第三百二話
ー/ー 愛田が装着した灰色のアイテムは、構成員の多くが用いるインスタントライセンスではなかった。どころか、ライセンスよりも一回りも大きいものであった。
まるで化け物の口のようなデザインであるチーティングドライバーに横から分割して差し込み、即座に上部を押しこんで起動させる。
『Flip System Game Start』
「変身!!」
これまでの怪人化とは異なる、淀んではいるものの灰色の魔力が愛田を覆う。まるでアメーバのように纏わりつき、即座に変貌が終わる。
現れた姿は、顔も口もない、しかし人間の体を持ち合わせた、あらゆるものを映し出す鏡ばかりの存在がそこに立っていた。関節部は球状の物すら存在せず、虚空。異形というには整いすぎて、英雄の装甲というには当人を表現しきっていない。
『――コレが、私の力……コレが、私のシステム。コレが……私のアイテム、『フリップブッカー』よ』
「――少なくとも、私は聞いたことないけれど」
「同じくです。影も形も、そんなアイテム見たことも聞いたこともありません」
『なら……少し片鱗見せてあげる!! 震え上がりやがれ英雄共!!』
横側に備わったトリガーを引くと、フリップブッカー中央のイラストが変化。まるでパラパラ漫画のような気軽さで、ページがすぐに切り替わったかのように、あるものを映し出す。そこに映されていたのは、傲慢な女王の姿であった。
『顕現 ハートの女王』
その無機質なシステムボイスと共に、ハートの女王を思わせる巨大な傀儡が背後から出現。顔面部の鏡にもハートの女王の顔半分が映し出され、力を完全に共有。エヴァと綾部を潰しにかかるのだった。
『フリップブッカーは、ほぼほぼ使い捨てではあるけれど物語の切れ端の力を即座に実体化、私の思うままに具現化できる! 私自身を強化するんじゃあない、私以外がお前らを殺しに行く!! これこそが、因子を持ち合わせていない私に善吉さんがくれた、魂の力だ!!』
即座にその場を跳躍し、何とか回避する二人であったが、追撃は止まない。相手の様子を探ることのほかに、その発言の真意を探ろうとしていたのだ。
武器科はあまり動くのではなく、英雄側のサポートにあたる存在であるために、綾部は慣れない運動に戸惑いを覚えていた。しかし、それでもその先で必ず待っているはずの想い人のためなら……強烈な筋肉痛を覚えたとしても可愛らしい対価だと思うことにしたのだ。
「なら……これはどうッよッ!!」
瞬時に蒼の槍、『ゲイ・ボルグ』を具現化。右肩に魔力を込め、筋力と反発力を瞬時にブースト。時速にして500キロメートルを超える速度で投擲する。
それは、傀儡に向けてのものでは無い。それを使役する愛田本人に向けてのものであった。
そしてそれはエヴァも同じであり、船の壁に小鎚を叩き込んで、無数の簡素な武具を生成、そのまま本人に向け高速射出する。
しかし、それらの武器は見事に弾かれ、一切のダメージが通っていない様子であった。
「嘘でしょ……? 結構名の知れた武具なんですけど……こっちは?」
『私を殺したければ、有力な英雄サンでも何でも連れてくればいいじゃあない』
すぐさま高速移動にてその場を離れ、次の攻撃手段を生み出そうとしていた二人であった。だが、愛田はこれだけで終わる存在ではなかったのだ。
『じゃあ、能力の開示……『もう一つ』行ってみようか』
虚空に手をかざし、生み出すはなんと六法全書。法の代理人である彼女が手にするものとしては妥当なものであるが、この状態の愛田が持っていたところで意味のないものでもある。
しかし、愛田はその六法全書を、一切手を扱わずに開き、ある文言を呟いたのだった。
『第一条・この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。その二、日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする』
その言葉とともに、愛田が纏った魔力と同様の灰色の魔力を帯び始める、ハートの女王。
「――不味い、エヴァ!! アイツ壊そう!!」
「分かっていますとも!」
即座に地面に小鎚を叩き込み、無数の触腕を生み出し、そして綾部は無数の簡素な槍を生成、傀儡に向けて高速放出する。
しかし、時の運は愛田の方に味方していた。
『第百四条・他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する』
女王の傀儡は、それらの攻撃を難なく受け止め、二人に向けまとめて投げ飛ばしたのだ。
その瞬間に、表情など分かるわけもないのに、愛田はハートの女王のメイクを施したような顔を顔面の鏡に映し出し、高らかに嗤って見せるのだった。
『私の能力は――『罪の裁定、それは悦楽の時』!! この能力が発現した者の国、そこに敷かれている法律に基づき……刑の重さによる能力上昇を掛ける能力!!』
しかし、今しがた扱った力は本来の能力ではない。愛田の執念によって、能力を根本から捻じ曲げ、新たな力として昇華したのだ。幹部や大幹部では持ちえない異能力を自力で得た上に変貌させるという、末恐ろしいほどにまで強化された存在……それこそが愛田亜紗という女の怖さであった。
『本来ならば、当人が大罪を犯せば犯すほど強くなるけれど……私はそれを付与する方面に伸ばし、進化させ条件を緩くした!! 私が法の代理人だからこそ成し得た、新たな形だ!!』
「力増幅する条件が六法全書の内容読み上げるだけ、って緩くなってんのに……何で厳ついバフついている訳!? 等価交換の法則とか学ばなかった訳?!」
どれほど悪態を吐かれようと、意に介していない様子の愛田は、二人を絶望させるために動き出したのだった。
『さ。『罪の裁定、それは悦楽の時』の開示も済んだし……もうこれで何やってもオーケーってこと。アンタらが土壇場の新たな能力開示はズルだ何だと叫ぶから、こうして同じ土俵に合わせてあげてるんだから……感謝しなさいな!!』
そのままフリップブッカーを操作し、新たな物語を提示。そこに記されているのは……誰もが知る悲恋の物語、その代表格であった。
『顕現 人魚姫』
辺りに多量の水を撒き散らしながら、大渦を巻き起こす人魚が、新たに顕現。しかも、傀儡と共に、触れるもの全て泡に変える中で、意識など無しにエヴァたちを襲撃してきたのだ。
「嘘でしょ、アレ消えないの!?」
「恐らく……本丸を叩かない限り収まりません!! それに……奴ら、もっと『罪』を重ねています! あの能力のバフが、絶え間なくかかっている状況です!!」
愛田の影響か、それとも他の要因によるものか。戦っている船室が無限に拡張され、入ってきた出入り口にも向かう先にも永遠に辿り着かないようになっている。
二つの歪な物語の具現化相手に、どうにかして策を練らんと自在に逃げ回る二人であったが、何度物を意図的に壊しても効果は当然だが顕れない。無限に空間が延長されていく中で、元々その部屋にあったものももれなく増幅している。そしてそれらをありとあらゆる手段で壊し、無尽蔵に力を増していく。
それもそのはず。『罪の裁定、それは悦楽の時』による効果発言は六法全書の対象箇所を読み上げるだけではない。「当人がその条件を満たせば」自ずとバフはかかる。しかも、それはエヴァたちには無論効果が顕れていない。
それ即ち――かなりの危機的状況であったのだ。
まるで化け物の口のようなデザインであるチーティングドライバーに横から分割して差し込み、即座に上部を押しこんで起動させる。
『Flip System Game Start』
「変身!!」
これまでの怪人化とは異なる、淀んではいるものの灰色の魔力が愛田を覆う。まるでアメーバのように纏わりつき、即座に変貌が終わる。
現れた姿は、顔も口もない、しかし人間の体を持ち合わせた、あらゆるものを映し出す鏡ばかりの存在がそこに立っていた。関節部は球状の物すら存在せず、虚空。異形というには整いすぎて、英雄の装甲というには当人を表現しきっていない。
『――コレが、私の力……コレが、私のシステム。コレが……私のアイテム、『フリップブッカー』よ』
「――少なくとも、私は聞いたことないけれど」
「同じくです。影も形も、そんなアイテム見たことも聞いたこともありません」
『なら……少し片鱗見せてあげる!! 震え上がりやがれ英雄共!!』
横側に備わったトリガーを引くと、フリップブッカー中央のイラストが変化。まるでパラパラ漫画のような気軽さで、ページがすぐに切り替わったかのように、あるものを映し出す。そこに映されていたのは、傲慢な女王の姿であった。
『顕現 ハートの女王』
その無機質なシステムボイスと共に、ハートの女王を思わせる巨大な傀儡が背後から出現。顔面部の鏡にもハートの女王の顔半分が映し出され、力を完全に共有。エヴァと綾部を潰しにかかるのだった。
『フリップブッカーは、ほぼほぼ使い捨てではあるけれど物語の切れ端の力を即座に実体化、私の思うままに具現化できる! 私自身を強化するんじゃあない、私以外がお前らを殺しに行く!! これこそが、因子を持ち合わせていない私に善吉さんがくれた、魂の力だ!!』
即座にその場を跳躍し、何とか回避する二人であったが、追撃は止まない。相手の様子を探ることのほかに、その発言の真意を探ろうとしていたのだ。
武器科はあまり動くのではなく、英雄側のサポートにあたる存在であるために、綾部は慣れない運動に戸惑いを覚えていた。しかし、それでもその先で必ず待っているはずの想い人のためなら……強烈な筋肉痛を覚えたとしても可愛らしい対価だと思うことにしたのだ。
「なら……これはどうッよッ!!」
瞬時に蒼の槍、『ゲイ・ボルグ』を具現化。右肩に魔力を込め、筋力と反発力を瞬時にブースト。時速にして500キロメートルを超える速度で投擲する。
それは、傀儡に向けてのものでは無い。それを使役する愛田本人に向けてのものであった。
そしてそれはエヴァも同じであり、船の壁に小鎚を叩き込んで、無数の簡素な武具を生成、そのまま本人に向け高速射出する。
しかし、それらの武器は見事に弾かれ、一切のダメージが通っていない様子であった。
「嘘でしょ……? 結構名の知れた武具なんですけど……こっちは?」
『私を殺したければ、有力な英雄サンでも何でも連れてくればいいじゃあない』
すぐさま高速移動にてその場を離れ、次の攻撃手段を生み出そうとしていた二人であった。だが、愛田はこれだけで終わる存在ではなかったのだ。
『じゃあ、能力の開示……『もう一つ』行ってみようか』
虚空に手をかざし、生み出すはなんと六法全書。法の代理人である彼女が手にするものとしては妥当なものであるが、この状態の愛田が持っていたところで意味のないものでもある。
しかし、愛田はその六法全書を、一切手を扱わずに開き、ある文言を呟いたのだった。
『第一条・この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。その二、日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする』
その言葉とともに、愛田が纏った魔力と同様の灰色の魔力を帯び始める、ハートの女王。
「――不味い、エヴァ!! アイツ壊そう!!」
「分かっていますとも!」
即座に地面に小鎚を叩き込み、無数の触腕を生み出し、そして綾部は無数の簡素な槍を生成、傀儡に向けて高速放出する。
しかし、時の運は愛田の方に味方していた。
『第百四条・他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する』
女王の傀儡は、それらの攻撃を難なく受け止め、二人に向けまとめて投げ飛ばしたのだ。
その瞬間に、表情など分かるわけもないのに、愛田はハートの女王のメイクを施したような顔を顔面の鏡に映し出し、高らかに嗤って見せるのだった。
『私の能力は――『罪の裁定、それは悦楽の時』!! この能力が発現した者の国、そこに敷かれている法律に基づき……刑の重さによる能力上昇を掛ける能力!!』
しかし、今しがた扱った力は本来の能力ではない。愛田の執念によって、能力を根本から捻じ曲げ、新たな力として昇華したのだ。幹部や大幹部では持ちえない異能力を自力で得た上に変貌させるという、末恐ろしいほどにまで強化された存在……それこそが愛田亜紗という女の怖さであった。
『本来ならば、当人が大罪を犯せば犯すほど強くなるけれど……私はそれを付与する方面に伸ばし、進化させ条件を緩くした!! 私が法の代理人だからこそ成し得た、新たな形だ!!』
「力増幅する条件が六法全書の内容読み上げるだけ、って緩くなってんのに……何で厳ついバフついている訳!? 等価交換の法則とか学ばなかった訳?!」
どれほど悪態を吐かれようと、意に介していない様子の愛田は、二人を絶望させるために動き出したのだった。
『さ。『罪の裁定、それは悦楽の時』の開示も済んだし……もうこれで何やってもオーケーってこと。アンタらが土壇場の新たな能力開示はズルだ何だと叫ぶから、こうして同じ土俵に合わせてあげてるんだから……感謝しなさいな!!』
そのままフリップブッカーを操作し、新たな物語を提示。そこに記されているのは……誰もが知る悲恋の物語、その代表格であった。
『顕現 人魚姫』
辺りに多量の水を撒き散らしながら、大渦を巻き起こす人魚が、新たに顕現。しかも、傀儡と共に、触れるもの全て泡に変える中で、意識など無しにエヴァたちを襲撃してきたのだ。
「嘘でしょ、アレ消えないの!?」
「恐らく……本丸を叩かない限り収まりません!! それに……奴ら、もっと『罪』を重ねています! あの能力のバフが、絶え間なくかかっている状況です!!」
愛田の影響か、それとも他の要因によるものか。戦っている船室が無限に拡張され、入ってきた出入り口にも向かう先にも永遠に辿り着かないようになっている。
二つの歪な物語の具現化相手に、どうにかして策を練らんと自在に逃げ回る二人であったが、何度物を意図的に壊しても効果は当然だが顕れない。無限に空間が延長されていく中で、元々その部屋にあったものももれなく増幅している。そしてそれらをありとあらゆる手段で壊し、無尽蔵に力を増していく。
それもそのはず。『罪の裁定、それは悦楽の時』による効果発言は六法全書の対象箇所を読み上げるだけではない。「当人がその条件を満たせば」自ずとバフはかかる。しかも、それはエヴァたちには無論効果が顕れていない。
それ即ち――かなりの危機的状況であったのだ。
みんなのリアクション
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