第46話 魔導列車

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 レッドアイズの街並みはパエデロスと比べるとまるで別世界だ。
 何階層にも及ぶ高い建築物がズラリと並んでいる。まるでそのまま複製したかのように精巧にできていて、技術力の違いも窺い知れた。

 賑やかさではパエデロスも都会には負けていないだろうという謎の確信を持っていたが、今、それも打ち砕かれた。何処からやってきて何処へ向かっているのか、目で追うこともできないくらい、人間どもが行き交いしている。

 まだ、例のお祭りは始まっていないはずだが、もう既にそのくらいにはワイワイ、ガヤガヤとした空気になっている。これが都会かー……。
 ついつい、田舎者丸出しな感想が出てきてしまう。

 そして、ところどころにはあの魔導機兵(オートマタ)とやらの姿も目に付く。そら、軍事政権だもんな。文字通り目を光らせて国中を監視しているようだ。

 もうあれはいつだったか、リンドーがパエデロスに来たとき、「こっちの仕事は平和で退屈だぜ」みたいなことを漏らしていたのを思い出す。そのときは普通に聞き流していたのだが、こういうことだったのか。

 こんだけあれもこれもどれもそれも魔導機兵に見守られているとなれば、誰も下手なことはできないだろう。人間が暇になるわけだ。凄まじいな。パエデロスにもこんなのが何体もいたらロータスも少しは休めただろうに。

 って、なんで我はロータスの心配をしているんだ。

「ここからは乗り換える」
 レッドアイズに入ってからさほど移動していなかったが、馬車が停まり、ロータスが降りていく。我もマルペルもそれについていく。

 次はどの馬車に乗るんだ? そう思って、見回してみたら何か屋根のついた建物の向こうに巨大な芋虫のようなソレが目に付いた。見るからに生き物ではない。あきらかに金属か何かでできていそうな見た目しているし。

「これは魔導列車というものですよ、フィーちゃん」
 何それ知らん。これも乗り物なのか。名前から察するに魔力で動く乗り物なのだろう。ご丁寧に、列車とかいうものの下には棒を繋いだようなものが道の果てまでズンズンと敷かれていた。

 ぁー、この道みたく敷かれてる棒みたいなものから魔力をビンビンに感じるな。
 多分だけど、列車とやらはこの魔力を帯びた棒を伝って移動するのだろう。
 つくづく人間どもは面白い仕組みを考えるものだな。

「城までは少し遠い。列車を使えば馬車よりも早く着ける」
 ロータスが親切に説明してくれる。
 うへぇ、そろそろ驚くのも疲れてきたぞ。

「このレッドアイズにはこういった列車の停まる駅というものが区画ごとに設けられていて、移動する距離に応じて対価を支払うことで乗車できるんですよ」
 なるほど、ちょっとよく分からんが、なるほど。
 要は遠くへ移動したければそれだけ金を払えばいいのだな。

 ロータスが駅の中に入っていく。そして壁に向かって話しかけ始めた。

「大人二人、子供一人、城下町地区まで」
『料金・18シルバ』

 うおっ、壁に顔が出てきて喋ったぞ。
 よくよく見たら四角い枠のようなものがついているな。あれも魔導機兵みたいなものか。こういう受付までやっているのか。というか、地味に値段高っ!
 物価もパエデロスとは違うのかもしれない。

 ロータスが壁の穴に向かってシルバ硬貨を入れる。
 すると、別の穴から紙切れのようなものが代わりに出てきた。

「これが乗車券だ。列車に乗る際はこれを見せることで乗せてくれる。これを持たない者は客と見なされない。逐一持っているかどうかを確認をされるから目的地まで大切に持っていてほしい」
 そういってロータスは我に乗車券を渡してくれた。

 ところでロータス。さっきキサマ、乗車券を購入する際、何気に我を子供としてカウントしなかったか? 一体どういうつもりなんだ、おい。
 ちゃっかり乗車券にも「子供」の文字が記載されとるし。

「――フィーちゃん。一応この国は人間しかいないことになっています。フィーちゃんの見た目で成人している人間はいませんので、ここはどうか我慢してください」
 ひそひそとマルペルに言われた。よく我の思っていることを察せたな。

 そう言われると何も言えないではないか。エルフとか我のような人間よりも長命な種族だと年齢が見た目の比較で分からないしな。
 ここで駄々をこねて怪しまれるのもよろしくない。従うことにしよう。

「それじゃあ、行こうか。俺たちが乗るのは四番線の六号車だ」
「お、おう」
 急に数字を言われても混乱するのだが、とりあえずロータスに合わせて返事をしてみる。ともかく列車に乗り込めばいいのだろう。

 流れのまま、駅へと入り込む。ここもまあ人の多いこと多いこと。ちゃんとコイツらは生きておるんだよな? さっきのゴーレムもどきみたいに量産されてるわけじゃないよな? そう不安になってくる。

『乗車券・ヲ・拝見』
 ゲートのようなものを潜ろうとしたら頭上からそんな声が聞こえてきた。とりあえずさっきロータスから渡されたものを取り出してみる。

『アリガトウ・ゴザイマス』
 これで良かったらしい。もう、さっきから我、驚く以外のことをしておらんな。

 駅を進んでいくとようやく理解した。列車はさっき見えたデカいのがドンと一台置いてあるわけじゃなく、いくつか別な車両があったようだ。目的地によって違う場所に向かうのだろうな。

 うぅ……人の波に流されて迷子になりそうだ。冗談ではない。こんなところでロータスたちとはぐれてしまったら我は一体どうやって帰ればいいんだ。
 苦肉の策だ。我は、すぐそばにいたマルペルの袖を引っ張る。

「わ、我を先導しろ。こう人が多くては前も見えなくてかなわん」
「あらあら……うふふ、分かりましたわ、フィーちゃん」
 マルペルの方から手を繋がれる。
 ああ、泣きたい、死にたい、帰りたい。

 ようやくして我らが乗るであろう列車の場所まで辿り着く。

 やはり巨大な芋虫のようだな。車両がいくつも連なっており、一つの車両につき、かなりの客を乗せられるようだ。少なくとも馬車なんかの比ではない。
 座席の数だけでも相当なものだが、それらの殆どがみっちりと埋まっていることにも驚いてしまう。人間多すぎ。コイツらみんなあの高い運賃払ってるのか。

「俺たちの席はこっちだ」
 そういうロータスについていくと、なんかちょっと雰囲気の違う車両がそこにあった。なんというか、さっきの車両は座席がズラーっだったのに対し、こちらは車両の中に廊下があり、いくつかの個室が設けられている。

 内装もなんだか高級感があるし、ちょっと個室の窓を覗いた感じ、他の客もそう多くなさそうだ。目に付いた客は大体貴族のように着飾っている。
 もしかしなくても特等の車両か? ロータスなりの気遣いかもしれない。

「こちらの部屋ですね」
 そういってマルペルが扉を開く。本当にこれは部屋だな。テーブルまでついているし、食事もできるのだろう。目的地に着くまでにゆったりとできそうだ。

 座席に腰を下ろし、一息つく。
 レッドアイズに来るまでの馬車旅も長くて疲れたが、レッドアイズに入ってからが一番疲れたかもしれない。

 人間どもめ。我が目を離した隙にここまで文明を発展させているとは。
 なんというか、世界観そのものがガラリと変わったような気がするぞ。

「いやはや……驚かされてしまうわ。都会はここまで発展しておるとはな」
 これでは人間を下等生物と呼べなくなるではないか。

「さすがにレッドアイズ国が異質なレベルだと思うけどね」
 ははは、とロータスに爽やかに笑い飛ばされてしまった。


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 レッドアイズの街並みはパエデロスと比べるとまるで別世界だ。
 何階層にも及ぶ高い建築物がズラリと並んでいる。まるでそのまま複製したかのように精巧にできていて、技術力の違いも窺い知れた。
 賑やかさではパエデロスも都会には負けていないだろうという謎の確信を持っていたが、今、それも打ち砕かれた。何処からやってきて何処へ向かっているのか、目で追うこともできないくらい、人間どもが行き交いしている。
 まだ、例のお祭りは始まっていないはずだが、もう既にそのくらいにはワイワイ、ガヤガヤとした空気になっている。これが都会かー……。
 ついつい、田舎者丸出しな感想が出てきてしまう。
 そして、ところどころにはあの魔導機兵《オートマタ》とやらの姿も目に付く。そら、軍事政権だもんな。文字通り目を光らせて国中を監視しているようだ。
 もうあれはいつだったか、リンドーがパエデロスに来たとき、「こっちの仕事は平和で退屈だぜ」みたいなことを漏らしていたのを思い出す。そのときは普通に聞き流していたのだが、こういうことだったのか。
 こんだけあれもこれもどれもそれも魔導機兵に見守られているとなれば、誰も下手なことはできないだろう。人間が暇になるわけだ。凄まじいな。パエデロスにもこんなのが何体もいたらロータスも少しは休めただろうに。
 って、なんで我はロータスの心配をしているんだ。
「ここからは乗り換える」
 レッドアイズに入ってからさほど移動していなかったが、馬車が停まり、ロータスが降りていく。我もマルペルもそれについていく。
 次はどの馬車に乗るんだ? そう思って、見回してみたら何か屋根のついた建物の向こうに巨大な芋虫のようなソレが目に付いた。見るからに生き物ではない。あきらかに金属か何かでできていそうな見た目しているし。
「これは魔導列車というものですよ、フィーちゃん」
 何それ知らん。これも乗り物なのか。名前から察するに魔力で動く乗り物なのだろう。ご丁寧に、列車とかいうものの下には棒を繋いだようなものが道の果てまでズンズンと敷かれていた。
 ぁー、この道みたく敷かれてる棒みたいなものから魔力をビンビンに感じるな。
 多分だけど、列車とやらはこの魔力を帯びた棒を伝って移動するのだろう。
 つくづく人間どもは面白い仕組みを考えるものだな。
「城までは少し遠い。列車を使えば馬車よりも早く着ける」
 ロータスが親切に説明してくれる。
 うへぇ、そろそろ驚くのも疲れてきたぞ。
「このレッドアイズにはこういった列車の停まる駅というものが区画ごとに設けられていて、移動する距離に応じて対価を支払うことで乗車できるんですよ」
 なるほど、ちょっとよく分からんが、なるほど。
 要は遠くへ移動したければそれだけ金を払えばいいのだな。
 ロータスが駅の中に入っていく。そして壁に向かって話しかけ始めた。
「大人二人、子供一人、城下町地区まで」
『料金・18シルバ』
 うおっ、壁に顔が出てきて喋ったぞ。
 よくよく見たら四角い枠のようなものがついているな。あれも魔導機兵みたいなものか。こういう受付までやっているのか。というか、地味に値段高っ!
 物価もパエデロスとは違うのかもしれない。
 ロータスが壁の穴に向かってシルバ硬貨を入れる。
 すると、別の穴から紙切れのようなものが代わりに出てきた。
「これが乗車券だ。列車に乗る際はこれを見せることで乗せてくれる。これを持たない者は客と見なされない。逐一持っているかどうかを確認をされるから目的地まで大切に持っていてほしい」
 そういってロータスは我に乗車券を渡してくれた。
 ところでロータス。さっきキサマ、乗車券を購入する際、何気に我を子供としてカウントしなかったか? 一体どういうつもりなんだ、おい。
 ちゃっかり乗車券にも「子供」の文字が記載されとるし。
「――フィーちゃん。一応この国は人間しかいないことになっています。フィーちゃんの見た目で成人している人間はいませんので、ここはどうか我慢してください」
 ひそひそとマルペルに言われた。よく我の思っていることを察せたな。
 そう言われると何も言えないではないか。エルフとか我のような人間よりも長命な種族だと年齢が見た目の比較で分からないしな。
 ここで駄々をこねて怪しまれるのもよろしくない。従うことにしよう。
「それじゃあ、行こうか。俺たちが乗るのは四番線の六号車だ」
「お、おう」
 急に数字を言われても混乱するのだが、とりあえずロータスに合わせて返事をしてみる。ともかく列車に乗り込めばいいのだろう。
 流れのまま、駅へと入り込む。ここもまあ人の多いこと多いこと。ちゃんとコイツらは生きておるんだよな? さっきのゴーレムもどきみたいに量産されてるわけじゃないよな? そう不安になってくる。
『乗車券・ヲ・拝見』
 ゲートのようなものを潜ろうとしたら頭上からそんな声が聞こえてきた。とりあえずさっきロータスから渡されたものを取り出してみる。
『アリガトウ・ゴザイマス』
 これで良かったらしい。もう、さっきから我、驚く以外のことをしておらんな。
 駅を進んでいくとようやく理解した。列車はさっき見えたデカいのがドンと一台置いてあるわけじゃなく、いくつか別な車両があったようだ。目的地によって違う場所に向かうのだろうな。
 うぅ……人の波に流されて迷子になりそうだ。冗談ではない。こんなところでロータスたちとはぐれてしまったら我は一体どうやって帰ればいいんだ。
 苦肉の策だ。我は、すぐそばにいたマルペルの袖を引っ張る。
「わ、我を先導しろ。こう人が多くては前も見えなくてかなわん」
「あらあら……うふふ、分かりましたわ、フィーちゃん」
 マルペルの方から手を繋がれる。
 ああ、泣きたい、死にたい、帰りたい。
 ようやくして我らが乗るであろう列車の場所まで辿り着く。
 やはり巨大な芋虫のようだな。車両がいくつも連なっており、一つの車両につき、かなりの客を乗せられるようだ。少なくとも馬車なんかの比ではない。
 座席の数だけでも相当なものだが、それらの殆どがみっちりと埋まっていることにも驚いてしまう。人間多すぎ。コイツらみんなあの高い運賃払ってるのか。
「俺たちの席はこっちだ」
 そういうロータスについていくと、なんかちょっと雰囲気の違う車両がそこにあった。なんというか、さっきの車両は座席がズラーっだったのに対し、こちらは車両の中に廊下があり、いくつかの個室が設けられている。
 内装もなんだか高級感があるし、ちょっと個室の窓を覗いた感じ、他の客もそう多くなさそうだ。目に付いた客は大体貴族のように着飾っている。
 もしかしなくても特等の車両か? ロータスなりの気遣いかもしれない。
「こちらの部屋ですね」
 そういってマルペルが扉を開く。本当にこれは部屋だな。テーブルまでついているし、食事もできるのだろう。目的地に着くまでにゆったりとできそうだ。
 座席に腰を下ろし、一息つく。
 レッドアイズに来るまでの馬車旅も長くて疲れたが、レッドアイズに入ってからが一番疲れたかもしれない。
 人間どもめ。我が目を離した隙にここまで文明を発展させているとは。
 なんというか、世界観そのものがガラリと変わったような気がするぞ。
「いやはや……驚かされてしまうわ。都会はここまで発展しておるとはな」
 これでは人間を下等生物と呼べなくなるではないか。
「さすがにレッドアイズ国が異質なレベルだと思うけどね」
 ははは、とロータスに爽やかに笑い飛ばされてしまった。