一話 随分と楽しそうぞちな?
ー/ー 天獄界へと繋がる異世界転移門が閉じた。
「まぁ、あの二人なら大丈夫――」
それを見送った翔がぼやりと呟いた瞬間、
「翔くんッッッ!!!」
「翔ッッッ!!!」
「ショウッッッ!!!」
「ショウさんッッッ!!!」
「うぉっ!!」
灯、麗華、グランミュール、レースノワエが翔に飛び込んだ。四人に抱き付かれ、翔は地面に倒れ込む。
そして行われる、
「翔くん!! 翔くん!!」
「久しぶりの匂いッッ!!」
「落ち着くのだ……」
「ああ、好き、好きッッ!!」
「ちょッッ」
抱擁と愛撫、キスの嵐。あと、イチャコラ。
それが翔に降り注ぐ。
少し顔をのけ反らせながらも、大した抵抗をしていない所をみると、翔も満更ではないといった様子か。
っというか、むしろ普通に灯たちを一人一人優しく抱きしめ、それから軽くキスをしている。
……郭たちは唖然としている。突如として行われたそれに動けずにいる。
だが、ここは戦場なのだ。
「もう何なんだよ! これもサタンの予定通りなの!? 酷いよ、酷いよ!! 僕をここまでこき使うなんてッ! 騙すなんてッッッ!!!」
子供。そう言わざるを得ないほど幼稚に、目端に涙を溜めて空中で地団太を踏むルシフェル。
だがしかし、ルシフェルはルシフェルだ。しかも天獄界の七王でも実力は上位。
世界中の精神支配によるエネルギーの無限供給は失ったものの、その力は圧倒的だ。
故に、
「消えちゃえッッッ!!!」
純白と漆黒が交じり合った無数の極光が夜空から降り注ぐ。
また、世界中の精神支配はなくなったが、この場にいる海外の化生たちの精神支配は解けていない。
むしろ、強化されているまでである。
そのため、ルシフェルが放った純白と漆黒の極光と同時に、様々な攻撃が放たれ、翔たちを襲う。
翔たちの様子に唖然としていた郭たちの反撃は間に合わない。慎太郎とツヴァイはそもそも陰陽師や魔術師たちの治療に邁進しており、見向きもしない。
しかし、
「随分と楽しそうぞちな?」
夜叉のごとき恐ろしく低い声が響いたかと思うと、純白と漆黒の極光はもちろん、海外の化生たちが放った攻撃全てが喰われた。
そして、それを喰った存在は、
「え、エクスィナ……」
エクスィナである。
一度に様々な種類の幻力を許容以上に喰ってしまったため、ダウンしてずっとベッドで横になっていたエクスィナである。
ルシフェルが放った憎しみの無限エネルギー体を感じ取って、未だに回復しきっていない心身に鞭を打ち、ここまでやってきたのだ。
そして見たのだ。
イチャコラを。
空中に佇むイザベラの表情は夜の影に隠れて見えない。
「我慢しておったんぞちよ。フェアではないから」
静かに呟かれたその言葉に、灯たちはダラダラと冷や汗を流す。
「お、落ち着こ? ね?」
「ほ、ほら、降りてきて……ね?」
「う、うむ。共に再会を祝おうではないか?」
「そ、そうだわ。一緒に抱擁しあいましょ?」
灯たちがどうにか話を逸らそうとするが、エクスィナは許さない。
淡々と抑揚のない声音を響かせる。
「其方ら、心の中で思ったぞちな? 放置プレイ好きが何言ってるんだと? ドMだからいいじゃんと」
「な、なんの事かな?」
「そ、そんな事思っているわけないわ」
「うむ、うむ。本当に申し訳ないと思っておる」
「そうだわ。私たちがそんな事を思うと思っているのかしら? 親友よ!」
灯たちが必死に弁解するが、やはりエクスィナは許さない。
「のぅ。何でゾチと視線を合わせないんぞち?」
だって、どんなに必死な様子を見せても灯たちは絶対にエクスィナと視線を合わそうとしないからだ。
エクスィナは聖霊だ。聖剣の聖霊だ。
だから、視線を合わせれば相手の感情や表面的な思考がそれなりに分かるのだ。真実の剣だからだ。
もちろん、灯たちもそれを知っている。
それを知っているのに、視線を合わせないのだ。己の謝罪の精神をエクスィナに伝えるならそれが一番なのに。
だが、もう一度言う。ここは戦場なのだ。
「急に現れてお前も何なんだよ!!」
放った純白と漆黒の極光が喰われて茫然としていたルシフェルがエクスィナに向かって怒りをぶつける。
堕天の翼で空を打てば、一瞬でエクスィナの背後へ。
そのまま超絶至近距離で純白と漆黒の極光と同等の霊力を拳に纏わせ、エクスィナの脳天に振り下ろした。
が、
「邪魔ぞち」
「がッッ、カハッッッッッ!!??」
エクスィナはルシフェルの方を見ることなく、片手を頭上に掲げて拳を受け止める。幻喰みを行使し、拳に纏っていた霊力と体に薄く纏っていた結界を喰らう。
同時に拳を受け止めた手でルシフェルの手首を掴み、音を優に超える速度で地面に叩きつけた。体に纏っていた結界が無くなったため、ルシフェルはもろにその衝撃をくらい気絶する。
シーン。
空気が凍る。
ただ一人、エクスィナだけは凍った空気をものともせず、空恐ろしい雰囲気を纏いながら、ゆらりゆらりと空中から降りてくる。
「ひっ」
そして灯たちの前に降り立った。四人の誰かが思わず悲鳴を漏らす。殺気が恐ろしすぎるからだ。
「それで、何か釈明はあるぞち――」
純白の瞳孔をギュンッと光らせ、下から灯たちを見上げるエクスィナが心胆を寒からしめる声音を響かせた瞬間、
「エクスィナ。僕が悪かった」
「ぞち!?」
翔がエクスィナを優しく愛しく抱きしめた。その抱擁は、誰が見ても愛と謝罪に溢れているものだった。
放たれていた恐ろしい殺気がみるみるうちに萎んでいき、エクスィナからは甘い雰囲気が流れる。
この機会を逃してはいけない!
そう確信した灯たちは翔に続いてエクスィナに抱擁する。
「エクスィナ、ごめん!」
「ごめんなさい、エクスィナ!」
「すまなかった!」
「ごめんなさい!」
ハグの大渋滞。一つの団子となって、全員がエクスィナに抱きついている。
「……し、仕方ないぞち。今回は許すぞち」
ちょろい。
エクスィナも数週間ぶりに感じた親友と愛し人の抱擁に温かい気持ちとなり、頬を染めながらポショポショと頷いた。
灯たちの表情がパァーっと明るくなる。嬉しさを表すために、更に抱擁を強くする。温かく甘い雰囲気が流れる。
だが、三度言おう。ここは戦場なのだ。
「ホント、何なんだよ、お前らッ!!」
今日で何度目か。気絶から覚め地団太を踏んだルシフェルは、空中にいる悪魔と天使、海外の化生たちに向かって命令を下す。
「お前ら、本気を出しちゃえ!! あんなやつら、滅ぼしちゃえ!」
咆哮が響く。膨大な殺気が翔たちに突き刺さる
だが、しかし、
「それで翔くん。私たちはどうすればいいの?」
まるで、散歩コースを決めるかのように気軽な声音。雰囲気。
「そうだな。灯と麗華、ミュール、エクスィナは僕と一緒にアイツらの相手を。イザベラはいつも通り“王権”を発動して、あの化生たちに施されている精神支配の解除と勧告をお願い。あと、慎太郎が治癒している人たちの中でも戦えそうな人たちがいたら、彼らの指揮も。慎太郎たちは……まぁ、いつも通りだね」
そう指示を出した翔は色々と混乱する事態にフリーズしていた郭たちに向かいなおる。
「先生たちはどうしますか? 一応、僕たちだけでも十分ですけど……」
「あ、いや、私たちも戦うぞ。そもそもこれは私たちの仕事だしな。な、クソ爺」
「う、うむ」
郭に睨まれ、教皇はイェスマンと頷く。
「私たちも微力ながら戦わせてもらいましょう」
「……ん」
「そうですわね!」
「う、うん」
「ん」
プロクルたちも頷き、戦闘体勢を取る。
「じゃあ、敵対意志がない奴は殺さない。ある奴もできる限り拘束を優先」
翔がそう宣言し、
「エクスィナ、喰らえ」
翔がいつの間にか聖剣となっていたエクスィナを振るった瞬間、戦いが始まった。
Φ
光の空と闇の大地が続く場所だった。果てはなく、どこまでもどこまでも、空虚な光が上を埋め尽くし、恐ろしいまでに深い闇が下を覆っていた。
匂いもせず、音もしない。
何もない『無』な世界だった。
そこに、漆黒の渦門が開く。
そして、
「……チッ、ずらされたか」
その漆黒の渦門から直樹たちが現れた。
油断なく周囲を警戒した直樹は舌打ちした。大輔が首を振る。
「いや、違う。探知時になんとなく思っていたけど、やっぱり。時空間の流れがかなり地球とかけ離れてるんだよ」
「……どれくらいだ?」
「およそ、十倍近く」
「チッ」
直樹が苦々しく表情を歪める。
時間の流れに十倍のずれがあるということは、地球での一時間がここでは十時間に相当するということ。
そして妖魔界が崩壊してから、既に数時間以上が経過している。なら、こっちでは半日、いや一日近くが経過していることになる。
その差は大きい。ミラとノアが言っていた事にも時間の開きがあるのではないかと思われる。
だからこそ、直樹は“空転眼[黒門]”を発動できる準備をしながらも、焦る。
また、それは大輔も同様。急いで“天心眼[界越真眼]”を発動し、イザベラたちの正確な座標を探る。
直樹も大輔も額に滲む汗を拭うことすらしない。
と、
「落ち着くのじゃ、ナオキ」
「落ち着いてです、ダイスケさん」
ティーガンとウィオリナがそれぞれの手を握る。
直樹も大輔は、ティーガンとウィオリナの言葉に僅かばかり息を飲み、頷く。
「……ああ、分かってる」
「……うん、ありがと」
直樹も大輔も未だに焦りの表情は消えないが、それでも先ほどの雰囲気よりも少し柔らかくなった。
顔を上げる。額に滲む汗を拭う。
そうして数十秒後。
「見つけたよ」
「よし、なら、開く――」
大輔は今度こそ正確な位置を探り当て、直樹に座標の情報を伝達。直樹は準備していた“空転眼[黒門]”を発動しようとして、
「サタンちゃんの所にいくのかしら?」
「……はぁ、だるい」
「「「「ッッッッッッ!!??」」」」
直樹たちの前方に突如として二つの存在が現れた。
片や女。
大きな躰。いやらしさを一切感じない豊満すぎる肢体。海色の長髪は魚の鱗や卵、サンゴや海藻などに飾られていて、周囲には無数の海洋生物が浮いていた。
母。圧倒的、母。
そう思わざるを得ない雰囲気を放ちながらもその女は、空恐ろしい。
名は、リヴァイアサン。
片や男。
中肉中背の躰。猫背でパッとしない容貌。気だるげな雰囲気を放つ。
しかし、注意してみればその貌はあらゆる男を誘惑するほど美しい。注意すれば注意するほど、男のはずなのに、美女と見間違う。
誘惑。堕落。怠惰。
見ているだけで気力を削がれ、生きる活力を失っていく覇気を放っている。
名は、ベルフェゴール。
「じゃあ、お話しましょ?」
「はぁ、気乗りしねぇな……」
天獄界の二王はが直樹たちに襲い掛かる――
「なっ!?」
「ッ!?」
否!
「ッ、ウィオリナ!」
「分かってるです、ティーガン様ッ!」
ティーガンとウィオリナに襲い掛かった。
「まぁ、あの二人なら大丈夫――」
それを見送った翔がぼやりと呟いた瞬間、
「翔くんッッッ!!!」
「翔ッッッ!!!」
「ショウッッッ!!!」
「ショウさんッッッ!!!」
「うぉっ!!」
灯、麗華、グランミュール、レースノワエが翔に飛び込んだ。四人に抱き付かれ、翔は地面に倒れ込む。
そして行われる、
「翔くん!! 翔くん!!」
「久しぶりの匂いッッ!!」
「落ち着くのだ……」
「ああ、好き、好きッッ!!」
「ちょッッ」
抱擁と愛撫、キスの嵐。あと、イチャコラ。
それが翔に降り注ぐ。
少し顔をのけ反らせながらも、大した抵抗をしていない所をみると、翔も満更ではないといった様子か。
っというか、むしろ普通に灯たちを一人一人優しく抱きしめ、それから軽くキスをしている。
……郭たちは唖然としている。突如として行われたそれに動けずにいる。
だが、ここは戦場なのだ。
「もう何なんだよ! これもサタンの予定通りなの!? 酷いよ、酷いよ!! 僕をここまでこき使うなんてッ! 騙すなんてッッッ!!!」
子供。そう言わざるを得ないほど幼稚に、目端に涙を溜めて空中で地団太を踏むルシフェル。
だがしかし、ルシフェルはルシフェルだ。しかも天獄界の七王でも実力は上位。
世界中の精神支配によるエネルギーの無限供給は失ったものの、その力は圧倒的だ。
故に、
「消えちゃえッッッ!!!」
純白と漆黒が交じり合った無数の極光が夜空から降り注ぐ。
また、世界中の精神支配はなくなったが、この場にいる海外の化生たちの精神支配は解けていない。
むしろ、強化されているまでである。
そのため、ルシフェルが放った純白と漆黒の極光と同時に、様々な攻撃が放たれ、翔たちを襲う。
翔たちの様子に唖然としていた郭たちの反撃は間に合わない。慎太郎とツヴァイはそもそも陰陽師や魔術師たちの治療に邁進しており、見向きもしない。
しかし、
「随分と楽しそうぞちな?」
夜叉のごとき恐ろしく低い声が響いたかと思うと、純白と漆黒の極光はもちろん、海外の化生たちが放った攻撃全てが喰われた。
そして、それを喰った存在は、
「え、エクスィナ……」
エクスィナである。
一度に様々な種類の幻力を許容以上に喰ってしまったため、ダウンしてずっとベッドで横になっていたエクスィナである。
ルシフェルが放った憎しみの無限エネルギー体を感じ取って、未だに回復しきっていない心身に鞭を打ち、ここまでやってきたのだ。
そして見たのだ。
イチャコラを。
空中に佇むイザベラの表情は夜の影に隠れて見えない。
「我慢しておったんぞちよ。フェアではないから」
静かに呟かれたその言葉に、灯たちはダラダラと冷や汗を流す。
「お、落ち着こ? ね?」
「ほ、ほら、降りてきて……ね?」
「う、うむ。共に再会を祝おうではないか?」
「そ、そうだわ。一緒に抱擁しあいましょ?」
灯たちがどうにか話を逸らそうとするが、エクスィナは許さない。
淡々と抑揚のない声音を響かせる。
「其方ら、心の中で思ったぞちな? 放置プレイ好きが何言ってるんだと? ドMだからいいじゃんと」
「な、なんの事かな?」
「そ、そんな事思っているわけないわ」
「うむ、うむ。本当に申し訳ないと思っておる」
「そうだわ。私たちがそんな事を思うと思っているのかしら? 親友よ!」
灯たちが必死に弁解するが、やはりエクスィナは許さない。
「のぅ。何でゾチと視線を合わせないんぞち?」
だって、どんなに必死な様子を見せても灯たちは絶対にエクスィナと視線を合わそうとしないからだ。
エクスィナは聖霊だ。聖剣の聖霊だ。
だから、視線を合わせれば相手の感情や表面的な思考がそれなりに分かるのだ。真実の剣だからだ。
もちろん、灯たちもそれを知っている。
それを知っているのに、視線を合わせないのだ。己の謝罪の精神をエクスィナに伝えるならそれが一番なのに。
だが、もう一度言う。ここは戦場なのだ。
「急に現れてお前も何なんだよ!!」
放った純白と漆黒の極光が喰われて茫然としていたルシフェルがエクスィナに向かって怒りをぶつける。
堕天の翼で空を打てば、一瞬でエクスィナの背後へ。
そのまま超絶至近距離で純白と漆黒の極光と同等の霊力を拳に纏わせ、エクスィナの脳天に振り下ろした。
が、
「邪魔ぞち」
「がッッ、カハッッッッッ!!??」
エクスィナはルシフェルの方を見ることなく、片手を頭上に掲げて拳を受け止める。幻喰みを行使し、拳に纏っていた霊力と体に薄く纏っていた結界を喰らう。
同時に拳を受け止めた手でルシフェルの手首を掴み、音を優に超える速度で地面に叩きつけた。体に纏っていた結界が無くなったため、ルシフェルはもろにその衝撃をくらい気絶する。
シーン。
空気が凍る。
ただ一人、エクスィナだけは凍った空気をものともせず、空恐ろしい雰囲気を纏いながら、ゆらりゆらりと空中から降りてくる。
「ひっ」
そして灯たちの前に降り立った。四人の誰かが思わず悲鳴を漏らす。殺気が恐ろしすぎるからだ。
「それで、何か釈明はあるぞち――」
純白の瞳孔をギュンッと光らせ、下から灯たちを見上げるエクスィナが心胆を寒からしめる声音を響かせた瞬間、
「エクスィナ。僕が悪かった」
「ぞち!?」
翔がエクスィナを優しく愛しく抱きしめた。その抱擁は、誰が見ても愛と謝罪に溢れているものだった。
放たれていた恐ろしい殺気がみるみるうちに萎んでいき、エクスィナからは甘い雰囲気が流れる。
この機会を逃してはいけない!
そう確信した灯たちは翔に続いてエクスィナに抱擁する。
「エクスィナ、ごめん!」
「ごめんなさい、エクスィナ!」
「すまなかった!」
「ごめんなさい!」
ハグの大渋滞。一つの団子となって、全員がエクスィナに抱きついている。
「……し、仕方ないぞち。今回は許すぞち」
ちょろい。
エクスィナも数週間ぶりに感じた親友と愛し人の抱擁に温かい気持ちとなり、頬を染めながらポショポショと頷いた。
灯たちの表情がパァーっと明るくなる。嬉しさを表すために、更に抱擁を強くする。温かく甘い雰囲気が流れる。
だが、三度言おう。ここは戦場なのだ。
「ホント、何なんだよ、お前らッ!!」
今日で何度目か。気絶から覚め地団太を踏んだルシフェルは、空中にいる悪魔と天使、海外の化生たちに向かって命令を下す。
「お前ら、本気を出しちゃえ!! あんなやつら、滅ぼしちゃえ!」
咆哮が響く。膨大な殺気が翔たちに突き刺さる
だが、しかし、
「それで翔くん。私たちはどうすればいいの?」
まるで、散歩コースを決めるかのように気軽な声音。雰囲気。
「そうだな。灯と麗華、ミュール、エクスィナは僕と一緒にアイツらの相手を。イザベラはいつも通り“王権”を発動して、あの化生たちに施されている精神支配の解除と勧告をお願い。あと、慎太郎が治癒している人たちの中でも戦えそうな人たちがいたら、彼らの指揮も。慎太郎たちは……まぁ、いつも通りだね」
そう指示を出した翔は色々と混乱する事態にフリーズしていた郭たちに向かいなおる。
「先生たちはどうしますか? 一応、僕たちだけでも十分ですけど……」
「あ、いや、私たちも戦うぞ。そもそもこれは私たちの仕事だしな。な、クソ爺」
「う、うむ」
郭に睨まれ、教皇はイェスマンと頷く。
「私たちも微力ながら戦わせてもらいましょう」
「……ん」
「そうですわね!」
「う、うん」
「ん」
プロクルたちも頷き、戦闘体勢を取る。
「じゃあ、敵対意志がない奴は殺さない。ある奴もできる限り拘束を優先」
翔がそう宣言し、
「エクスィナ、喰らえ」
翔がいつの間にか聖剣となっていたエクスィナを振るった瞬間、戦いが始まった。
Φ
光の空と闇の大地が続く場所だった。果てはなく、どこまでもどこまでも、空虚な光が上を埋め尽くし、恐ろしいまでに深い闇が下を覆っていた。
匂いもせず、音もしない。
何もない『無』な世界だった。
そこに、漆黒の渦門が開く。
そして、
「……チッ、ずらされたか」
その漆黒の渦門から直樹たちが現れた。
油断なく周囲を警戒した直樹は舌打ちした。大輔が首を振る。
「いや、違う。探知時になんとなく思っていたけど、やっぱり。時空間の流れがかなり地球とかけ離れてるんだよ」
「……どれくらいだ?」
「およそ、十倍近く」
「チッ」
直樹が苦々しく表情を歪める。
時間の流れに十倍のずれがあるということは、地球での一時間がここでは十時間に相当するということ。
そして妖魔界が崩壊してから、既に数時間以上が経過している。なら、こっちでは半日、いや一日近くが経過していることになる。
その差は大きい。ミラとノアが言っていた事にも時間の開きがあるのではないかと思われる。
だからこそ、直樹は“空転眼[黒門]”を発動できる準備をしながらも、焦る。
また、それは大輔も同様。急いで“天心眼[界越真眼]”を発動し、イザベラたちの正確な座標を探る。
直樹も大輔も額に滲む汗を拭うことすらしない。
と、
「落ち着くのじゃ、ナオキ」
「落ち着いてです、ダイスケさん」
ティーガンとウィオリナがそれぞれの手を握る。
直樹も大輔は、ティーガンとウィオリナの言葉に僅かばかり息を飲み、頷く。
「……ああ、分かってる」
「……うん、ありがと」
直樹も大輔も未だに焦りの表情は消えないが、それでも先ほどの雰囲気よりも少し柔らかくなった。
顔を上げる。額に滲む汗を拭う。
そうして数十秒後。
「見つけたよ」
「よし、なら、開く――」
大輔は今度こそ正確な位置を探り当て、直樹に座標の情報を伝達。直樹は準備していた“空転眼[黒門]”を発動しようとして、
「サタンちゃんの所にいくのかしら?」
「……はぁ、だるい」
「「「「ッッッッッッ!!??」」」」
直樹たちの前方に突如として二つの存在が現れた。
片や女。
大きな躰。いやらしさを一切感じない豊満すぎる肢体。海色の長髪は魚の鱗や卵、サンゴや海藻などに飾られていて、周囲には無数の海洋生物が浮いていた。
母。圧倒的、母。
そう思わざるを得ない雰囲気を放ちながらもその女は、空恐ろしい。
名は、リヴァイアサン。
片や男。
中肉中背の躰。猫背でパッとしない容貌。気だるげな雰囲気を放つ。
しかし、注意してみればその貌はあらゆる男を誘惑するほど美しい。注意すれば注意するほど、男のはずなのに、美女と見間違う。
誘惑。堕落。怠惰。
見ているだけで気力を削がれ、生きる活力を失っていく覇気を放っている。
名は、ベルフェゴール。
「じゃあ、お話しましょ?」
「はぁ、気乗りしねぇな……」
天獄界の二王はが直樹たちに襲い掛かる――
「なっ!?」
「ッ!?」
否!
「ッ、ウィオリナ!」
「分かってるです、ティーガン様ッ!」
ティーガンとウィオリナに襲い掛かった。
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