十五話 異世界の旅を
ー/ー サタンが死んで全てが終わった。
しかし、その瞬間、『無』の空間が轟音を立て始めた。空間が大きく揺れたのだ。
「ッ!」
数秒遅れて『無』の空間が崩壊し始めた。ゆっくりと、けれど着実に『無』の空間が本当の『無』へと崩壊しはじめていたのだ。
雪が息を飲む。
もう、ボロボロだ。
直樹と大輔の意識はもうない。“天元突破[極越]”の反動で衰弱していた。今ある限りの手を尽くしても、意識が回復するには時間が掛かるだろう。
ヘレナも神性を過剰に使ったせいか分からないが、意識を朦朧とさせており、瞳を虚ろとさせていた。
また、炎魔王の球体に心身を燃やされ続けた杏はもっとひどい。
イザベラが炎魔王の球体を杏から引き離し、“収納庫”が付与されている幻想具に収納して、どうにか即席で作りあげた回復幻想具で生命維持しているが、瀕死に近い。
雪も魔力も限りを尽くしたせいで、満足に動けない。直樹たちを背負うので精一杯。走ることができないだろう。
だが、
「ユキ、大丈夫よ。全て創り終えたわ」
イザベラはまだ、動ける。一度にたくさんの幻想具を創り上げたが、それでもまだここにいる誰よりも動ける。
イザベラは保険として作りあげた異世界干渉阻止の幻想具に魔力を注ぎ、無理やり応用して『無』の空間の崩壊を遅らせる。
次に、消費魔力を半分近くにまで減少させるほどに効率化した拓道の扉柄、闇路の導灯、オムニス・プラエセンス、劣化版オムニス・プラエセンスの周りに、異世界転移の補助と安定を目的として創り出した幻想具を配置。繋げる。
しかし、それでも幻想具を創造して残り少なくなったイザベラの魔力では、全ての幻想具を発動することはできない。“天元突破[氷楔解放]”を無理やり発動しても足りない。
大輔が死滅の神刀を創る際に魔力だけを抜き出したため、魔空結晶にも僅かな魔力と幻想具発動には使えない膨大な祈力しか残っていない。
けれど、
「ナオキッ!」
「ダイスケさんッ!」
血界を使って、疑似転移してきたティーガンとウィオリナがいる。
突然現れたことに特に驚く様子もないイザベラは、気を失っている直樹と大輔に駆け寄ったティーガンとウィオリナに淡々と言う。
「突然で申し訳ないけれど、これを血力? というのに変換してちょうだい」
イザベラは膨大な祈力が貯蔵されている魔空結晶を、ティーガンとウィオリナに差し出す。
普通なら、それでも直ぐに行動に移せないだろう。そもそも、幻力を異なる幻力へ変換することは容易ではない。
しかし、ティーガンとウィオリナは違う。
「分かったのじゃ」
「分かったです!」
疑問を発することもなく、瞳に強い光を湛えたティーガンとウィオリナは、魔空結晶に触れる。
「ぬっ」
「グッ」
ティーガンとウィオリナは膨大な祈力を一気に体内に取り込んでいく。
そして最初はウィオリナだった。
「ウィ流血糸闘術、<祈血昇華>――転変ッ!!」
祈力を用いて血力を増幅させる<祈血昇華>。それを応用して、祈力を血力へと完全に変換した。
それにウィオリナのそれを見たティーガンが続く。
「やるのっ、ウィオリナッ!」
血力が噴き上がる。
しかし、既にティーガンもウィオリナもボロボロなのだ。祈力は元より、膨大な血力すらもその身を侵す毒になってしまうほど、衰弱しているのだ。
ここにはどうにか気力をふり絞って来たに過ぎない。
「ガハッ」
「カハッ」
ティーガンとウィオリナが血反吐を吐く。血を操る存在なのに、ましてティーガンは吸血鬼の始祖なのにも関わらず、二人は傷ついたまま。血反吐を何度も吐く。
ティーガンとウィオリナは憔悴しきった表情で、しかし強くイザベラに叫ぶ。
「次は何をすればよいッ?」
「次は何をすればいいですッ?」
頼もしい。
心の底からそう思ったイザベラは、鮮血色の指輪をティーガンとウィオリナに渡す。
「鮮血のアナタはこれに注いでッ! 陽色のアナタはこれに注いでッ!」
「分かったのじゃッ!」
「分かったですッ!」
ティーガンは、オムニス・プラエセンスと劣化版オムニス・プラエセンス、その補助具に握りしめた鮮血色の指輪を通して血力を注ぐ。
ウィオリナは、拓道の扉柄とその補助具に人差し指に嵌めた鮮血色の指輪を通して血力を注ぐ。
「ッ!?」
「え、魔力ですッ!?」
そして、鮮血色の指輪を通った血力は魔力へと変換され、各幻想具へと注がれていく。発動していく。
鮮血色の指輪は、血力から魔力へ変換するための幻想具。修学旅行前に大輔は既にその理論を完成させていたのだ。その理論を、修学旅行が終わった後に創るために、超高性能スマホにインプットしていたのである。
大輔はサタンを斃した後の事を既に想定していた。ティーガンとウィオリナが来てくれることを、そして祈力を血力に変換できると信頼していた。
だから、血力魔力変換理論が入っている超高性能スマホをイザベラに渡し、それを創って貰っていた。
故に、必要な魔力を注がれ発動した各幻想具が、補助具によって上手く構成されていく。巨大な門と時計の歯車が崩壊する『無』の空間に現れる。
そして、
「“天元突破[氷楔解放]ッッッ!!!”」
疲れた体に鞭を打ち、イザベラは本日三度目の“天元突破[氷楔解放]”を発動。
噴き上げる魔力はとても静かで。目や鼻、耳、口から血を垂れ流しながらも、イザベラはあふれ出る魔力を制御。
左手に握りしめる闇路の導灯。右手に握りしめる転門鍵。
制御した魔力を注ぐ。
「見つけたわッ!!」
転移先は地球。闇路の導灯でその座標を確認。
そして転門鍵を目の前に創り上げられた巨大な門への拓道の扉柄も鍵穴へ、挿し込む。ひねる。
「開きなさいッッ!!」
異世界転移の扉が開くッッッッ!!!!
「ッ。イザベラさんッ、ティーガンさんッ、ウィオリナさんッ!」
それと同時にイザベラたち三人が倒れ、意識を失う。
また、パリンッと大きな音が響き渡ると同時に、異世界干渉阻止の幻想具が壊れ、『無』の空間の崩壊が急速に進み始めた。
今、意識があるのは雪だけ。
雪の心は逸り焦る。
けれど、何故かその心の奥底は酷く晴れ渡っていて。
「ああ、もうッ!」
鉛のように動かない体を火事場の馬鹿力で無理やり動かし、雪はヘレナと杏を最初に異世界転移門に投げ込んだ。
次に、ティーガンとウィオリナ、イザベラと大輔の順に放り込む。
最後。
「……なんか、いい雰囲気ですよね」
もう異世界転移門の周りしか、『無』の空間は残っていなかった。ほかは既に崩壊していて、『無』の黒に包まれていた。
そして、雪たちがいる場所もすぐに崩壊するだろう。
そんな中、地面に寝かせていた直樹を背負おうとした雪は一瞬だけ止まり――
「ちょっといいですよね」
頬にキスをした。
そして、桜のように儚く美しく眩しい微笑みを浮かべた雪は直樹を背負い、異世界転移門を潜り抜けた。
その刹那、『無』の空間が崩壊し終え、天獄界が消滅した。一緒に、異世界転移の幻想具全ても消滅してしまった。
Φ
二カ月少しが過ぎた。
サタンを斃した後、事後処理がとても大変だった。
死之怨巨鬼神を筆頭に暴れに暴れまくった化生のせいで、京都は消滅。しかも死之怨巨鬼神の死瘴気が漂っているせいで、人が住める土地ではなくなってしまった。
他の祈力熾所があった場所も被害はそこまで多くないものの、それでも近くに住んでいる人たちが避難生活を強いられる被害は出ていた。
そしてまた、サタンたちによる世界中の人間への精神支配はなくなったものの、それでもその影響は甚大だった。
精神支配には、天獄界の七王の中で最も地球に関わっていたマモンが主導となっていたこともあり、世界中には戦火の種が巻かれていた。なんせ、戦争は欲を煽るのにとても適したものだから。
各国がいくつもの平和条約を破棄したり、強引な手段に出ていたり。実際に交戦を始めているところもあった。
ただ、様々な大国が日本に対して宣戦布告したのが一番大きいだろう。
それに対して、世界中の人々が不安になり暴動が起こったり、それに乗じてテロや紛争まで起こってしまった。
更に悪いことに、我に返った各国が今回の混乱を処理するために暴走し、日本をはじめ世界各地を巻き込んだ大戦にまで発展しそうになっていた。
たぶん、戦いで一番大変なのは、戦っている最中よりもその事後処理なのだろう。
直樹や大輔、ヘレナに杏などは一週間以上経っても目を覚まさなかったし、一日近くして意識を回復させたイザベラ、ティーガン、ウィオリナもまともに動ける状態ではなかった。
ただ、それらも全てどうにかなった。
日本において、幸い一般人の人的被害は皆無だったため、灯とクロノアを筆頭に、他の化生たちの協力もあり、京都もそのほかの街も時を巻き戻す力によって元に戻した。
また、大輔が超高性能スマホに組み込んでいたネットを媒介とした意識操作の幻想具や、≪想伝≫を使う雪、霊力の使い手である郭や教皇といったエクソシストたち、精神系統の力を持つ化生たちの協力もあって、世界中の人間の記憶の書き換えに成功。
細かい記憶や意識の不備はあるし、電子デバイスや書面に残ってしまった記録もあるためそれに対処しなければならないが、それでも世界を巻き込んだ大戦は回避できた。
ただ、そのためのエネルギー消費は甚大ではなかった。
その点で言えば、エクスィナの幻喰みで多量の魔力を蓄えていた翔や、後は慎太郎を崇める化生たちのお陰でそのエネルギー問題もどうにかなった。
特に、慎太郎を崇める化生たちの協力は大きかっただろう。
というのも、ルシフェルを筆頭に強大な力を持った地球の化生は、翔とその嫁たちによってボコされ、傷ついていた。うっかり力加減を間違えられて死んでしまった者もいた。
そこに慎太郎だ。
敵のはずの自分に敵意も見せず、優しく慈しむように蘇らせて癒し、翔とその嫁たちの殺意からも守ってくれたり。後、何度殺しても終わらない抱擁もあった。
つまるところ、地球において強大な力を誇っていた化生の殆どが、慎太郎を崇める信徒と化していた。
そのため、膨大な幻力をもった存在が協力してくれたため、エネルギー問題が解決したのだ。
まぁ、その後も、直樹と大輔、ヘレナが目を覚まさない問題があったり、そんな中、杏とウィオリナが軽く異世界に連れ去れたり。
神和ぎ社やD・P・T・S・T・I、異界魔術結社を筆頭とした世界の幻力帰還と直樹たちを中心とした異世界帰還組による話し合いもあったり。
途中で元邪神のイヴィルを連れて女神が地球に来て、エクソシストたちや生き残った天使や悪魔たちに土下座行脚したり。
死之怨巨鬼神に死怨の神性をなすりつけたのがイヴィルだと分かり、ウィオリナに封印されていた死之怨巨鬼神が封印から抜け出して暴れだしそうになったり。
大皇日女を筆頭とした神々と方針の違いで軽く戦いかけたり。
あとは、直樹の義父と義母である勝彦と彩音が、ミラとノアの可愛さにやられ急遽家を増築しようとして揉めたり。
知らないうちに、義弟に色々とあってなんか、両親が孫馬鹿になってるじゃんと気が付いた隼人が不貞腐れて連絡もせずに大学を休学し、海外に一人旅しにいったり。
それを追いかけた直樹が、古代の秘宝をめぐる争いに巻き込まれかけたり。
大輔は大輔で、マンションじゃ四人一緒に住めないし色々とできないよね、といらない気を効かせた両親の和也と瞳子によって、意識がないうちに実家近くの一軒家にイザベラと杏、ウィオリナと一緒に住まわされていたり。
因みに、その一軒家は建築設計士の和也が一から設計して、翔たちに頼んで魔法等の力で一日で建てたものだったりする。
翔たちも地球では死んでた身なので、こっちもひと悶着どころか、かなりの騒動があった。
慎太郎は慎太郎で、生き別れの年の離れた妹との再会でもひと悶着あり、世間は案外狭いのか、その妹と友達だったカガミヒメと色々あったり。
ただ、一番の大騒動は翔のハーレム問題だっただろう。
住む場所に始まり一夫一妻制の日本においての、戸籍上の妻の座をめぐる争いが起こったり。
あと、翔たちの家族問題もある。異世界のどうたらもあるが、死んだ息子や娘が帰ってきたと思ったら、何故か結婚しているし、ハーレムを築いているし。
杏や雪、ティーガンやウィオリナが、やけに翔を援護したり、何故か知らないが神和ぎ社やD・P・T・S・T・Iなどが介入してきたり。神々がお節介を焼こうとしたり。
あの中で一番大人な対応をしたのは、郭だったかもしれない。
どっちにしろ、大きさ騒動になった。
「っつうか、殺すな。絶対殺すな」
「どうしたの、急に?」
冬の早朝。世間ではクリスマスなどと言われる日。
コンビニの買い物の帰り、直樹がそう呟けば、いくつものエコバックを引提げ隣を歩いていた大輔が首を傾げる。
おにぎりといった片手で食べられる物や飲み物、後は小腹が空いたとき用のお菓子だったり。
大輔と同様にいくつものエコバックを引提げた直樹が答える。
「いやな。将来ミラやノア、あと詩織が結婚するとしても、翔みたいなやつには絶対渡したくないな、と」
「ノアくんもなの、それ? ってか、直樹、盛大なブーメランだよ。むしろ、キチンと責任を挨拶も果たして全員が納得するようにしている翔よりも、未だに曖昧にしている直樹の方がクソだと僕は思うんだけど」
「……」
大輔にジト目を向けられて、直樹は黙る。
「……お前だって曖昧にしてるじゃねぇか」
「いや、僕はキチンと自分の意志を伝える日を決めたし、それに対しての根回しも既に各家族に伝えたよ。誰かさんと違ってさ」
「うぐっ」
直樹の顔が更に渋くなる。口笛まで吹き始める。
それから一転。真剣な表情で尋ねる。
「……変わらないのか?」
「変わらないといえば、変わらないかな。過去に僕がイザベラに言った言葉は真実だよ」
直樹の真剣な表情に、大輔も真剣な表情で答える。
「ただ、そこに新しい言葉はつくよ。自分でも最低だとは思うけど、けれどここまで来たからさ。異世界で頑張って地球に帰ってきてまた頑張って。ここまで来たんだよ。だから、増えるのは仕方ない……いや、僕がそう決めたんだ」
「……そうか」
直樹は静かに頷き、それからうんうん、と唸りだした。
「ミラとノアにどう説明……いや、その前に、アイツらにどう……」
そうブツブツと言う直樹に大輔は微笑む。
「どんなに悩んだって、結局タイミングだよ。ちょうど今日から、一週間近くそのタイミングがあるじゃん。そこで話し合ったら? もう、ずっと前から考え続けていたんでしょ?」
「……そうだな」
直樹は静かに白い息を吐いた。
それから少し歩けば、直樹の実家にたどり着く。
けれど、直樹も大輔も玄関の扉を開くことはなく、庭へと周っていく。
そして庭に植えてあった一本の木に直樹が触れると、直樹と大輔の姿が消えた。
転移した場所は、
「おかえりなさい」
「おかえり」
直樹の家の地下の一室だった。そこには雪と杏がいた。
「あん? お前らだけなのか?」
「他の皆は?」
直樹と大輔はきょろきょろと辺りを見渡す。
二人が持っていたエコバックのいくつかをさりげなく奪い取った――もとい、受け取った雪と杏が、苦笑する。
「開門に興味津々でして……」
「それとイザベラの奴が突然、オプションが必要だわッ! とか言って……ほら、こないだテレビでやってたアニメ映画あっただろ? 物凄い演出装置を創り出してな」
「なるほどな」
「へぇ~」
直樹と大輔が頷く。ただ、直樹は隣で頷く大輔にジト目を向ける。
「お前、ずるいって思ってんだろ?」
「え、な、なんの事かな?」
大輔は惚けるが、杏が溜息を吐いて手に持っていたエコバックを床に置き、大輔の頬を両手で挟んだ。
「物凄いソワソワしてるぞ。顔だって笑ってる」
「……そんなわけ」
「なら、アタシが確かめてやろうか?」
そう言いながら、杏が大輔に顔を近づけようとして、
「ハイハイ。杏さん、いちゃつくなら、後にしてください。予定だって押してるんですから」
呆れた表情の雪が引き離す。
「そうだな。さっさと行こうぜ」
そう言って、直樹は地下の一室の扉に手をかける。開いた。
「ナオキ、お帰り」
「お帰りなのじゃ」
「とと!」
「パパ」
そこには、ヘレナやティーガン、ミラやノアがいて。
「ダイスケ! 見て、凄いでしょッ!」
「ダイスケさん。ちょっと、イザベラさんを叱ってですッ!」
イザベラやウィオリナがいて。
また、
「ありがと、直樹。全部、配っとくよ」
「そうだな」
翔や男性姿の慎太郎が直樹たちが持っていたエコバックを受け取り、中身を取り出し、配り始める。
直樹や大輔の家族に、雪や杏の家族に、ウィオリナの母親。あと、灯と麗華、翔の家族だったり、先ほど飛び入り参加してきた郭だったり。
急遽、参加人数が増えたため、予定を詰めるためにこんな早朝にツアー団体客の如く大勢の人数が地下室には集まっていたのだ。
実際、全員がキャリアケースや大きなバックを背負っている。
そして、
「こほん」
直樹が咳払いする。全員が直樹とその隣にいる大輔に注目する。
大輔が少しばかり緊張しながらも、口を開く。
「ここ半年、たくさんのことがありました。激動の日々だったと思います。特に、受け入れるという意味で、多く悩んだと思います」
大輔は自分や直樹、そのほかの家族を見やる。全員が、全員、全てに納得したわけではない。未だに、この現実に悩んでいる所もある。
直樹が続ける。
「だからとはいいませんが、皆さんには俺たちの過去を、歩んだ道を見てもらいたいと思っています」
そう言いながら、直樹はポツリと付け足す。
「……あまり見せたくないが」
「こら、直樹」
直樹を小さくどついた大輔は手元を金茶色に輝かせる。
大輔の手には、天獄界の消滅と共に消え去ったはずの転門鍵と拓道の扉柄が握られていた。創り直したのだ。
そして、拓道の扉柄を受け取った直樹と、大輔は家族と仲間と、好きな人たちに背を向けた。
目の前にあった、コテコテに演出されていた大きな扉の前に立った。扉にはいくつもの幻想具が緻密に接続されており、その中には創り直したオムニス・プラエセンスや闇路の導灯などもあった。
「どうか楽しんでいってください」
直樹がその扉の右手側中央に開いていた孔に拓道の扉柄を入れ込む。
瞬間、漆黒の魔力が拓道の扉柄から立ち上り、大きな扉を包み込んでいく。
そして大輔が拓道の扉柄に転門鍵を差し込み、ひねる。
カチャリと音が響き、
「アルビオンを。異世界の旅を」
大輔が拓道の扉柄をひねり、扉を開けた。
その扉の先はかつて直樹たちが召喚された異世界に繋がっていた。
そして、直樹と大輔は異世界に再び足を踏み入れた。
~終わり~
======================================
今まで読んでくださり本当に有難うございました。
応援や感想など大変ありがとうございました。
「異世界チートが現代でも無双するようですよ? ~帰還者たちは再び異世界に行きたい~」
これにてこの物語は閉幕となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
また、このあと公開可能情報の統括と、登場人物の情報を投稿します。公開可能情報の統括には、本編の裏設定を少しだけ+αで載せています。また、登場人物ではサタン殺しから、ラストの二か月間に何があったか、また本編終了後のことについても少しだけ詳しく書いたりもしています。
ぜひ、読んでください。
しかし、その瞬間、『無』の空間が轟音を立て始めた。空間が大きく揺れたのだ。
「ッ!」
数秒遅れて『無』の空間が崩壊し始めた。ゆっくりと、けれど着実に『無』の空間が本当の『無』へと崩壊しはじめていたのだ。
雪が息を飲む。
もう、ボロボロだ。
直樹と大輔の意識はもうない。“天元突破[極越]”の反動で衰弱していた。今ある限りの手を尽くしても、意識が回復するには時間が掛かるだろう。
ヘレナも神性を過剰に使ったせいか分からないが、意識を朦朧とさせており、瞳を虚ろとさせていた。
また、炎魔王の球体に心身を燃やされ続けた杏はもっとひどい。
イザベラが炎魔王の球体を杏から引き離し、“収納庫”が付与されている幻想具に収納して、どうにか即席で作りあげた回復幻想具で生命維持しているが、瀕死に近い。
雪も魔力も限りを尽くしたせいで、満足に動けない。直樹たちを背負うので精一杯。走ることができないだろう。
だが、
「ユキ、大丈夫よ。全て創り終えたわ」
イザベラはまだ、動ける。一度にたくさんの幻想具を創り上げたが、それでもまだここにいる誰よりも動ける。
イザベラは保険として作りあげた異世界干渉阻止の幻想具に魔力を注ぎ、無理やり応用して『無』の空間の崩壊を遅らせる。
次に、消費魔力を半分近くにまで減少させるほどに効率化した拓道の扉柄、闇路の導灯、オムニス・プラエセンス、劣化版オムニス・プラエセンスの周りに、異世界転移の補助と安定を目的として創り出した幻想具を配置。繋げる。
しかし、それでも幻想具を創造して残り少なくなったイザベラの魔力では、全ての幻想具を発動することはできない。“天元突破[氷楔解放]”を無理やり発動しても足りない。
大輔が死滅の神刀を創る際に魔力だけを抜き出したため、魔空結晶にも僅かな魔力と幻想具発動には使えない膨大な祈力しか残っていない。
けれど、
「ナオキッ!」
「ダイスケさんッ!」
血界を使って、疑似転移してきたティーガンとウィオリナがいる。
突然現れたことに特に驚く様子もないイザベラは、気を失っている直樹と大輔に駆け寄ったティーガンとウィオリナに淡々と言う。
「突然で申し訳ないけれど、これを血力? というのに変換してちょうだい」
イザベラは膨大な祈力が貯蔵されている魔空結晶を、ティーガンとウィオリナに差し出す。
普通なら、それでも直ぐに行動に移せないだろう。そもそも、幻力を異なる幻力へ変換することは容易ではない。
しかし、ティーガンとウィオリナは違う。
「分かったのじゃ」
「分かったです!」
疑問を発することもなく、瞳に強い光を湛えたティーガンとウィオリナは、魔空結晶に触れる。
「ぬっ」
「グッ」
ティーガンとウィオリナは膨大な祈力を一気に体内に取り込んでいく。
そして最初はウィオリナだった。
「ウィ流血糸闘術、<祈血昇華>――転変ッ!!」
祈力を用いて血力を増幅させる<祈血昇華>。それを応用して、祈力を血力へと完全に変換した。
それにウィオリナのそれを見たティーガンが続く。
「やるのっ、ウィオリナッ!」
血力が噴き上がる。
しかし、既にティーガンもウィオリナもボロボロなのだ。祈力は元より、膨大な血力すらもその身を侵す毒になってしまうほど、衰弱しているのだ。
ここにはどうにか気力をふり絞って来たに過ぎない。
「ガハッ」
「カハッ」
ティーガンとウィオリナが血反吐を吐く。血を操る存在なのに、ましてティーガンは吸血鬼の始祖なのにも関わらず、二人は傷ついたまま。血反吐を何度も吐く。
ティーガンとウィオリナは憔悴しきった表情で、しかし強くイザベラに叫ぶ。
「次は何をすればよいッ?」
「次は何をすればいいですッ?」
頼もしい。
心の底からそう思ったイザベラは、鮮血色の指輪をティーガンとウィオリナに渡す。
「鮮血のアナタはこれに注いでッ! 陽色のアナタはこれに注いでッ!」
「分かったのじゃッ!」
「分かったですッ!」
ティーガンは、オムニス・プラエセンスと劣化版オムニス・プラエセンス、その補助具に握りしめた鮮血色の指輪を通して血力を注ぐ。
ウィオリナは、拓道の扉柄とその補助具に人差し指に嵌めた鮮血色の指輪を通して血力を注ぐ。
「ッ!?」
「え、魔力ですッ!?」
そして、鮮血色の指輪を通った血力は魔力へと変換され、各幻想具へと注がれていく。発動していく。
鮮血色の指輪は、血力から魔力へ変換するための幻想具。修学旅行前に大輔は既にその理論を完成させていたのだ。その理論を、修学旅行が終わった後に創るために、超高性能スマホにインプットしていたのである。
大輔はサタンを斃した後の事を既に想定していた。ティーガンとウィオリナが来てくれることを、そして祈力を血力に変換できると信頼していた。
だから、血力魔力変換理論が入っている超高性能スマホをイザベラに渡し、それを創って貰っていた。
故に、必要な魔力を注がれ発動した各幻想具が、補助具によって上手く構成されていく。巨大な門と時計の歯車が崩壊する『無』の空間に現れる。
そして、
「“天元突破[氷楔解放]ッッッ!!!”」
疲れた体に鞭を打ち、イザベラは本日三度目の“天元突破[氷楔解放]”を発動。
噴き上げる魔力はとても静かで。目や鼻、耳、口から血を垂れ流しながらも、イザベラはあふれ出る魔力を制御。
左手に握りしめる闇路の導灯。右手に握りしめる転門鍵。
制御した魔力を注ぐ。
「見つけたわッ!!」
転移先は地球。闇路の導灯でその座標を確認。
そして転門鍵を目の前に創り上げられた巨大な門への拓道の扉柄も鍵穴へ、挿し込む。ひねる。
「開きなさいッッ!!」
異世界転移の扉が開くッッッッ!!!!
「ッ。イザベラさんッ、ティーガンさんッ、ウィオリナさんッ!」
それと同時にイザベラたち三人が倒れ、意識を失う。
また、パリンッと大きな音が響き渡ると同時に、異世界干渉阻止の幻想具が壊れ、『無』の空間の崩壊が急速に進み始めた。
今、意識があるのは雪だけ。
雪の心は逸り焦る。
けれど、何故かその心の奥底は酷く晴れ渡っていて。
「ああ、もうッ!」
鉛のように動かない体を火事場の馬鹿力で無理やり動かし、雪はヘレナと杏を最初に異世界転移門に投げ込んだ。
次に、ティーガンとウィオリナ、イザベラと大輔の順に放り込む。
最後。
「……なんか、いい雰囲気ですよね」
もう異世界転移門の周りしか、『無』の空間は残っていなかった。ほかは既に崩壊していて、『無』の黒に包まれていた。
そして、雪たちがいる場所もすぐに崩壊するだろう。
そんな中、地面に寝かせていた直樹を背負おうとした雪は一瞬だけ止まり――
「ちょっといいですよね」
頬にキスをした。
そして、桜のように儚く美しく眩しい微笑みを浮かべた雪は直樹を背負い、異世界転移門を潜り抜けた。
その刹那、『無』の空間が崩壊し終え、天獄界が消滅した。一緒に、異世界転移の幻想具全ても消滅してしまった。
Φ
二カ月少しが過ぎた。
サタンを斃した後、事後処理がとても大変だった。
死之怨巨鬼神を筆頭に暴れに暴れまくった化生のせいで、京都は消滅。しかも死之怨巨鬼神の死瘴気が漂っているせいで、人が住める土地ではなくなってしまった。
他の祈力熾所があった場所も被害はそこまで多くないものの、それでも近くに住んでいる人たちが避難生活を強いられる被害は出ていた。
そしてまた、サタンたちによる世界中の人間への精神支配はなくなったものの、それでもその影響は甚大だった。
精神支配には、天獄界の七王の中で最も地球に関わっていたマモンが主導となっていたこともあり、世界中には戦火の種が巻かれていた。なんせ、戦争は欲を煽るのにとても適したものだから。
各国がいくつもの平和条約を破棄したり、強引な手段に出ていたり。実際に交戦を始めているところもあった。
ただ、様々な大国が日本に対して宣戦布告したのが一番大きいだろう。
それに対して、世界中の人々が不安になり暴動が起こったり、それに乗じてテロや紛争まで起こってしまった。
更に悪いことに、我に返った各国が今回の混乱を処理するために暴走し、日本をはじめ世界各地を巻き込んだ大戦にまで発展しそうになっていた。
たぶん、戦いで一番大変なのは、戦っている最中よりもその事後処理なのだろう。
直樹や大輔、ヘレナに杏などは一週間以上経っても目を覚まさなかったし、一日近くして意識を回復させたイザベラ、ティーガン、ウィオリナもまともに動ける状態ではなかった。
ただ、それらも全てどうにかなった。
日本において、幸い一般人の人的被害は皆無だったため、灯とクロノアを筆頭に、他の化生たちの協力もあり、京都もそのほかの街も時を巻き戻す力によって元に戻した。
また、大輔が超高性能スマホに組み込んでいたネットを媒介とした意識操作の幻想具や、≪想伝≫を使う雪、霊力の使い手である郭や教皇といったエクソシストたち、精神系統の力を持つ化生たちの協力もあって、世界中の人間の記憶の書き換えに成功。
細かい記憶や意識の不備はあるし、電子デバイスや書面に残ってしまった記録もあるためそれに対処しなければならないが、それでも世界を巻き込んだ大戦は回避できた。
ただ、そのためのエネルギー消費は甚大ではなかった。
その点で言えば、エクスィナの幻喰みで多量の魔力を蓄えていた翔や、後は慎太郎を崇める化生たちのお陰でそのエネルギー問題もどうにかなった。
特に、慎太郎を崇める化生たちの協力は大きかっただろう。
というのも、ルシフェルを筆頭に強大な力を持った地球の化生は、翔とその嫁たちによってボコされ、傷ついていた。うっかり力加減を間違えられて死んでしまった者もいた。
そこに慎太郎だ。
敵のはずの自分に敵意も見せず、優しく慈しむように蘇らせて癒し、翔とその嫁たちの殺意からも守ってくれたり。後、何度殺しても終わらない抱擁もあった。
つまるところ、地球において強大な力を誇っていた化生の殆どが、慎太郎を崇める信徒と化していた。
そのため、膨大な幻力をもった存在が協力してくれたため、エネルギー問題が解決したのだ。
まぁ、その後も、直樹と大輔、ヘレナが目を覚まさない問題があったり、そんな中、杏とウィオリナが軽く異世界に連れ去れたり。
神和ぎ社やD・P・T・S・T・I、異界魔術結社を筆頭とした世界の幻力帰還と直樹たちを中心とした異世界帰還組による話し合いもあったり。
途中で元邪神のイヴィルを連れて女神が地球に来て、エクソシストたちや生き残った天使や悪魔たちに土下座行脚したり。
死之怨巨鬼神に死怨の神性をなすりつけたのがイヴィルだと分かり、ウィオリナに封印されていた死之怨巨鬼神が封印から抜け出して暴れだしそうになったり。
大皇日女を筆頭とした神々と方針の違いで軽く戦いかけたり。
あとは、直樹の義父と義母である勝彦と彩音が、ミラとノアの可愛さにやられ急遽家を増築しようとして揉めたり。
知らないうちに、義弟に色々とあってなんか、両親が孫馬鹿になってるじゃんと気が付いた隼人が不貞腐れて連絡もせずに大学を休学し、海外に一人旅しにいったり。
それを追いかけた直樹が、古代の秘宝をめぐる争いに巻き込まれかけたり。
大輔は大輔で、マンションじゃ四人一緒に住めないし色々とできないよね、といらない気を効かせた両親の和也と瞳子によって、意識がないうちに実家近くの一軒家にイザベラと杏、ウィオリナと一緒に住まわされていたり。
因みに、その一軒家は建築設計士の和也が一から設計して、翔たちに頼んで魔法等の力で一日で建てたものだったりする。
翔たちも地球では死んでた身なので、こっちもひと悶着どころか、かなりの騒動があった。
慎太郎は慎太郎で、生き別れの年の離れた妹との再会でもひと悶着あり、世間は案外狭いのか、その妹と友達だったカガミヒメと色々あったり。
ただ、一番の大騒動は翔のハーレム問題だっただろう。
住む場所に始まり一夫一妻制の日本においての、戸籍上の妻の座をめぐる争いが起こったり。
あと、翔たちの家族問題もある。異世界のどうたらもあるが、死んだ息子や娘が帰ってきたと思ったら、何故か結婚しているし、ハーレムを築いているし。
杏や雪、ティーガンやウィオリナが、やけに翔を援護したり、何故か知らないが神和ぎ社やD・P・T・S・T・Iなどが介入してきたり。神々がお節介を焼こうとしたり。
あの中で一番大人な対応をしたのは、郭だったかもしれない。
どっちにしろ、大きさ騒動になった。
「っつうか、殺すな。絶対殺すな」
「どうしたの、急に?」
冬の早朝。世間ではクリスマスなどと言われる日。
コンビニの買い物の帰り、直樹がそう呟けば、いくつものエコバックを引提げ隣を歩いていた大輔が首を傾げる。
おにぎりといった片手で食べられる物や飲み物、後は小腹が空いたとき用のお菓子だったり。
大輔と同様にいくつものエコバックを引提げた直樹が答える。
「いやな。将来ミラやノア、あと詩織が結婚するとしても、翔みたいなやつには絶対渡したくないな、と」
「ノアくんもなの、それ? ってか、直樹、盛大なブーメランだよ。むしろ、キチンと責任を挨拶も果たして全員が納得するようにしている翔よりも、未だに曖昧にしている直樹の方がクソだと僕は思うんだけど」
「……」
大輔にジト目を向けられて、直樹は黙る。
「……お前だって曖昧にしてるじゃねぇか」
「いや、僕はキチンと自分の意志を伝える日を決めたし、それに対しての根回しも既に各家族に伝えたよ。誰かさんと違ってさ」
「うぐっ」
直樹の顔が更に渋くなる。口笛まで吹き始める。
それから一転。真剣な表情で尋ねる。
「……変わらないのか?」
「変わらないといえば、変わらないかな。過去に僕がイザベラに言った言葉は真実だよ」
直樹の真剣な表情に、大輔も真剣な表情で答える。
「ただ、そこに新しい言葉はつくよ。自分でも最低だとは思うけど、けれどここまで来たからさ。異世界で頑張って地球に帰ってきてまた頑張って。ここまで来たんだよ。だから、増えるのは仕方ない……いや、僕がそう決めたんだ」
「……そうか」
直樹は静かに頷き、それからうんうん、と唸りだした。
「ミラとノアにどう説明……いや、その前に、アイツらにどう……」
そうブツブツと言う直樹に大輔は微笑む。
「どんなに悩んだって、結局タイミングだよ。ちょうど今日から、一週間近くそのタイミングがあるじゃん。そこで話し合ったら? もう、ずっと前から考え続けていたんでしょ?」
「……そうだな」
直樹は静かに白い息を吐いた。
それから少し歩けば、直樹の実家にたどり着く。
けれど、直樹も大輔も玄関の扉を開くことはなく、庭へと周っていく。
そして庭に植えてあった一本の木に直樹が触れると、直樹と大輔の姿が消えた。
転移した場所は、
「おかえりなさい」
「おかえり」
直樹の家の地下の一室だった。そこには雪と杏がいた。
「あん? お前らだけなのか?」
「他の皆は?」
直樹と大輔はきょろきょろと辺りを見渡す。
二人が持っていたエコバックのいくつかをさりげなく奪い取った――もとい、受け取った雪と杏が、苦笑する。
「開門に興味津々でして……」
「それとイザベラの奴が突然、オプションが必要だわッ! とか言って……ほら、こないだテレビでやってたアニメ映画あっただろ? 物凄い演出装置を創り出してな」
「なるほどな」
「へぇ~」
直樹と大輔が頷く。ただ、直樹は隣で頷く大輔にジト目を向ける。
「お前、ずるいって思ってんだろ?」
「え、な、なんの事かな?」
大輔は惚けるが、杏が溜息を吐いて手に持っていたエコバックを床に置き、大輔の頬を両手で挟んだ。
「物凄いソワソワしてるぞ。顔だって笑ってる」
「……そんなわけ」
「なら、アタシが確かめてやろうか?」
そう言いながら、杏が大輔に顔を近づけようとして、
「ハイハイ。杏さん、いちゃつくなら、後にしてください。予定だって押してるんですから」
呆れた表情の雪が引き離す。
「そうだな。さっさと行こうぜ」
そう言って、直樹は地下の一室の扉に手をかける。開いた。
「ナオキ、お帰り」
「お帰りなのじゃ」
「とと!」
「パパ」
そこには、ヘレナやティーガン、ミラやノアがいて。
「ダイスケ! 見て、凄いでしょッ!」
「ダイスケさん。ちょっと、イザベラさんを叱ってですッ!」
イザベラやウィオリナがいて。
また、
「ありがと、直樹。全部、配っとくよ」
「そうだな」
翔や男性姿の慎太郎が直樹たちが持っていたエコバックを受け取り、中身を取り出し、配り始める。
直樹や大輔の家族に、雪や杏の家族に、ウィオリナの母親。あと、灯と麗華、翔の家族だったり、先ほど飛び入り参加してきた郭だったり。
急遽、参加人数が増えたため、予定を詰めるためにこんな早朝にツアー団体客の如く大勢の人数が地下室には集まっていたのだ。
実際、全員がキャリアケースや大きなバックを背負っている。
そして、
「こほん」
直樹が咳払いする。全員が直樹とその隣にいる大輔に注目する。
大輔が少しばかり緊張しながらも、口を開く。
「ここ半年、たくさんのことがありました。激動の日々だったと思います。特に、受け入れるという意味で、多く悩んだと思います」
大輔は自分や直樹、そのほかの家族を見やる。全員が、全員、全てに納得したわけではない。未だに、この現実に悩んでいる所もある。
直樹が続ける。
「だからとはいいませんが、皆さんには俺たちの過去を、歩んだ道を見てもらいたいと思っています」
そう言いながら、直樹はポツリと付け足す。
「……あまり見せたくないが」
「こら、直樹」
直樹を小さくどついた大輔は手元を金茶色に輝かせる。
大輔の手には、天獄界の消滅と共に消え去ったはずの転門鍵と拓道の扉柄が握られていた。創り直したのだ。
そして、拓道の扉柄を受け取った直樹と、大輔は家族と仲間と、好きな人たちに背を向けた。
目の前にあった、コテコテに演出されていた大きな扉の前に立った。扉にはいくつもの幻想具が緻密に接続されており、その中には創り直したオムニス・プラエセンスや闇路の導灯などもあった。
「どうか楽しんでいってください」
直樹がその扉の右手側中央に開いていた孔に拓道の扉柄を入れ込む。
瞬間、漆黒の魔力が拓道の扉柄から立ち上り、大きな扉を包み込んでいく。
そして大輔が拓道の扉柄に転門鍵を差し込み、ひねる。
カチャリと音が響き、
「アルビオンを。異世界の旅を」
大輔が拓道の扉柄をひねり、扉を開けた。
その扉の先はかつて直樹たちが召喚された異世界に繋がっていた。
そして、直樹と大輔は異世界に再び足を踏み入れた。
~終わり~
======================================
今まで読んでくださり本当に有難うございました。
応援や感想など大変ありがとうございました。
「異世界チートが現代でも無双するようですよ? ~帰還者たちは再び異世界に行きたい~」
これにてこの物語は閉幕となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
また、このあと公開可能情報の統括と、登場人物の情報を投稿します。公開可能情報の統括には、本編の裏設定を少しだけ+αで載せています。また、登場人物ではサタン殺しから、ラストの二か月間に何があったか、また本編終了後のことについても少しだけ詳しく書いたりもしています。
ぜひ、読んでください。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。