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第三百五話

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 時は遡り、英雄学園武器科一年次の頃にまで振り子は揺れ戻る。両科黄金期、そう呼称されていた時である。
 その時のエヴァを始めとして、一年次は浮足立っていたのだ。自分が黄金期に該当するわけでもない中で、先頭に立つ存在の威を借り、他学年にも虚勢を張るくらいには治安が悪くなっていた。その発端となったエヴァたちが、事あるごとに問題ごとに駆り出されては、それを解決するたびにより調子づくため、エヴァたちは自分のやっていることが正しいのか分からなくなっていった。
 ある時のこと。エヴァ、レイジー、丙良、信玄は一堂に会し、現状の英雄科と武器科の惨状を共有し合っていた。自分が優れている訳でもないのに、調子づくこの現状を何とかできないか、と互いに協力するための会であった。
 幸い、全員面識がある上に、鼻につくような存在はいない。だからこそどうにかできるという、慢心に似た確信があった。
(――と、言う訳なんだ。僕たち含む英雄側が迷惑をかけて、非常に申し訳なく思うよ)
(ばーか慎ちゃん、何で自分が欠片も悪くもねェことで謝らなきゃあならねえんだ。本当に悪いと思ったときにだけ頭は下げるもんだぜ)
 互いを慰め合う丙良と信玄と、そんな様子を見て悲しい表情を浮かべる武器科の二人。それは、そのタイミングくらいから英雄科の下の位から受けている暴言について想起してしまったことに由来した。
(……ある時、言われてしまったよ。私たちのやっていることは『ただの英雄(ヒーロー)様の真似事』だって。武器(ウエポン)科は武器(ウエポン)科らしく製造方面に特化させればいいんだ、ってね。それは……正直御尤(ごもっと)もだと思うよ)
 武器を作る、だけが武器(ウエポン)科でないことすら理解していない有象無象の声に、心を酷く痛めていたレイジー。そんな彼女に対して、静かに彼女の頬に手を添えて、エヴァは涙を拭うのだった。
(――私たちが戦うことが、そんなにおかしいことかな。誰かのために戦うことが、そこまで言われなければならない行為なのかな)
(……そんなこと、有り得るはずがない。僕が見る限り、エヴァちゃんたちは……よくやっている。それは下の位に位置する英雄(ヒーロー)科が心から嫉妬するほどに、君たちはバランスの取れたタッグだ)
 生成、精錬、製造のエヴァに、完全使役のレイジー。(アンバランス)な能力が揃っているのではなく、まるで運命の巡り合わせかと勘違いしてしまうほどに互いの欠点を補い合っている二人である。目立った欠点が無い上に、成績も良い、性格も良いと来たら嫉妬を通り越して憎しみに変わるのも無理はない。
 だが、問題はここからであったのだ。こうして丙良の寮に集まったのには、もう一つの理由が存在する。それは、エヴァたちを憎む存在がただ陰口を垂れ流しにしているだけではなく、徒党を組んで何かしらの行動を起こそうとしていたのだ。
(――学園長も、秘密裏に調査を進めていた結果……複数の六組生徒が示し合わせたように退学届を提出して、学園の外に出たらしい。それぞれの接点なんて……ある訳もない。ただの寄せ集めだ、と言われればそれもそうかもしれないし、考えすぎ、ただの杞憂だとすれば、それだけで済むのなら……それで十分だ。ただ……それにしても妙なんだ)
 退学届の同時提出。それに関して、過去に例が無かったわけではないが、基本的にそんなことをするだなんていうのは何かしらの事情を抱えた存在のみ。のっぴきならない家業含む家の事情であったり、成績関連で仕方なく退学したり。
 だが、今回提出した存在全てが、『一身上の都合』とだけ記されていたのだ。それ以上を詮索すると「プライベートの侵害だ」と難癖をつけられそうであるが、しかしそんな難癖を打破する証拠が出揃っていたのだ。
(――俺っち、学園長に掛け合ったのと、見知った情報屋に(ナシ)つけてあの下級生の探り入れたんだけどよ……どうやら『教会』と関わっているらしいぜ。無駄にプライドだけは高いアイツらが、単純な武力を得て無差別に上の位の生徒を襲うだの、気に入った因子があればパクるとかも言ってたし……趣味悪すぎだろ)
 因子の違法摘出・継承手術。それを目的として、優れた存在を捕縛、心臓を移し替え力を自分の物にする。以前から未成熟な存在を狙って行われた誘拐殺人事件であるが、数年前からそれは顕著なものになっていった。恵まれない因子だ、と決めつけては非合法な値段と生贄を連れてきては自分の物にする。歪んだ社会が生み出した怪物と化していたのだ。
 実際、自主退学を選んだ面子もその可能性が現状非常に高い。学園在籍状態だと、ある程度の不都合があるからこそ、自分自身で足を洗う選択をしたのだ。足を洗い向かった先は……それ以上の闇でしかないのにも拘らず。
 それの根本に存在するのが、「弱い英雄(ヒーロー)など要らない」という世論。才能の無い人間ばかりであるのに、助けられて生きているのにも拘らず、そういった存在に能力が劣る存在が一人でもいようものなら冷たくあしらう。助けられる側が非常に無神経であり、面の皮が熱くなり過ぎた結果が今である。罵倒され殴られないことに慣れた傲慢な存在が、怪人よりも恐ろしいのだ。
(――今回、私たちは……その自主退学者たちが何をしようとしているのかを、両科合同で突き止める。エヴァも、ダブル・シンも……気張っていこう)
(((OK)))
 水面下で動き始める計画。しかし、事は学生に任せるだけでは済まないほどに、激化しようとしていたのだ。



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 時は遡り、英雄学園武器科一年次の頃にまで振り子は揺れ戻る。両科黄金期、そう呼称されていた時である。
 その時のエヴァを始めとして、一年次は浮足立っていたのだ。自分が黄金期に該当するわけでもない中で、先頭に立つ存在の威を借り、他学年にも虚勢を張るくらいには治安が悪くなっていた。その発端となったエヴァたちが、事あるごとに問題ごとに駆り出されては、それを解決するたびにより調子づくため、エヴァたちは自分のやっていることが正しいのか分からなくなっていった。
 ある時のこと。エヴァ、レイジー、丙良、信玄は一堂に会し、現状の英雄科と武器科の惨状を共有し合っていた。自分が優れている訳でもないのに、調子づくこの現状を何とかできないか、と互いに協力するための会であった。
 幸い、全員面識がある上に、鼻につくような存在はいない。だからこそどうにかできるという、慢心に似た確信があった。
(――と、言う訳なんだ。僕たち含む英雄側が迷惑をかけて、非常に申し訳なく思うよ)
(ばーか慎ちゃん、何で自分が欠片も悪くもねェことで謝らなきゃあならねえんだ。本当に悪いと思ったときにだけ頭は下げるもんだぜ)
 互いを慰め合う丙良と信玄と、そんな様子を見て悲しい表情を浮かべる武器科の二人。それは、そのタイミングくらいから英雄科の下の位から受けている暴言について想起してしまったことに由来した。
(……ある時、言われてしまったよ。私たちのやっていることは『ただの|英雄《ヒーロー》様の真似事』だって。|武器《ウエポン》科は|武器《ウエポン》科らしく製造方面に特化させればいいんだ、ってね。それは……正直|御尤《ごもっと》もだと思うよ)
 武器を作る、だけが|武器《ウエポン》科でないことすら理解していない有象無象の声に、心を酷く痛めていたレイジー。そんな彼女に対して、静かに彼女の頬に手を添えて、エヴァは涙を拭うのだった。
(――私たちが戦うことが、そんなにおかしいことかな。誰かのために戦うことが、そこまで言われなければならない行為なのかな)
(……そんなこと、有り得るはずがない。僕が見る限り、エヴァちゃんたちは……よくやっている。それは下の位に位置する|英雄《ヒーロー》科が心から嫉妬するほどに、君たちはバランスの取れたタッグだ)
 生成、精錬、製造のエヴァに、完全使役のレイジー。|歪《アンバランス》な能力が揃っているのではなく、まるで運命の巡り合わせかと勘違いしてしまうほどに互いの欠点を補い合っている二人である。目立った欠点が無い上に、成績も良い、性格も良いと来たら嫉妬を通り越して憎しみに変わるのも無理はない。
 だが、問題はここからであったのだ。こうして丙良の寮に集まったのには、もう一つの理由が存在する。それは、エヴァたちを憎む存在がただ陰口を垂れ流しにしているだけではなく、徒党を組んで何かしらの行動を起こそうとしていたのだ。
(――学園長も、秘密裏に調査を進めていた結果……複数の六組生徒が示し合わせたように退学届を提出して、学園の外に出たらしい。それぞれの接点なんて……ある訳もない。ただの寄せ集めだ、と言われればそれもそうかもしれないし、考えすぎ、ただの杞憂だとすれば、それだけで済むのなら……それで十分だ。ただ……それにしても妙なんだ)
 退学届の同時提出。それに関して、過去に例が無かったわけではないが、基本的にそんなことをするだなんていうのは何かしらの事情を抱えた存在のみ。のっぴきならない家業含む家の事情であったり、成績関連で仕方なく退学したり。
 だが、今回提出した存在全てが、『一身上の都合』とだけ記されていたのだ。それ以上を詮索すると「プライベートの侵害だ」と難癖をつけられそうであるが、しかしそんな難癖を打破する証拠が出揃っていたのだ。
(――俺っち、学園長に掛け合ったのと、見知った情報屋に|話《ナシ》つけてあの下級生の探り入れたんだけどよ……どうやら『教会』と関わっているらしいぜ。無駄にプライドだけは高いアイツらが、単純な武力を得て無差別に上の位の生徒を襲うだの、気に入った因子があればパクるとかも言ってたし……趣味悪すぎだろ)
 因子の違法摘出・継承手術。それを目的として、優れた存在を捕縛、心臓を移し替え力を自分の物にする。以前から未成熟な存在を狙って行われた誘拐殺人事件であるが、数年前からそれは顕著なものになっていった。恵まれない因子だ、と決めつけては非合法な値段と生贄を連れてきては自分の物にする。歪んだ社会が生み出した怪物と化していたのだ。
 実際、自主退学を選んだ面子もその可能性が現状非常に高い。学園在籍状態だと、ある程度の不都合があるからこそ、自分自身で足を洗う選択をしたのだ。足を洗い向かった先は……それ以上の闇でしかないのにも拘らず。
 それの根本に存在するのが、「弱い|英雄《ヒーロー》など要らない」という世論。才能の無い人間ばかりであるのに、助けられて生きているのにも拘らず、そういった存在に能力が劣る存在が一人でもいようものなら冷たくあしらう。助けられる側が非常に無神経であり、面の皮が熱くなり過ぎた結果が今である。罵倒され殴られないことに慣れた傲慢な存在が、怪人よりも恐ろしいのだ。
(――今回、私たちは……その自主退学者たちが何をしようとしているのかを、両科合同で突き止める。エヴァも、ダブル・シンも……気張っていこう)
(((OK)))
 水面下で動き始める計画。しかし、事は学生に任せるだけでは済まないほどに、激化しようとしていたのだ。