ep50 シヒロ
ー/ー
【1】
俺が住んでいた、というより、クロー・ラキアードが住んでいた街〔クオリーメン〕を出てからもう一ヶ月が過ぎていた。
この間にも幾度となく〔フリーダム〕と遭遇し、ヤツらと戦闘を繰り広げた。もっとも遭遇といっても、こちらから意図的に鉢合わせているのだが。
俺はヤツらをことごとく蹴散らした。
俺が〔魔導剣〕を振るうことで、少なからず平穏に暮らす人々を守ることができていると思う。その不可抗力として〔国際平和維持軍〕に目をつけられてしまっているようだが、そんなことは構わない。
残り少ない人生。俺はこの力を使って、自分のできる事、為すべき事をやるだけだから。
つい先日のこと……。
俺はまた〔フリーダム〕と一線を交え、ヤツらを撃退することに成功した。が、その日の勝利は、それまでにない特殊な結果をもたらした。
「クローさんは、書物は読みますか? 読むならどんなものを読むんですか? どんな書物が好きですか? はじめて読んだ書物はなんですか? 最近読んだ書物は?」
「質問が多いな……」
「あっ! す、すいません! つい、エヘヘ…」
小さな宿場町の民宿の食堂で食事をしながら顔を突き合わせている相手はシヒロ。先日の戦いを経て、どういうわけか俺の旅に同行することになった子だ。
ショートボブっぽい頭に帽子を被り、全然女の子っぽくない旅姿をした小柄で童顔の彼女は、一見すると可愛い顔をした少年にも見える。しかし実際は十六歳の女の子で、十五歳で成人のこの世界においてはすでに立派な成人女性ということになる。
「ひょっとしてクローさんは、小説読んだりする人なのかなぁって、勝手に思ってしまいまして……」
シヒロはえへへとはにかんだ。
この子は少し変わった子だった。なんでも小説を書くために旅をしているんだとか。転生前の世界なら驚くことでも何でもないが、この世界で作家を目指している女の子って、かなり珍しいんじゃないだろうか。
彼女のキラキラした瞳を見ていると、まだ純粋に夢を目指していた頃の昔の自分が思い起こされた。それは苦痛ではなく、あたたかい懐かしさとともに。
「書物か……。本はよく読んだなぁ」
遠くを見つめて転生前の自分を思い浮かべる。
「そ、そうなんですか? どんな本を読まれたのですか?」
シヒロは目を煌めかせて前に乗り出した。よっぽど本の話がしたいようだ。
「あっ、ええと、そうだな……」
間違えた。よくよく考えると、本を読んでいたのは転生前の話で、こちらの世界に来てからの俺は、読書などまるでしていなかった。
「クローさんが読んでいた本の話、聞きたいです!」
「いや、まあ、なんだ」
「もったいぶらないでください!」
「じゃなくて……そうだ!」
「?」
「俺が読んでいたのは異国の本だったから、特殊なものばかりだったんだ。なんていうか、説明が難しいんだよ」
「異国の本!? おお!!」
「俺のことよりシヒロはどうなんだ?」
ここぞとばかりに相手の話に切り替える。
「ぼくが読む本ですか?」
「そうだ。シヒロはどんな本を読むんだ?」
「一番好きなのはやっぱり冒険小説です! でも、興味あるものはなんでも読みますよ!」
「魔導書とかも?」
「えっ? あっ、いえ、それは……」
シヒロは急にきょろきょろとまわりを気にし出し、さらに身を乗り出してきて小声で注意してきた。
「そ、そんな話をこんな所でいきなりしないでくださいよ!」
「魔導書は焚書扱いだったもんな」
「そうですよ!」
「俺は持ってるけどな」
「あ、そうなんですね。って、えええ??」
シヒロは目をひんむいて驚いた。
『クロー様』と謎の声が口を挟んでくる。『教えてしまって良いのですか?』
『俺の旅に同行するんだ。その方がいいだろ』
『彼女にとっても貴方自身にとってもリスクとなる可能性がありますよ?』
『だからこそだろ? そもそも魔導書を持っていること自体がリスクなんだ。シヒロの同行を許可したからには、シヒロにはリスクを知らせておくべきだろ。じゃないと公平じゃないと思う』
『そういう考え方ですか。わかりました。ではクロー様の仰せのままに』
『まあ、理由はそれだけでもないけどな』
『ほほう?』
俺はシヒロの丸い瞳を見つめがらスッと手を伸ばし、テーブルの上を指でコツンコツンと叩いた。
「クローさん? な、なんですか?」
「シヒロは、どうやって魔法を覚えたんだ?」
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この間にも幾度となく〔フリーダム〕と遭遇し、ヤツらと戦闘を繰り広げた。もっとも遭遇といっても、こちらから意図的に鉢合わせているのだが。
俺はヤツらをことごとく蹴散らした。
俺が〔魔導剣〕を振るうことで、少なからず平穏に暮らす人々を守ることができていると思う。その不可抗力として〔国際平和維持軍〕に目をつけられてしまっているようだが、そんなことは構わない。
残り少ない人生。俺はこの力を使って、自分のできる事、為すべき事をやるだけだから。
つい先日のこと……。
俺はまた〔フリーダム〕と一線を交え、ヤツらを撃退することに成功した。が、その日の勝利は、それまでにない特殊な結果をもたらした。
「クローさんは、書物は読みますか? 読むならどんなものを読むんですか? どんな書物が好きですか? はじめて読んだ書物はなんですか? 最近読んだ書物は?」
「質問が多いな……」
「あっ! す、すいません! つい、エヘヘ…」
小さな宿場町の民宿の食堂で食事をしながら顔を突き合わせている相手はシヒロ。先日の戦いを経て、どういうわけか俺の旅に同行することになった子だ。
ショートボブっぽい頭に帽子を被り、全然女の子っぽくない旅姿をした小柄で童顔の彼女は、一見すると可愛い顔をした少年にも見える。しかし実際は十六歳の女の子で、十五歳で成人のこの世界においてはすでに立派な成人女性ということになる。
「ひょっとしてクローさんは、小説読んだりする人なのかなぁって、勝手に思ってしまいまして……」
シヒロはえへへとはにかんだ。
この子は少し変わった子だった。なんでも小説を書くために旅をしているんだとか。転生前の世界なら驚くことでも何でもないが、この世界で作家を目指している女の子って、かなり珍しいんじゃないだろうか。
彼女のキラキラした瞳を見ていると、まだ純粋に夢を目指していた頃の昔の自分が思い起こされた。それは苦痛ではなく、あたたかい懐かしさとともに。
「書物か……。本はよく読んだなぁ」
遠くを見つめて転生前の自分を思い浮かべる。
「そ、そうなんですか? どんな本を読まれたのですか?」
シヒロは目を煌めかせて前に乗り出した。よっぽど本の話がしたいようだ。
「あっ、ええと、そうだな……」
間違えた。よくよく考えると、本を読んでいたのは転生前の話で、こちらの世界に来てからの俺は、読書などまるでしていなかった。
「クローさんが読んでいた本の話、聞きたいです!」
「いや、まあ、なんだ」
「もったいぶらないでください!」
「じゃなくて……そうだ!」
「?」
「俺が読んでいたのは異国の本だったから、特殊なものばかりだったんだ。なんていうか、説明が難しいんだよ」
「異国の本!? おお!!」
「俺のことよりシヒロはどうなんだ?」
ここぞとばかりに相手の話に切り替える。
「ぼくが読む本ですか?」
「そうだ。シヒロはどんな本を読むんだ?」
「一番好きなのはやっぱり冒険小説です! でも、興味あるものはなんでも読みますよ!」
「魔導書とかも?」
「えっ? あっ、いえ、それは……」
シヒロは急にきょろきょろとまわりを気にし出し、さらに身を乗り出してきて小声で注意してきた。
「そ、そんな話をこんな所でいきなりしないでくださいよ!」
「魔導書は焚書扱いだったもんな」
「そうですよ!」
「俺は持ってるけどな」
「あ、そうなんですね。って、えええ??」
シヒロは目をひんむいて驚いた。
『クロー様』と謎の声が口を挟んでくる。『教えてしまって良いのですか?』
『俺の旅に同行するんだ。その方がいいだろ』
『彼女にとっても貴方自身にとってもリスクとなる可能性がありますよ?』
『だからこそだろ? そもそも魔導書を持っていること自体がリスクなんだ。シヒロの同行を許可したからには、シヒロにはリスクを知らせておくべきだろ。じゃないと公平じゃないと思う』
『そういう考え方ですか。わかりました。ではクロー様の仰せのままに』
『まあ、理由はそれだけでもないけどな』
『ほほう?』
俺はシヒロの丸い瞳を見つめがらスッと手を伸ばし、テーブルの上を指でコツンコツンと叩いた。
「クローさん? な、なんですか?」
「シヒロは、どうやって魔法を覚えたんだ?」