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第45話 壊れゆく聖女

ー/ー



「シェルスティア!」

 クロナは両手を広げて、強力な防護魔法を発動する。
 魔法が発動すると、クロナたちのはるか上空に、光り輝く防壁が展開される。
 展開した防壁に、メープルが命と引き換えに発動させた古代の魔法が衝突する。
 ズシンという大きな音が響き渡り、辺り一帯が大きく震える。

「なんて、衝撃なのですか……」

 あまりの揺れに、ブラナは焦りを隠せない。
 クロナが魔法を発動させていなければ、間違いなくこの辺り一帯は消し飛んでいただろう。それを証明するような衝撃なのである。
 しかし、この魔法に対抗する手段はまったくない。クロナの魔力が尽きるか、メープルの置き土産である魔法の効力が切れるか。根比べの様相を呈しているのである。

「本当にメープル様は、自分たちを犠牲にしてまでも、私たちを殺そうとしていたのですね。それほどまでに、お嬢様とシュヴァルツ坊ちゃまへの感情は本物だったのでしょうね」

 ブラナは倒れ込んだメープルの死体を見ながら、同情するような目を向けている。

『ブラナ、私たちにできることはないか?』

 アサシンスパイダーたちがブラナに指示を求めている。
 ところが、ブラナは首を横に振っていた。何もできることはないのだ。

「魔法の対処は、お嬢様にしかできません。私たちにできるのは、そこに倒れているメープル様や魔法隊の対処をするくらいです」

『なるほど。ならば、何もできぬように糸で巻いておけばいいか?』

「そうですね。魔法隊は杖さえなければ魔法が使えないようですし、動けないようにがっちり固めておいて下さい。あとで交渉せねばなりませんから」

『分かった』

 アサシンスパイダーは了承すると、残っている魔法隊たちを自分の糸でぐるぐる巻きにしておいた。

『この女は……、もう死んでいるのか。目的を達せんとするその心は買うとしよう。せめてもの情け、丁重に葬ろうではないか』

 アサシンスパイダーがメープルに近付こうとしたその時だった。

「いけません!」

 ブラナは飛び出していく。
 アサシンスパイダーが触れようとしたその瞬間、メープルの体が激しく燃え上がったのだ。
 最後の最後まで、相手を倒さんとする意志が、最後の罠を仕掛けてさせていたのである。

「まったく、なんて子なのでしょうかね!」

 ブラナはどうにか火を消そうと使える魔法を使おうとする。しかし、暗殺術に長けたブラナに、そんな都合のいい魔法など存在するわけがなかった。

 その時だった。

 バチンと、何かが弾けたような音がした。
 その音に気が付いたブラナがゆっくりと振り返る。
 視線の先には、メープルの残した最後の攻撃魔法を食い止めようとしていたはずのクロナが、ゆらりと立ち上がっていた。

「……何が神ですか」

「お嬢……様……?」

 クロナの様子が明らかにおかしい。ブラナもつい首を傾げてしまう程にだ。

「私の大切な人を一人も守れないような神なんて、必要ないです」

「お嬢様、頭上を!」

「頭上……?」

 メープルの放った赤い悪魔の魔法が、緩んだクロナの防壁を突破しようとしていた。

「ああ、あんな石ころですか。そんなもの、これで十分です」

 クロナは右手を掲げて魔法を使う。
 メープルの放った赤い悪魔の魔法が結界に閉じ込められ、そのまま小さく圧縮されて消滅させられてしまっていた。

「すごい……。しかし、この魔法はいったい……」

 ブラナは上空で魔法が消え失せてしまい、驚愕の表情を見せている。

「……そこで燃え尽きようとしているのは、愚かな友人ですか」

「は、はい。お嬢様の命を狙った、メープル・ホーネット伯爵令嬢様でございます」

 とても十歳の少女とは思えないくらいの重苦しい声に、ブラナは跪いて答えてしまう。逆らってはいけない、そのような感情がブラナの中に突如として湧き上がったからだ。

「本当に愚かなことですね。なりふり構わず目的を達成しようだなんて、しょせん、メープルはただのわがままなお嬢様でしかないのですよ」

 クロナがメープルに向けて魔法を使うと、燃え尽きたはずのメープルの姿が、みるみるうちに元の状態に戻っていく。
 完全に消失してしまっていたはずの姿が、完全な状態に戻っていく様はただ驚くしかないというものだった。
 だが、それ以上に驚いたのは、クロナが着ていた服装までもが、完全に真っ黒に染まってしまっていたことだ。これでは、聖女ではなく、まるで魔女のようないでたちである。その恐ろしい姿に、ブラナはただ震え上がるばかりだった。

「ブラナ」

「はい、お嬢様」

「メープルたちは、丁重に王都まで送り届けましょう」

「お嬢様、王都に向かわれるおつもりですか?!」

 ブラナが驚いたように言うと、クロナはこくりと黙ったまま頷いていた。

「私の命を狙ってくるんですもの。ならば、挑発をしてあげるだけです。……もう逃げるのは疲れました。どこに逃げても狙われるのなら、迎え撃つだけです」

「し、しかし……」

「いいのですよ、私が殺さなければいいだけですからね」

 そのように話すクロナの表情に、ブラナは思わず背筋が凍った気がした。

「あははははっ。こうも私の大切な人が次々死んでいくんですもの。神なんて頼れるわけがないのです」

 クロナの笑う表情は、完全に心が壊れたような歪んだ笑顔だった。

「三年後、きちんとすべてを元通りにするという約束だけは信じましょう。それまでは、私たちの力だけでやり遂げてやるのです。あはははははっ!」

 メープルの置き土産をすべて片付けたクロナたち。
 そこへ、ぽつぽつと雨が降り始めたのであった。


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「シェルスティア!」
 クロナは両手を広げて、強力な防護魔法を発動する。
 魔法が発動すると、クロナたちのはるか上空に、光り輝く防壁が展開される。
 展開した防壁に、メープルが命と引き換えに発動させた古代の魔法が衝突する。
 ズシンという大きな音が響き渡り、辺り一帯が大きく震える。
「なんて、衝撃なのですか……」
 あまりの揺れに、ブラナは焦りを隠せない。
 クロナが魔法を発動させていなければ、間違いなくこの辺り一帯は消し飛んでいただろう。それを証明するような衝撃なのである。
 しかし、この魔法に対抗する手段はまったくない。クロナの魔力が尽きるか、メープルの置き土産である魔法の効力が切れるか。根比べの様相を呈しているのである。
「本当にメープル様は、自分たちを犠牲にしてまでも、私たちを殺そうとしていたのですね。それほどまでに、お嬢様とシュヴァルツ坊ちゃまへの感情は本物だったのでしょうね」
 ブラナは倒れ込んだメープルの死体を見ながら、同情するような目を向けている。
『ブラナ、私たちにできることはないか?』
 アサシンスパイダーたちがブラナに指示を求めている。
 ところが、ブラナは首を横に振っていた。何もできることはないのだ。
「魔法の対処は、お嬢様にしかできません。私たちにできるのは、そこに倒れているメープル様や魔法隊の対処をするくらいです」
『なるほど。ならば、何もできぬように糸で巻いておけばいいか?』
「そうですね。魔法隊は杖さえなければ魔法が使えないようですし、動けないようにがっちり固めておいて下さい。あとで交渉せねばなりませんから」
『分かった』
 アサシンスパイダーは了承すると、残っている魔法隊たちを自分の糸でぐるぐる巻きにしておいた。
『この女は……、もう死んでいるのか。目的を達せんとするその心は買うとしよう。せめてもの情け、丁重に葬ろうではないか』
 アサシンスパイダーがメープルに近付こうとしたその時だった。
「いけません!」
 ブラナは飛び出していく。
 アサシンスパイダーが触れようとしたその瞬間、メープルの体が激しく燃え上がったのだ。
 最後の最後まで、相手を倒さんとする意志が、最後の罠を仕掛けてさせていたのである。
「まったく、なんて子なのでしょうかね!」
 ブラナはどうにか火を消そうと使える魔法を使おうとする。しかし、暗殺術に長けたブラナに、そんな都合のいい魔法など存在するわけがなかった。
 その時だった。
 バチンと、何かが弾けたような音がした。
 その音に気が付いたブラナがゆっくりと振り返る。
 視線の先には、メープルの残した最後の攻撃魔法を食い止めようとしていたはずのクロナが、ゆらりと立ち上がっていた。
「……何が神ですか」
「お嬢……様……?」
 クロナの様子が明らかにおかしい。ブラナもつい首を傾げてしまう程にだ。
「私の大切な人を一人も守れないような神なんて、必要ないです」
「お嬢様、頭上を!」
「頭上……?」
 メープルの放った赤い悪魔の魔法が、緩んだクロナの防壁を突破しようとしていた。
「ああ、あんな石ころですか。そんなもの、これで十分です」
 クロナは右手を掲げて魔法を使う。
 メープルの放った赤い悪魔の魔法が結界に閉じ込められ、そのまま小さく圧縮されて消滅させられてしまっていた。
「すごい……。しかし、この魔法はいったい……」
 ブラナは上空で魔法が消え失せてしまい、驚愕の表情を見せている。
「……そこで燃え尽きようとしているのは、愚かな友人ですか」
「は、はい。お嬢様の命を狙った、メープル・ホーネット伯爵令嬢様でございます」
 とても十歳の少女とは思えないくらいの重苦しい声に、ブラナは跪いて答えてしまう。逆らってはいけない、そのような感情がブラナの中に突如として湧き上がったからだ。
「本当に愚かなことですね。なりふり構わず目的を達成しようだなんて、しょせん、メープルはただのわがままなお嬢様でしかないのですよ」
 クロナがメープルに向けて魔法を使うと、燃え尽きたはずのメープルの姿が、みるみるうちに元の状態に戻っていく。
 完全に消失してしまっていたはずの姿が、完全な状態に戻っていく様はただ驚くしかないというものだった。
 だが、それ以上に驚いたのは、クロナが着ていた服装までもが、完全に真っ黒に染まってしまっていたことだ。これでは、聖女ではなく、まるで魔女のようないでたちである。その恐ろしい姿に、ブラナはただ震え上がるばかりだった。
「ブラナ」
「はい、お嬢様」
「メープルたちは、丁重に王都まで送り届けましょう」
「お嬢様、王都に向かわれるおつもりですか?!」
 ブラナが驚いたように言うと、クロナはこくりと黙ったまま頷いていた。
「私の命を狙ってくるんですもの。ならば、挑発をしてあげるだけです。……もう逃げるのは疲れました。どこに逃げても狙われるのなら、迎え撃つだけです」
「し、しかし……」
「いいのですよ、私が殺さなければいいだけですからね」
 そのように話すクロナの表情に、ブラナは思わず背筋が凍った気がした。
「あははははっ。こうも私の大切な人が次々死んでいくんですもの。神なんて頼れるわけがないのです」
 クロナの笑う表情は、完全に心が壊れたような歪んだ笑顔だった。
「三年後、きちんとすべてを元通りにするという約束だけは信じましょう。それまでは、私たちの力だけでやり遂げてやるのです。あはははははっ!」
 メープルの置き土産をすべて片付けたクロナたち。
 そこへ、ぽつぽつと雨が降り始めたのであった。