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第二百九十九話

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「――それじゃあ、行きましょうエヴァ。この先に進んで……一発でもぶん殴ってやりたい存在がいるのよ」
「それは私も。フルパワーでぶん殴ってやりたい(クソ)がいるもの」
 最奥へ向かうべく、走り出したエヴァと綾部の二人。この二人には、奇しくも武器(ウエポン)科以外の共通点が存在する。
 それは、想い人がいること。しかもそれを(おおやけ)にしていること。片方に関しては、まさかの合同演習会でごり押し特攻により結ばれるという、何ともびっくりな結末を迎えているのだが。
 しかしその共通点以上に、同じ武器科かつ同じクラスのよしみとして、綾部は山梨での一件で深く傷ついていたエヴァを案じていたのだ。接点がある程度あるからこそ、レイジーが死んだことも、そしてそれによってエヴァが深く傷ついていたことも、至極当然のことだと考えるし、新たなパートナーが少し前に出来た自分がここにいてもいいのか、と少々考えてしまう。
 それはエヴァも同一であり、自分の事情でここまで深みに立ち入らせていいものか、と考えていたのだ。かつて、合同演習会で教会に魅入られ裏切った存在に自分の弱みを握られた結果、怪人化まで果たしている。結果的に想い人と結ばれたものの、今度は想い人が教会の手に落ちた。
 関わらない理由はない、と考えるだろうが……盲目になってしまったらそれは戦う者としては(ゼロ)点である。
「「……そう言えば」」
 あまりにもの同じ言い出しに、二人は驚愕してしまうも、それは善吉の元へと繋がる大広間一歩手前での事。まだ猶予はある、と二人はそこで立ち止まるのだった。
「――エヴァは、大丈夫なの? 『あれだけ』のことがあったのに……。当時部外者であった私でも、話はすぐに伝わってきた。だから……この先に進んで大丈夫かな、ってさ」
「……確かに、その心配は御尤(ごもっと)もかもしれないね。実際……綾部ちゃんの方も戦う理由は十分だし、何ならその恨みを晴らすためにここにやってきたってのもあるだろうし。でも……私はもう、覚悟を決めたんだ」
 きっとこの先の大広間を、来栖善吉ほどの人物が、黙ってまっすぐ進ませてくれる訳はない。他でもなく、障害(てき)が待っていることだろう。だが、それでも進むしかないのだ。想い人のトラウマを掘り起こしてくるような存在だろうと、そうでなかろうと。
 第一、ここで退いたら、自分と村正、そして命を賭してバトンを繋いでくれたレイジーの覚悟を無駄にしてしまう。綾部もまた、ここで退く理由はない。信玄が自分の元を離れてしまう可能性すらあるためである。
 結局のところ、退く選択肢は元からない。自分の命が危ぶまれようと、二人が頑固である以上戦い勝利する以外に道はないのだ。
「――何だろ、随分強い目をするようになったんだ。あの時以上の『ギラギラ』を感じる……夜空に一等星があったのなら、それと輝きを張り合えるほどの輝きだと思う」
「そう? きっと……それはレイジーと礼安さんの影響だと思うんだ」
「……恋と愛に背を押されている訳? そりゃあ強くなるわ」
「復讐もきっと、私の心に混じっているのかもしれない、それは全く以って否定しない。なんせ自覚していることだし。それでも……私はレイジーの弔い合戦として、そして礼安さんのために戦うって、決めたんだ」
 あらゆるものを背負いながらも、晴れ晴れとしたような顔。山梨から帰ってきたばかりの彼女の表情とは真逆であった。これまでの千葉県での任務の影響か、彼女はより大きく成長していたのだ。喪った痛みにて精神の一部を腐らせたのではなく、それをバネに、より高みへ登ろうとしていたのだ。登竜門へ至る、龍に化ける一歩手前の(こい)のように。
「――何てこと。これは私の心配し過ぎかしら。両科黄金期(ダブル・ゴールデンエイジ)以上の貴女を見るなんて」
「そう? まあそう言われればそうかも。今なら……何でもできる気がするんだ。今なら……善吉(クソ)にだって己が剣……いや、己が刀が、届きそうなくらいにね」
 大広間に続く扉を二人で蹴り飛ばし開ける。その大広間にも多種多様な空間が待っていることは分かっていたが、まさか同性の存在が現れるとは思っていなかったのだ。

「――あら、私の相手は貴女たちなんだ。随分眩しい存在で反吐が出そうだわ」

 その女は、胸元が分かりやすい赤色のインナーにスカートスタイルのビジネススーツを着用、それでいて赤色の高いピンヒールを履き、仕事の出来る女と言った印象の人物であった。

「私の名前は愛田亜紗(アイダ アサ)。善吉さんとは五斂子社からの繋がりで……この支部の大幹部を務めている(そんざい)。善吉さんから……貴女たちを『ここで殺せ』、って指令を仰せつかっている訳。お分かり?」



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「――それじゃあ、行きましょうエヴァ。この先に進んで……一発でもぶん殴ってやりたい存在がいるのよ」
「それは私も。フルパワーでぶん殴ってやりたい|男《クソ》がいるもの」
 最奥へ向かうべく、走り出したエヴァと綾部の二人。この二人には、奇しくも|武器《ウエポン》科以外の共通点が存在する。
 それは、想い人がいること。しかもそれを|公《おおやけ》にしていること。片方に関しては、まさかの合同演習会でごり押し特攻により結ばれるという、何ともびっくりな結末を迎えているのだが。
 しかしその共通点以上に、同じ武器科かつ同じクラスのよしみとして、綾部は山梨での一件で深く傷ついていたエヴァを案じていたのだ。接点がある程度あるからこそ、レイジーが死んだことも、そしてそれによってエヴァが深く傷ついていたことも、至極当然のことだと考えるし、新たなパートナーが少し前に出来た自分がここにいてもいいのか、と少々考えてしまう。
 それはエヴァも同一であり、自分の事情でここまで深みに立ち入らせていいものか、と考えていたのだ。かつて、合同演習会で教会に魅入られ裏切った存在に自分の弱みを握られた結果、怪人化まで果たしている。結果的に想い人と結ばれたものの、今度は想い人が教会の手に落ちた。
 関わらない理由はない、と考えるだろうが……盲目になってしまったらそれは戦う者としては|零《ゼロ》点である。
「「……そう言えば」」
 あまりにもの同じ言い出しに、二人は驚愕してしまうも、それは善吉の元へと繋がる大広間一歩手前での事。まだ猶予はある、と二人はそこで立ち止まるのだった。
「――エヴァは、大丈夫なの? 『あれだけ』のことがあったのに……。当時部外者であった私でも、話はすぐに伝わってきた。だから……この先に進んで大丈夫かな、ってさ」
「……確かに、その心配は|御尤《ごもっと》もかもしれないね。実際……綾部ちゃんの方も戦う理由は十分だし、何ならその恨みを晴らすためにここにやってきたってのもあるだろうし。でも……私はもう、覚悟を決めたんだ」
 きっとこの先の大広間を、来栖善吉ほどの人物が、黙ってまっすぐ進ませてくれる訳はない。他でもなく、|障害《てき》が待っていることだろう。だが、それでも進むしかないのだ。想い人のトラウマを掘り起こしてくるような存在だろうと、そうでなかろうと。
 第一、ここで退いたら、自分と村正、そして命を賭してバトンを繋いでくれたレイジーの覚悟を無駄にしてしまう。綾部もまた、ここで退く理由はない。信玄が自分の元を離れてしまう可能性すらあるためである。
 結局のところ、退く選択肢は元からない。自分の命が危ぶまれようと、二人が頑固である以上戦い勝利する以外に道はないのだ。
「――何だろ、随分強い目をするようになったんだ。あの時以上の『ギラギラ』を感じる……夜空に一等星があったのなら、それと輝きを張り合えるほどの輝きだと思う」
「そう? きっと……それはレイジーと礼安さんの影響だと思うんだ」
「……恋と愛に背を押されている訳? そりゃあ強くなるわ」
「復讐もきっと、私の心に混じっているのかもしれない、それは全く以って否定しない。なんせ自覚していることだし。それでも……私はレイジーの弔い合戦として、そして礼安さんのために戦うって、決めたんだ」
 あらゆるものを背負いながらも、晴れ晴れとしたような顔。山梨から帰ってきたばかりの彼女の表情とは真逆であった。これまでの千葉県での任務の影響か、彼女はより大きく成長していたのだ。喪った痛みにて精神の一部を腐らせたのではなく、それをバネに、より高みへ登ろうとしていたのだ。登竜門へ至る、龍に化ける一歩手前の|鯉《こい》のように。
「――何てこと。これは私の心配し過ぎかしら。|両科黄金期《ダブル・ゴールデンエイジ》以上の貴女を見るなんて」
「そう? まあそう言われればそうかも。今なら……何でもできる気がするんだ。今なら……|善吉《クソ》にだって己が剣……いや、己が刀が、届きそうなくらいにね」
 大広間に続く扉を二人で蹴り飛ばし開ける。その大広間にも多種多様な空間が待っていることは分かっていたが、まさか同性の存在が現れるとは思っていなかったのだ。
「――あら、私の相手は貴女たちなんだ。随分眩しい存在で反吐が出そうだわ」
 その女は、胸元が分かりやすい赤色のインナーにスカートスタイルのビジネススーツを着用、それでいて赤色の高いピンヒールを履き、仕事の出来る女と言った印象の人物であった。
「私の名前は|愛田亜紗《アイダ アサ》。善吉さんとは五斂子社からの繋がりで……この支部の大幹部を務めている|女《そんざい》。善吉さんから……貴女たちを『ここで殺せ』、って指令を仰せつかっている訳。お分かり?」