十四話 終わりだ
ー/ー 異世界において、直樹たちは邪神に挑んだ。
その際、直樹と大輔は邪神を殺すと決めていたが、翔を筆頭に慎太郎や女神がそれを拒んでいた。
翔はまだ邪神とキチンと話し合っていなかったから。慎太郎はそもそも食料を得る以外の殺生などしないから。
ただ、この二人は絶対に邪神を殺さない事を決意していたわけではない。
翔は話し合いが上手くいかなければ、封印、最悪殺す事を念頭に置いていたし、慎太郎は助けを求められなければ癒すことはしないと宣言していた。
ただ、女神はそうではなかった。
結局、女神は直樹たちによって神性を殺されて力を失った元邪神を庇った。殺すのはやめてくれと。生きたまま、償いをさせてくれと。
その責任は自分が全て持つから。
女神はお人好しだった。その言葉一つで片付くほど、シンプルにお人好しだったのだ。
だからこそ、邪神に異世界を乗っ取られて封印されていたのだが……
兎も角、翔から聞いた話では、邪神は色々な星や世界で実験と称して色々な存在に迷惑をかけてため、女神と一緒に各世界の神や被害者たちに土下座しまわっているらしいのだ。
それを思い出した直樹と大輔は溜息を吐くと同時に、異世界の肉体と融合したため全快しどころか、増大した力を爆発させる。
「もう一度言うぞ。お前の父上とやらは生きてる。俺らは関係ない。今、手を引くなら殺しはしない」
「最近忘れがちだけど、僕たち理性的で善良的な一般人だしさ」
「ッ、ふざけるなッッッッ!!!」
雪たちに向かってゆっくりと赫い光を纏った拳を振り下ろしていたサタンが、直樹と大輔によって蹴り飛ばされた。
空間遮断結界をぶち抜き吹き飛ばされたサタンは、だが赫い光を爆発させると激怒する。赫い瞳を燃やし、赫い短髪を荒ぶらせる。烈火の如く猛る。
それは神性の力。
怒りが心を占めれば占めるほど、強ければ強いほどサタンの能力は引きあがる。数倍どころではなく、数十倍以上。下手すれば、数百倍にまで。
また、エネルギーも同様。
霊力? 祈力?
怒りの神性が溢れている今、そんなもの必要ない。
天獄界の時間の流れは地球よりも十倍近く早く流れる。また、天獄界と地球が繋がる前に、父上――元邪神は天獄界を捨てていた。
地球の年月で数千年から数万年。天獄界では十万年近く。
サタンは怒りを抱き続けていたのだ。憎しみ続けていたのだ。
故に、その怒りはそこらの神が宿す神性とは桁違いの力を持っていた。
その力の覇気に少しばかり冷や汗を掻きながらも、空中に立つ直樹と大輔は下にいるヘレナ達を見やる。
再会を喜ぶ事もなく、淡々と告げる。
「アイツはここで殺す。雪。ヘレナを支えてくれ。ヘレナの言葉に従ってくれ。ヘレナ、悪い」
「……分かりました!」
「……大丈夫」
雪は通じ合っている直樹とヘレナに少し嫉妬し、その嫉妬している自分に嫌悪する。
だが、それも一瞬。直ぐに力強く直樹に頷く。
また、意識が未だにはっきりとしていないヘレナは力なく直樹の謝罪に首を横に振った。
それでも直樹の顔を見て強く安堵し、強い光をその美しい虹色の瞳に湛えた。今やるべきことを絶対に成し遂げると。
「でも、保険は残す。だから、杏。あと少しだけ頑張って。それとイザベラ。世界干渉防止の幻想具創造と、そこの三つの異世界転移幻想具の効率化と、そこに書いてある幻想具を創って」
「分かったッ!」
「分かったわッッ!!」
煌々と燃える球体――炎魔王の球体から変換するエネルギー量に魂魄と肉体が追いつかず、既に杏はボロボロ。数分前の高揚感などどこかに消え去り、苦痛だけが杏を支配していた。
だが、杏はそれでも大輔の言葉に喜々と頷き、残る活力をふり絞り炎魔王の球体から放出されるエネルギーを魔空結晶に注ぐ。
イザベラは虚空から落ちてきたいくつかの鉱石と大輔の超高性能スマホを受け取ると同時に、自分の目の前に散らばる異世界転移の幻想具に気が付く。
それらを強く握りながらも、イザベラは杏に負けんばかりに満面の笑みで大輔に頷いた。
そして直樹は翔から受け取った結晶から発動に必要な魔力を引き出し、“天元突破[極越]”をもう一度発動。
それはまるでサタンに勝るとも劣らない覇気を放っていて、
「五分で片をつける」
そんな言葉を大輔に吐くと共に、時間すらも置き去りにしてサタンに向かって駆ける。
絶無。
自分の存在を書き換え、世界の認識からも逃れた直樹は時間と空間の狭間を渡り跳びながら、何度もサタンを認識の埒外から切り刻む。
それでもサタンは赫い光を爆発させて自身の知覚能力を向上。直樹の隠形を見抜き、裏を掻いて圧倒的な赫い光の拳を幾度も放つ。
それにダメージを負いながらも直樹は対応。
更に隠形し、またわざと自身の気配を増幅させる事によってサタンの認識を攪乱する。
暗殺と怒りの暴力が交じり合い、壮絶すらも霞む戦いが繰り広げられる。
それを“天心眼”や“黒華眼”、“星泉眼”を発動させた瞳で静かに見つめていた大輔は、翔から受け取った結晶から発動に必要な魔力を引き出し、“天元突破[極越]”を発動させる。
「開け」
大輔の背後に金茶色の門が現れ、開く。
そこから這い出てくるは、死神の集団。冥土の慈悲。
力を取り戻した大輔によって、即座に改造された冥土たちは数十分前とは比べものにならない力を放っていた。
冥土たちを背後に侍らせ、漆黒の魔力を纏った冥土が大輔の前に恭しく跪く。
「サポートしろ」
「かしこまりました、創造主様」
大輔の端的な命令に、命ありし人形となった冥土が静かに、それでいて喜々と大輔にカーテシーをする。遅れて、冥土たちが大輔にカーテシーする。
そして、冥土の慈悲は動き出す。
サタンと戦う直樹をサポートするように、黒羽根を旋回させ、超重力に転移門。多種多様な魔法弾。
サタンの動きを妨害したり、また直樹が致命傷を負いそうになったら庇う。
また、それだけでなく全百一機がサタンの全てを詳らかにするかの如く、一秒間に何万と黒の瞳を瞬かせるのだ。
それは、大輔と同期していた。
「“天心眼[天智]”・“星泉眼[叡智]”」
静謐な祈りの如く響き渡ったその言葉と共に、金茶色の幾何学模様が無数に大輔の周囲に展開された。
それは神が創り上げたかのように複雑で緻密に交わり、ゆっくりと組み上がる。
神の全てを詳らかにする知覚領域が創られた。
その中心に佇む大輔は左手で眼鏡をクイッとすると、右手の掌に膨大な魔力を集める。金茶色に輝く。
ゆっくり、ゆっくり、金茶の魔力が渦巻く。
「“淵源魔法[創造魔法]”・“錬金術”――〝万物転変〟」
極限に集中した大輔が静かに呟けば、右手の掌に渦巻いていた膨大な魔力が圧倒的な存在感を放つ金茶色の鉱物へと変わる。
〝万物転変〟。あらゆる物体、エネルギーを等価交換として自由自在に変換する魔法能力混合技。
今、大輔は神に迫る鉱物を握りしめてる。
二分経過。
「“錬金術[技匠]”・“想像付与[天賦恩寵]”――オーバー」
大輔から更に金茶色の魔力が噴き上がる。
だが、それでも魔力が足りないのか、大輔は杏が炎魔王の球体から変換した魔祈力が溜め込まれている魔空結晶から、魔力だけを抜き出して足りない分を補充する。
魔空結晶から白炎の魔力が天衝くように溢れ、大輔の金茶色の魔力に交わり、染め上げられていた。
それは[天智]と[叡智]による知覚領域にぶつかるとダイヤモンドダストの如く散って輝き、包み込んでいく。
そして、それは右手で握りしめる金茶色の鉱物をも包み込み、昇華していく。
「錬金」
金茶色の鉱物が変化する。蠢き、煌めき、ゆっくりと形を変えていく。
やがて、それは金茶色の刀となった。
鍔もない。柄もシンプル。合理を突き詰め、無駄を無くした精巧な刀。刀身は光り輝く。
「想像」
ぶわりと、再び大輔の体から金茶色の魔力が噴き上がる。
同時に大輔の周囲に展開されていた複雑怪奇な幾何学模様が歯車の如く廻りだし、大輔が噴き上げた金茶色の魔力に向かってゆっくりと収束していく。
複雑怪奇な幾何学模様が金茶色の魔力に収束しきった瞬間、漲溢した金茶の魔力が圧縮。
一滴の金茶色の雫となり、大輔の前に落ちてくる。
「付与」
そして大輔の厳かな声音が響けば、金茶色の雫が金茶色の刀に落ちた。
「創造完了」
それは神秘だった。
まるで宇宙の誕生を見ているかの如く、美しく素晴らしく言葉や感情さえもが超越する光景だった。
その光景の中心――金茶色の刀を大輔が握りしめた。
同時に大輔の魔力が残りわずかになったせいで、冥土の慈悲への魔力供給が難しくなる。
大輔は魔力が足らず機能が停止した冥土の慈悲を“収納庫”にぶち込む。
四分経過。
「一分も余らせたよッ!」
サタンと乱舞する直樹へと投擲した。
「もっと早くても良かったんだぞ!」
パシリッ!
幻斬と血斬をサタンの両腕に刺した直樹は金茶色の刀をキャッチする。
気炎を噴き上げながら両腕に刺さった幻斬と血斬を抜き去ったサタンに、直樹は嗤う。
「よう、神。最後の勧告だ。今すぐ抵抗をやめろ。それなら、女神が来るまで殺すのは待ってやる。約束だからな」
「アアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!」
言葉すら発することができないこと、サタンは怒り狂っていた。
サタンは獣の如き憤怒の雄叫びを響かせた。
空間衝撃波と重力波が混じった赫い光がサタンから吹き荒れ、直樹を襲う。
しかし、直樹は眉一つ変えず金茶色の刀を横に構えた。
「残念だ」
「ガアアアアァアァァッァァッッッッッッッ!!!!!」
直樹を刀を構えたまま、疾駆する。サタンも猛り狂いながら、轟々と直樹へ向かって突撃する。
そして両者が接近した刹那。光も時もない狭間。
「“淵源魔法[生命魔法]”・“暗殺術[極殺]”――」
世界の深淵に潜む闇の如く、どこまでも澄み切っていて果てのない漆黒の魔力が金茶色の刀に浸透した。
神性を持つ存在は不滅だ。
だが、より正確にいえば神性が不滅なのだ。付随してその神性を宿す存在も不滅になる。
神殺しとはいわば、その不滅を滅するということ。矛盾を御し、克服するということ。
そしてまた、異世界を支配していた邪神は世界の真理に最も近い存在の一人だった。故に、ある程度自由に神性を獲得する事が可能で、またいくつもの神性を内包していた存在だった。
通常の神よりも圧倒的な力を持った存在だったのだ。
つまりだ。
異世界において、神を殺すという矛盾を御し克服した存在がいた。圧倒的な神である邪神が宿したいくつもの神性を殺した存在がいた。
愛する女性のために、世界の法則すらも殺した男がいたのである。
「〝神殺し〟」
直樹だ。
ヘレナの神性を殺すためだけに、直樹は〝神殺し〟を編み出した。
だが、世界が定めた絶対の法則を殺すのだ。世界そのものが拒絶反応を示し、その〝神殺し〟を否定しようとする。消そうとする。
だから、大輔がいた。
大輔が創り出した金茶色の刀は、〝神殺し〟への世界からの攻撃を防ぎ、安定的に定着させるための幻想具。また、殺す神の神性と魂魄を殺すのに特化した幻想具。
死滅の神刀。
故に〝神殺し〟を纏った死滅の神刀がサタンの首を撥ねた瞬間、
「ガ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッッッッッッッ!!!」
サタンが怒りとも苦しみとも付かない咆哮を響かせる。
赫い光が点滅し、散っていく。
また、それと示し合わすように〝神殺し〟の力と世界の拒絶に耐えられなくなった死滅の神刀がホロホロと崩れ去っていく。
五分経過。“天元突破[極越]”、消滅。
そして、だがッッ!!
「余はッッッッッッッッッ!!!!!!!!」
十万年以上も憤懣に生きてきた悪魔の執念は凄まじい。
神性を失ってもなお、猛り狂い――
「父上を殺すのだッッッッッッ!!!!」
祈力にすらも頼らず、新に赫い光を得た。
膨れ上がるサタンの赫い光。やがてサタンは人型すらも保たなくなり、蠢く赫い光のナニかになる。
それは混沌の妄執にも似ていて、デジールとリシカの末路の姿にも似ていて。
つまり、とても悍ましい肉塊のような姿となった。無数の触手をおどろおどろしく蠢かせる存在となった。
「コロスコロスコロスコロスッッッッッッッ!!!!!!」
暴走し、誰も御することのできない怒りの神。
〝神殺し〟を宿した死滅の神刀はもうない。直樹に〝神殺し〟を再び発動する力ももうない。
だがしかしッッッ!!!!
「ナオキッッッッ!!」
「直樹さんッッッ!!」
桜吹雪に包まれた雪が抱えるヘレナ。
手に握られているは、ヘレナが肌身離さず身に着けていた影のネックレス。ヘレナの神性に当てられても、消えなかった直樹からの贈り物。
ヘレナがその影のネックレスを直樹に投げる。
“天元突破[極越]”の反動で意識を朦朧とさせながらも、直樹は確かにその影のネックレスを掴む。
握りしめ、残り滓の魔力を注ぐ。
そして直樹が施していた世界すらも欺く偽装が解けた。
それは、
「ユルサヌユルサヌユルサヌユルサヌッッッッッッ!!!!!」
ヘレナの神性を殺すための〝神殺し〟。
大輔の力も借りずに、直樹だけが作りあげた[影魔]。
原初の神を殺すそれは、どんな神だって殺せる力を有する。
直樹が握りしめる影のネックレス――[影魔]モード・〝神殺し〟が短刀へと変化する。
「コロスッッッッ!!!!」
直樹が握りしめる[影魔]モード・〝神殺し〟に怒りの神は激昂。赫い光の雷が直樹に向かって放たれる。
意識を朦朧とさせる直樹にそれを防ぐ術はない。
が、
「絶対不変ッッッ!!!」
雪の桜吹雪によって怒りの神と直樹の間に割って入ったヘレナが、その赫い光の雷を打ち消す。神性を無理やり使っていたせいか、ヘレナは意識を失う。
「直樹さんッッッ!!!」
「助かる……ぜ」
もう空中を跳ぶ力もない直樹の代わりに、意識を失ったヘレナを担いだ雪が桜吹雪で直樹を飛ばす。守護するように直樹の周囲を舞い散る桜吹雪は、そのまま直樹を加速させる。
また、[影魔]モード・〝神殺し〟に掛かっていた偽装を解いたせいで世界がそれに気が付き、崩壊させようとしていた。大輔が創った幻想具ではないから、その崩壊に対抗する力は[影魔]モード・〝神殺し〟にはない。
だから、雪は桜吹雪でその崩壊を封じる。抵抗するように、[影魔]モード・〝神殺し〟の周囲に桜の花弁が舞う。
「コロスコロスコロスッッッッッ!!!」
それでも怒りの神はまだ動ける。もう一度、赫い光の雷を放とうとする。
だが、
「僕にも見せ場をちょうだい」
「ッッッッッッッ!!!」
“天元突破[極越]”で霞む意識のなか、大輔は封杭を弾丸に錬金。イーラ・グロブスに装填し、撃った。
封杭の弾丸に貫かれた怒りの神は、動けなくなる。肉体も魂魄も全てが一瞬だけ固定される。
そして、
「終わりだ」
「余ハ父上ヲコロすッッッッ―――」
直樹は握りしめる[影魔]モード・〝神殺し〟を怒りの神に突き刺した。
同時に、怒りの神が赫い光の散りとなって崩れ落ち、消え去った。消滅した。
怒りの神が死んだ。サタンも死んだ。
そしてまた、守るように周囲に散っていた雪の桜の花弁も消滅し、[影魔]モード・〝神殺し〟も世界の拒絶反応によって崩壊した。
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公開可能情報
[創造魔法]:世界の根源に干渉する魔法の一つ。あらゆる物質を創造する魔法。その物質に限りはなく、行使者の想像のまま。また、あらゆる物質に対して想像した効力を付与したり、既存の物質の構成を変えて新たな物質を創造したりもできる。
〝万物転変〟:創造魔法と“錬金術”の混合技。魔力を鉱物に。逆に鉱物を魔力に変換する事のできる魔法。それは完全なる等価交換。E=mc^2のようなもの。世界の極地にいる技。
[生命魔法]:世界の根源に干渉する魔法の一つ。魂魄を持つあらゆる生命に干渉する魔法。ティーガンの生命に干渉する権能と効力は同じもの。
[極殺]:“暗殺術”の極みの技巧の一つ。殺すこと極めた。
〝神殺し〟:生命魔法と[極殺]の混合技。神を殺す技。ヘレナの神性を殺すためだけに、直樹が創り上げた技でもある。ただ、色々あって一番最初に使ったのが邪神だった。
死滅の神刀:直樹の〝神殺し〟を安定させ、世界からの拒絶から守る幻想具。また、殺す神に合わせて込められている力が変わっており、弱い神であれば〝神殺し〟がなくとも、死滅の神刀だけで問題なく神を殺せる。世界で最も堅く粘り強く鋭い刀。
[影魔]モード・〝神殺し〟:直樹がヘレナの神性を殺すために最初に創り上げた[影魔]。〝神殺し〟が付与されており、世界からの拒絶を防ぐために世界の認識も欺く偽装が施されていた。直樹がその偽装を解かないと〝神殺し〟は発動せず、邪神戦前にヘレナの神性を殺す機会を得られなかったため、ヘレナがずっとそれを持っていた。ぶっちゃけ、直樹は婚約指輪を送ったつもりでもあった。
その際、直樹と大輔は邪神を殺すと決めていたが、翔を筆頭に慎太郎や女神がそれを拒んでいた。
翔はまだ邪神とキチンと話し合っていなかったから。慎太郎はそもそも食料を得る以外の殺生などしないから。
ただ、この二人は絶対に邪神を殺さない事を決意していたわけではない。
翔は話し合いが上手くいかなければ、封印、最悪殺す事を念頭に置いていたし、慎太郎は助けを求められなければ癒すことはしないと宣言していた。
ただ、女神はそうではなかった。
結局、女神は直樹たちによって神性を殺されて力を失った元邪神を庇った。殺すのはやめてくれと。生きたまま、償いをさせてくれと。
その責任は自分が全て持つから。
女神はお人好しだった。その言葉一つで片付くほど、シンプルにお人好しだったのだ。
だからこそ、邪神に異世界を乗っ取られて封印されていたのだが……
兎も角、翔から聞いた話では、邪神は色々な星や世界で実験と称して色々な存在に迷惑をかけてため、女神と一緒に各世界の神や被害者たちに土下座しまわっているらしいのだ。
それを思い出した直樹と大輔は溜息を吐くと同時に、異世界の肉体と融合したため全快しどころか、増大した力を爆発させる。
「もう一度言うぞ。お前の父上とやらは生きてる。俺らは関係ない。今、手を引くなら殺しはしない」
「最近忘れがちだけど、僕たち理性的で善良的な一般人だしさ」
「ッ、ふざけるなッッッッ!!!」
雪たちに向かってゆっくりと赫い光を纏った拳を振り下ろしていたサタンが、直樹と大輔によって蹴り飛ばされた。
空間遮断結界をぶち抜き吹き飛ばされたサタンは、だが赫い光を爆発させると激怒する。赫い瞳を燃やし、赫い短髪を荒ぶらせる。烈火の如く猛る。
それは神性の力。
怒りが心を占めれば占めるほど、強ければ強いほどサタンの能力は引きあがる。数倍どころではなく、数十倍以上。下手すれば、数百倍にまで。
また、エネルギーも同様。
霊力? 祈力?
怒りの神性が溢れている今、そんなもの必要ない。
天獄界の時間の流れは地球よりも十倍近く早く流れる。また、天獄界と地球が繋がる前に、父上――元邪神は天獄界を捨てていた。
地球の年月で数千年から数万年。天獄界では十万年近く。
サタンは怒りを抱き続けていたのだ。憎しみ続けていたのだ。
故に、その怒りはそこらの神が宿す神性とは桁違いの力を持っていた。
その力の覇気に少しばかり冷や汗を掻きながらも、空中に立つ直樹と大輔は下にいるヘレナ達を見やる。
再会を喜ぶ事もなく、淡々と告げる。
「アイツはここで殺す。雪。ヘレナを支えてくれ。ヘレナの言葉に従ってくれ。ヘレナ、悪い」
「……分かりました!」
「……大丈夫」
雪は通じ合っている直樹とヘレナに少し嫉妬し、その嫉妬している自分に嫌悪する。
だが、それも一瞬。直ぐに力強く直樹に頷く。
また、意識が未だにはっきりとしていないヘレナは力なく直樹の謝罪に首を横に振った。
それでも直樹の顔を見て強く安堵し、強い光をその美しい虹色の瞳に湛えた。今やるべきことを絶対に成し遂げると。
「でも、保険は残す。だから、杏。あと少しだけ頑張って。それとイザベラ。世界干渉防止の幻想具創造と、そこの三つの異世界転移幻想具の効率化と、そこに書いてある幻想具を創って」
「分かったッ!」
「分かったわッッ!!」
煌々と燃える球体――炎魔王の球体から変換するエネルギー量に魂魄と肉体が追いつかず、既に杏はボロボロ。数分前の高揚感などどこかに消え去り、苦痛だけが杏を支配していた。
だが、杏はそれでも大輔の言葉に喜々と頷き、残る活力をふり絞り炎魔王の球体から放出されるエネルギーを魔空結晶に注ぐ。
イザベラは虚空から落ちてきたいくつかの鉱石と大輔の超高性能スマホを受け取ると同時に、自分の目の前に散らばる異世界転移の幻想具に気が付く。
それらを強く握りながらも、イザベラは杏に負けんばかりに満面の笑みで大輔に頷いた。
そして直樹は翔から受け取った結晶から発動に必要な魔力を引き出し、“天元突破[極越]”をもう一度発動。
それはまるでサタンに勝るとも劣らない覇気を放っていて、
「五分で片をつける」
そんな言葉を大輔に吐くと共に、時間すらも置き去りにしてサタンに向かって駆ける。
絶無。
自分の存在を書き換え、世界の認識からも逃れた直樹は時間と空間の狭間を渡り跳びながら、何度もサタンを認識の埒外から切り刻む。
それでもサタンは赫い光を爆発させて自身の知覚能力を向上。直樹の隠形を見抜き、裏を掻いて圧倒的な赫い光の拳を幾度も放つ。
それにダメージを負いながらも直樹は対応。
更に隠形し、またわざと自身の気配を増幅させる事によってサタンの認識を攪乱する。
暗殺と怒りの暴力が交じり合い、壮絶すらも霞む戦いが繰り広げられる。
それを“天心眼”や“黒華眼”、“星泉眼”を発動させた瞳で静かに見つめていた大輔は、翔から受け取った結晶から発動に必要な魔力を引き出し、“天元突破[極越]”を発動させる。
「開け」
大輔の背後に金茶色の門が現れ、開く。
そこから這い出てくるは、死神の集団。冥土の慈悲。
力を取り戻した大輔によって、即座に改造された冥土たちは数十分前とは比べものにならない力を放っていた。
冥土たちを背後に侍らせ、漆黒の魔力を纏った冥土が大輔の前に恭しく跪く。
「サポートしろ」
「かしこまりました、創造主様」
大輔の端的な命令に、命ありし人形となった冥土が静かに、それでいて喜々と大輔にカーテシーをする。遅れて、冥土たちが大輔にカーテシーする。
そして、冥土の慈悲は動き出す。
サタンと戦う直樹をサポートするように、黒羽根を旋回させ、超重力に転移門。多種多様な魔法弾。
サタンの動きを妨害したり、また直樹が致命傷を負いそうになったら庇う。
また、それだけでなく全百一機がサタンの全てを詳らかにするかの如く、一秒間に何万と黒の瞳を瞬かせるのだ。
それは、大輔と同期していた。
「“天心眼[天智]”・“星泉眼[叡智]”」
静謐な祈りの如く響き渡ったその言葉と共に、金茶色の幾何学模様が無数に大輔の周囲に展開された。
それは神が創り上げたかのように複雑で緻密に交わり、ゆっくりと組み上がる。
神の全てを詳らかにする知覚領域が創られた。
その中心に佇む大輔は左手で眼鏡をクイッとすると、右手の掌に膨大な魔力を集める。金茶色に輝く。
ゆっくり、ゆっくり、金茶の魔力が渦巻く。
「“淵源魔法[創造魔法]”・“錬金術”――〝万物転変〟」
極限に集中した大輔が静かに呟けば、右手の掌に渦巻いていた膨大な魔力が圧倒的な存在感を放つ金茶色の鉱物へと変わる。
〝万物転変〟。あらゆる物体、エネルギーを等価交換として自由自在に変換する魔法能力混合技。
今、大輔は神に迫る鉱物を握りしめてる。
二分経過。
「“錬金術[技匠]”・“想像付与[天賦恩寵]”――オーバー」
大輔から更に金茶色の魔力が噴き上がる。
だが、それでも魔力が足りないのか、大輔は杏が炎魔王の球体から変換した魔祈力が溜め込まれている魔空結晶から、魔力だけを抜き出して足りない分を補充する。
魔空結晶から白炎の魔力が天衝くように溢れ、大輔の金茶色の魔力に交わり、染め上げられていた。
それは[天智]と[叡智]による知覚領域にぶつかるとダイヤモンドダストの如く散って輝き、包み込んでいく。
そして、それは右手で握りしめる金茶色の鉱物をも包み込み、昇華していく。
「錬金」
金茶色の鉱物が変化する。蠢き、煌めき、ゆっくりと形を変えていく。
やがて、それは金茶色の刀となった。
鍔もない。柄もシンプル。合理を突き詰め、無駄を無くした精巧な刀。刀身は光り輝く。
「想像」
ぶわりと、再び大輔の体から金茶色の魔力が噴き上がる。
同時に大輔の周囲に展開されていた複雑怪奇な幾何学模様が歯車の如く廻りだし、大輔が噴き上げた金茶色の魔力に向かってゆっくりと収束していく。
複雑怪奇な幾何学模様が金茶色の魔力に収束しきった瞬間、漲溢した金茶の魔力が圧縮。
一滴の金茶色の雫となり、大輔の前に落ちてくる。
「付与」
そして大輔の厳かな声音が響けば、金茶色の雫が金茶色の刀に落ちた。
「創造完了」
それは神秘だった。
まるで宇宙の誕生を見ているかの如く、美しく素晴らしく言葉や感情さえもが超越する光景だった。
その光景の中心――金茶色の刀を大輔が握りしめた。
同時に大輔の魔力が残りわずかになったせいで、冥土の慈悲への魔力供給が難しくなる。
大輔は魔力が足らず機能が停止した冥土の慈悲を“収納庫”にぶち込む。
四分経過。
「一分も余らせたよッ!」
サタンと乱舞する直樹へと投擲した。
「もっと早くても良かったんだぞ!」
パシリッ!
幻斬と血斬をサタンの両腕に刺した直樹は金茶色の刀をキャッチする。
気炎を噴き上げながら両腕に刺さった幻斬と血斬を抜き去ったサタンに、直樹は嗤う。
「よう、神。最後の勧告だ。今すぐ抵抗をやめろ。それなら、女神が来るまで殺すのは待ってやる。約束だからな」
「アアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!」
言葉すら発することができないこと、サタンは怒り狂っていた。
サタンは獣の如き憤怒の雄叫びを響かせた。
空間衝撃波と重力波が混じった赫い光がサタンから吹き荒れ、直樹を襲う。
しかし、直樹は眉一つ変えず金茶色の刀を横に構えた。
「残念だ」
「ガアアアアァアァァッァァッッッッッッッ!!!!!」
直樹を刀を構えたまま、疾駆する。サタンも猛り狂いながら、轟々と直樹へ向かって突撃する。
そして両者が接近した刹那。光も時もない狭間。
「“淵源魔法[生命魔法]”・“暗殺術[極殺]”――」
世界の深淵に潜む闇の如く、どこまでも澄み切っていて果てのない漆黒の魔力が金茶色の刀に浸透した。
神性を持つ存在は不滅だ。
だが、より正確にいえば神性が不滅なのだ。付随してその神性を宿す存在も不滅になる。
神殺しとはいわば、その不滅を滅するということ。矛盾を御し、克服するということ。
そしてまた、異世界を支配していた邪神は世界の真理に最も近い存在の一人だった。故に、ある程度自由に神性を獲得する事が可能で、またいくつもの神性を内包していた存在だった。
通常の神よりも圧倒的な力を持った存在だったのだ。
つまりだ。
異世界において、神を殺すという矛盾を御し克服した存在がいた。圧倒的な神である邪神が宿したいくつもの神性を殺した存在がいた。
愛する女性のために、世界の法則すらも殺した男がいたのである。
「〝神殺し〟」
直樹だ。
ヘレナの神性を殺すためだけに、直樹は〝神殺し〟を編み出した。
だが、世界が定めた絶対の法則を殺すのだ。世界そのものが拒絶反応を示し、その〝神殺し〟を否定しようとする。消そうとする。
だから、大輔がいた。
大輔が創り出した金茶色の刀は、〝神殺し〟への世界からの攻撃を防ぎ、安定的に定着させるための幻想具。また、殺す神の神性と魂魄を殺すのに特化した幻想具。
死滅の神刀。
故に〝神殺し〟を纏った死滅の神刀がサタンの首を撥ねた瞬間、
「ガ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッッッッッッッ!!!」
サタンが怒りとも苦しみとも付かない咆哮を響かせる。
赫い光が点滅し、散っていく。
また、それと示し合わすように〝神殺し〟の力と世界の拒絶に耐えられなくなった死滅の神刀がホロホロと崩れ去っていく。
五分経過。“天元突破[極越]”、消滅。
そして、だがッッ!!
「余はッッッッッッッッッ!!!!!!!!」
十万年以上も憤懣に生きてきた悪魔の執念は凄まじい。
神性を失ってもなお、猛り狂い――
「父上を殺すのだッッッッッッ!!!!」
祈力にすらも頼らず、新に赫い光を得た。
膨れ上がるサタンの赫い光。やがてサタンは人型すらも保たなくなり、蠢く赫い光のナニかになる。
それは混沌の妄執にも似ていて、デジールとリシカの末路の姿にも似ていて。
つまり、とても悍ましい肉塊のような姿となった。無数の触手をおどろおどろしく蠢かせる存在となった。
「コロスコロスコロスコロスッッッッッッッ!!!!!!」
暴走し、誰も御することのできない怒りの神。
〝神殺し〟を宿した死滅の神刀はもうない。直樹に〝神殺し〟を再び発動する力ももうない。
だがしかしッッッ!!!!
「ナオキッッッッ!!」
「直樹さんッッッ!!」
桜吹雪に包まれた雪が抱えるヘレナ。
手に握られているは、ヘレナが肌身離さず身に着けていた影のネックレス。ヘレナの神性に当てられても、消えなかった直樹からの贈り物。
ヘレナがその影のネックレスを直樹に投げる。
“天元突破[極越]”の反動で意識を朦朧とさせながらも、直樹は確かにその影のネックレスを掴む。
握りしめ、残り滓の魔力を注ぐ。
そして直樹が施していた世界すらも欺く偽装が解けた。
それは、
「ユルサヌユルサヌユルサヌユルサヌッッッッッッ!!!!!」
ヘレナの神性を殺すための〝神殺し〟。
大輔の力も借りずに、直樹だけが作りあげた[影魔]。
原初の神を殺すそれは、どんな神だって殺せる力を有する。
直樹が握りしめる影のネックレス――[影魔]モード・〝神殺し〟が短刀へと変化する。
「コロスッッッッ!!!!」
直樹が握りしめる[影魔]モード・〝神殺し〟に怒りの神は激昂。赫い光の雷が直樹に向かって放たれる。
意識を朦朧とさせる直樹にそれを防ぐ術はない。
が、
「絶対不変ッッッ!!!」
雪の桜吹雪によって怒りの神と直樹の間に割って入ったヘレナが、その赫い光の雷を打ち消す。神性を無理やり使っていたせいか、ヘレナは意識を失う。
「直樹さんッッッ!!!」
「助かる……ぜ」
もう空中を跳ぶ力もない直樹の代わりに、意識を失ったヘレナを担いだ雪が桜吹雪で直樹を飛ばす。守護するように直樹の周囲を舞い散る桜吹雪は、そのまま直樹を加速させる。
また、[影魔]モード・〝神殺し〟に掛かっていた偽装を解いたせいで世界がそれに気が付き、崩壊させようとしていた。大輔が創った幻想具ではないから、その崩壊に対抗する力は[影魔]モード・〝神殺し〟にはない。
だから、雪は桜吹雪でその崩壊を封じる。抵抗するように、[影魔]モード・〝神殺し〟の周囲に桜の花弁が舞う。
「コロスコロスコロスッッッッッ!!!」
それでも怒りの神はまだ動ける。もう一度、赫い光の雷を放とうとする。
だが、
「僕にも見せ場をちょうだい」
「ッッッッッッッ!!!」
“天元突破[極越]”で霞む意識のなか、大輔は封杭を弾丸に錬金。イーラ・グロブスに装填し、撃った。
封杭の弾丸に貫かれた怒りの神は、動けなくなる。肉体も魂魄も全てが一瞬だけ固定される。
そして、
「終わりだ」
「余ハ父上ヲコロすッッッッ―――」
直樹は握りしめる[影魔]モード・〝神殺し〟を怒りの神に突き刺した。
同時に、怒りの神が赫い光の散りとなって崩れ落ち、消え去った。消滅した。
怒りの神が死んだ。サタンも死んだ。
そしてまた、守るように周囲に散っていた雪の桜の花弁も消滅し、[影魔]モード・〝神殺し〟も世界の拒絶反応によって崩壊した。
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公開可能情報
[創造魔法]:世界の根源に干渉する魔法の一つ。あらゆる物質を創造する魔法。その物質に限りはなく、行使者の想像のまま。また、あらゆる物質に対して想像した効力を付与したり、既存の物質の構成を変えて新たな物質を創造したりもできる。
〝万物転変〟:創造魔法と“錬金術”の混合技。魔力を鉱物に。逆に鉱物を魔力に変換する事のできる魔法。それは完全なる等価交換。E=mc^2のようなもの。世界の極地にいる技。
[生命魔法]:世界の根源に干渉する魔法の一つ。魂魄を持つあらゆる生命に干渉する魔法。ティーガンの生命に干渉する権能と効力は同じもの。
[極殺]:“暗殺術”の極みの技巧の一つ。殺すこと極めた。
〝神殺し〟:生命魔法と[極殺]の混合技。神を殺す技。ヘレナの神性を殺すためだけに、直樹が創り上げた技でもある。ただ、色々あって一番最初に使ったのが邪神だった。
死滅の神刀:直樹の〝神殺し〟を安定させ、世界からの拒絶から守る幻想具。また、殺す神に合わせて込められている力が変わっており、弱い神であれば〝神殺し〟がなくとも、死滅の神刀だけで問題なく神を殺せる。世界で最も堅く粘り強く鋭い刀。
[影魔]モード・〝神殺し〟:直樹がヘレナの神性を殺すために最初に創り上げた[影魔]。〝神殺し〟が付与されており、世界からの拒絶を防ぐために世界の認識も欺く偽装が施されていた。直樹がその偽装を解かないと〝神殺し〟は発動せず、邪神戦前にヘレナの神性を殺す機会を得られなかったため、ヘレナがずっとそれを持っていた。ぶっちゃけ、直樹は婚約指輪を送ったつもりでもあった。
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