第51話 迷子と暴走

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 さて、何も考えずに裏路地に逃げ込んできてしまったが、ここから何処に向かったものだろう。表の通りに戻るとロータス地獄だし、マルペルとオキザリスも今まさにキョロキョロと我を捜し回っている。

 一応は、我の姿は瞬間的人違い(スルーポーズ)によって髪の色も、瞳の色も、身長も、はてや服装までもごっそりと変わり、いつぞやのミモザの姉のような恰好になっているからバッタリでくわしても先ほどのように他人のフリで誤魔化せる。

 とはいえ、あまり近くをうろついていても仕方ない。
 一先ずはここから少しでも遠くに離れるとしようか。

 表の明るい通りとは打って変わって、裏路地はどうにも陰気くさい。
 人も少ないし、むしろ避けられているようにさえ思う。

 治安は大丈夫なんだろうな。急に不安になってきてしまう。
 ロータスたちの話を思い返してみれば、確か国の中心を離れると貧困街が広がっているとか言っていたな。
 ここはまだレッドアイズの城に近い位置だし、言われるような場所ではないはず。

 ただ、だからといって安心、安全かと言われたらそんな気はしない。
 だって、すれ違う中には妙に貧乏くさい恰好の人間が死んだ目をしてそこら辺に寝転がっていたりしたし。

 おそらく今はお祭りが行われているから、食い物か何か、おこぼれがないか貧困街の方から出張ってきているものもいるのかもしれない。
 そう考えると、ここを一人でぶらつくのも危険なのでは。

 我、レベル0だし。姿は大人にはなっているけど、相変わらず魔石がないと魔法もろくに使えないくらい魔力すっからかんだし。自己防衛できるかどうかは怪しい。

 もしや、我、早まった? 我とマルペルの護衛にあんなムキムキのガチムチメイドを用意してくるくらいだしな。あのオキザリスがいないと対処できないような状況下になりうると想定されているのでは。

 ぁー、もしかしたら素直に戻った方がいいかも。
 しかし、ここで残念なお知らせがある。

――ここ、何処?

 さっきのところから離れよう離れようとばかり思っていたからデタラメに突き進んでいて、帰り道が分からなくなってしまった。
 なんで? 我、秒で迷子になったの? アホなの?

 さっき曲がったの右だっけ、左だっけ。
 なんでこんなに入り組んでいるんだ、ここ。
 バカみたいに広すぎだろうが。子供が迷い込んだらどうするんだ。

 いや、我は子供じゃないですけど!?

 落ち着け、落ち着くんだ。表の通りに出ていけば公園や駅など分かりやすい場所があったはずだ。そこまで行けば道は分からなくともどうにかなるだろう。
 レッドアイズの城の場所を聞くもよし、公園付近ならまだマルペルやオキザリスたちもいる。何一つ問題はない。

 最終的にはその辺りをブラついていればいいんだ。よし、ソレで行こう。

 ともかく、人の声がする賑やかな方に進んでいけばいい。これでいこう。
 表の通りでは祭りをやっているんだ。これほど分かりやすいことはない。

 思いの外、すぐに裏路地から抜け出すことができた。
 なんだ、簡単じゃないか。まだ自分が何処にいるかは分からんのだが。

 物凄い人混みが行き交いしている。この街の人間は一体どこから沸いて出てきているんだと甚だ疑問だ。そんな中、一際大きなものが人混みの中から突き抜けているものが見えた。

 あれは、魔導機兵(オートマタ)だ。このレッドアイズを守っている金属製のゴーレム的な奴だ。これは都合がいい。
 会話ができるかどうかは知らんが、道案内くらいなら頼めるのではないか?

 人混みを掻き分けて、我は魔導機兵のもとへと移動する。
 いやぁ、背が高いっていいわぁ。
 前の姿だと身長低すぎて前も見えなかったからな。

 道ばたにポツンと不動で立っている魔導機兵は、不審なものがいないかどうか、文字通りに目を真っ赤に光らせて周囲を見回していた。
 通行人たちはそれを邪魔しないようにか、極力避けるようにしていて、この人混みの中でも魔導機兵に近づくのは簡単だった。

 近づいていく我に気付いたのか、魔導機兵は我の方に視線を向けてくる。
 見た目は甲冑の大男だから不気味で仕方ない。ウィーン、ウィーンと謎の異音を立てて、生命を感じさせない仮面のような顔でこちらに向き直る。

「おう、すまないが、城までの道案内をしてくれぬか?」
 魔導機兵は何も答えない。この我が直々に頼んでおるというのに。
 やはりコイツには会話ができないのか? 融通の利かない奴だ。

 ピ、ピ、ピと変な音を立て、何やら我の顔をジッと見つめているだけ。
 何をしているのか、何を考えているのか分からないのが気味悪い。

『不審者・ハ・排除』
「は? 今なんて?」

 持ち場を離れそうになかった魔導機兵は突然ガシン、ガシンと重厚な足音を立てながら、我の方に向かってくる。その赤い瞳は間違いなく我を一点に見つめていた。

 キュイィィンと金属の擦れる音を響かせながら、あろうことか魔導機兵は我に向かってその腕を振り下ろしてくる。無論咄嗟に避けた。
 振りかぶった魔導機兵の大きな腕は道にバッコリと大きな穴を空ける。

 あのぅー、下手したら今ので我、殺されてたのですが。

『不審者・ハ・排除』

 どゆこと? 不審者? 我のこと?
 生命は感じさせないが、殺意はビンビンに感じるぞ。
 何でコイツいきなり我に襲いかかってくるの? もしや魔王だとバレた?

『不審者・ハ・排除』

 って、ぼんやりしている場合ではない。
 周囲の人間どもも、一連の魔導機兵の行動に気付き、悲鳴をあげたり、逃げ出したりと、一気に大騒ぎになりだした。

「魔導機兵が暴走したぞぉーっ!!」
「きゃああああぁぁぁ!!!!」
 ってなもんだ。

 よくは分からんが、我だってワケも分からず殺されたくはない。
 騒ぎ出している人間たちの波に紛れて、魔導機兵から逃げ出す。

 だが、向こうは我の位置をしっかりと捕捉しているのか、真っ直ぐこちらに向かって走ってくる。ガシーン、ガシーンと重そうな金属音を立てて。
 我が一体何をしたというのだ。道を尋ねただけではないか。誰が不審者だ。

 話が通じない相手に文句を垂れても仕方ない。
 我は急いで先ほどの裏路地へと逃げ込む。

 すると、魔導機兵の巨体はその狭い通路に入れないのか、突っかかる。
 腕を伸ばしてくるが、我のところまでは届きもしない。ざまあみろ。

 しかし、悠長に構えていたら、この魔導機兵、あろうことか壁をガリガリ、バリバリと破壊し始めたではないか。なんという無茶な。
 不審者を捕らえるためなら町の破壊も厭わないのか、コイツ。

 まずい。この裏路地の奥まで進むとまた道に迷ってしまう。
 かといって、このままでは魔導機兵に殺される。
 ええい、躊躇っている余裕はない。

 デタラメに裏路地を突き進み、曲がれるところを延々と曲がり、走り抜ける。
 どれだけの距離を離したかは分からないが、あの魔導機兵の音は聞こえてこなくなった。そして、完全に我は迷子となってしまった。

「はぁ……、はぁ……、ここ、何処?」

 さっきまでは聞こえていた表通りの賑やかな声ももう聞こえなくなっている。
 かなり奥の方まで来てしまったようだ。

 今頃は表通りも魔導機兵の騒動で兵士も集まっているだろうし「はい、我が騒動の犯人です」などと名乗り出ていくわけにもいくまい。
 しばらくは路地裏に身を潜めるしかなさそうだ。

 なんたってここはレッドアイズだぞ。処刑されるかも分からん。実際にたった今、魔導機兵に殺されかけたわけだしな。

 あーもぅ、ワケ分からん。なんでいきなり襲ってきたんだアイツ。
 こんなことならマルペルたちと一緒にいるんだった。


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 さて、何も考えずに裏路地に逃げ込んできてしまったが、ここから何処に向かったものだろう。表の通りに戻るとロータス地獄だし、マルペルとオキザリスも今まさにキョロキョロと我を捜し回っている。
 一応は、我の姿は|瞬間的人違い《スルーポーズ》によって髪の色も、瞳の色も、身長も、はてや服装までもごっそりと変わり、いつぞやのミモザの姉のような恰好になっているからバッタリでくわしても先ほどのように他人のフリで誤魔化せる。
 とはいえ、あまり近くをうろついていても仕方ない。
 一先ずはここから少しでも遠くに離れるとしようか。
 表の明るい通りとは打って変わって、裏路地はどうにも陰気くさい。
 人も少ないし、むしろ避けられているようにさえ思う。
 治安は大丈夫なんだろうな。急に不安になってきてしまう。
 ロータスたちの話を思い返してみれば、確か国の中心を離れると貧困街が広がっているとか言っていたな。
 ここはまだレッドアイズの城に近い位置だし、言われるような場所ではないはず。
 ただ、だからといって安心、安全かと言われたらそんな気はしない。
 だって、すれ違う中には妙に貧乏くさい恰好の人間が死んだ目をしてそこら辺に寝転がっていたりしたし。
 おそらく今はお祭りが行われているから、食い物か何か、おこぼれがないか貧困街の方から出張ってきているものもいるのかもしれない。
 そう考えると、ここを一人でぶらつくのも危険なのでは。
 我、レベル0だし。姿は大人にはなっているけど、相変わらず魔石がないと魔法もろくに使えないくらい魔力すっからかんだし。自己防衛できるかどうかは怪しい。
 もしや、我、早まった? 我とマルペルの護衛にあんなムキムキのガチムチメイドを用意してくるくらいだしな。あのオキザリスがいないと対処できないような状況下になりうると想定されているのでは。
 ぁー、もしかしたら素直に戻った方がいいかも。
 しかし、ここで残念なお知らせがある。
――ここ、何処?
 さっきのところから離れよう離れようとばかり思っていたからデタラメに突き進んでいて、帰り道が分からなくなってしまった。
 なんで? 我、秒で迷子になったの? アホなの?
 さっき曲がったの右だっけ、左だっけ。
 なんでこんなに入り組んでいるんだ、ここ。
 バカみたいに広すぎだろうが。子供が迷い込んだらどうするんだ。
 いや、我は子供じゃないですけど!?
 落ち着け、落ち着くんだ。表の通りに出ていけば公園や駅など分かりやすい場所があったはずだ。そこまで行けば道は分からなくともどうにかなるだろう。
 レッドアイズの城の場所を聞くもよし、公園付近ならまだマルペルやオキザリスたちもいる。何一つ問題はない。
 最終的にはその辺りをブラついていればいいんだ。よし、ソレで行こう。
 ともかく、人の声がする賑やかな方に進んでいけばいい。これでいこう。
 表の通りでは祭りをやっているんだ。これほど分かりやすいことはない。
 思いの外、すぐに裏路地から抜け出すことができた。
 なんだ、簡単じゃないか。まだ自分が何処にいるかは分からんのだが。
 物凄い人混みが行き交いしている。この街の人間は一体どこから沸いて出てきているんだと甚だ疑問だ。そんな中、一際大きなものが人混みの中から突き抜けているものが見えた。
 あれは、魔導機兵《オートマタ》だ。このレッドアイズを守っている金属製のゴーレム的な奴だ。これは都合がいい。
 会話ができるかどうかは知らんが、道案内くらいなら頼めるのではないか?
 人混みを掻き分けて、我は魔導機兵のもとへと移動する。
 いやぁ、背が高いっていいわぁ。
 前の姿だと身長低すぎて前も見えなかったからな。
 道ばたにポツンと不動で立っている魔導機兵は、不審なものがいないかどうか、文字通りに目を真っ赤に光らせて周囲を見回していた。
 通行人たちはそれを邪魔しないようにか、極力避けるようにしていて、この人混みの中でも魔導機兵に近づくのは簡単だった。
 近づいていく我に気付いたのか、魔導機兵は我の方に視線を向けてくる。
 見た目は甲冑の大男だから不気味で仕方ない。ウィーン、ウィーンと謎の異音を立てて、生命を感じさせない仮面のような顔でこちらに向き直る。
「おう、すまないが、城までの道案内をしてくれぬか?」
 魔導機兵は何も答えない。この我が直々に頼んでおるというのに。
 やはりコイツには会話ができないのか? 融通の利かない奴だ。
 ピ、ピ、ピと変な音を立て、何やら我の顔をジッと見つめているだけ。
 何をしているのか、何を考えているのか分からないのが気味悪い。
『不審者・ハ・排除』
「は? 今なんて?」
 持ち場を離れそうになかった魔導機兵は突然ガシン、ガシンと重厚な足音を立てながら、我の方に向かってくる。その赤い瞳は間違いなく我を一点に見つめていた。
 キュイィィンと金属の擦れる音を響かせながら、あろうことか魔導機兵は我に向かってその腕を振り下ろしてくる。無論咄嗟に避けた。
 振りかぶった魔導機兵の大きな腕は道にバッコリと大きな穴を空ける。
 あのぅー、下手したら今ので我、殺されてたのですが。
『不審者・ハ・排除』
 どゆこと? 不審者? 我のこと?
 生命は感じさせないが、殺意はビンビンに感じるぞ。
 何でコイツいきなり我に襲いかかってくるの? もしや魔王だとバレた?
『不審者・ハ・排除』
 って、ぼんやりしている場合ではない。
 周囲の人間どもも、一連の魔導機兵の行動に気付き、悲鳴をあげたり、逃げ出したりと、一気に大騒ぎになりだした。
「魔導機兵が暴走したぞぉーっ!!」
「きゃああああぁぁぁ!!!!」
 ってなもんだ。
 よくは分からんが、我だってワケも分からず殺されたくはない。
 騒ぎ出している人間たちの波に紛れて、魔導機兵から逃げ出す。
 だが、向こうは我の位置をしっかりと捕捉しているのか、真っ直ぐこちらに向かって走ってくる。ガシーン、ガシーンと重そうな金属音を立てて。
 我が一体何をしたというのだ。道を尋ねただけではないか。誰が不審者だ。
 話が通じない相手に文句を垂れても仕方ない。
 我は急いで先ほどの裏路地へと逃げ込む。
 すると、魔導機兵の巨体はその狭い通路に入れないのか、突っかかる。
 腕を伸ばしてくるが、我のところまでは届きもしない。ざまあみろ。
 しかし、悠長に構えていたら、この魔導機兵、あろうことか壁をガリガリ、バリバリと破壊し始めたではないか。なんという無茶な。
 不審者を捕らえるためなら町の破壊も厭わないのか、コイツ。
 まずい。この裏路地の奥まで進むとまた道に迷ってしまう。
 かといって、このままでは魔導機兵に殺される。
 ええい、躊躇っている余裕はない。
 デタラメに裏路地を突き進み、曲がれるところを延々と曲がり、走り抜ける。
 どれだけの距離を離したかは分からないが、あの魔導機兵の音は聞こえてこなくなった。そして、完全に我は迷子となってしまった。
「はぁ……、はぁ……、ここ、何処?」
 さっきまでは聞こえていた表通りの賑やかな声ももう聞こえなくなっている。
 かなり奥の方まで来てしまったようだ。
 今頃は表通りも魔導機兵の騒動で兵士も集まっているだろうし「はい、我が騒動の犯人です」などと名乗り出ていくわけにもいくまい。
 しばらくは路地裏に身を潜めるしかなさそうだ。
 なんたってここはレッドアイズだぞ。処刑されるかも分からん。実際にたった今、魔導機兵に殺されかけたわけだしな。
 あーもぅ、ワケ分からん。なんでいきなり襲ってきたんだアイツ。
 こんなことならマルペルたちと一緒にいるんだった。