ep54 接触
ー/ー
「えっ、ど、どの人ですか?」
「シヒロ」
俺は彼女が小動物のように首を回してジロジロまわりを確認しようとするのを制止した。
「あっ、す、すいません!」
「シヒロ。俺はヤツらと戦った時、顔もなにもまったく隠していなかったし、逃げていくヤツも追わなかったよな」
「そういえば、そうですね」
「そろそろのはずなんだ」
「そろそろ?」
「本格的にヤツらが積極的に俺を狙い始めるのが」
「それはクローさんにとって…」
「良いことだ。もともと神出鬼没なヤツらだったんだ。それが俺個人にリソースを割いてくれるっていうのなら、俺次第で被害は減らせる」
「それで今、店内にいるというのは」
「仮面がないからヤツらかどうかはわからない。ただ、俺を気にしているって時点でなにかしら関係している可能性は高い。なんせヤツらにとって銀髪の魔剣使いといったらここ最近の邪魔者のトップオブトップだろう。逆にヤツら以外で俺のことを気にする人間はいないだろうからな」
「関係、ですか。例えば、見つけ次第おれたちに知らせろってお金渡されてる人とかですかね?」
「あるいは脅されてたりな」
「街の宿屋に泊まっても大丈夫なんですか? クローさんだけでなく、巻き込んじゃう人も出てきちゃうから……」
「俺がどこにいようが街は街で襲うだろ。だからそれはあまり関係ない。それにシヒロはちゃんと宿で寝たいだろ?」
「ぼ、ぼくのことは気にしないでください」
「そろそろ行くか」
俺たちは席を立ち、店を後にする。
宿屋を探すための歩を進めながら、何かに気づいたシヒロは俺に怪訝な顔を向けてきた。
「あの、クローさん。宿屋を探しているんですよね?」
「……」
しばらく進むと、人気の少ない路地に入った。
「く、クローさん。どこに行くんですか? この辺に宿屋なんかなさそうですよ?」
「シヒロ。お前はそこの脇道に入れ」
有無を言わさず俺は右に入っていく道を視認して命令した。
「ぼ、ぼくひとりで?」
「誰かがお前に向かってきたら何でもいいからすぐに魔法を唱えろ。いいか? すぐだ」
「で、でもクローさん。そこの道って、進んでいっても袋小路なんじゃ?」
「好都合だ」
「どういう…」
「いいから早く行け」
シヒロは不安いっぱいの面持ちで仕方なく脇道に入っていった。
俺はそのまま十二時方向へ歩いていく。
『なるほど。彼女の魔法とワタクシを利用するのですね』
『そうだ』
『しかしそんなにどんどん歩き進んでいってしまわなくても?』
『じゃないと相手にとってのリスクが下がらない。リスクが下がらなければ動いてくれないだろ? そもそもあんな所で俺とシヒロがバラける事自体本来は不自然なんだ』
『そうですね』
『それでも俺がすぐに戻れなそうな位置まで距離が開けば、怪しいと思っても一度は必ずシヒロの方へ向かうはず』
言ってるそばから事態は動く。
『クロー様。仰るとおりになりました。今スピリトゥスの乱れを感知しました。あの娘の魔法で間違いないでしょう』
『よし』
途端に俺はクルッときびすを返し、来た道を引き返す。ところが、どこからかゴキブリのように沸いてきた二人のガラの悪そうな男が、俺の行く手を阻むように進路に立っていた。
「オイ」
精神の不健康そうな面構えをした黒髪の男が、不愉快な声をかけてきた。
「なんだ?」
「なんだじゃねえ。オメー、銀髪の魔剣使いか?」
「なぜそう思う?」
「そんなことオメーに関係ねえ」
「お前らは〔フリーダム〕なのか?」
「やっぱりオメーが魔剣使いか。とぼけやがって」
「もう一度聞く。お前らは〔フリーダム〕か?」
「うるせぇ。オメーの仲間は捕らえたぜ。殺されたくなかったら大人しくおれたちに従いな」
「わかった。じゃあもう一人に聞く」
「あ?」
『おい。頼む』
『かしこまりました』
一瞬だ。俺はシヒロの入っていった脇道の入口にシュッと降り立つ。そう、これは〔空間転移〕。
「シッ!」
地を踏み蹴って、ダッと飛び出した。
相手からはどう見えるだろう。ありえない突風が晴天の霹靂の如く吹き上げたとでも思うだろうか。
「シヒロ!」
あっという間に、シヒロに迫る一人の男へ俺は風のように肉薄する。
「あっ……」
そいつが気づいた時にはもう遅かった。男はその場にどっと崩れた。為す術もなく俺から側頭部への一撃をもらい卒倒したのだ。
「く、クローさん!」
シヒロは魔法を唱えようとかざした手を下ろして俺に駆け寄ってきた。
「ぼく、とっても怖かったですよ!」
「シヒロは、敵を自白させる魔法とか使えないか?」
「ちょっ! ぼくのことはどうでもいいんですか!?」
シヒロは涙目で訴えてくる。
「おかげで思いどおりの結果が出たよ。サンキューな」
俺はまったく悪びれずに微笑を送った。
「もうっ! クローさん! 信じてはいましたけどぉ!」
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「えっ、ど、どの人ですか?」
「シヒロ」
俺は彼女が小動物のように首を回してジロジロまわりを確認しようとするのを制止した。
「あっ、す、すいません!」
「シヒロ。俺はヤツらと戦った時、顔もなにもまったく隠していなかったし、逃げていくヤツも追わなかったよな」
「そういえば、そうですね」
「そろそろのはずなんだ」
「そろそろ?」
「本格的にヤツらが積極的に俺を狙い始めるのが」
「それはクローさんにとって…」
「良いことだ。もともと神出鬼没なヤツらだったんだ。それが俺個人にリソースを割いてくれるっていうのなら、俺次第で被害は減らせる」
「それで今、店内にいるというのは」
「仮面がないからヤツらかどうかはわからない。ただ、俺を気にしているって時点でなにかしら関係している可能性は高い。なんせヤツらにとって銀髪の魔剣使いといったらここ最近の邪魔者のトップオブトップだろう。逆にヤツら以外で俺のことを気にする人間はいないだろうからな」
「関係、ですか。例えば、見つけ次第おれたちに知らせろってお金渡されてる人とかですかね?」
「あるいは脅されてたりな」
「街の宿屋に泊まっても大丈夫なんですか? クローさんだけでなく、巻き込んじゃう人も出てきちゃうから……」
「俺がどこにいようが街は街で襲うだろ。だからそれはあまり関係ない。それにシヒロはちゃんと宿で寝たいだろ?」
「ぼ、ぼくのことは気にしないでください」
「そろそろ行くか」
俺たちは席を立ち、店を後にする。
宿屋を探すための歩を進めながら、何かに気づいたシヒロは俺に怪訝な顔を向けてきた。
「あの、クローさん。宿屋を探しているんですよね?」
「……」
しばらく進むと、人気の少ない路地に入った。
「く、クローさん。どこに行くんですか? この辺に宿屋なんかなさそうですよ?」
「シヒロ。お前はそこの脇道に入れ」
有無を言わさず俺は右に入っていく道を視認して命令した。
「ぼ、ぼくひとりで?」
「誰かがお前に向かってきたら何でもいいからすぐに魔法を唱えろ。いいか? すぐだ」
「で、でもクローさん。そこの道って、進んでいっても袋小路なんじゃ?」
「好都合だ」
「どういう…」
「いいから早く行け」
シヒロは不安いっぱいの面持ちで仕方なく脇道に入っていった。
俺はそのまま十二時方向へ歩いていく。
『なるほど。彼女の魔法とワタクシを利用するのですね』
『そうだ』
『しかしそんなにどんどん歩き進んでいってしまわなくても?』
『じゃないと相手にとってのリスクが下がらない。リスクが下がらなければ動いてくれないだろ? そもそもあんな所で俺とシヒロがバラける事自体本来は不自然なんだ』
『そうですね』
『それでも俺がすぐに戻れなそうな位置まで距離が開けば、怪しいと思っても一度は必ずシヒロの方へ向かうはず』
言ってるそばから事態は動く。
『クロー様。仰るとおりになりました。今スピリトゥスの乱れを感知しました。あの娘の魔法で間違いないでしょう』
『よし』
途端に俺はクルッときびすを返し、来た道を引き返す。ところが、どこからかゴキブリのように沸いてきた二人のガラの悪そうな男が、俺の行く手を阻むように進路に立っていた。
「オイ」
精神の不健康そうな面構えをした黒髪の男が、不愉快な声をかけてきた。
「なんだ?」
「なんだじゃねえ。オメー、銀髪の魔剣使いか?」
「なぜそう思う?」
「そんなことオメーに関係ねえ」
「お前らは〔フリーダム〕なのか?」
「やっぱりオメーが魔剣使いか。とぼけやがって」
「もう一度聞く。お前らは〔フリーダム〕か?」
「うるせぇ。オメーの仲間は捕らえたぜ。殺されたくなかったら大人しくおれたちに従いな」
「わかった。じゃあもう一人に聞く」
「あ?」
『おい。頼む』
『かしこまりました』
一瞬だ。俺はシヒロの入っていった脇道の入口にシュッと降り立つ。そう、これは〔空間転移〕。
「シッ!」
地を踏み蹴って、ダッと飛び出した。
相手からはどう見えるだろう。ありえない突風が晴天の霹靂の如く吹き上げたとでも思うだろうか。
「シヒロ!」
あっという間に、シヒロに迫る一人の男へ俺は風のように肉薄する。
「あっ……」
そいつが気づいた時にはもう遅かった。男はその場にどっと崩れた。為す術もなく俺から側頭部への一撃をもらい卒倒したのだ。
「く、クローさん!」
シヒロは魔法を唱えようとかざした手を下ろして俺に駆け寄ってきた。
「ぼく、とっても怖かったですよ!」
「シヒロは、敵を自白させる魔法とか使えないか?」
「ちょっ! ぼくのことはどうでもいいんですか!?」
シヒロは涙目で訴えてくる。
「おかげで思いどおりの結果が出たよ。サンキューな」
俺はまったく悪びれずに微笑を送った。
「もうっ! クローさん! 信じてはいましたけどぉ!」