「あ、あの、魔剣使いさま!」
ぼくは何かの衝動に駆られました。急にいても立ってもいられなくなります。
「あなたは、旅をされているのですか?」
「まあ、そうだが」
「あの、その…」
「?」
「ぼ、ぼくを、一緒に連れていってもらえませんか!?」
ぼくはいきなり何を口走っているんだ?
案の定、魔剣使いさまはポカンとしています。しかしぼくはまくし立てます。自分が抑えられない!
「ぼくは作家になるために、物語を書くために、旅をしています。魔剣使いさまと旅をともにすれば、ぼくの書く物語を完成させられる気がするんです!」
「……」
「ぼ、ぼく、今の以外にも魔法が使えるんです! だから、その、旅のお役にも立てるかと……」
魔剣使いさまは不思議そうに、じっとぼくを見つめます。
変だと思われたかな、とぼくは自問します。それはそうです。自分でも何を言い出しているんだろうと思います。いきなりこんな事言われても相手だって困るに決まっています。
それでもぼくは、頑なに魔剣使いさまを見つめ返します。そこへ急におじさんの笑い声が入り込んできました。
「ガッハッハ! いきなりなにを言いだすかと思ったら嬢ちゃん、おもしれーこと言いやがる!」
「お、おじさん?」
「なあ銀髪のダンナ。どーすんだ?」
おじさんはニヤけながら魔剣使いさまに回答を迫りました。
「……」
魔剣使いさまは沈黙のままです。
「あ、あの、ご迷惑なら構いませんから!」
自分から要望しておきながら、途端に両手を振って遠慮しました。ぼくは何がしたいのでしょう。
「俺は〔フリーダム〕と戦いながら、国際平和維持軍にも目をつけられている」
魔剣使いさまは言い捨てました。冷たい口調です。
「俺と来ても安全を保証できない」
「そ、それは構いません。ぼくは、あなたと行きたいんです!」
それでもぼくの衝動は抑えられません。ぼくは、この人と一緒に行きたい……!
「わかった」
「ですよね。無理ですよね。……えっ?」
「俺はクロー・ラキアードだ。シヒロがどうしようがシヒロの自由だ。好きにすればいい」
「……は、はいっ! ありがとうございます!」
「ガッハッハ! 良かったじゃねーか嬢ちゃん! 式を挙げる時は知らせてくれよ!」
「そ、そそそそんなんじゃありませんから! へへ変なこと言わないでください!」
赤面するぼくをからかう髭面のおじさん。愉快にやり取りするぼくらをよそに、魔剣使いさまはすぐに切り替えます。
「おっさん。街の連中にフリーダムが退散していったことを伝えてくれ。じきに平和維持軍の連中も来るだろうし、とりあえずはこの街も大丈夫だろう」
「ああ、わかった。お前さんはすぐに行くんだな?」
魔剣使いさまはコクッと頷き、きびすを返して歩き出しました。
ぼくはおじさんと視線を交わして頷き合うと、魔剣使いさまの背中に付いてそそくさと歩いていきます。
「嬢ちゃん! 頑張れよ! 夢も恋もなぁ!」
髭面のおじさんは後ろから大声で叫びました。恥ずかしいことを。
「や、ややややめてください!」
この時、ぼくは不思議なことに気づきました。魔剣使いさまの手にあったはずの剣が跡形もなく消えてしまっているのです。魔剣使いさまの腰にも背中にも、鞘らしき物は見当たりません。
「あ、あの」
「なんだ?」
「剣は、どうしたんですか?」
「ああ、あれはそういう剣なんだ」
「はあ」
「小説に役立ちそうか?」
「あっ、いえ! そんな、はい……」
なぜ、魔剣使いさまは旅の同行を許してくれたのでしょう。ぼくが魔法を使えたからでしょうか? 本当のところは何もわかりません。
いずれにせよ……。
ぼくにとっての本格的な旅が始まったのは、まさしくここからだったのです。
それは小説よりも小説のような、物語よりも壮大な物語となるものだったのです。
お母さん。
ぼくの旅はもう少し長くなります。近況はまた、手紙で報告します。
今はただ、果てしなく広がる夜空に煌めく星々に、様々な姿形を描いてワクワクしています。
おそらく、まだ見ぬ星座たちが、この世界にはたくさん輝いているのでしょう。
ぼくは、ぼくの英雄とともに、冒険をしてきます。