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第52話 なんでここに王子が!?

ー/ー



 余計なことをしてしまったな、と途方に暮れるも、何ができるわけでもなし。結局のところは、ほとぼりが冷めるまで裏路地にいるしかない。
 あぁ、裏に変な輩が現れないか警戒していたら敵は表にいたとは驚きだ。

 だからといって、ここにヤバい輩がいないとは限らない。
 用心しておくに越したことはない。
 前から来るか、後ろから来るか、右か、左か。
 人間どもしかいない国だ。いざとなれば我でもどうにかなるはず。

「――あれ? お姉さん?」
「ペギャ!?」

 突然背後から声を掛けられる。誰だ、我の背後に立つ不届きな輩は。
 思わず変に裏返った声が出てしまったではないか。

「やっぱり! お姉さんだ!」

 誰だ、我をお姉さんなどと呼ぶのは。そう呼んでよいのはミモザだけ……。

「って、お前、コリウスじゃないか!」
「はい! お久しぶりです!」

 そこに立っていたのは、いつぞや我とミモザが森に蜜を取りに向かったとき、偶然にも出くわしたクソガキ……もといコリウスだった。
 なんだってこんなところに、と一瞬考えてしまったが、よくよく考えてみれば、コリウスはレッドアイズ国の王子だったんだ。いても不自然ではないのか。

 いや、なんでここに王子が!?
 ここ裏路地ぞ。お前王子ぞ。平民ならまだしもお前はいちゃダメだろ。

 ああ、なんか色々と取り乱してきそうだ。ここは冷静に、冷静に。
 この姿の我とは会ったことあるし、フィーの姿の我とも会ったことはあるが、コリウスはその二人の我が同一人物だとまでは分かっていないはずだ。
 下手なことを言ってボロを出さぬようにしないとな。

「あー、オホン。聞いたぞ、コリウス。お前、この国の王子なんだとな」
「えへへ……バレちゃいましたか。隠しているつもりはなかったのですが」
 てへぺろ、って、あざとい仕草で誤魔化そうとするな。

「あれから兄上と一緒にミモザさんのお店に行ったのですが、丁度会えなくて」
「ああ、ミモザから聞いたよ。残念だったな。我は冒険者なものでな」
「でも今日お会いできて嬉しいです! お姉さんはやっぱり今日のお祭りを見に来たのですか?」
 お前の兄との結婚を断りに来たんだよ、などとは言うまい。話がこじれる。

「まあ、そんなところだ。で、聞きたいんだが、なんでお前はこんなところにいるんだ? ここはレッドアイズ国だが、城ではないぞ」
「えーと……この国は何処もボクの庭みたいなものですから、はは」
 ウソが下手なのだな、小僧。そんな挙動不審でバレないと思ったか。
 まさかとは思うが、また家出か? いつもこんな感じなのか?

「お、お姉さんこそ、ここはお祭りの会場じゃないですよ。露店が出ているのは表通りですから」
 迷子になったとは言いづらいし、かといって魔導機兵(オートマタ)に襲われたとも言いづらい。
 仮にも相手は王子。牢屋にぶち込まれたくなければ我も誤魔化さなければ。

「祭りの賑やかさに疲れてしまってな。少し静かなところで休みたかったのだ」
「それで迷子になっちゃったんですか?」
「なっ!? ま、迷子ではないぞ。断じて迷子ではない!」
 何を思ったのか、コリウスが手を添えて我の口をふさぐ。おい、何のつもりだ。

「……あの、お姉さん。ちょっと相談なんですけど、お姉さんの実力を見込んで頼みたいことがあるんです」
 なんだ、急に神妙な顔になりおって周囲を警戒しながら小声でヒソヒソと。
 我の実力だと? そんな真剣な眼差しで言われるのなら聞かないでもないが。

「要件を手短に話せ。内容次第だ。くだらんことには手は貸さんぞ」
「ありがとうございます。実はですね、ボクの城のことなんですが……」
 いや、急にスケールデカいな、おい。お前の城は世界に誇る軍事国家と分かっていっておるのだろうな。

「今、ボクは魔導機兵のことを調べているんです」
「魔導機兵って国中をうろついてるアレだろう? お前のところの城で造っているのなら城で聞けばいいだろう」
「城では最後の仕上げをしているだけです。ボクも実際に工場を見学させてもらったことは何度もあるんですけど、中身を造る工程がないんですよ」

 そういえば、昨日ソレノス王子に連れていかれたときも、既に大部分が形になった魔導機兵が並んでいるところしか見てなかったな。
 せっせせっせと魔導機兵が魔導機兵を整備している様は目にも焼き付いている。

「城で造っていないなら何処で造っているんだ、あんなもの」
「不思議なんですよ。誰にも聞いても分からないって言われちゃうし、それに何より不思議なのはここ最近、生産されている数が増えているんです」
「何がどう不思議なんだ。ここは軍事国家だろ? アレは労働力としても他国にも売られていると聞く。だったら沢山生産されることに何の問題もあるまい」

 国家機密というものもあるだろうしな。それでも城に設けられたあの大規模の工場以外の場所が他にあることには確かに疑問は沸く。

「お姉さん。魔導機兵がどのようにして造られるのかご存じですか?」
「いや、さすがにそこまでは。だが、魔力を循環させ擬似的に生物の挙動を再現させたものであることくらいは分かる。ゴーレムの製造方法に似ているが、アレは循環方法に既存ないし人工的な魂を核として取り込ませ――」
「あ、ごめんなさい。そういう話じゃないんです」
 途中で止めるな。我が滑ったみたいではないか。

「確かにボクの国は軍事国家です。だけど、無限に資源が沸いて出てくるわけじゃない。むしろ、今は財政難に陥っている状態。だからおかしいんですよ。いくら他国に売るといっても限度があるじゃないですか」
「うぅむ、言わんとしていることは分かる。何かカラクリがありそうだが」
 まさかとは思うが。

「お姉さんにお願いしたいのは、そのカラクリを解明してもらいたいんです」
「我に? 一体、我に何をしろというんだ」
「えぇと……ここだけの話、ボク、見たんです。魔導機兵の素材となるパーツがこの辺りから運び出されているのを。きっとここに秘密があるはずなんです!」
 えぇー……、はずなんです、とか言われてもなぁー……。

「城内の工場、そして城からのルートを調べ上げて、この先にある建物が怪しいと踏んだんです。でも、そこには魔導機兵が見張りをしてまして……」
 コリウスが懐から取り出した地図を広げて、指をさして見せる。
 よくもまあこんな調べたもんだな。城に自由に入れる奴にしか作れないぞ。
 あちこちにインクの染みがベタベタしている辺り、かなり長いこと頑張ってきたことが窺い知れる。

「見張りをどうにかしろというのか? 国家反逆罪で打ち首になってもいいのか」
 いや、まあ、我の立場的にはむしろなるべきではあるのだが。

「このことは兄上も疑問に思っていることなんです。父上が隠れて何かを企んでいるのではないかと。もし裏で密輸や密売に関わっているとなったらそれこそ一大事なんです。いざとなったらボクもお助けします。兄上と一緒に罪に問われないように説得します」

 おいおい、ソレ、ガチの国家機密じゃないの?
 そんなヤバい真実を我にペラペラと話すんじゃないよ。
 信用しているのかもしれないが話していい真実とそうでない真実もあるだろう。

「お願いします! 本当はこんなことを頼むのはダメだと分かっているんですが、ボクには他に頼れる人がいないんです!」
「我と今日ここで会わなかったらどうするつもりだったんだ?」
「なんとか頑張ってこっそり忍び込んで」
 バカだ。コイツ、本当にバカだ。
 巨大蜂(ビッグホーネット)の巣のときでも思ったが、本物の正真正銘のバカだ。


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 余計なことをしてしまったな、と途方に暮れるも、何ができるわけでもなし。結局のところは、ほとぼりが冷めるまで裏路地にいるしかない。
 あぁ、裏に変な輩が現れないか警戒していたら敵は表にいたとは驚きだ。
 だからといって、ここにヤバい輩がいないとは限らない。
 用心しておくに越したことはない。
 前から来るか、後ろから来るか、右か、左か。
 人間どもしかいない国だ。いざとなれば我でもどうにかなるはず。
「――あれ? お姉さん?」
「ペギャ!?」
 突然背後から声を掛けられる。誰だ、我の背後に立つ不届きな輩は。
 思わず変に裏返った声が出てしまったではないか。
「やっぱり! お姉さんだ!」
 誰だ、我をお姉さんなどと呼ぶのは。そう呼んでよいのはミモザだけ……。
「って、お前、コリウスじゃないか!」
「はい! お久しぶりです!」
 そこに立っていたのは、いつぞや我とミモザが森に蜜を取りに向かったとき、偶然にも出くわしたクソガキ……もといコリウスだった。
 なんだってこんなところに、と一瞬考えてしまったが、よくよく考えてみれば、コリウスはレッドアイズ国の王子だったんだ。いても不自然ではないのか。
 いや、なんでここに王子が!?
 ここ裏路地ぞ。お前王子ぞ。平民ならまだしもお前はいちゃダメだろ。
 ああ、なんか色々と取り乱してきそうだ。ここは冷静に、冷静に。
 この姿の我とは会ったことあるし、フィーの姿の我とも会ったことはあるが、コリウスはその二人の我が同一人物だとまでは分かっていないはずだ。
 下手なことを言ってボロを出さぬようにしないとな。
「あー、オホン。聞いたぞ、コリウス。お前、この国の王子なんだとな」
「えへへ……バレちゃいましたか。隠しているつもりはなかったのですが」
 てへぺろ、って、あざとい仕草で誤魔化そうとするな。
「あれから兄上と一緒にミモザさんのお店に行ったのですが、丁度会えなくて」
「ああ、ミモザから聞いたよ。残念だったな。我は冒険者なものでな」
「でも今日お会いできて嬉しいです! お姉さんはやっぱり今日のお祭りを見に来たのですか?」
 お前の兄との結婚を断りに来たんだよ、などとは言うまい。話がこじれる。
「まあ、そんなところだ。で、聞きたいんだが、なんでお前はこんなところにいるんだ? ここはレッドアイズ国だが、城ではないぞ」
「えーと……この国は何処もボクの庭みたいなものですから、はは」
 ウソが下手なのだな、小僧。そんな挙動不審でバレないと思ったか。
 まさかとは思うが、また家出か? いつもこんな感じなのか?
「お、お姉さんこそ、ここはお祭りの会場じゃないですよ。露店が出ているのは表通りですから」
 迷子になったとは言いづらいし、かといって魔導機兵《オートマタ》に襲われたとも言いづらい。
 仮にも相手は王子。牢屋にぶち込まれたくなければ我も誤魔化さなければ。
「祭りの賑やかさに疲れてしまってな。少し静かなところで休みたかったのだ」
「それで迷子になっちゃったんですか?」
「なっ!? ま、迷子ではないぞ。断じて迷子ではない!」
 何を思ったのか、コリウスが手を添えて我の口をふさぐ。おい、何のつもりだ。
「……あの、お姉さん。ちょっと相談なんですけど、お姉さんの実力を見込んで頼みたいことがあるんです」
 なんだ、急に神妙な顔になりおって周囲を警戒しながら小声でヒソヒソと。
 我の実力だと? そんな真剣な眼差しで言われるのなら聞かないでもないが。
「要件を手短に話せ。内容次第だ。くだらんことには手は貸さんぞ」
「ありがとうございます。実はですね、ボクの城のことなんですが……」
 いや、急にスケールデカいな、おい。お前の城は世界に誇る軍事国家と分かっていっておるのだろうな。
「今、ボクは魔導機兵のことを調べているんです」
「魔導機兵って国中をうろついてるアレだろう? お前のところの城で造っているのなら城で聞けばいいだろう」
「城では最後の仕上げをしているだけです。ボクも実際に工場を見学させてもらったことは何度もあるんですけど、中身を造る工程がないんですよ」
 そういえば、昨日ソレノス王子に連れていかれたときも、既に大部分が形になった魔導機兵が並んでいるところしか見てなかったな。
 せっせせっせと魔導機兵が魔導機兵を整備している様は目にも焼き付いている。
「城で造っていないなら何処で造っているんだ、あんなもの」
「不思議なんですよ。誰にも聞いても分からないって言われちゃうし、それに何より不思議なのはここ最近、生産されている数が増えているんです」
「何がどう不思議なんだ。ここは軍事国家だろ? アレは労働力としても他国にも売られていると聞く。だったら沢山生産されることに何の問題もあるまい」
 国家機密というものもあるだろうしな。それでも城に設けられたあの大規模の工場以外の場所が他にあることには確かに疑問は沸く。
「お姉さん。魔導機兵がどのようにして造られるのかご存じですか?」
「いや、さすがにそこまでは。だが、魔力を循環させ擬似的に生物の挙動を再現させたものであることくらいは分かる。ゴーレムの製造方法に似ているが、アレは循環方法に既存ないし人工的な魂を核として取り込ませ――」
「あ、ごめんなさい。そういう話じゃないんです」
 途中で止めるな。我が滑ったみたいではないか。
「確かにボクの国は軍事国家です。だけど、無限に資源が沸いて出てくるわけじゃない。むしろ、今は財政難に陥っている状態。だからおかしいんですよ。いくら他国に売るといっても限度があるじゃないですか」
「うぅむ、言わんとしていることは分かる。何かカラクリがありそうだが」
 まさかとは思うが。
「お姉さんにお願いしたいのは、そのカラクリを解明してもらいたいんです」
「我に? 一体、我に何をしろというんだ」
「えぇと……ここだけの話、ボク、見たんです。魔導機兵の素材となるパーツがこの辺りから運び出されているのを。きっとここに秘密があるはずなんです!」
 えぇー……、はずなんです、とか言われてもなぁー……。
「城内の工場、そして城からのルートを調べ上げて、この先にある建物が怪しいと踏んだんです。でも、そこには魔導機兵が見張りをしてまして……」
 コリウスが懐から取り出した地図を広げて、指をさして見せる。
 よくもまあこんな調べたもんだな。城に自由に入れる奴にしか作れないぞ。
 あちこちにインクの染みがベタベタしている辺り、かなり長いこと頑張ってきたことが窺い知れる。
「見張りをどうにかしろというのか? 国家反逆罪で打ち首になってもいいのか」
 いや、まあ、我の立場的にはむしろなるべきではあるのだが。
「このことは兄上も疑問に思っていることなんです。父上が隠れて何かを企んでいるのではないかと。もし裏で密輸や密売に関わっているとなったらそれこそ一大事なんです。いざとなったらボクもお助けします。兄上と一緒に罪に問われないように説得します」
 おいおい、ソレ、ガチの国家機密じゃないの?
 そんなヤバい真実を我にペラペラと話すんじゃないよ。
 信用しているのかもしれないが話していい真実とそうでない真実もあるだろう。
「お願いします! 本当はこんなことを頼むのはダメだと分かっているんですが、ボクには他に頼れる人がいないんです!」
「我と今日ここで会わなかったらどうするつもりだったんだ?」
「なんとか頑張ってこっそり忍び込んで」
 バカだ。コイツ、本当にバカだ。
 巨大蜂《ビッグホーネット》の巣のときでも思ったが、本物の正真正銘のバカだ。