東京都某所、埠頭。貨物船から運び込まれたコンテナが、そこら中に存在する場所。そこで何かしらの企みが行われていたら、容易には気付けない場所である。視界も射線も、事あるごとに途切れるため遠距離武器の強みは少々消えてしまうが、同時に近接攻撃持ちが輝く場所である。
そこで行われていたことは、自主退学者を人質に取った教会構成員が、四人の想像を超える人数存在したのだ。しかもその中には、東京周囲の支部からやってきた応援すら存在する、四人だけでは到底相手しきれない量であったのだ。
(――ウッソでしょ、こんなの聞いてない)
(……は~ん、こりゃあ……『嵌められた』)
目の前に現れた存在は、信玄が贔屓にしている、と語ったはずの情報屋であった。その手には、学生の身分が到底払えるはずのない、抱き締めるほどの多額の金が握らされており、男はこれまでにないほどに笑んでいた。
(悪いな、お前たち。これだけあれば遊んで暮らせるんでな)
じゃあ、と手を振ってその場を去ろうとした情報屋の背を、容赦なく銃撃する構成員たち。握らされた金も、胴体も、何もかもに新鮮な穴が開き、鮮血が零れ落ちていく。一瞬の欲に目がくらんだ者の末路であった。推測するだけで、握らされていた額は一千万円程度。奴の命は一千万ほどの価値だった、と暗に自分自身で示しているようなものであった。
(――どうして、情報屋を殺した)
(殊勝じゃあないの、自分がおびき出されたことよりも誰か殺されたことを怒るのな)
そう言いだしたのは、あろうことか捕まっていたはずの元生徒たち。後ろ手で縛られていたはずの体勢から、縄を解いてエヴァたちに立ちはだかる。もう既に元生徒という肩書なのではなく、現信者という存在であったのだ。もう、引き戻すなんてことは夢物語同然であったのだ。
(全ては……お前らが憎たらしいからだよ)
才能、能力への嫉妬。無いものねだりに近いものであるのにも拘らず、当人をお門違いであるのに憎み続ける。そして今、行動に移したのだ。自分の立場、これからの未来すらかなぐり捨てて自分より上を引きずり落しにかかっていたのだ。
そこまでの覚悟があるのなら、他の行動でも起こせば少しはましになるだろうに、復讐心に取り付かれた者の末路というものは、ここまでも間抜けで滑稽に見えるのだ。
(――そこまで言うんならよ、少しでもかかって来てみたらどうだよ。俺っちたちをそこまで恨んでんならよ)
そんな信玄の言葉に呼応するように、一斉に銃火器を向ける。しかもそれは、自動短銃だけではなく多種多様であった。少なくとも、たかだか一年次四人にどうこうできるだなんてことは出来なかった。
ただし、それが『普通の』一年次ならば、の話である。
瞬時に丙良は土の壁を生成、その裏でエヴァが小鎚を振るって周囲のコンテナを即席武器化し、簡易武器群を手にしながら飛び上がる信玄とレイジー。
意表を突かれた教会構成員たちは、成すすべなく無造作に空に対し銃を乱射するも、空中に意識が行った瞬間に土の壁が姿を変えて土製の巨人に変わる。
どちらかを先に片付ける、だなんて発想は咄嗟に出てくるはずもなく。上空からの攻撃と前方からの拳撃に挟み撃ち。裏切者以外の構成員はすぐさまやられてしまう始末であった。
(どうしたね、まだ私たち変身していないんだけれど?)
(なら――こうだ!!)
隠し持っていたスイッチを起動させると、それにより周囲のコンテナが爆発の連鎖を起こす。因子の力を用いて復讐するのではなく、技術を用いて小賢しく報いたのだ。
(ウッソだろ、ただコンテナ爆破させたように思えねえのは……俺っちの勘鋭すぎ、って言われるか?)
(ごめん、信玄くん……その勘は的中しているっぽい)
そこら中が連鎖爆発を起こし、埠頭全体を揺らす。あろうことか、ここいらに存在していた積み荷の大体は油を伴った可燃性の物であり、一息に火の手があまりにも強くなり過ぎたのだ。
(嘘だろ……応援とか呼べないかな!?)
(……いや、今日はある程度出払っている状態だ。学園長も……同じくだ)
あらゆる場所に緊急連絡を飛ばすも、それら全て応答せず。四人は才の無い者に袋小路に追い詰められたのだ。
地盤を固めようにも、まだそこまで力をうまく扱いきれない一年次が、土の形を変える程度で精一杯。海が近いが、そこに新たな土壌を作る、だなんてことは出来なかった。さらに、この場でどうにか能力を用いて現状を変えられる存在は……悲しいことにいなかったのだ。
(お前らはここで俺らと共に死ねよ!! どれほど才ある存在だろうと、この状況をひっくり返すだなんてことは出来やしねえだろ!!)
高笑いながら、小型の武器であるアーミーナイフを生成、それで喉を掻っ切って騒がしく自決したのだった。
(……クソッ)
(どうする? 長居は出来なさそうだよ)
徐々に肺が干からび、一酸化炭素中毒症状の初期症状である、頭痛やめまい等を起こしそうな中で、信玄と丙良は真っ先にエヴァとレイジーを逃がす選択を取ったのだ。
英雄や武器に、性の差は存在しないはずなのに。二人の男は『漢』としての行動をとったのだ。火の手がそこかしこから上がる中で、二人をあまり影響の及ばない場所に投げ、距離を取らせたのだ。
(そんな……丙良くん、信玄くん!!)
(待って、エヴァ!! この状況で自分の身を守れる選択肢を取れるのはあの二人だけなの、土による簡易ドームを作ればある程度は耐えられる、その目算があってこそ……命を顧みず、私たちを逃がしたんだ!!)
二人が現状やれることは、限りなく少ない。英雄学園の緊急相談窓口に向かって、ひたすらに走るのみ。幸い、東京都と英雄学園は近しい位置関係にある。走ればそう時間は要らないだろう。
二人で火の回る埠頭を全力疾走しながら、何とか出入り口を見つけ出す二人。しかし、その瞬間に横から起こった、突発的な爆発に気づかなかったのだ。
レイジーは、エヴァを咄嗟に押し出し、庇ったのだ。その瞬間に、拙い炎のベース能力を活かしながら、爆発の勢いを殺すも……コンテナに勢いよく叩きつけられ、頭部から出血してしまったのだ。
ただ、エヴァもまた爆発の勢いを殺すことは出来ず、ぎりぎり火の手から逃れられたものの、想い人を残してしまう結果になったのだ。
燃え盛る業火が、離れた位置にて意識を失うレイジーの周囲を包む。それを無視して必死に手を伸ばそうとするも、一歩間違えれば腕自体が焼け爛れてしまうかもしれない中でも、彼女を失う可能性があったことが嫌だったのだ。
だが、そこかしこで爆発が起こる中で、遂にエヴァにも爆風が直撃し、レイジーから遠ざかってしまい、煙によって一時的に目が潰れ、どこだかわからなくなってしまった。
(どこ……どこにいるの!?)
エヴァが必死に呼びかけるも、レイジーは声を発することは無い。自分の体を一切労わろうともしない。この場に駆けつけた面子を助けるためにも英雄学園に向かうことが得策だというのにも拘らず、一時的な盲目状態になってしまったがために……冷静な判断力を失ってしまったのだ。
次第に、視界が暗くなり始めた。危惧していただろうに、一酸化炭素中毒になり、意識が朦朧とし始めたのだ。
進む足も鈍くなり始め、肺は焼け。
どこまで行っても、エヴァはレイジーの元へたどり着くことすら叶わず、自身の無力感をただその身で味わうのみであったのだ。
誰の姿も見つけることは叶わず。エヴァは遂に――程離れた場所に倒れ伏した。ひとしきりの絶望を味わった後――自身の内に眠る英雄が語り掛けてきたのだ。
『――馬鹿野郎!! こんな所でぶっ倒れて……そんな無様を儂に見せるために日本に来たのか!!』
内に眠る、村正。それがエヴァの意識を浮上させたのだ。命の危機に瀕したからこそ、久方ぶりに仕方なく表に出たのかもしれない。それか、ここで終われない使命感を感じ取ったゆえか。
(――村正さん)
その声によって意識が完全に覚醒したエヴァは、体中を無理やり動かして、英雄学園に向かって走り出したのだ。
だが、夢中に走る中で心の内に巣食っていたのは、自分たちが「本当に求められた存在なのか」、という疑問であった。下の位の生徒から存在を否定され、恨まれ、殺されそうになっている中で――自分がこの学園にいて、同じような存在として混在していていいものなのか、と。
自分たちの力の水準が高いことは分かっている。そして世が求める英雄やそのサポーターである武器が、人々の安寧のために強くあるべきだということは重々理解している。その中で、自分たちが切磋琢磨し合うのではなく、互いに殺し合っていたとなったら……本当に正しいのはどちらなのか、分からなくなってしまったのだ。
所々出血した状態ではあったが、エヴァは英雄学園に走って辿り着き、事のあらましを全て説明、あの火の手の中に置き去りとなった三名の生存者を助け出すよう叫んだのだ。
ここまでの歪んだ現状を憂いた別地点の学園長は、死亡した生徒も含む元生徒たちに、罪の十字架を背負わせ、英雄学園事態も埠頭の復興、及び再建を約束しその通りに実行。エヴァたちが気に病むことは無いよう、念を押した上で傷を治させたのだった。
しかし、エヴァが悩みを背負ったのと同タイミングで、これほどの事件を起こした理由を理解してしまったレイジーは、傷を治すのと同時に、あることを考え始めたのだ。
それこそが、こうまでして英雄たちを内部崩壊させてくる教会を、自分含め多くの人員を巻き込んで逆に内部崩壊させてやろうという魂胆であったのだ。