十三話 長かった
ー/ー 意識を取り戻した雪と杏。
振り返らず、けれど確かに二人の言葉を聞いた直樹と大輔はニィッと嗤う。二つ目の突破口が見えたと。
「杏ッ。火炎魔力変換できるよね! 溜めてッ!」
「雪ッ。ヘレナとイザベラさんの回復を頼む!」
大輔と直樹はそういいながら“収納庫”を発動させ、取り出したそれらを転移で杏と雪の目の前に落とす。
転門鍵、闇路の導灯、拓道の扉柄、オムニス・プラエセンス、劣化版オムニス・プラエセンス、煌々と燃える球体、魔空結晶。
「火炎魔力……ああ、分かった!」
目が覚めたばかりでぼんやりとしていた杏は、しかし大輔のその信頼の籠った言葉と、その煌々と燃える球体と魔空結晶を見て、覚醒し確信する。
強く大輔に頷く。
「え、はいッ! 回復すれば……えっ!? 直樹さん今――」
雪は未だに目を覚ましていないヘレナとイザベラに気が付き、≪癒し≫を施そうとして、一瞬遅れて直樹が自分をなんて呼んだか気が付き、慌てる。
「ッ、杏さんッ!?」
しかし、隣にいた杏が燃えたため、その言葉は消えた。
「大丈夫だ。雪。それよりこれを使えッ! これならいけるッ!」
「え……はいっ!」
煌々と燃える球体を握りしめ、業火に包まれた杏が慌てる雪をなだめるように言った。
雪は驚いたが、それでも杏が大丈夫だと分かり、今は自分のやるべき事だけに集中するよう表情を変える。桜の花弁を散らし、ヘレナとイザベラを回復させる。
それでもイザベラは兎も角、ヘレナを≪癒し≫で回復させるのは難しい。
だが、今、それを力技でどうにかする事ができていた。
それは、業火に包まれた杏が魔空結晶に注ぐ高純度の魔力と祈力が交じり合ったエネルギー。
「凄い、凄いぞ!」
煌々と燃える球体は、異世界にいた炎の魔王の心臓。膨大な炎エネルギーを放出する球体。
しかしそれの球体が放出する炎は、生物しか燃やさないのだ。いや、正確には近くに生物がいないと膨大な炎エネルギーを発しないのだ。
そしてまた、近付く生物の魂魄までも燃やしてしまう球体だったのだ。
エクスィナを使って魔力変換しようにも、エクスィナの幻喰みに喰われた先は、生物の腹の中ではなく、能力の腹の中。
つまり、エクスィナの幻喰みで喰った瞬間、その球体は高密度のエネルギー体からただの球体へと早変わりしてしまう。
そのため魔力変換するためのエネルギー体としても役に立たず、“収納庫”の肥しになっていたのだが……
「ハハハッ。大輔、なんでこれを渡してくれなかったのだッ!!」
球体が放出する業火の炎は杏を殺すに至らず、むしろ回復させていく。その球体が放出する炎を全て自分へ向くように操作し、更に燃える杏は高揚する。
なんせ、膨大なエネルギーが横溢しているからだ。祈力を得た時よりも数倍、いや十倍近い高いエネルギーが杏の体に宿っていた。
高揚しない方が無理だろう。
因みに、杏は過剰なエネルギーを身に宿してしまったせいで、魂魄がボロボロになり、慎太郎などといったチート組の回復があっても数週間近く寝込むことになるのだが……
どちらにしろ、大皇日女から得た炎の権能と祈力一葉から得た炎の祈力も相まって、杏は超高温の炎を魔力と祈力の混合エネルギーに変換していた。
それを魔空結晶に注いでいた。
「クッ」
その魔空結晶に注がれた魔力と祈力の混合エネルギー――魔祈力を使い、雪はイザベラとヘレナの回復をしていた。
配分はヘレナが多い。
杏が得る祈力の性質が炎であるならば、雪が得る祈力の性質は聖。浄化と癒しを司る祈力。
魔祈力を一度体内に取り込み、己に適応するように変質。
雪は集中に顔を歪めながらも、その癒しの力をもってしてヘレナの神性を無理やり弾き、回復しようとする。
マモンとの戦いで、ヘレナの神性の性質を知れたのが良かったのか、徐々にだが着実にヘレナが回復し始めていた。
そしてそれを背後に感じながら、
「“天元突破[極越]”ッッッ」
「“天元突破[極越]”ッッッ」
直樹と大輔は魔力を噴き上げる。
漆黒の魔力を噴き上げた直樹は、されど一瞬で無になる。認識の埒外へと消える。
「ッ。どこへ――」
直樹が目の前から消えたことにサタンは惑い、刹那、神としての本能で感じた危機に視線を転じる。
そこには直樹。
「シッ」
「グッ!!」
左側面。這う様にサタンの懐へ潜り込んだ直樹は、神速よりも早い手首の返しで、逆さに持った幻斬をサタンへ振り上げる。幻斬にはサタンの魂魄を斬る魔力が纏っていた。
サタンは霊力を使っていた存在だった。魂魄への攻撃に対しては過剰に防御してしまう。
しかも、サタンは成りたて故に不滅としての経験が浅い。
本当は肉を切らせて骨を切る戦法を取るべきだったのに、必要ない防御をしてしまう。
体を左にひねって直樹を正面に捉えたサタンは、赫い光を纏わせた右手で直樹の幻斬を弾いた。
が、反撃する暇はない。
「頑張って避けてね」
「なッッッ!!??」
直樹の“空転眼”によって、大輔が直樹と入れ替わり転移。それは神の領域にいるサタンですら為せない、時間のずれが一切ない転移。
尽きた弾丸を全て補充し終えた大輔の右手には、ドナーレーゲン。時間のずれがない転移に対応できていないサタンの正面に銃口を向ける。
にこやかに大輔が笑い、金茶色の魔力をドナーレーゲンにチャージオンッ!
空間をすらも揺らす轟音で、それでいて軽快な回転音を響かせたドナーレーゲンからサタンへ向かって、毎秒百発、秒速千五百メートルは優に超える弾丸が降り注ぐ。
しかもご丁寧に弾丸一つ一つが空穿弾であり、また大輔の金茶色の魔力を纏わせていたため、サタンの赫い光による防御をいとも簡単に貫く。
サタンの体に無数の風穴が開く。
が、パッと刹那。赫い光が咲き誇り。
「余は神ぞ」
不滅のサタンは無傷に元通り。しかも、神故に、時と時の狭間にすらも潜り込める。
時と時の狭間に潜り込んだサタンは、ドナーレーゲンを右手に構えたままの大輔に肉薄する。
這うように大輔の右手側に踏み込んだサタンは、赫い光を纏わせた拳を大輔へ振り上げた。
ドナーレーゲンを右手側に構えているのはもとより、時と時の狭間で動くサタン。
大輔の防御が間に合わない――
「それは凄いでちゅね~」
「ッ」
大輔と直樹が再び入れ替わる。
時間が止まるとはすなわち、空間の動きが止まっているということ。時間は空間と酷く密接に関わっているから。
なのに、転移してきた。
つまるところ、直樹の転移は一種の概念なのだ。どんな場所でも自由に行き来するのだ。
“空転眼”を輝かせサタンをからかいながら、直樹は幻斬と血斬をクロス。
サタンの拳とぶつかった瞬間、てこの原理を利用して、幻斬を僅かに下げ、血斬を横へずらす。
すれば、神の一撃とも言えるほどの威力を持った拳が容易く上へ弾かれてしまう。
同時に直樹とサタンが時と時の狭間から追い出され、通常の時を生きた。
その時には大輔も生きている。
「はい、背中ががら空き」
「ッッ――」
大輔が至近距離からサタンの無防備の背中へイーラ・グロブスを神速抜き撃ち。
サタンを銃撃する十二ミリの弾丸は、着弾と同時に空間衝撃波を指向をもって放つ空破弾。
纏う大輔の金茶色の魔力を稲妻のように奔らせながら、サタンに迫る。
「舐めるなッッ!!!」
それでもサタンは吠える。怒りの形相を浮かべ、赫い光を迸らせれば、全てを拒絶するように、サタンの外側へ向かって超重力場が発生。
直樹や大輔、空破弾がサタンから引き離されるように、地面に平行に落ちる。
大輔が自分に落ちてきた空破弾をイーラ・グロブスの銃身で逸らした。ついでに空間衝撃波も金茶色の魔力で弾く。
「これ、二度目か?」
「確か、反転の試練だったよね」
直樹と大輔は足に障壁を張り、地面と平行に立つ。サタンは地面に垂直に立っている。
サタンを中心に全ての生物に作用する斥力が働いているのだ。サタンに近付くほどその斥力は大きくなる。
そしてサタンが動けばその斥力の力場の中心もずれるわけで。
「ッ、きっつッ」
「移動型聖星要塞はまだなのかッ!?」
「まだだよッ!」
サタンが直樹に迫れば、直樹はサタンを中心に働く斥力に強く吹き飛ばされる。
その先にサタンが転移。その転移は直樹の転移と同様、時間のずれがない。直樹の転移を見て学んだのだ。
吹き飛ばされた直樹は巻き戻しされるように再び斥力によって吹き飛ばされる。
しかも、サタンを中心に斥力が働いているため、下というのは直線ではなく円球状。体の向きが少しでも変われば、微妙に落ちる場所がずれる。
それに、サタンがコンマ一秒のずれもない転移をするのに伴って、斥力の力場もコンマ一秒のずれもなく変動する。
それが積み重なり、空間はもとより、重力場が滅茶苦茶になり、最終的には直樹と大輔が四方八方に落ち続けるようになってしまう。
「ハアッ!!」
「ッ、くそッッ!」
その状態でまともに動けるわけもなく、直樹はサタンの拳をもろに喰らう。
それでも高密度の魔力で体を覆っていたおかげで、ダメージはそこまで大きくない。
しかし、斥力の力場もあって思いっきり吹き飛ばされた。
「あ、またずれ――」
「シッ」
「ッッ!!」
大輔はサタンが直樹を殴った瞬間に、不意打ちでイーラ・グロブスとインセクタを抜き打ちする。
しかし、滅茶苦茶な重力場によって、銃弾の軌道がずれる。
一瞬、サタンが大輔の前へと跳ぶ。
赫い光を拳に纏わせ、発動させていた斥力の力場を解除。逆に、大輔にだけ及ぶ自分を中心とした超重力を発生させる。
超重力で引き寄せた大輔をサタンは赫い光を纏った拳で打ち抜いた。
同時に重力を反転。大輔を遠くへと吹き飛ばした。
その先には。
「余の鉄槌だ」
「チッ」
「クソッ」
赫い暴風。触れたら最後、肉体を粉々にするほどの風の刃が無数に踊る嵐。
直樹と大輔がその赫い暴風に飲み込まれた。無残に暴風の刃に切り刻まれたかに思われたが。
「ようやく半分修復完了ッ!」
「こっちも半分補充したぜッ!」
戦術補助多蜂支援機、三万。移動型聖星要塞、二百。[影魔]、二万。
赫い暴風が晴れ、大輔と直樹が最強の軍団を侍らせていた。移動型聖星要塞によって無茶苦茶になった重力場がもとに戻され、サタンの斥力の力場も無効化。
ニィッと直樹と大輔が嗤う。
だから、サタンも嗤う。
「神には天使がいる」
赫い光の天使、十万。能力による力量の差はあるものの、大雑把に考えればそれこそマモンかベルゼブブに迫るほど。
自分こそが本当の神だと言わんばかりに、サタンは圧倒的な力を持つ赫い光の天使を侍らせる。
“天元突破[極越]”のタイムリミット、残り二分。
「ハッ」
「小癪なッ」
赫の天使と影の魔物、兵器が交わる戦場。
直樹は黒の一筋すらも見せず、“隠密隠蔽[薄没]”を筆頭とした隠密系の能力で乱戦の中に隠遁。[影魔]に自身の気配を植え付け、サタンの認識を攪乱しながら、転移を活用してサタンに接近する。
直樹はサタンの首を撥ね、暗殺する。
されどサタンは不滅。神。
蘇り、直樹の体を逆に真っ二つに。
しかし、真っ二つにされた直樹は鼻で笑いながらポフンと音を立てて消えた。[影魔]モード・ドッペルゲンガー。いわば分身。
サタンが歯噛みすると同時に、金茶色の稲妻が百条。四方八方からサタンに迫る。
躍り出るは大輔。
「やったッ!」
「いや、まだだッ!」
イーラ・グロブスとインセクタをガンスピン。でたらめな方向へ金茶色の魔力を纏った弾丸を射出。
そして、でたらめな方向へ射出された弾丸は、各四組の戦術補助多蜂支援機が創り出す転移門を潜り、絶妙タイミングで四方八方からサタンに迫る。
回避されたら、戦術補助多蜂支援機が弾丸を転移させる。
しかも、舞う銃弾は一種だけではない。
指定した対象を追尾し続ける絶避弾。数ミリ秒おきに半径十センチメートル内をランダム転移しながら指定した対象を狙い続ける乱転弾。指定した対象を引き寄せる繰寄弾などといった弾丸。
着弾した対象を錆びつかせる蝕錆弾、腐食させる腐食弾、石化させる石化弾、体感時間を止める終生弾、敵と味方を誤認させる反認弾などといったデバフ弾。
また、空穿弾や空破弾などといった、威力特化の弾丸など、他にも多種多様な弾丸が金茶色の魔力を雷のように迸らせながら、舞うのだ。
よって、過剰にサタンを抹殺しようとする金茶の弾丸の空間が出来上がる。
その空間は数十の移動型聖星要塞によって覆われており、また大輔はその空間内でサタンと乱舞する。
サタンは迫りくる金茶の弾丸を弾き、回避しながら、大輔に向かって殴り蹴りを放つ。
大輔は戦術補助多蜂支援機を遠隔操作しながら、イーラ・グロブスとインセクタを構えてサタンの殴り蹴りを逸らし、至近距離で弾丸を射出する。
大輔は自分にすらも牙を向く金茶の弾丸をイーラ・グロブスとインセクタで逸らし、また時にはわざと喰らってサタンの予知能力を攪乱する。
そして、サタンの急所を的確に防御すら許さず撃ち抜く。
近接銃格闘術。
何度も何度も銃弾に射貫かれて死んで蘇るサタンは歯噛みする。辛い、辛すぎると。
サタンが放つ重力攻撃も空間攻撃も、自分たちを囲う移動型聖星要塞によって即座に無力化される。
転移しようにもその前に妨害される。隠密などで隠れても、大輔の“天心眼[界越真眼]”等によって直ぐに居場所を暴かれる。
この銃弾の嵐のなかで許されるのは、純粋な力。暴力だけ。神の身体能力を利用した近接戦闘だけしか、攻撃手段がない。
そしてまた近接戦闘にも差がある。
サタンは強い。戦闘技術がとても高い。
天獄界の七王の中で誰よりも力と技術を磨いていた。父上を殺すために、牙を研いでいた。
だが、それでもサタンは同等、もしくは格上と戦うための技術が不足している。サタンが強すぎたせいで、いくら努力してもその技術を身に着けるのが難しかったのだ。
だから、今、その差が如実に現れている。
大輔は異世界に転移した際、とても弱かった。常に弱者で、常に挑む側だった。格上との戦いなんて、数えきれないほどしてきた。
“天心眼”と“星泉眼”、“黒華眼”による未来予知や情報把握なども相まって、大輔の粘り強さは異常なのだ。
それは直樹にもある程度言えることで。
「残り四分の一ッ!」
「ぐ、ちょこまかとッ!」
隠遁と転移を繰り返し、赫い光の天使を暗殺。
かと思えば、一瞬だけ大輔が放った弾丸と入れ替わりサタンを幻斬で急襲。
そして直ぐに赫い光の天使と戦っている[影魔]と入れ替わり、遁走。
粘り強さと言うよりはウザいと言った方がいいだろうか。ヒットアンドアウェイ。
急襲するたびに、赫い光の天使の残り数を叫んだりとサタンを挑発するような事ばかり言う。
なのに、入れ替わり転移で直ぐに消え、またその類まぐれなる隠密によって影すらも捉えられない。
サタンの集中力がどんどんと失われ、そのたびに大輔の銃弾によって撃ち抜かれ、何度も殺されては蘇った。
そして “天元突破[極越]”のタイムリミット、残り一分。
「なっ!!??」
今まで一瞬だったサタンの蘇りが、遅くなった。一秒、二秒。死んでは蘇るたびにどんどんとその蘇り速度が遅くなる。
更には。
「どいうことだッッ!!! 核はッッ!!??」
今まで尽きることがないと言わんばかりに溢れていたサタンの赫い光が、点滅しだした。
途端、サタンの神の如き身体能力が失われていく。
神は不滅だ。
けれど、それは不滅なだけで、不変ではない。ゼロにはならないが、限りなくゼロには近付くことはあるのだ。
つまるところ、エネルギーが無限に湧いているわけではない。
サタンが今内包するエネルギーは、霊力と祈力。
共に世界中の人間から供給されており、世界中の人間がいなくなるか、もしくはサタンの体に埋め込まれたエネルギーを受け取るためのその核を壊さない限り無限に供給され続けることになる。
しかも、サタンが神になったことによりその核も不滅。最も重要な器官であるからこそ、どんな時でも一瞬でもとに戻るように設定していた。
だからこそ、サタンはエネルギー供給が突然ストップして驚愕したのだ。
そしてその驚愕に答えたのは、直樹。
「結局、神だって誰かと繋がらなくちゃ、何も為せねぇんだ」
「ッッッッッ!!!」
サタンのエネルギーが世界中の人間から供給されているということは、つまりそのための人間とサタンを繋ぐパスが絶対にあるのだ。
そのパスは不滅と化しているわけでもない。
今の今まで、直樹はサタンを斬る際、幻斬しか使わなかった。それは幻斬が非実体その存在を斬るのに特化していたから。
直樹は少しづつ、サタンに気づかれないようにしながら幻斬でそのパスを斬り続けたのだ。
その小さな積み重ねが実り、今、パスが完全に切断されたのだ。
そこからは圧倒的だった。
殺され続けるほどに蘇生は遅くなり、最終的には傷は元には戻らず。
「が……く……そ」
意識だけはすぐに蘇りはするが、既にサタンはボロボロ。地面に這いつくばっていた。
「ようやくか」
「だね」
いくら神が不滅とはいえ、最強なわけでもない。
サタンにいくつもの封杭を刺され、魂魄や肉体は空間などにしっかり固定され、力の殆ども制限された。
そして “天元突破[極越]”のタイムリミット、残り零。
直樹と大輔は背中から倒れる。
また、同時に、
「ヘレナッ!」
「イザベラッ!」
雪と杏の声が響き渡った。
どうやらヘレナとイザベラが意識を取り戻したらしい。
立ち上がる余裕すら残っていない直樹と大輔は、安堵した。これでようやく終わったと。どうにかなったと。
だからこそ。
「余は神だ。怒っているのだッッ!!」
サタンはこの時を狙っていた。
希望に手が届く今、全てをひっくり返し絶望に落とすこの瞬間を。
失ったはずのエネルギーが再び膨れ上がり、サタンは元の、いや今まで以上の覇気を放つ。
瞬く一瞬で雪たちの前へ転移。巨大な赫いを拳に纏う。
また雪たちは赫い光によって縛り付けられて、動けない。
サタンは巨大な赫い拳をゆっくりと雪たちへと振り落とす。恐怖を味わうように。絶望にスパイスを添えるように。
直樹と大輔は“天元突破[極越]”の反動で動けない。
絶望が訪れた。
しかし、だからこそ。
「ナオキッッッ!!!」
「ダイスケッッッ!!!」
直樹も大輔も予測していた。
ここまでは全て茶番ッ!! 全てが予定調和ッッ!!!
既に意識を取り戻した刹那、信頼で直樹と大輔の思考を読んだヘレナとイザベラの叫びが響き渡った。
同時に仰向けに倒れる直樹と大輔の隣にある物が現れる。
それは。
「ようやくだぜ」
「長かった」
直樹と大輔の異世界での肉体。
その肉体は直樹たちの隣に現れた瞬間、光の粒子状となり、直樹たちの今の体に取り込まれた。
重要な事なのでもう一度言おう。
直樹と大輔は弱体化している。その弱体化は魂魄が今の肉体に馴染んでいないことに起因する。
そしてまた、既に二人の魂魄は今の肉体にも馴染み始めていた。
そこに異世界の肉体が現れたら? 女神が創造した肉体を取り込んだら?
結果、神殺しの力が蘇り。
「ってか、増えてねぇか?」
「ね。邪神戦の時よりも体が軽いよ」
今の肉体と異世界の肉体が交じり合ったせいで、魂魄と想像以上に適合し、前よりもその力は横溢していた。
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公開可能情報
煌々と燃える球体:正確な名前は、炎魔王の球体。炎の魔王の心臓であり、魂魄を持った存在が近くにいるときだけ膨大な炎エネルギーを放出する厄介な素材。しかも、近くにいる生物の魂魄までも燃やし尽くそうとするためため、エネルギー変換にも役に立たず“収納庫”の肥しとなっていた。
魔祈力:魔力と祈力の混合エネルギー。
空破弾:着弾と同時に、指向性をもった空間衝撃波を放つ。
[影魔]モード・ドッペルゲンガー:その名の通りドッペルゲンガーであり、いわば分身体に近い。その能力は直樹の十分の一にも及ばないが、しかし隠密と偽装系の能力に関しては本体と同等の力を持っている。
絶避弾:指定した対象を追い続ける弾丸。障害物などは自動で避ける。
乱転弾:数ミリ秒おきに半径十センチメートル内をランダム転移しながら指定した対象を狙い続ける。障害物などは自動で避ける。
繰寄弾:重力系の魔法が込められており、指定した対象を弾丸側へ引き寄せる。もしくは、回避を阻害する。
蝕錆弾:着弾と同時に相手を錆びつかせる弾丸。
腐食弾:着弾と同時に相手を腐食させる弾丸。
石化弾:着弾と同時に相手を石化させる弾丸。
終生弾:着弾と同時に相手の体感時間を止める弾丸。一度、生を終わらせるのに近いかもしれない。
反認弾:着弾と同時に相手の敵と味方に対しての認識を反転させる。この場合の敵は無機物も含まれる。つまるところ、自分に迫りくる弾丸が味方に見えてしまう。
振り返らず、けれど確かに二人の言葉を聞いた直樹と大輔はニィッと嗤う。二つ目の突破口が見えたと。
「杏ッ。火炎魔力変換できるよね! 溜めてッ!」
「雪ッ。ヘレナとイザベラさんの回復を頼む!」
大輔と直樹はそういいながら“収納庫”を発動させ、取り出したそれらを転移で杏と雪の目の前に落とす。
転門鍵、闇路の導灯、拓道の扉柄、オムニス・プラエセンス、劣化版オムニス・プラエセンス、煌々と燃える球体、魔空結晶。
「火炎魔力……ああ、分かった!」
目が覚めたばかりでぼんやりとしていた杏は、しかし大輔のその信頼の籠った言葉と、その煌々と燃える球体と魔空結晶を見て、覚醒し確信する。
強く大輔に頷く。
「え、はいッ! 回復すれば……えっ!? 直樹さん今――」
雪は未だに目を覚ましていないヘレナとイザベラに気が付き、≪癒し≫を施そうとして、一瞬遅れて直樹が自分をなんて呼んだか気が付き、慌てる。
「ッ、杏さんッ!?」
しかし、隣にいた杏が燃えたため、その言葉は消えた。
「大丈夫だ。雪。それよりこれを使えッ! これならいけるッ!」
「え……はいっ!」
煌々と燃える球体を握りしめ、業火に包まれた杏が慌てる雪をなだめるように言った。
雪は驚いたが、それでも杏が大丈夫だと分かり、今は自分のやるべき事だけに集中するよう表情を変える。桜の花弁を散らし、ヘレナとイザベラを回復させる。
それでもイザベラは兎も角、ヘレナを≪癒し≫で回復させるのは難しい。
だが、今、それを力技でどうにかする事ができていた。
それは、業火に包まれた杏が魔空結晶に注ぐ高純度の魔力と祈力が交じり合ったエネルギー。
「凄い、凄いぞ!」
煌々と燃える球体は、異世界にいた炎の魔王の心臓。膨大な炎エネルギーを放出する球体。
しかしそれの球体が放出する炎は、生物しか燃やさないのだ。いや、正確には近くに生物がいないと膨大な炎エネルギーを発しないのだ。
そしてまた、近付く生物の魂魄までも燃やしてしまう球体だったのだ。
エクスィナを使って魔力変換しようにも、エクスィナの幻喰みに喰われた先は、生物の腹の中ではなく、能力の腹の中。
つまり、エクスィナの幻喰みで喰った瞬間、その球体は高密度のエネルギー体からただの球体へと早変わりしてしまう。
そのため魔力変換するためのエネルギー体としても役に立たず、“収納庫”の肥しになっていたのだが……
「ハハハッ。大輔、なんでこれを渡してくれなかったのだッ!!」
球体が放出する業火の炎は杏を殺すに至らず、むしろ回復させていく。その球体が放出する炎を全て自分へ向くように操作し、更に燃える杏は高揚する。
なんせ、膨大なエネルギーが横溢しているからだ。祈力を得た時よりも数倍、いや十倍近い高いエネルギーが杏の体に宿っていた。
高揚しない方が無理だろう。
因みに、杏は過剰なエネルギーを身に宿してしまったせいで、魂魄がボロボロになり、慎太郎などといったチート組の回復があっても数週間近く寝込むことになるのだが……
どちらにしろ、大皇日女から得た炎の権能と祈力一葉から得た炎の祈力も相まって、杏は超高温の炎を魔力と祈力の混合エネルギーに変換していた。
それを魔空結晶に注いでいた。
「クッ」
その魔空結晶に注がれた魔力と祈力の混合エネルギー――魔祈力を使い、雪はイザベラとヘレナの回復をしていた。
配分はヘレナが多い。
杏が得る祈力の性質が炎であるならば、雪が得る祈力の性質は聖。浄化と癒しを司る祈力。
魔祈力を一度体内に取り込み、己に適応するように変質。
雪は集中に顔を歪めながらも、その癒しの力をもってしてヘレナの神性を無理やり弾き、回復しようとする。
マモンとの戦いで、ヘレナの神性の性質を知れたのが良かったのか、徐々にだが着実にヘレナが回復し始めていた。
そしてそれを背後に感じながら、
「“天元突破[極越]”ッッッ」
「“天元突破[極越]”ッッッ」
直樹と大輔は魔力を噴き上げる。
漆黒の魔力を噴き上げた直樹は、されど一瞬で無になる。認識の埒外へと消える。
「ッ。どこへ――」
直樹が目の前から消えたことにサタンは惑い、刹那、神としての本能で感じた危機に視線を転じる。
そこには直樹。
「シッ」
「グッ!!」
左側面。這う様にサタンの懐へ潜り込んだ直樹は、神速よりも早い手首の返しで、逆さに持った幻斬をサタンへ振り上げる。幻斬にはサタンの魂魄を斬る魔力が纏っていた。
サタンは霊力を使っていた存在だった。魂魄への攻撃に対しては過剰に防御してしまう。
しかも、サタンは成りたて故に不滅としての経験が浅い。
本当は肉を切らせて骨を切る戦法を取るべきだったのに、必要ない防御をしてしまう。
体を左にひねって直樹を正面に捉えたサタンは、赫い光を纏わせた右手で直樹の幻斬を弾いた。
が、反撃する暇はない。
「頑張って避けてね」
「なッッッ!!??」
直樹の“空転眼”によって、大輔が直樹と入れ替わり転移。それは神の領域にいるサタンですら為せない、時間のずれが一切ない転移。
尽きた弾丸を全て補充し終えた大輔の右手には、ドナーレーゲン。時間のずれがない転移に対応できていないサタンの正面に銃口を向ける。
にこやかに大輔が笑い、金茶色の魔力をドナーレーゲンにチャージオンッ!
空間をすらも揺らす轟音で、それでいて軽快な回転音を響かせたドナーレーゲンからサタンへ向かって、毎秒百発、秒速千五百メートルは優に超える弾丸が降り注ぐ。
しかもご丁寧に弾丸一つ一つが空穿弾であり、また大輔の金茶色の魔力を纏わせていたため、サタンの赫い光による防御をいとも簡単に貫く。
サタンの体に無数の風穴が開く。
が、パッと刹那。赫い光が咲き誇り。
「余は神ぞ」
不滅のサタンは無傷に元通り。しかも、神故に、時と時の狭間にすらも潜り込める。
時と時の狭間に潜り込んだサタンは、ドナーレーゲンを右手に構えたままの大輔に肉薄する。
這うように大輔の右手側に踏み込んだサタンは、赫い光を纏わせた拳を大輔へ振り上げた。
ドナーレーゲンを右手側に構えているのはもとより、時と時の狭間で動くサタン。
大輔の防御が間に合わない――
「それは凄いでちゅね~」
「ッ」
大輔と直樹が再び入れ替わる。
時間が止まるとはすなわち、空間の動きが止まっているということ。時間は空間と酷く密接に関わっているから。
なのに、転移してきた。
つまるところ、直樹の転移は一種の概念なのだ。どんな場所でも自由に行き来するのだ。
“空転眼”を輝かせサタンをからかいながら、直樹は幻斬と血斬をクロス。
サタンの拳とぶつかった瞬間、てこの原理を利用して、幻斬を僅かに下げ、血斬を横へずらす。
すれば、神の一撃とも言えるほどの威力を持った拳が容易く上へ弾かれてしまう。
同時に直樹とサタンが時と時の狭間から追い出され、通常の時を生きた。
その時には大輔も生きている。
「はい、背中ががら空き」
「ッッ――」
大輔が至近距離からサタンの無防備の背中へイーラ・グロブスを神速抜き撃ち。
サタンを銃撃する十二ミリの弾丸は、着弾と同時に空間衝撃波を指向をもって放つ空破弾。
纏う大輔の金茶色の魔力を稲妻のように奔らせながら、サタンに迫る。
「舐めるなッッ!!!」
それでもサタンは吠える。怒りの形相を浮かべ、赫い光を迸らせれば、全てを拒絶するように、サタンの外側へ向かって超重力場が発生。
直樹や大輔、空破弾がサタンから引き離されるように、地面に平行に落ちる。
大輔が自分に落ちてきた空破弾をイーラ・グロブスの銃身で逸らした。ついでに空間衝撃波も金茶色の魔力で弾く。
「これ、二度目か?」
「確か、反転の試練だったよね」
直樹と大輔は足に障壁を張り、地面と平行に立つ。サタンは地面に垂直に立っている。
サタンを中心に全ての生物に作用する斥力が働いているのだ。サタンに近付くほどその斥力は大きくなる。
そしてサタンが動けばその斥力の力場の中心もずれるわけで。
「ッ、きっつッ」
「移動型聖星要塞はまだなのかッ!?」
「まだだよッ!」
サタンが直樹に迫れば、直樹はサタンを中心に働く斥力に強く吹き飛ばされる。
その先にサタンが転移。その転移は直樹の転移と同様、時間のずれがない。直樹の転移を見て学んだのだ。
吹き飛ばされた直樹は巻き戻しされるように再び斥力によって吹き飛ばされる。
しかも、サタンを中心に斥力が働いているため、下というのは直線ではなく円球状。体の向きが少しでも変われば、微妙に落ちる場所がずれる。
それに、サタンがコンマ一秒のずれもない転移をするのに伴って、斥力の力場もコンマ一秒のずれもなく変動する。
それが積み重なり、空間はもとより、重力場が滅茶苦茶になり、最終的には直樹と大輔が四方八方に落ち続けるようになってしまう。
「ハアッ!!」
「ッ、くそッッ!」
その状態でまともに動けるわけもなく、直樹はサタンの拳をもろに喰らう。
それでも高密度の魔力で体を覆っていたおかげで、ダメージはそこまで大きくない。
しかし、斥力の力場もあって思いっきり吹き飛ばされた。
「あ、またずれ――」
「シッ」
「ッッ!!」
大輔はサタンが直樹を殴った瞬間に、不意打ちでイーラ・グロブスとインセクタを抜き打ちする。
しかし、滅茶苦茶な重力場によって、銃弾の軌道がずれる。
一瞬、サタンが大輔の前へと跳ぶ。
赫い光を拳に纏わせ、発動させていた斥力の力場を解除。逆に、大輔にだけ及ぶ自分を中心とした超重力を発生させる。
超重力で引き寄せた大輔をサタンは赫い光を纏った拳で打ち抜いた。
同時に重力を反転。大輔を遠くへと吹き飛ばした。
その先には。
「余の鉄槌だ」
「チッ」
「クソッ」
赫い暴風。触れたら最後、肉体を粉々にするほどの風の刃が無数に踊る嵐。
直樹と大輔がその赫い暴風に飲み込まれた。無残に暴風の刃に切り刻まれたかに思われたが。
「ようやく半分修復完了ッ!」
「こっちも半分補充したぜッ!」
戦術補助多蜂支援機、三万。移動型聖星要塞、二百。[影魔]、二万。
赫い暴風が晴れ、大輔と直樹が最強の軍団を侍らせていた。移動型聖星要塞によって無茶苦茶になった重力場がもとに戻され、サタンの斥力の力場も無効化。
ニィッと直樹と大輔が嗤う。
だから、サタンも嗤う。
「神には天使がいる」
赫い光の天使、十万。能力による力量の差はあるものの、大雑把に考えればそれこそマモンかベルゼブブに迫るほど。
自分こそが本当の神だと言わんばかりに、サタンは圧倒的な力を持つ赫い光の天使を侍らせる。
“天元突破[極越]”のタイムリミット、残り二分。
「ハッ」
「小癪なッ」
赫の天使と影の魔物、兵器が交わる戦場。
直樹は黒の一筋すらも見せず、“隠密隠蔽[薄没]”を筆頭とした隠密系の能力で乱戦の中に隠遁。[影魔]に自身の気配を植え付け、サタンの認識を攪乱しながら、転移を活用してサタンに接近する。
直樹はサタンの首を撥ね、暗殺する。
されどサタンは不滅。神。
蘇り、直樹の体を逆に真っ二つに。
しかし、真っ二つにされた直樹は鼻で笑いながらポフンと音を立てて消えた。[影魔]モード・ドッペルゲンガー。いわば分身。
サタンが歯噛みすると同時に、金茶色の稲妻が百条。四方八方からサタンに迫る。
躍り出るは大輔。
「やったッ!」
「いや、まだだッ!」
イーラ・グロブスとインセクタをガンスピン。でたらめな方向へ金茶色の魔力を纏った弾丸を射出。
そして、でたらめな方向へ射出された弾丸は、各四組の戦術補助多蜂支援機が創り出す転移門を潜り、絶妙タイミングで四方八方からサタンに迫る。
回避されたら、戦術補助多蜂支援機が弾丸を転移させる。
しかも、舞う銃弾は一種だけではない。
指定した対象を追尾し続ける絶避弾。数ミリ秒おきに半径十センチメートル内をランダム転移しながら指定した対象を狙い続ける乱転弾。指定した対象を引き寄せる繰寄弾などといった弾丸。
着弾した対象を錆びつかせる蝕錆弾、腐食させる腐食弾、石化させる石化弾、体感時間を止める終生弾、敵と味方を誤認させる反認弾などといったデバフ弾。
また、空穿弾や空破弾などといった、威力特化の弾丸など、他にも多種多様な弾丸が金茶色の魔力を雷のように迸らせながら、舞うのだ。
よって、過剰にサタンを抹殺しようとする金茶の弾丸の空間が出来上がる。
その空間は数十の移動型聖星要塞によって覆われており、また大輔はその空間内でサタンと乱舞する。
サタンは迫りくる金茶の弾丸を弾き、回避しながら、大輔に向かって殴り蹴りを放つ。
大輔は戦術補助多蜂支援機を遠隔操作しながら、イーラ・グロブスとインセクタを構えてサタンの殴り蹴りを逸らし、至近距離で弾丸を射出する。
大輔は自分にすらも牙を向く金茶の弾丸をイーラ・グロブスとインセクタで逸らし、また時にはわざと喰らってサタンの予知能力を攪乱する。
そして、サタンの急所を的確に防御すら許さず撃ち抜く。
近接銃格闘術。
何度も何度も銃弾に射貫かれて死んで蘇るサタンは歯噛みする。辛い、辛すぎると。
サタンが放つ重力攻撃も空間攻撃も、自分たちを囲う移動型聖星要塞によって即座に無力化される。
転移しようにもその前に妨害される。隠密などで隠れても、大輔の“天心眼[界越真眼]”等によって直ぐに居場所を暴かれる。
この銃弾の嵐のなかで許されるのは、純粋な力。暴力だけ。神の身体能力を利用した近接戦闘だけしか、攻撃手段がない。
そしてまた近接戦闘にも差がある。
サタンは強い。戦闘技術がとても高い。
天獄界の七王の中で誰よりも力と技術を磨いていた。父上を殺すために、牙を研いでいた。
だが、それでもサタンは同等、もしくは格上と戦うための技術が不足している。サタンが強すぎたせいで、いくら努力してもその技術を身に着けるのが難しかったのだ。
だから、今、その差が如実に現れている。
大輔は異世界に転移した際、とても弱かった。常に弱者で、常に挑む側だった。格上との戦いなんて、数えきれないほどしてきた。
“天心眼”と“星泉眼”、“黒華眼”による未来予知や情報把握なども相まって、大輔の粘り強さは異常なのだ。
それは直樹にもある程度言えることで。
「残り四分の一ッ!」
「ぐ、ちょこまかとッ!」
隠遁と転移を繰り返し、赫い光の天使を暗殺。
かと思えば、一瞬だけ大輔が放った弾丸と入れ替わりサタンを幻斬で急襲。
そして直ぐに赫い光の天使と戦っている[影魔]と入れ替わり、遁走。
粘り強さと言うよりはウザいと言った方がいいだろうか。ヒットアンドアウェイ。
急襲するたびに、赫い光の天使の残り数を叫んだりとサタンを挑発するような事ばかり言う。
なのに、入れ替わり転移で直ぐに消え、またその類まぐれなる隠密によって影すらも捉えられない。
サタンの集中力がどんどんと失われ、そのたびに大輔の銃弾によって撃ち抜かれ、何度も殺されては蘇った。
そして “天元突破[極越]”のタイムリミット、残り一分。
「なっ!!??」
今まで一瞬だったサタンの蘇りが、遅くなった。一秒、二秒。死んでは蘇るたびにどんどんとその蘇り速度が遅くなる。
更には。
「どいうことだッッ!!! 核はッッ!!??」
今まで尽きることがないと言わんばかりに溢れていたサタンの赫い光が、点滅しだした。
途端、サタンの神の如き身体能力が失われていく。
神は不滅だ。
けれど、それは不滅なだけで、不変ではない。ゼロにはならないが、限りなくゼロには近付くことはあるのだ。
つまるところ、エネルギーが無限に湧いているわけではない。
サタンが今内包するエネルギーは、霊力と祈力。
共に世界中の人間から供給されており、世界中の人間がいなくなるか、もしくはサタンの体に埋め込まれたエネルギーを受け取るためのその核を壊さない限り無限に供給され続けることになる。
しかも、サタンが神になったことによりその核も不滅。最も重要な器官であるからこそ、どんな時でも一瞬でもとに戻るように設定していた。
だからこそ、サタンはエネルギー供給が突然ストップして驚愕したのだ。
そしてその驚愕に答えたのは、直樹。
「結局、神だって誰かと繋がらなくちゃ、何も為せねぇんだ」
「ッッッッッ!!!」
サタンのエネルギーが世界中の人間から供給されているということは、つまりそのための人間とサタンを繋ぐパスが絶対にあるのだ。
そのパスは不滅と化しているわけでもない。
今の今まで、直樹はサタンを斬る際、幻斬しか使わなかった。それは幻斬が非実体その存在を斬るのに特化していたから。
直樹は少しづつ、サタンに気づかれないようにしながら幻斬でそのパスを斬り続けたのだ。
その小さな積み重ねが実り、今、パスが完全に切断されたのだ。
そこからは圧倒的だった。
殺され続けるほどに蘇生は遅くなり、最終的には傷は元には戻らず。
「が……く……そ」
意識だけはすぐに蘇りはするが、既にサタンはボロボロ。地面に這いつくばっていた。
「ようやくか」
「だね」
いくら神が不滅とはいえ、最強なわけでもない。
サタンにいくつもの封杭を刺され、魂魄や肉体は空間などにしっかり固定され、力の殆ども制限された。
そして “天元突破[極越]”のタイムリミット、残り零。
直樹と大輔は背中から倒れる。
また、同時に、
「ヘレナッ!」
「イザベラッ!」
雪と杏の声が響き渡った。
どうやらヘレナとイザベラが意識を取り戻したらしい。
立ち上がる余裕すら残っていない直樹と大輔は、安堵した。これでようやく終わったと。どうにかなったと。
だからこそ。
「余は神だ。怒っているのだッッ!!」
サタンはこの時を狙っていた。
希望に手が届く今、全てをひっくり返し絶望に落とすこの瞬間を。
失ったはずのエネルギーが再び膨れ上がり、サタンは元の、いや今まで以上の覇気を放つ。
瞬く一瞬で雪たちの前へ転移。巨大な赫いを拳に纏う。
また雪たちは赫い光によって縛り付けられて、動けない。
サタンは巨大な赫い拳をゆっくりと雪たちへと振り落とす。恐怖を味わうように。絶望にスパイスを添えるように。
直樹と大輔は“天元突破[極越]”の反動で動けない。
絶望が訪れた。
しかし、だからこそ。
「ナオキッッッ!!!」
「ダイスケッッッ!!!」
直樹も大輔も予測していた。
ここまでは全て茶番ッ!! 全てが予定調和ッッ!!!
既に意識を取り戻した刹那、信頼で直樹と大輔の思考を読んだヘレナとイザベラの叫びが響き渡った。
同時に仰向けに倒れる直樹と大輔の隣にある物が現れる。
それは。
「ようやくだぜ」
「長かった」
直樹と大輔の異世界での肉体。
その肉体は直樹たちの隣に現れた瞬間、光の粒子状となり、直樹たちの今の体に取り込まれた。
重要な事なのでもう一度言おう。
直樹と大輔は弱体化している。その弱体化は魂魄が今の肉体に馴染んでいないことに起因する。
そしてまた、既に二人の魂魄は今の肉体にも馴染み始めていた。
そこに異世界の肉体が現れたら? 女神が創造した肉体を取り込んだら?
結果、神殺しの力が蘇り。
「ってか、増えてねぇか?」
「ね。邪神戦の時よりも体が軽いよ」
今の肉体と異世界の肉体が交じり合ったせいで、魂魄と想像以上に適合し、前よりもその力は横溢していた。
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公開可能情報
煌々と燃える球体:正確な名前は、炎魔王の球体。炎の魔王の心臓であり、魂魄を持った存在が近くにいるときだけ膨大な炎エネルギーを放出する厄介な素材。しかも、近くにいる生物の魂魄までも燃やし尽くそうとするためため、エネルギー変換にも役に立たず“収納庫”の肥しとなっていた。
魔祈力:魔力と祈力の混合エネルギー。
空破弾:着弾と同時に、指向性をもった空間衝撃波を放つ。
[影魔]モード・ドッペルゲンガー:その名の通りドッペルゲンガーであり、いわば分身体に近い。その能力は直樹の十分の一にも及ばないが、しかし隠密と偽装系の能力に関しては本体と同等の力を持っている。
絶避弾:指定した対象を追い続ける弾丸。障害物などは自動で避ける。
乱転弾:数ミリ秒おきに半径十センチメートル内をランダム転移しながら指定した対象を狙い続ける。障害物などは自動で避ける。
繰寄弾:重力系の魔法が込められており、指定した対象を弾丸側へ引き寄せる。もしくは、回避を阻害する。
蝕錆弾:着弾と同時に相手を錆びつかせる弾丸。
腐食弾:着弾と同時に相手を腐食させる弾丸。
石化弾:着弾と同時に相手を石化させる弾丸。
終生弾:着弾と同時に相手の体感時間を止める弾丸。一度、生を終わらせるのに近いかもしれない。
反認弾:着弾と同時に相手の敵と味方に対しての認識を反転させる。この場合の敵は無機物も含まれる。つまるところ、自分に迫りくる弾丸が味方に見えてしまう。
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