第43話 最強コンボ

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「招待状だと?」
 我の屋敷に珍しくミモザやダリア以外の来客が訪れたかと思いきや、やってきたのはあろうことかロータス。しかも妙に小洒落た封筒まで持ってきた。

「ああ、レッドアイズ国のソレノス王子からのな」
 なんでコイツが我宛の招待状を持っているのか疑問に残るところだが、一先ず受け取り、中身を開封してみる。入っていたのは実に何の変哲もない手紙だ。

 質の良い紙の上に、上品な文章が走っており、腹立たしいくらいに王族の風格を醸し出してくる。最初から疑う気などなかったが、紛れもなくレッドアイズ国の王子のもので間違いないだろう。

 そういう様式に則っているのか、気取った挨拶やら前置きやら何やらが長く長く綴られていたが、要件だけを掻い摘まんで読むと――

『先日は突然の訪問すまなかった。あれから父上に叱られてしまってな。しばらくはオレの方からパエデロスには行けそうになくなってしまった。しかし直接会ってしたい話もたんとある。幸い近々オレの国ではナントカという祭りが開催されることになっている。ああ言った手前、呼びつけるのは恐縮だが、もしフィーが良ければオレの国に来てはくれまいか。盛大に歓迎しよう』

 ――といった感じになるだろうか。

「色々言いたいことはあるが、なんだ、この、ナントカとかいう祭りは」
「俺からは少し言いづらいのだが……その毎年行われている魔王討伐記念感謝祭だ。正式名称はもう少し長く、王子も省略してしまったのだろう」
 なるほどな。レッドアイズ国からしてみれば、そうだよな。
 レッドアイズ国に所属していたロータスが魔王を倒したという事実は歴史に残る偉業であり、国としても祭り上げるべきものなのだろう。

 って、アホかっ!!!! てめぇふざけとんのかっ!!!!
 なんで、我が我の死んだことを祝ってる場所にいかねばならぬのだ!!!!!!

「すまない。彼には悪気はない」
 仮にもプロポーズした相手に悪気があってこんなもの送りつけたら破談どころの騒ぎではないぞ。キサマの首を処刑台に送りつけてやるわ。

「大体だな、我のところに直接渡さないのもどういう了見だ」
「それに関しては彼なりの気遣いと思ってほしい。亜人の中には会話はできても識字のできるものはそう多くない。それを汲んで彼から直接頼まれたんだ。もし読めない内容があれば口頭でも伝えてほしいとな」
 我には人間どもの文字くらい普通に読めたから問題なかったがな。

 くぅ~……、別にデリカシーが皆無というわけでもない、というのがタチ悪い。
 ちゃんとこちらに配慮した上で、こういうことをやってのけているのだ。

 思えば、急なプロポーズの件にしてもそうだ。
 少しは隠しておけばいいものを、真正面切って正直に政略的結婚であることを明かし、その上で我に、その好意を抱いていることも告白してきた。
 あれも奴なりの気遣いだったのかもしれない。

 本来ならもう少しパエデロスの国家化計画の事が進んでから唐突に「さあ結婚してくれ」という運びになってしまっていただろうしな。
 手紙の文面を見た感じでも、やはりあのプロポーズもソレノス王子の独断のようだったし。ミモザに会いに来たのも外堀を埋める意図があったとも考えられる。

 だからといって、それらを引っくるめて満点といえるアプローチかといえば、そんなこたぁないないない。特に、我に対してはマイナスを突き抜ける。
 どうしてこう、ものの見事に我の神経を逆なでするようなことができよう。

 我の心臓を貫いた憎き相手に、我が死んだことを祝うお祭りの招待状を託して、我と敵対していた国の王子に会いに来いだと?
 侮辱に恥辱を重ねて屈辱を味合わせる最強コンボではないか。

「ロータス。お前もよくもまあこんなものを我の前に差し出せたものだな」
「キミのことを思うなら破り捨てるべきではあったが、俺も体面上そうするわけにもいかなくてね。厚顔無恥ついでに返事を聞かせてはもらえないか?」
 正直言って、これはもう正気の沙汰ではないな。
 しかし、ロータスも悪ふざけでこの招待状を突きつけているわけではないということくらい分からいでか。そういうキャラでもないし。

 我だってこんな手紙、ビリビリに破り捨てて、目の前のロータスの顔面に叩きつけてやりたい。拒否権がないわけでもないしな。
 じゃあ、断ったら何かが解決するのかと言えば、そんなこともない。

 あくまで、これはただの招待状に過ぎない。我が何もせずともロータスとレッドアイズ国は着々とパエデロスの計画を進行させていくし、どのみち形は違えど似たような結果に収束することは目に見えている。

 だとしたら、これは今回のプロポーズ、ひいては結婚についての話をハッキリと拒否することができるチャンスと解釈するべきだろう。

 もう既にパエデロスでも例のプロポーズ事件は広まってしまっているし、だとしたら同様にレッドアイズ国の方でも何かしらの影響があったはずだ。
 そうでもない限り、手紙に「父上に叱られて」「パエデロスに行けそうになくなって」などとは書かない。

 ソレノス王子も余計なことをしでかしてくれたものだ。これはつまり、何も行動しない方がリスクが高いとも言えるだろう。とうに賽は投げられているのだから。

「招待されたからにはレッドアイズ国に行ってやろうではないか」
 腸煮えくりかえる思いだが、これが我の出した結論だ。

「ロータス、決して勘違いするなよ。キサマの顔を立てるわけではない。我は我に対する返事を直接返しに行く。結婚なんぞお断りだとな」
「ありがとう、フィー」
 そこでお礼を言われる意味もよく分からないのだがな。
 ロータスにもロータスなりにレッドアイズ国との付き合いもある。わざわざ我との仲介役を任されたくらいだ。それだけ信頼されていたのだろう。

 自分とこの領分の令嬢の一人や二人、エスコートできないようであれば、今後レッドアイズ国と付き合っていく上で肩身も狭くなろう。
 悲しいことに、それは我にとっても不都合なことになる。

 何せ、我が望んでいることはパエデロスの国家化計画の失策ではないのだ。

 我からしてみれば全く以て正気の沙汰ではないと思うのだが、ロータスとしては予てより人間社会の秩序を保つことを目標に掲げて、その足がかりとしてこの異種族を交えた街、パエデロスの治安維持に努めてきた。

 そして、レッドアイズ国の支援を持って国家となることによりロータスの一つの悲願が成就するというのが今回の国家計画の全容だ。

 しかし、現状のまま放っておけば、パエデロスとレッドアイズ国の双方に軋轢が生じる可能性も否めない。
 何故なら、パエデロスは異種族の交流もよしとしている一方で、レッドアイズ国は異種族差別の根強い国だから。

 ロータスが失脚し、パエデロスが差別の波に呑まれる。そんなことにでもなろうものなら、それは我にもとばっちりがくる話だ。
 そんな未来は勘弁被りたい。
 無論、政治アピールのために我と王子が結婚させられるのもな。
 ともなれば、我だって指をくわえて待っているわけにもいくまいて。

 ぁー……、でもやっぱりレッドアイズ国に行くのヤダなぁー……。

「キミの気が変わらないうちに馬車を手配させてもらうよ」
 ぁー……、やっぱヤダなぁー……。

「レッドアイズ国には俺も同行させてもらう。俺にも招待状は来ているからな」
 うげっ、マジかよ。ぁー……、行くなんて言うんじゃなかったわぁー……。
 何が悲しくて我の心臓を貫いた男と共に長旅せにゃならんのよ。


次のエピソードへ進む 第44話 馬車に揺られて


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「招待状だと?」
 我の屋敷に珍しくミモザやダリア以外の来客が訪れたかと思いきや、やってきたのはあろうことかロータス。しかも妙に小洒落た封筒まで持ってきた。
「ああ、レッドアイズ国のソレノス王子からのな」
 なんでコイツが我宛の招待状を持っているのか疑問に残るところだが、一先ず受け取り、中身を開封してみる。入っていたのは実に何の変哲もない手紙だ。
 質の良い紙の上に、上品な文章が走っており、腹立たしいくらいに王族の風格を醸し出してくる。最初から疑う気などなかったが、紛れもなくレッドアイズ国の王子のもので間違いないだろう。
 そういう様式に則っているのか、気取った挨拶やら前置きやら何やらが長く長く綴られていたが、要件だけを掻い摘まんで読むと――
『先日は突然の訪問すまなかった。あれから父上に叱られてしまってな。しばらくはオレの方からパエデロスには行けそうになくなってしまった。しかし直接会ってしたい話もたんとある。幸い近々オレの国ではナントカという祭りが開催されることになっている。ああ言った手前、呼びつけるのは恐縮だが、もしフィーが良ければオレの国に来てはくれまいか。盛大に歓迎しよう』
 ――といった感じになるだろうか。
「色々言いたいことはあるが、なんだ、この、ナントカとかいう祭りは」
「俺からは少し言いづらいのだが……その毎年行われている魔王討伐記念感謝祭だ。正式名称はもう少し長く、王子も省略してしまったのだろう」
 なるほどな。レッドアイズ国からしてみれば、そうだよな。
 レッドアイズ国に所属していたロータスが魔王を倒したという事実は歴史に残る偉業であり、国としても祭り上げるべきものなのだろう。
 って、アホかっ!!!! てめぇふざけとんのかっ!!!!
 なんで、我が我の死んだことを祝ってる場所にいかねばならぬのだ!!!!!!
「すまない。彼には悪気はない」
 仮にもプロポーズした相手に悪気があってこんなもの送りつけたら破談どころの騒ぎではないぞ。キサマの首を処刑台に送りつけてやるわ。
「大体だな、我のところに直接渡さないのもどういう了見だ」
「それに関しては彼なりの気遣いと思ってほしい。亜人の中には会話はできても識字のできるものはそう多くない。それを汲んで彼から直接頼まれたんだ。もし読めない内容があれば口頭でも伝えてほしいとな」
 我には人間どもの文字くらい普通に読めたから問題なかったがな。
 くぅ~……、別にデリカシーが皆無というわけでもない、というのがタチ悪い。
 ちゃんとこちらに配慮した上で、こういうことをやってのけているのだ。
 思えば、急なプロポーズの件にしてもそうだ。
 少しは隠しておけばいいものを、真正面切って正直に政略的結婚であることを明かし、その上で我に、その好意を抱いていることも告白してきた。
 あれも奴なりの気遣いだったのかもしれない。
 本来ならもう少しパエデロスの国家化計画の事が進んでから唐突に「さあ結婚してくれ」という運びになってしまっていただろうしな。
 手紙の文面を見た感じでも、やはりあのプロポーズもソレノス王子の独断のようだったし。ミモザに会いに来たのも外堀を埋める意図があったとも考えられる。
 だからといって、それらを引っくるめて満点といえるアプローチかといえば、そんなこたぁないないない。特に、我に対してはマイナスを突き抜ける。
 どうしてこう、ものの見事に我の神経を逆なでするようなことができよう。
 我の心臓を貫いた憎き相手に、我が死んだことを祝うお祭りの招待状を託して、我と敵対していた国の王子に会いに来いだと?
 侮辱に恥辱を重ねて屈辱を味合わせる最強コンボではないか。
「ロータス。お前もよくもまあこんなものを我の前に差し出せたものだな」
「キミのことを思うなら破り捨てるべきではあったが、俺も体面上そうするわけにもいかなくてね。厚顔無恥ついでに返事を聞かせてはもらえないか?」
 正直言って、これはもう正気の沙汰ではないな。
 しかし、ロータスも悪ふざけでこの招待状を突きつけているわけではないということくらい分からいでか。そういうキャラでもないし。
 我だってこんな手紙、ビリビリに破り捨てて、目の前のロータスの顔面に叩きつけてやりたい。拒否権がないわけでもないしな。
 じゃあ、断ったら何かが解決するのかと言えば、そんなこともない。
 あくまで、これはただの招待状に過ぎない。我が何もせずともロータスとレッドアイズ国は着々とパエデロスの計画を進行させていくし、どのみち形は違えど似たような結果に収束することは目に見えている。
 だとしたら、これは今回のプロポーズ、ひいては結婚についての話をハッキリと拒否することができるチャンスと解釈するべきだろう。
 もう既にパエデロスでも例のプロポーズ事件は広まってしまっているし、だとしたら同様にレッドアイズ国の方でも何かしらの影響があったはずだ。
 そうでもない限り、手紙に「父上に叱られて」「パエデロスに行けそうになくなって」などとは書かない。
 ソレノス王子も余計なことをしでかしてくれたものだ。これはつまり、何も行動しない方がリスクが高いとも言えるだろう。とうに賽は投げられているのだから。
「招待されたからにはレッドアイズ国に行ってやろうではないか」
 腸煮えくりかえる思いだが、これが我の出した結論だ。
「ロータス、決して勘違いするなよ。キサマの顔を立てるわけではない。我は我に対する返事を直接返しに行く。結婚なんぞお断りだとな」
「ありがとう、フィー」
 そこでお礼を言われる意味もよく分からないのだがな。
 ロータスにもロータスなりにレッドアイズ国との付き合いもある。わざわざ我との仲介役を任されたくらいだ。それだけ信頼されていたのだろう。
 自分とこの領分の令嬢の一人や二人、エスコートできないようであれば、今後レッドアイズ国と付き合っていく上で肩身も狭くなろう。
 悲しいことに、それは我にとっても不都合なことになる。
 何せ、我が望んでいることはパエデロスの国家化計画の失策ではないのだ。
 我からしてみれば全く以て正気の沙汰ではないと思うのだが、ロータスとしては予てより人間社会の秩序を保つことを目標に掲げて、その足がかりとしてこの異種族を交えた街、パエデロスの治安維持に努めてきた。
 そして、レッドアイズ国の支援を持って国家となることによりロータスの一つの悲願が成就するというのが今回の国家計画の全容だ。
 しかし、現状のまま放っておけば、パエデロスとレッドアイズ国の双方に軋轢が生じる可能性も否めない。
 何故なら、パエデロスは異種族の交流もよしとしている一方で、レッドアイズ国は異種族差別の根強い国だから。
 ロータスが失脚し、パエデロスが差別の波に呑まれる。そんなことにでもなろうものなら、それは我にもとばっちりがくる話だ。
 そんな未来は勘弁被りたい。
 無論、政治アピールのために我と王子が結婚させられるのもな。
 ともなれば、我だって指をくわえて待っているわけにもいくまいて。
 ぁー……、でもやっぱりレッドアイズ国に行くのヤダなぁー……。
「キミの気が変わらないうちに馬車を手配させてもらうよ」
 ぁー……、やっぱヤダなぁー……。
「レッドアイズ国には俺も同行させてもらう。俺にも招待状は来ているからな」
 うげっ、マジかよ。ぁー……、行くなんて言うんじゃなかったわぁー……。
 何が悲しくて我の心臓を貫いた男と共に長旅せにゃならんのよ。