第47話 遠くへ行きたい

ー/ー



 キュィーンという独特な音を立てて、列車が動き出す。
 これまた思っていた以上にスピードが出る。確かにコレは馬車の比ではないな。
 窓の外に見える景色の目まぐるしい変わりようよ。

 こんな巨大な鉄のかたまりみたいなものをこんな速さで移動させるとは、一体どんな技術力だ。さすがのミモザにも作れなさそうだな。
 列車の話を聞かせてやったらさぞかし悔しがりそうだ。目に浮かぶ。

「はぁー……、我はこんな国を相手に戦争しておったのか。兵器に金を使いすぎて日々の食事もままならない貧乏国を想像しとったわ」
「フィーの認識もあながち間違いではない。ここまで見てきたのはレッドアイズの表側に過ぎないからね」
 なんとも不穏な言い回しだな。

「一見平和に見えるこの国も、貴族と貧民とで格差があるんです。この国も中心から離れれば貧困街が広がっているんですよ」
「はっ、差別意識の強い国の悪いところか。なんて皮肉な話よ。あんなゴーレムまがいがうろついていたのではクーデターも起こせそうにないしな」

 むしろ、パエデロスよりこっちの方が我にとって居心地が良いまであるのでは。
 さぞかし人間たちの負の感情も渦巻いているのだろうし。
 そう思ったらなんだか不思議と力が沸いてきたような気がしないでもない。

「この国がこうも高度成長を遂げたのもここ数年のことだ。短い付き合いの国ではないし、俺自身も変貌っぷりに驚いているよ」
 考えてもみれば、魔導機兵(オートマタ)のような連中が攻め込んできた記憶はなかったな。まだ当時は実践には導入されてなかったのかもしれない。

 ぁー、でも、我が魔王城の地下で蘇ったときのセバスチャンの愚痴りようを思い出す。めちゃくちゃ戦況が悪そうな言い回しをしていた気がする。
 あのときもレッドアイズの連中が攻め込んできてたんだっけか。厳密に言えば、観光旅行気分の冒険者たちだとは言っていたが。

 人間ども、そんなに気楽に魔王城に攻めてこられるのか? と疑問ではあった。
 だって、そうじゃん。魔王城の立地を考えてみれば、普通にお散歩コースにはならんぞ。あそこ、周囲が険しい山々に囲まれているんだから。
 移動がマジ不便なんだぞ。いちいち飛龍を呼ばなきゃならんし。

 技術革新か。今まさに乗っている列車のように、道を開拓する術も進化していたとも考えられるな。まったく、セバスチャンたちにも苦労掛けさせたな。
 その結果、我も追放されているんだから当然の判断とも言える。

 なんだかなー、仮に数百年後くらいに我の力が全て取り戻せたとしても、人間どもに勝てるような気がしなくなってしまったのだが。

 列車の窓の外、目まぐるしく変わっていく風景が、時間経過を早回しにしているように見えてきてしまって、どうにも気分が良くない。

 ロータスも、マルペルも、そしてダリアも、このレッドアイズ国を知っていた上で、我を生かしたのだと思うと、なんだかペテンに掛けられた気持ちになる。
 ああ、ダリアも言っていたな。もっと仲良くしようだとか、もう対立する必要はないだとか。

 今後の将来、我がいつまでも人間どもと対立し続けて、果たしてどんな利益があるのだろうな。これじゃあ本当に仲良くした方がいい気がしてくる。
 なんて馬鹿馬鹿しい話だろう。

『乗車券・拝見・シマス』
 ぬわーっ!? 魔導機兵が空気も読まずに部屋に入ってきた。
 結構デカいし、ゴツいし、感情読めないし、唐突に出てくるとビビるわ。
 生命を感じないくせに生き物みたいに動き回るし。

「ああ、どうぞ」
「はい、ご苦労様です」
 ロータスとマルペルは動じず、乗車券を差し出す。ここで変にビクビクしてしまっては我も挙動不審すぎる。一先ず同様に乗車券を見せた。

『アリガトウ・ゴザイマス』
 その声も不気味すぎるんだってば。
 全員分の乗車券を確認し終えたのか、そのままヌゥーっと去っていった。

「はぁー……まだ慣れないぞ……魔導機兵……」
 一応は魔力で動いているから気配そのものを読むことはできるが、ソレを動いているものだと即座に認識することができない。
 我からしてみたら壁や地面、家具が動き出しているようなものだぞ。そこにあることは分かっているのに急に目の前に出てくると頭が混乱するわ。

「そのうち慣れますよ」
 にこーっとマルペルに微笑ましい顔を送られた。

「一応奴らはああやって不審なものがいないか見張っておるのだろう? ここ人間の国では我のような異種族は排除されないか気が気でないわ」

「その点は大丈夫です。国に入る際、門番の魔導機兵に赤くてピカピカ光る目で見られましたよね。実はアレは顔の記憶をしているんですよ。国中の魔導機兵同士は通信によってその記憶を共有します。つまり、門を通った時点で大丈夫ですよー、って許可が下りているので、よっぽどおかしなことをしない限りは国を訪れたお客様として丁重に扱われます」

 仕組みも何もよく分からないが、大丈夫らしい。本当なのかなぁ……。
 本当、コイツはおせっかい焼きというのか何というのか。

 しかしまあ、国中で顔を記憶されているということは、言い換えればこの国で何かしようものなら即座にいついつに国を訪れた誰々が―、というのが丸わかりということではないか。それはそれで窮屈すぎやしないか?

「大丈夫、大丈夫ですよ。何も怖くありません」
 そう言いながら自然と我の身体を抱き寄せるな。お前は毎度おっぱいで窒息させられかける我の気持ちが分かるか?
 ぁー……やわらかい。べ、別に羨ましくなんかないもんっ!

 ※ ※ ※

 矢の如く街を駆け抜ける列車は、いくつかの駅を経由して、そこへと辿り着く。
 窓の外に見える一際大きな山のようなソレ。軍事国家レッドアイズの中心であり、この国の政権の全てを握る軍隊の集約している城。

 我にプロポーズなんぞけしかけてきたけしからん王子のいる城だ。

 不意にパーン、パーンと、空に向かって何かが弾けたのが見えた。
 あのカラフルな感じは花火だろうか。お祭りも近いからだろう。

 町並みから聞こえてくる人々の楽しそうな笑い声が賑やかさを物語る。
 これがなぁ……もっと普通のお祭りだったら良かったのになぁ……。

 ちょっと見えちゃったんだけど。
 いやぁなもんが、見えちゃったんだけど。

 公園と思わしき広場に、変な像が見えたぞ。
 子供たちにボールを投げつけられたり、棒きれのようなもので叩かれまくっているあの物体。もしかしなくても、我を模しているんじゃないだろうな。

 我ってあんな姿で語り継がれているのか……?
 マヌケな顔して、アホっぽいポーズして、それでいて怖がらせようとしてますよ感を醸し出している、女魔王のような像。

 あれはそういう催しなのか? 木彫りか何なのか、足下の方は丸い形をしていて、倒されても起き上がる仕組みになっている。
 つまり、ボールをぶつけられても、棒きれでひっぱたかれても、何度でもぐらんぐらんと起き上がっては、またボコボコにされる、子供たちの遊具だ。

 大人気だなぁー……あはは……。
 子供たちも元気にはしゃいでおるわぁ……。

 別に忘れてはおらんぞ。このレッドアイズでは、魔王を討伐した勇者を讃えるべく、盛大にお祭りが開かれるのだ。魔王討伐記念感謝祭がな。

 実際にこう我が酷い目にあってるのを見ると心に来るものがあるな……。
 いや、あんな不出来な物体を我だとは認めたくはないのだが。

「さあ、そろそろ列車を降りるぞ」
「忘れ物がないようにしませんとね」
 なんかもう我、列車降りたくない……このまま何処か遠くへ行きたい。




みんなのリアクション

 キュィーンという独特な音を立てて、列車が動き出す。
 これまた思っていた以上にスピードが出る。確かにコレは馬車の比ではないな。
 窓の外に見える景色の目まぐるしい変わりようよ。
 こんな巨大な鉄のかたまりみたいなものをこんな速さで移動させるとは、一体どんな技術力だ。さすがのミモザにも作れなさそうだな。
 列車の話を聞かせてやったらさぞかし悔しがりそうだ。目に浮かぶ。
「はぁー……、我はこんな国を相手に戦争しておったのか。兵器に金を使いすぎて日々の食事もままならない貧乏国を想像しとったわ」
「フィーの認識もあながち間違いではない。ここまで見てきたのはレッドアイズの表側に過ぎないからね」
 なんとも不穏な言い回しだな。
「一見平和に見えるこの国も、貴族と貧民とで格差があるんです。この国も中心から離れれば貧困街が広がっているんですよ」
「はっ、差別意識の強い国の悪いところか。なんて皮肉な話よ。あんなゴーレムまがいがうろついていたのではクーデターも起こせそうにないしな」
 むしろ、パエデロスよりこっちの方が我にとって居心地が良いまであるのでは。
 さぞかし人間たちの負の感情も渦巻いているのだろうし。
 そう思ったらなんだか不思議と力が沸いてきたような気がしないでもない。
「この国がこうも高度成長を遂げたのもここ数年のことだ。短い付き合いの国ではないし、俺自身も変貌っぷりに驚いているよ」
 考えてもみれば、魔導機兵《オートマタ》のような連中が攻め込んできた記憶はなかったな。まだ当時は実践には導入されてなかったのかもしれない。
 ぁー、でも、我が魔王城の地下で蘇ったときのセバスチャンの愚痴りようを思い出す。めちゃくちゃ戦況が悪そうな言い回しをしていた気がする。
 あのときもレッドアイズの連中が攻め込んできてたんだっけか。厳密に言えば、観光旅行気分の冒険者たちだとは言っていたが。
 人間ども、そんなに気楽に魔王城に攻めてこられるのか? と疑問ではあった。
 だって、そうじゃん。魔王城の立地を考えてみれば、普通にお散歩コースにはならんぞ。あそこ、周囲が険しい山々に囲まれているんだから。
 移動がマジ不便なんだぞ。いちいち飛龍を呼ばなきゃならんし。
 技術革新か。今まさに乗っている列車のように、道を開拓する術も進化していたとも考えられるな。まったく、セバスチャンたちにも苦労掛けさせたな。
 その結果、我も追放されているんだから当然の判断とも言える。
 なんだかなー、仮に数百年後くらいに我の力が全て取り戻せたとしても、人間どもに勝てるような気がしなくなってしまったのだが。
 列車の窓の外、目まぐるしく変わっていく風景が、時間経過を早回しにしているように見えてきてしまって、どうにも気分が良くない。
 ロータスも、マルペルも、そしてダリアも、このレッドアイズ国を知っていた上で、我を生かしたのだと思うと、なんだかペテンに掛けられた気持ちになる。
 ああ、ダリアも言っていたな。もっと仲良くしようだとか、もう対立する必要はないだとか。
 今後の将来、我がいつまでも人間どもと対立し続けて、果たしてどんな利益があるのだろうな。これじゃあ本当に仲良くした方がいい気がしてくる。
 なんて馬鹿馬鹿しい話だろう。
『乗車券・拝見・シマス』
 ぬわーっ!? 魔導機兵が空気も読まずに部屋に入ってきた。
 結構デカいし、ゴツいし、感情読めないし、唐突に出てくるとビビるわ。
 生命を感じないくせに生き物みたいに動き回るし。
「ああ、どうぞ」
「はい、ご苦労様です」
 ロータスとマルペルは動じず、乗車券を差し出す。ここで変にビクビクしてしまっては我も挙動不審すぎる。一先ず同様に乗車券を見せた。
『アリガトウ・ゴザイマス』
 その声も不気味すぎるんだってば。
 全員分の乗車券を確認し終えたのか、そのままヌゥーっと去っていった。
「はぁー……まだ慣れないぞ……魔導機兵……」
 一応は魔力で動いているから気配そのものを読むことはできるが、ソレを動いているものだと即座に認識することができない。
 我からしてみたら壁や地面、家具が動き出しているようなものだぞ。そこにあることは分かっているのに急に目の前に出てくると頭が混乱するわ。
「そのうち慣れますよ」
 にこーっとマルペルに微笑ましい顔を送られた。
「一応奴らはああやって不審なものがいないか見張っておるのだろう? ここ人間の国では我のような異種族は排除されないか気が気でないわ」
「その点は大丈夫です。国に入る際、門番の魔導機兵に赤くてピカピカ光る目で見られましたよね。実はアレは顔の記憶をしているんですよ。国中の魔導機兵同士は通信によってその記憶を共有します。つまり、門を通った時点で大丈夫ですよー、って許可が下りているので、よっぽどおかしなことをしない限りは国を訪れたお客様として丁重に扱われます」
 仕組みも何もよく分からないが、大丈夫らしい。本当なのかなぁ……。
 本当、コイツはおせっかい焼きというのか何というのか。
 しかしまあ、国中で顔を記憶されているということは、言い換えればこの国で何かしようものなら即座にいついつに国を訪れた誰々が―、というのが丸わかりということではないか。それはそれで窮屈すぎやしないか?
「大丈夫、大丈夫ですよ。何も怖くありません」
 そう言いながら自然と我の身体を抱き寄せるな。お前は毎度おっぱいで窒息させられかける我の気持ちが分かるか?
 ぁー……やわらかい。べ、別に羨ましくなんかないもんっ!
 ※ ※ ※
 矢の如く街を駆け抜ける列車は、いくつかの駅を経由して、そこへと辿り着く。
 窓の外に見える一際大きな山のようなソレ。軍事国家レッドアイズの中心であり、この国の政権の全てを握る軍隊の集約している城。
 我にプロポーズなんぞけしかけてきたけしからん王子のいる城だ。
 不意にパーン、パーンと、空に向かって何かが弾けたのが見えた。
 あのカラフルな感じは花火だろうか。お祭りも近いからだろう。
 町並みから聞こえてくる人々の楽しそうな笑い声が賑やかさを物語る。
 これがなぁ……もっと普通のお祭りだったら良かったのになぁ……。
 ちょっと見えちゃったんだけど。
 いやぁなもんが、見えちゃったんだけど。
 公園と思わしき広場に、変な像が見えたぞ。
 子供たちにボールを投げつけられたり、棒きれのようなもので叩かれまくっているあの物体。もしかしなくても、我を模しているんじゃないだろうな。
 我ってあんな姿で語り継がれているのか……?
 マヌケな顔して、アホっぽいポーズして、それでいて怖がらせようとしてますよ感を醸し出している、女魔王のような像。
 あれはそういう催しなのか? 木彫りか何なのか、足下の方は丸い形をしていて、倒されても起き上がる仕組みになっている。
 つまり、ボールをぶつけられても、棒きれでひっぱたかれても、何度でもぐらんぐらんと起き上がっては、またボコボコにされる、子供たちの遊具だ。
 大人気だなぁー……あはは……。
 子供たちも元気にはしゃいでおるわぁ……。
 別に忘れてはおらんぞ。このレッドアイズでは、魔王を討伐した勇者を讃えるべく、盛大にお祭りが開かれるのだ。魔王討伐記念感謝祭がな。
 実際にこう我が酷い目にあってるのを見ると心に来るものがあるな……。
 いや、あんな不出来な物体を我だとは認めたくはないのだが。
「さあ、そろそろ列車を降りるぞ」
「忘れ物がないようにしませんとね」
 なんかもう我、列車降りたくない……このまま何処か遠くへ行きたい。