第44話 哀れな少女
ー/ー
メープルはなかなかに恐ろしい少女である。
十歳にしてあれだけ魔法を使っても魔力の尽きない無尽蔵な魔力。そのせいでブラナは決め手を欠いており、苦戦を強いられていた。
ところが、そのメープルをもってしても、クロナの魔法は突破できない。
「まったく、このわたくしの魔法を一切受け付けないなんて、腹が立って仕方ありませんわ。目障りですから、さっさと死んでくださいませんこと?」
かつての親友へと向けられた言葉とは、とても思えないくらい悪意に満ちた言葉である。
「お嬢様を、愚弄しないで下さいませんかね!」
耐えかねたブラナは、持っていた剣を耐え切れずに投げつけてしまう。
「はっ!」
メープルは気が付くのが遅れ、どうにか躱したのはいいが、大きな傷を腕に負ってしまった。
「くっ……。魔族のくせに生意気ですわね」
左腕に大きな傷を負い、血を流しながらもメープルはブラナを睨み付けている。
「片腕が使えなくとも、わたくしの魔法には影響はございませんわ。お前たちを殺すまで、命尽きようとも戦いますわ」
メープルは片腕が動かなくても、まったく戦う意志を失うことはなかった。
「もうやめて!」
その時に叫んだのは、クロナだった。
親友が傷つく姿をもう見ていられなかったのだ。
「メープル様! お願いだから、もう退いて……。私は、これ以上あなたが傷つく姿を見たくないの……」
懇願するような言葉を、振り絞るように口に出す。
ところが、今のメープルには、このクロナのお願いですらもう通じないのだ。
「うるさいですわね、魔族のくせに。命乞いなどみっともないですわ。とっとと、消えてなくなりなさいませ!」
クロナの訴えにイラッときたようで、メープルは片腕しか動かない状態ながらも、腕を持ち上げて何かをしようとしている。
「これは……。メープル様、この辺り一帯を更地になさるおつもりですか?!」
何かを感じ取ったブラナが叫んでいる。
「そんな魔法を使えば、私たちはもちろん、メープル様やそこに倒れている魔法使いたちもただでは済みません。いえ、確実に死にますよ!」
ブラナの訴えに、メープルはにやりと笑っている。
「構いませんわ」
メープルは、諦めたような表情でブラナたちを見ている。
「どのような魔法も通じないとなれば、それを上回る物体をぶつけるしかありませんわ。あの方の仇さえ討てれば、私には未練はありません。……おとなしく死になさい!」
メープルが再び表情を引き締める。
これはどんなに止めようと無理だと悟ったブラナは、クロナへと一度視線を向ける。
「申し訳ございません、お嬢様。メープル様は救えそうにありません」
そうとだけ呟くと、残っていた剣をメープルへと向けて投げつける。
魔法に集中していて無防備になっていたメープルに、ブラナの投げつけた剣が突き刺さる。
「ごふっ!」
ブラナの剣はメープルの体を貫き、おびただしい量の血が流れる。
これで止められる。ブラナはそう思った。
「甘い……ですわよ……」
メープルは体を剣で貫かれても、必死に立って魔法を発動させようとしていた。
「わたくしと、ともに……、死になさい、魔族め……」
ぎゅっと拳を握りしめ、メープルは満足したように目を閉じる。
ふらりと体が揺らぐと、そのまま受け身も取れずに倒れてしまった。
「メープル様……。あなたという方は、そこまで……」
地面に倒れ込んだメープルを見ながら、ブラナはとてもつらそうな表情を浮かべている。
だが、いつまでも悲しみに浸っているわけにはいかない。メープルが最後に発動させたと思われる魔法に対処しなければならないからだ。
「まったく、最後にとんでもない置き土産をして下さいましたね。お嬢様、泣いている暇はありません。あれをどうにかしませんと」
「えっ?!」
ブラナの呼び掛けに、クロナは空を見上げる。
空を見上げると、何か赤い点のようなものが見えている。
「なんですか、あれは」
「古代の魔法に、天空より赤い悪魔を召喚するという魔法があるのでございます。メープル様はお嬢様や私を殺す手段として、その古代の魔法を発動させたのですよ」
「な、なんですって?!」
ブラナが話した内容に、クロナはびっくりして慌ててしまっている。
「お嬢様、落ち着いて下さい。こうなってしまっては、お嬢様の力だけが頼りなのです。このままでは私たちごと、この辺り一帯はすべて消し飛んでしまいます。聖女であるお嬢様にしか、どうすることもできないのです」
ブラナにここまで言われてしまっては、クロナは覚悟を決める。
「分かりました。メープル様の死は悲しいですけれど、このままではそのメープル様の体も消し飛んでしまいますものね。やってみせます」
クロナは覚悟を固めたようだ。
いろいろな感情が渦巻いてはいるものの、今はとにかく自分たちが生き残ることが一番である。まずはそれを達成するために、クロナは跪いて祈りを捧げ始める。
「天上におられます神様。どうか、私たちの願いを聞き届け、私たちをお守りください」
祈りを捧げたクロナの体が白く光り始める。
「シェルスティア!」
クロナは、全身全霊をかけた防護魔法を展開するのだった。
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十歳にしてあれだけ魔法を使っても魔力の尽きない無尽蔵な魔力。そのせいでブラナは決め手を欠いており、苦戦を強いられていた。
ところが、そのメープルをもってしても、クロナの魔法は突破できない。
「まったく、このわたくしの魔法を一切受け付けないなんて、腹が立って仕方ありませんわ。目障りですから、さっさと死んでくださいませんこと?」
かつての親友へと向けられた言葉とは、とても思えないくらい悪意に満ちた言葉である。
「お嬢様を、愚弄しないで下さいませんかね!」
耐えかねたブラナは、持っていた剣を耐え切れずに投げつけてしまう。
「はっ!」
メープルは気が付くのが遅れ、どうにか躱したのはいいが、大きな傷を腕に負ってしまった。
「くっ……。魔族のくせに生意気ですわね」
左腕に大きな傷を負い、血を流しながらもメープルはブラナを睨み付けている。
「片腕が使えなくとも、わたくしの魔法には影響はございませんわ。お前たちを殺すまで、命尽きようとも戦いますわ」
メープルは片腕が動かなくても、まったく戦う意志を失うことはなかった。
「もうやめて!」
その時に叫んだのは、クロナだった。
親友が傷つく姿をもう見ていられなかったのだ。
「メープル様! お願いだから、もう退いて……。私は、これ以上あなたが傷つく姿を見たくないの……」
懇願するような言葉を、振り絞るように口に出す。
ところが、今のメープルには、このクロナのお願いですらもう通じないのだ。
「うるさいですわね、魔族のくせに。命乞いなどみっともないですわ。とっとと、消えてなくなりなさいませ!」
クロナの訴えにイラッときたようで、メープルは片腕しか動かない状態ながらも、腕を持ち上げて何かをしようとしている。
「これは……。メープル様、この辺り一帯を更地になさるおつもりですか?!」
何かを感じ取ったブラナが叫んでいる。
「そんな魔法を使えば、私たちはもちろん、メープル様やそこに倒れている魔法使いたちもただでは済みません。いえ、確実に死にますよ!」
ブラナの訴えに、メープルはにやりと笑っている。
「構いませんわ」
メープルは、諦めたような表情でブラナたちを見ている。
「どのような魔法も通じないとなれば、それを上回る物体をぶつけるしかありませんわ。あの方の仇さえ討てれば、私には未練はありません。……おとなしく死になさい!」
メープルが再び表情を引き締める。
これはどんなに止めようと無理だと悟ったブラナは、クロナへと一度視線を向ける。
「申し訳ございません、お嬢様。メープル様は救えそうにありません」
そうとだけ呟くと、残っていた剣をメープルへと向けて投げつける。
魔法に集中していて無防備になっていたメープルに、ブラナの投げつけた剣が突き刺さる。
「ごふっ!」
ブラナの剣はメープルの体を貫き、おびただしい量の血が流れる。
これで止められる。ブラナはそう思った。
「甘い……ですわよ……」
メープルは体を剣で貫かれても、必死に立って魔法を発動させようとしていた。
「わたくしと、ともに……、死になさい、魔族め……」
ぎゅっと拳を握りしめ、メープルは満足したように目を閉じる。
ふらりと体が揺らぐと、そのまま受け身も取れずに倒れてしまった。
「メープル様……。あなたという方は、そこまで……」
地面に倒れ込んだメープルを見ながら、ブラナはとてもつらそうな表情を浮かべている。
だが、いつまでも悲しみに浸っているわけにはいかない。メープルが最後に発動させたと思われる魔法に対処しなければならないからだ。
「まったく、最後にとんでもない置き土産をして下さいましたね。お嬢様、泣いている暇はありません。あれをどうにかしませんと」
「えっ?!」
ブラナの呼び掛けに、クロナは空を見上げる。
空を見上げると、何か赤い点のようなものが見えている。
「なんですか、あれは」
「古代の魔法に、天空より赤い悪魔を召喚するという魔法があるのでございます。メープル様はお嬢様や私を殺す手段として、その古代の魔法を発動させたのですよ」
「な、なんですって?!」
ブラナが話した内容に、クロナはびっくりして慌ててしまっている。
「お嬢様、落ち着いて下さい。こうなってしまっては、お嬢様の力だけが頼りなのです。このままでは私たちごと、この辺り一帯はすべて消し飛んでしまいます。聖女であるお嬢様にしか、どうすることもできないのです」
ブラナにここまで言われてしまっては、クロナは覚悟を決める。
「分かりました。メープル様の死は悲しいですけれど、このままではそのメープル様の体も消し飛んでしまいますものね。やってみせます」
クロナは覚悟を固めたようだ。
いろいろな感情が渦巻いてはいるものの、今はとにかく自分たちが生き残ることが一番である。まずはそれを達成するために、クロナは跪いて祈りを捧げ始める。
「天上におられます神様。どうか、私たちの願いを聞き届け、私たちをお守りください」
祈りを捧げたクロナの体が白く光り始める。
「シェルスティア!」
クロナは、全身全霊をかけた防護魔法を展開するのだった。