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第43話 譲れない意地

ー/ー



 すべての魔法が跳ね返り、ホーネット伯爵家が誇る魔法隊は全滅してしまった。
 その場に立っているのは、ホーネット伯爵とメープルだけである。

「信じられませんわ。このわたくしの魔法が、すべて跳ね返されるなんて……」

 あまりの惨状に、メープルは信じられないという顔で立ち尽くしている。

「魔族のくせに、娘の魔法を……。くそっ、これは一度立て直すべきか?」

 ホーネット伯爵は、顔を青ざめさせて目の前の光景を見ている。
 魔法隊は大ケガを負ってはいるが、どうにか生きている。これならば、連れて帰ればどうにか立て直せるはずである。
 聖女を騙っていた魔族のことは許せないが、このままでは全滅は必至だ。ホーネット伯爵家まで倒れては、イクセン王国の衰退は免れない。
 ホーネット伯爵家の力が失われては、他国から攻め入る隙を与えてしまう。

「メープル、ここで撤退……」

「逃げませんわよ」

 ホーネット伯爵が退却しようとするも、メープルは退かなかった。

「退くのであれば、お父様だけでお戻りくださいませ。わたくしは、親友のふりをしていた目の前の魔族が許せませんの」

「……そうか。必ず戻るのだぞ?」

「当然ですわ」

 ホーネット伯爵は、動ける魔法隊と一緒に撤退を始める。
 その様子を見ていたスチールアントは、ブラナへと判断を迫る。

『追いかけますか?』

「いえ、あのまま放っておきましょう。それよりも厄介なのは、残っているメープル様でございます。メープル様はお嬢様の一番の友人、親友といってよいほど仲の良いお方でした。それが、感情反転の影響によって、お嬢様を強く恨んでおります」

『なるほど……』

「メープル様の魔法は、あなたの魔法では防げません。アサシンスパイダーとともに後ろに下がっていて下さい」

『分かりました』

 スチールアントはすごすごと穴の中へと入っていく。
 これでこの場には、クロナとブラナ、それとメープルとうずくまる魔法隊だけが残る。
 クロナはかなり精神状態が錯乱しており、実質ブラナしか戦える状態ではない。
 一方、ホーネット伯爵家も部隊は壊滅しており、メープルだけしか戦える人間はいない。魔力をかなり使い果たしているものの、魔法を使う様子をまったく悟らせない無詠唱魔法の使い手だ。接近戦をメインとするブラナとは、なんとも相性が悪い相手である。

「メープル様。あなたは本当に退かないのですか?」

 ブラナはメープルに問いかけている。

「くどいですわね。わたくしは、わたくしたちをだましていた、その魔族が許せませんの。いかなる時でもわたくしの目の前に現れることがないように、今ここで形も残らぬほどに焼き払って差し上げますわ!」

 メープルはどうあがいても退くつもりはないようである。
 その覚悟を聞いたブラナは、目を伏して頭を左右に振っていた。

「不退転の覚悟ですか。何がそこまであなたを駆り立てるのでしょうかね」

「もちろん、シュヴァルツ様の仇ですわ!」

 ブラナのつぶやきに、メープルははっきりと答えていた。
 そう、メープルとシュヴァルツは婚約者の関係にあったのだ。
 そのシュヴァルツは、クロナを討とうとして打って出て、返り討ちに遭って死んだ。メープルを突き動かしているのは、そのシュヴァルツの敵討ちなのである。だから、まったく退くつもりはないのである。
 決意の満ちたメープルの目に、ブラナは哀れみすら感じている。

「そうですか。……では、私がお相手しましょう」

「どきなさい。私が殺す相手はその後ろの魔族ですわよ!」

「シュヴァルツ坊ちゃまを殺したのは、この私も同然です。ですので、私を倒してからにしてもらえますかしらね」

 どちらも譲るつもりはないようだ。
 クロナを殺したいメープルと、クロナを守りたいブラナ。二人の想いは、まったくの平行線なのである。

「仕方ありませんわね。後ろの魔族をに狙いを定めている間に、あなたに殺されてはたまりませんからね」

 メープルは両手を広げて、魔力を展開させる。

「二人まとめて、わたくしの魔法の餌食にして差し上げますわ!」

 メープルが叫ぶと同時に、火の魔法がクロナへと襲い掛かる。

「ひっ!」

 クロナは火の玉に驚いて魔法障壁を展開する。魔法障壁に当たったメープルの魔法は、そのままかき消されてしまった。

「ちっ、相変わらずとんでもない魔法障壁ですわね。わたくしの魔法が通じないなんて!」

「お嬢様を甘く見てもらっては困りますよ!」

 魔法を防がれたことに悔しがるメープルに向けて、ブラナが攻撃を仕掛ける。
 だが、メープルまでもう少しというところで何かを感じ、地面を蹴って後ろに下がる。それと同時に、地面からは火柱が上がっていた。

「ちっ、相変わらずトラップですか。まったく、いつ仕掛けたというのですか」

「うるさいですわよ! 魔族たちを、私に近付けさせるわけにはまいりませんわ。遠距離からじわじわと削り殺して差し上げますわよ」

 ブラナは、メープルの無詠唱魔法で近付けない。
 メープルはクロナの魔法障壁で攻撃が届かない。
 クロナは怯えてしまって、自分の身を守るのが精一杯だ。

 決め手を欠く戦い。最初に脱落するのは、一体誰なのだろうか。


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 すべての魔法が跳ね返り、ホーネット伯爵家が誇る魔法隊は全滅してしまった。
 その場に立っているのは、ホーネット伯爵とメープルだけである。
「信じられませんわ。このわたくしの魔法が、すべて跳ね返されるなんて……」
 あまりの惨状に、メープルは信じられないという顔で立ち尽くしている。
「魔族のくせに、娘の魔法を……。くそっ、これは一度立て直すべきか?」
 ホーネット伯爵は、顔を青ざめさせて目の前の光景を見ている。
 魔法隊は大ケガを負ってはいるが、どうにか生きている。これならば、連れて帰ればどうにか立て直せるはずである。
 聖女を騙っていた魔族のことは許せないが、このままでは全滅は必至だ。ホーネット伯爵家まで倒れては、イクセン王国の衰退は免れない。
 ホーネット伯爵家の力が失われては、他国から攻め入る隙を与えてしまう。
「メープル、ここで撤退……」
「逃げませんわよ」
 ホーネット伯爵が退却しようとするも、メープルは退かなかった。
「退くのであれば、お父様だけでお戻りくださいませ。わたくしは、親友のふりをしていた目の前の魔族が許せませんの」
「……そうか。必ず戻るのだぞ?」
「当然ですわ」
 ホーネット伯爵は、動ける魔法隊と一緒に撤退を始める。
 その様子を見ていたスチールアントは、ブラナへと判断を迫る。
『追いかけますか?』
「いえ、あのまま放っておきましょう。それよりも厄介なのは、残っているメープル様でございます。メープル様はお嬢様の一番の友人、親友といってよいほど仲の良いお方でした。それが、感情反転の影響によって、お嬢様を強く恨んでおります」
『なるほど……』
「メープル様の魔法は、あなたの魔法では防げません。アサシンスパイダーとともに後ろに下がっていて下さい」
『分かりました』
 スチールアントはすごすごと穴の中へと入っていく。
 これでこの場には、クロナとブラナ、それとメープルとうずくまる魔法隊だけが残る。
 クロナはかなり精神状態が錯乱しており、実質ブラナしか戦える状態ではない。
 一方、ホーネット伯爵家も部隊は壊滅しており、メープルだけしか戦える人間はいない。魔力をかなり使い果たしているものの、魔法を使う様子をまったく悟らせない無詠唱魔法の使い手だ。接近戦をメインとするブラナとは、なんとも相性が悪い相手である。
「メープル様。あなたは本当に退かないのですか?」
 ブラナはメープルに問いかけている。
「くどいですわね。わたくしは、わたくしたちをだましていた、その魔族が許せませんの。いかなる時でもわたくしの目の前に現れることがないように、今ここで形も残らぬほどに焼き払って差し上げますわ!」
 メープルはどうあがいても退くつもりはないようである。
 その覚悟を聞いたブラナは、目を伏して頭を左右に振っていた。
「不退転の覚悟ですか。何がそこまであなたを駆り立てるのでしょうかね」
「もちろん、シュヴァルツ様の仇ですわ!」
 ブラナのつぶやきに、メープルははっきりと答えていた。
 そう、メープルとシュヴァルツは婚約者の関係にあったのだ。
 そのシュヴァルツは、クロナを討とうとして打って出て、返り討ちに遭って死んだ。メープルを突き動かしているのは、そのシュヴァルツの敵討ちなのである。だから、まったく退くつもりはないのである。
 決意の満ちたメープルの目に、ブラナは哀れみすら感じている。
「そうですか。……では、私がお相手しましょう」
「どきなさい。私が殺す相手はその後ろの魔族ですわよ!」
「シュヴァルツ坊ちゃまを殺したのは、この私も同然です。ですので、私を倒してからにしてもらえますかしらね」
 どちらも譲るつもりはないようだ。
 クロナを殺したいメープルと、クロナを守りたいブラナ。二人の想いは、まったくの平行線なのである。
「仕方ありませんわね。後ろの魔族をに狙いを定めている間に、あなたに殺されてはたまりませんからね」
 メープルは両手を広げて、魔力を展開させる。
「二人まとめて、わたくしの魔法の餌食にして差し上げますわ!」
 メープルが叫ぶと同時に、火の魔法がクロナへと襲い掛かる。
「ひっ!」
 クロナは火の玉に驚いて魔法障壁を展開する。魔法障壁に当たったメープルの魔法は、そのままかき消されてしまった。
「ちっ、相変わらずとんでもない魔法障壁ですわね。わたくしの魔法が通じないなんて!」
「お嬢様を甘く見てもらっては困りますよ!」
 魔法を防がれたことに悔しがるメープルに向けて、ブラナが攻撃を仕掛ける。
 だが、メープルまでもう少しというところで何かを感じ、地面を蹴って後ろに下がる。それと同時に、地面からは火柱が上がっていた。
「ちっ、相変わらずトラップですか。まったく、いつ仕掛けたというのですか」
「うるさいですわよ! 魔族たちを、私に近付けさせるわけにはまいりませんわ。遠距離からじわじわと削り殺して差し上げますわよ」
 ブラナは、メープルの無詠唱魔法で近付けない。
 メープルはクロナの魔法障壁で攻撃が届かない。
 クロナは怯えてしまって、自分の身を守るのが精一杯だ。
 決め手を欠く戦い。最初に脱落するのは、一体誰なのだろうか。