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第三百一話

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 あまりもの、純度の高い狂愛。好きならば正してやるというのも、それを許容してより破滅へ向かうのも、確かに同じ愛である。言っていることは英雄目線で見るならば間違っているだろうが、真に語っていることは一切間違っていない。矛盾でありながら正論そのものであった。
 愛は人をいい意味でも悪い意味でも狂わせる麻薬同然であるが、愛田の場合は前者であり後者であるという、一見理解できないようで不思議と理解できてしまう、自己崩壊など起こすことは無くそこにある、実に不思議な存在であった。
「私……小さい頃に見た『ハリー・ポッター』の作品で、世間一般で言われる(ヴィラン)への愛に目覚めたの。ヴォルデモート様は、今でも私の癖を目覚めさせてくれた、最高の存在なの」
 圧倒的な、闇のカリスマ。現実世界に存在したのなら、間違いなく世界は滅んでしまう、と言えてしまう存在。それを最初に好きになった少女が成長した結果、似たような存在かつ同様に悪の救世主同然と成り果てた来栖善吉に対し、恋に落ちたのだ。それを本人相手に発露することは無いだろうが、その代わりに都合のいい駒であり続ける。五斂子社に移った時に、そう誓ったのだ。
「――どこまで行っても、問答は無理ってこと……」
「そゆこと。相手……確か、信玄くんと結ばれた貴女とは一生そりは合わない上に、真に伝えるべきことを抱えた私は、余計に負けられない。単純でしょう?? それは当然のことだし、何より悪役思考(ヴィランズ・シンキング)を欠片でも持ち合わせない貴女には理解はおろか、少しでも分かり合おうだなんて土台無理な話なのよ」
 説得は無駄。
 説教は無駄。
 論理は無駄。
 正論は無駄。
 良心に訴えかけるのも無駄。
 この世の道理を理解させるのも無駄。
 なぜなら、全て分かった上でついて来て、愛を胸に秘めた本人の、裏の顔自体に語り掛けることが、最初(ハナ)から無駄な行為であったのだ。
 諦めかけ、蒼の槍(ゲイ・ボルグ)を顕現させる綾部であったが、それを制止したのはエヴァであった。
「あ、でも『武器の匠(ウエポンズ・マスタリー)』に関しては……まだ共感できるよ。元カノを事実善吉さんが殺して、今の想い人とはまだ結ばれず……それでも献身的に愛を捧げるその姿……実にいじらしく可愛らしいものではあるから。あまりこういったことは言わないんだけど……私と似たようなものを感じるもの」
「そうだろうね。実際……私も貴女……愛田亜紗と、似たようなものを感じるし、共感できるし」
 その一見突拍子もないような言動に、思わず怒りと困惑を混濁させたような感情を露わにする綾部。
「な、何を言っているのエヴァ!?」
「大丈夫、綾部ちゃん。私はね……世間一般で言うような、間違った思考に寄っている訳じゃあないから」
 エヴァは綾部を静かに制止する。彼女が共感したのは、まさしく狂気的なまでの『愛』であった。ひたむきに、真っすぐに、どこまで行っても感情を向ける本人が好きだという、心の底からの『純愛』であった。
 狂気的(バーサク)、それは別の言い表し方をするならば、ただひたすらに純粋(ピュア)
 似たような感情を持つ存在を、エヴァ・クリストフという女は知っている。他でもなく、瀧本礼安という、彼女の想い人その人であった。
 亡き母親の教えをひたむきに守り続け、その根底に宿り続けるは現学園長である瀧本信一郎の圧倒的な強さ。純粋であるからこそ、エヴァはどこまでも彼女を支えたくなる。
 ただそれだけではなく、彼女の強い精神に関しても、かつてのレイジーを彷彿とさせるようなものを感じ取れる。狂気的で、純粋で。それは礼安にも当てはまりはするが、エヴァ自身にも当てはまる部分はあったのだ。
 それこそが、ただひたすらの『純愛』であったのだ。
「――私も、まっすぐに人を愛したことがあった。その人のためだったら、何だって出来てしまいそうなくらい、浮遊感を私自身に齎すくらいに……有頂天そのものだった。でも……山梨の一件でその人は死んだ。よりにもよって、貴女の想い人……その策略に巻き込まれた結果。それは紛れもない事実だし、恨んでいるのは事実だよ」
 しかし、エヴァはこの千葉県で成長していた。精神性が、そして共感性が。
「だけど……悪事を否定しようと、そこに混在している愚直(ストレート)な『愛』まで、誰が否定できるっていうの。誰かのために、献身的に動きたい。それは当然のことだし、何だって出来そうな気がする。レイジーとの日々は、まさにそんな感じだった」
 エヴァが武器を作り、レイジーが作った武器を用いて戦う。それが彼女たちの常であり、エヴァもそれを良しとしていた。ある種の献身的な武器製作は、愛田にも似通ったものを感じさせる。善吉が喜ぶ成果を上げ、それを献上する。徳川家統治下以前の日本、それこそ鎌倉時代に存在した制度である、『御恩と奉公』そのままのような。
「――そして、それは今の想い人である、礼安さんにも言える。何だってしてあげたい、彼女が輝くために……私がスポットライトにでも、彼女の武器そのものになっても、何だって彼女のサポートをしてあげたい。それが私の今抱く使命であり、欲望そのものなんですから」
 だから、エヴァは愛田を「一切否定しなかった」のだ。自分と抱くものが結局同じだからこそ、そこに介在するのはただ純粋にその愛を証明しきることが出来るのか、その競争、競合だけであると認識していたからこそである。
 最初の問答で、きっと理詰めは駄目だという確信があった。本来ならば、弁護士相手に理詰めもクソもない上に、きっと論理で語ったところで敵わない確信があった。正論は真実を粗方解き明かすものの、誰かを救ったためしはない。さらにそれに対して激情しない確証も無いために、愛田相手に正論は無駄であったのだ。
 だが、もし同じ土俵で戦えるのなら、その方が良かった。狂人じみた思考であっても、愛田の場合であっても綾部の場合でも、エヴァの場合でも根底に存在するものは『愛』。大きさではなく、その純度、勢いを競える場が存在するのなら、それこそがこの場の二人対一人の状況でも彼女が戦える、そういった確信があったのだ。
 綾部と愛田は、そんなエヴァに感嘆していた。「恨みはある」と前置きしておきながら、愛田に向けるは『愛』の勝負、その挑戦状と言わんばかりの拳。どこまで行っても堂々巡りな論議を終わらせる、この状況において最高にして最善の選択をノータイムで取ることが出来た彼女を、心の中で見直していたのだ。
「――へえ。案外、話の分かる子はいるんじゃん。善吉さんの邪魔をする憎たらしい存在でありながら、随分出来た子だね。そうその通り、君達の愛の大きさと同じくらいに、大人(わたし)にだって、ヴィラン(わたし)にだって譲れない愛があるの。それを分かってんなら――本当に出来た子だよ」
「それは、私をここまで成長させてくれた……礼安さんに言ってあげてください。あの方は……私をもう一度日向に戻してくれた、最高の太陽のような存在ですから」
「――言っておくけれど、私は私の『大切』を奪った善吉ってやつを許さない。そんでもって世間様に迷惑振りまく存在であるゆえに、英雄学園の生徒としても許さない。それはアンタもだけれど……私はアンタたちの『所業』を憎む」
 それぞれが胸の内に持つは、純粋な愛。まだ当人に伝えていない、あるいは伝わっている、伝わった『愛』ではあるが、そこに貴賤はない。多くの被害を生み出してきた存在を、司法が齎す法の下の考えよりも、当人の考えを尊重していたのだ。
 だが、愛の元に何をしてもいいのか、という訳ではない。二人はそれを正しにかかるのだ。そして一人はそれを悪事だと分かっている状況で、それでも愛する人のために通そうとしている。言語化してしまえば、ここまで単純なものなのだ。
「――さ、じゃあほんの少しの尊敬と莫大な敵意を以って接してあげる。貴女たち英雄たちと敵対する存在として……それらしい言葉で、それらしい態度で――」
 愛田は懐に隠し持ったドライバーを装着し、これまで見たことの無い変身アイテムを用いて大見栄を切るのだった。


「私は愛田亜紗(アイダ アサ)!! 英雄学園を始めとして、此の世に存在する……法の代行者たる弁護士(ブタ)という国に認められた立場にありながら、ありとあらゆる正義という一方的な概念(クソ)を唾棄し、私の信ずる『愛』のためにこの世を破壊(ブッコワ)しにかかる、愛に生き愛に死ぬ――新生山梨支部の大幹部!! 千変万化の夜の蝶の力、舐めんじゃアないわよ青春(アオハル)真っ只中の青っちょろいガキ共ォ!!」

「私は綾部琴音(アヤベ コトネ)!! 惚れた男という弱みこそあれど、それは当人を強くする『愛』の証!! あらゆる身勝手を許すことは無く、そして遍在(へんざい)する悪の(さかえ)を許すことは無く――ただひたすらに己が信ずる正義を胸に、手前(わたし)の槍でぶっ貫く!! もう自分の道を誤ったりはしない!! 囚われのお姫様同然の男のために、手前(テメェ)の命なんざ――死地に、置いてきたァッ!!」

「私は――エヴァ・クリストフ!! 愛した(ヒト)を突如として失い、そして戦乱の中で亡くし……そこから今の想い(すきな)人と愛した(ヒト)の力に背を押され、自己を見直し影の中に光る自己を見つけた、未だ未熟者(ビギナー)!! それでも……ようやく見つけた自分と、二つの『愛』を胸に――今一度、精錬された刃を振るおう!!」


 エヴァと綾部は、二人ほんの一瞬だけ見つめ合い――愛田以上の大見えを切るのだった。

「「たとえ青臭い子供(ガキ)と言われようと、己が信念を押し通すべく、愛でアンタをぶった斬る/ぶっ貫く!!」」

 その言葉は、何があろうと立場がブレないと確信していた愛田が、二人の勢いに少々気圧されてしまうほど。愛には貴賤が無いだけでなく、重ねた年月すら関係が無い。分かり切った事実ではあったが、ここまでの大きな感情を持った存在とぶつかれたことに、どこか感激していたのだ。最初に海ほまれで一行を見ていた時には、こんな高揚感は感じられなかった。
「――ッッ……! やるじゃん、やるじゃん!! そうでなきゃあ……いや!! そうでこそ、私の(しょうがい)として、最高の存在だよッッ!!」
 狂気的な『愛』と、純度の高い『愛』、そして共に生きる『愛』。
 運命の歯車が噛み合った結果、今この時という偶然の産物が生まれた。あらゆる事象は奇跡の結晶そのものであるが、ここまでの味わい(マリアージュ)を果たすのはこの三人のみであった。

「――行くよ、大人げなさ全開で行ってやる!!」
「「ならこっちは、青い感情を爆発させてやる!!」」

 多くを犠牲にした存在と敵対していながら、交友を通じてお互いに奇妙な友情を抱く、女同士の戦いが、始まったのだ。



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 あまりもの、純度の高い狂愛。好きならば正してやるというのも、それを許容してより破滅へ向かうのも、確かに同じ愛である。言っていることは英雄目線で見るならば間違っているだろうが、真に語っていることは一切間違っていない。矛盾でありながら正論そのものであった。
 愛は人をいい意味でも悪い意味でも狂わせる麻薬同然であるが、愛田の場合は前者であり後者であるという、一見理解できないようで不思議と理解できてしまう、自己崩壊など起こすことは無くそこにある、実に不思議な存在であった。
「私……小さい頃に見た『ハリー・ポッター』の作品で、世間一般で言われる|敵《ヴィラン》への愛に目覚めたの。ヴォルデモート様は、今でも私の癖を目覚めさせてくれた、最高の存在なの」
 圧倒的な、闇のカリスマ。現実世界に存在したのなら、間違いなく世界は滅んでしまう、と言えてしまう存在。それを最初に好きになった少女が成長した結果、似たような存在かつ同様に悪の救世主同然と成り果てた来栖善吉に対し、恋に落ちたのだ。それを本人相手に発露することは無いだろうが、その代わりに都合のいい駒であり続ける。五斂子社に移った時に、そう誓ったのだ。
「――どこまで行っても、問答は無理ってこと……」
「そゆこと。相手……確か、信玄くんと結ばれた貴女とは一生そりは合わない上に、真に伝えるべきことを抱えた私は、余計に負けられない。単純でしょう?? それは当然のことだし、何より|悪役思考《ヴィランズ・シンキング》を欠片でも持ち合わせない貴女には理解はおろか、少しでも分かり合おうだなんて土台無理な話なのよ」
 説得は無駄。
 説教は無駄。
 論理は無駄。
 正論は無駄。
 良心に訴えかけるのも無駄。
 この世の道理を理解させるのも無駄。
 なぜなら、全て分かった上でついて来て、愛を胸に秘めた本人の、裏の顔自体に語り掛けることが、|最初《ハナ》から無駄な行為であったのだ。
 諦めかけ、|蒼の槍《ゲイ・ボルグ》を顕現させる綾部であったが、それを制止したのはエヴァであった。
「あ、でも『|武器の匠《ウエポンズ・マスタリー》』に関しては……まだ共感できるよ。元カノを事実善吉さんが殺して、今の想い人とはまだ結ばれず……それでも献身的に愛を捧げるその姿……実にいじらしく可愛らしいものではあるから。あまりこういったことは言わないんだけど……私と似たようなものを感じるもの」
「そうだろうね。実際……私も貴女……愛田亜紗と、似たようなものを感じるし、共感できるし」
 その一見突拍子もないような言動に、思わず怒りと困惑を混濁させたような感情を露わにする綾部。
「な、何を言っているのエヴァ!?」
「大丈夫、綾部ちゃん。私はね……世間一般で言うような、間違った思考に寄っている訳じゃあないから」
 エヴァは綾部を静かに制止する。彼女が共感したのは、まさしく狂気的なまでの『愛』であった。ひたむきに、真っすぐに、どこまで行っても感情を向ける本人が好きだという、心の底からの『純愛』であった。
 |狂気的《バーサク》、それは別の言い表し方をするならば、ただひたすらに|純粋《ピュア》。
 似たような感情を持つ存在を、エヴァ・クリストフという女は知っている。他でもなく、瀧本礼安という、彼女の想い人その人であった。
 亡き母親の教えをひたむきに守り続け、その根底に宿り続けるは現学園長である瀧本信一郎の圧倒的な強さ。純粋であるからこそ、エヴァはどこまでも彼女を支えたくなる。
 ただそれだけではなく、彼女の強い精神に関しても、かつてのレイジーを彷彿とさせるようなものを感じ取れる。狂気的で、純粋で。それは礼安にも当てはまりはするが、エヴァ自身にも当てはまる部分はあったのだ。
 それこそが、ただひたすらの『純愛』であったのだ。
「――私も、まっすぐに人を愛したことがあった。その人のためだったら、何だって出来てしまいそうなくらい、浮遊感を私自身に齎すくらいに……有頂天そのものだった。でも……山梨の一件でその人は死んだ。よりにもよって、貴女の想い人……その策略に巻き込まれた結果。それは紛れもない事実だし、恨んでいるのは事実だよ」
 しかし、エヴァはこの千葉県で成長していた。精神性が、そして共感性が。
「だけど……悪事を否定しようと、そこに混在している|愚直《ストレート》な『愛』まで、誰が否定できるっていうの。誰かのために、献身的に動きたい。それは当然のことだし、何だって出来そうな気がする。レイジーとの日々は、まさにそんな感じだった」
 エヴァが武器を作り、レイジーが作った武器を用いて戦う。それが彼女たちの常であり、エヴァもそれを良しとしていた。ある種の献身的な武器製作は、愛田にも似通ったものを感じさせる。善吉が喜ぶ成果を上げ、それを献上する。徳川家統治下以前の日本、それこそ鎌倉時代に存在した制度である、『御恩と奉公』そのままのような。
「――そして、それは今の想い人である、礼安さんにも言える。何だってしてあげたい、彼女が輝くために……私がスポットライトにでも、彼女の武器そのものになっても、何だって彼女のサポートをしてあげたい。それが私の今抱く使命であり、欲望そのものなんですから」
 だから、エヴァは愛田を「一切否定しなかった」のだ。自分と抱くものが結局同じだからこそ、そこに介在するのはただ純粋にその愛を証明しきることが出来るのか、その競争、競合だけであると認識していたからこそである。
 最初の問答で、きっと理詰めは駄目だという確信があった。本来ならば、弁護士相手に理詰めもクソもない上に、きっと論理で語ったところで敵わない確信があった。正論は真実を粗方解き明かすものの、誰かを救ったためしはない。さらにそれに対して激情しない確証も無いために、愛田相手に正論は無駄であったのだ。
 だが、もし同じ土俵で戦えるのなら、その方が良かった。狂人じみた思考であっても、愛田の場合であっても綾部の場合でも、エヴァの場合でも根底に存在するものは『愛』。大きさではなく、その純度、勢いを競える場が存在するのなら、それこそがこの場の二人対一人の状況でも彼女が戦える、そういった確信があったのだ。
 綾部と愛田は、そんなエヴァに感嘆していた。「恨みはある」と前置きしておきながら、愛田に向けるは『愛』の勝負、その挑戦状と言わんばかりの拳。どこまで行っても堂々巡りな論議を終わらせる、この状況において最高にして最善の選択をノータイムで取ることが出来た彼女を、心の中で見直していたのだ。
「――へえ。案外、話の分かる子はいるんじゃん。善吉さんの邪魔をする憎たらしい存在でありながら、随分出来た子だね。そうその通り、君達の愛の大きさと同じくらいに、|大人《わたし》にだって、|ヴィラン《わたし》にだって譲れない愛があるの。それを分かってんなら――本当に出来た子だよ」
「それは、私をここまで成長させてくれた……礼安さんに言ってあげてください。あの方は……私をもう一度日向に戻してくれた、最高の太陽のような存在ですから」
「――言っておくけれど、私は私の『大切』を奪った善吉ってやつを許さない。そんでもって世間様に迷惑振りまく存在であるゆえに、英雄学園の生徒としても許さない。それはアンタもだけれど……私はアンタたちの『所業』を憎む」
 それぞれが胸の内に持つは、純粋な愛。まだ当人に伝えていない、あるいは伝わっている、伝わった『愛』ではあるが、そこに貴賤はない。多くの被害を生み出してきた存在を、司法が齎す法の下の考えよりも、当人の考えを尊重していたのだ。
 だが、愛の元に何をしてもいいのか、という訳ではない。二人はそれを正しにかかるのだ。そして一人はそれを悪事だと分かっている状況で、それでも愛する人のために通そうとしている。言語化してしまえば、ここまで単純なものなのだ。
「――さ、じゃあほんの少しの尊敬と莫大な敵意を以って接してあげる。貴女たち英雄たちと敵対する存在として……それらしい言葉で、それらしい態度で――」
 愛田は懐に隠し持ったドライバーを装着し、これまで見たことの無い変身アイテムを用いて大見栄を切るのだった。
「私は|愛田亜紗《アイダ アサ》!! 英雄学園を始めとして、此の世に存在する……法の代行者たる|弁護士《ブタ》という国に認められた立場にありながら、ありとあらゆる正義という一方的な|概念《クソ》を唾棄し、私の信ずる『愛』のためにこの世を|破壊《ブッコワ》しにかかる、愛に生き愛に死ぬ――新生山梨支部の大幹部!! 千変万化の夜の蝶の力、舐めんじゃアないわよ|青春《アオハル》真っ只中の青っちょろいガキ共ォ!!」
「私は|綾部琴音《アヤベ コトネ》!! 惚れた男という弱みこそあれど、それは当人を強くする『愛』の証!! あらゆる身勝手を許すことは無く、そして|遍在《へんざい》する悪の|栄《さかえ》を許すことは無く――ただひたすらに己が信ずる正義を胸に、|手前《わたし》の槍でぶっ貫く!! もう自分の道を誤ったりはしない!! 囚われのお姫様同然の男のために、|手前《テメェ》の命なんざ――死地に、置いてきたァッ!!」
「私は――エヴァ・クリストフ!! 愛した|女《ヒト》を突如として失い、そして戦乱の中で亡くし……そこから今の|想い《すきな》人と愛した|女《ヒト》の力に背を押され、自己を見直し影の中に光る自己を見つけた、未だ|未熟者《ビギナー》!! それでも……ようやく見つけた自分と、二つの『愛』を胸に――今一度、精錬された刃を振るおう!!」
 エヴァと綾部は、二人ほんの一瞬だけ見つめ合い――愛田以上の大見えを切るのだった。
「「たとえ青臭い|子供《ガキ》と言われようと、己が信念を押し通すべく、愛でアンタをぶった斬る/ぶっ貫く!!」」
 その言葉は、何があろうと立場がブレないと確信していた愛田が、二人の勢いに少々気圧されてしまうほど。愛には貴賤が無いだけでなく、重ねた年月すら関係が無い。分かり切った事実ではあったが、ここまでの大きな感情を持った存在とぶつかれたことに、どこか感激していたのだ。最初に海ほまれで一行を見ていた時には、こんな高揚感は感じられなかった。
「――ッッ……! やるじゃん、やるじゃん!! そうでなきゃあ……いや!! そうでこそ、私の|敵《しょうがい》として、最高の存在だよッッ!!」
 狂気的な『愛』と、純度の高い『愛』、そして共に生きる『愛』。
 運命の歯車が噛み合った結果、今この時という偶然の産物が生まれた。あらゆる事象は奇跡の結晶そのものであるが、ここまでの|味わい《マリアージュ》を果たすのはこの三人のみであった。
「――行くよ、大人げなさ全開で行ってやる!!」
「「ならこっちは、青い感情を爆発させてやる!!」」
 多くを犠牲にした存在と敵対していながら、交友を通じてお互いに奇妙な友情を抱く、女同士の戦いが、始まったのだ。