけるか」
「そ、そうですね」
 狭いカウンター席の端に二人は肩を寄せて座った。
 店内はまあまあ広いが混んでいて、街の人間たちと旅人や商人が混在しているようだ。俺はなんとなく馬車でおっさんから聞いた話が気になり〔サンダース〕から来た人間もいるのかな〜と、それとなく周りを見まわしてみた。
「クローさん? なにか気になるんですか?」
「……なんでもない。さっさと食おう」
 出てきた料理は芋と野菜と肉が入ったスープにパンを合わせたごくシンプルなもの。味はまあまあといったところだ。
「モグモグ……あの、クローさん」
「なんだ?」
「〔フリーダム〕はいつごろやって来るんでしょう」
「シヒロ」
「はい」
「そのワードは出すな」
「えっ? そ、それって」
「いや、あえて出すのもいいかもな」
「あ、あの?」
「今、店内でひとり、俺たちに意識を向けている者がいる」