第36話 ヤバいの出てきた

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 蜂の巣から帰還して早数日。十分な蜜を持ち帰ったミモザは存分にブンブンと腕を振るい、新しい商品開発に臨んでいった。
 やはり上質な蜜ということもあって、豊富な魔力もたっぷりで、仕事の効率化もかなり捗った様子だ。
 我もその蜜の品質に関してはこの身をもって体感している。

 しかし、根本的な問題点を解決しているのかと言われたら、少々疑問は残る。
 そもそもミモザの経営する魔具の店は薄利多売ではない。
 元々品質には何ら問題がないのだから、質を高めた新商品を並べることで売り上げが劇的に伸びるようには思えない。

 まあ、ミモザが現状の売り上げに不安を抱いているだけであって、実際問題はライバル店との差別化もハッキリしているから経営不振と捉えるのは早計だ。
 何にしても、現状維持でも直ちに店が潰れる状況ではないことは確かだろう。

 それを言い出したらあの命がけの冒険は何だったんだということにはなるが、もはや何も言うまい。我はミモザの思うようにやらせるだけだ。
 ミモザが望むなら溶岩の中だろうと深海の底だろうと付き合ってやるさ。

「これで開店の準備が整いましら!」
 何はともあれ、我の使用人も動員して、店内は準備万端。新商品もズラリと並び、これなら金に糸目を付けない冒険者どもも大満足だろう。

 ミモザもなんだかんだ腕を上げてきているし、不満を漏らす客もいない。
 仮に、そんな輩がいたら我がぶっ飛ばしてやるがな。
 ふははははははははははっ!!!!

「――ミモザ様、大変です!」
「なんれすか?」
 開店前だというのに、血相を変えて店内に入ってきたのはボディガードだ。
 なんだ、また店の前に行列でもできたのか?
 ミモザの魔具も信頼度はこのパエデロスでも指折りだからな。

 慌ててミモザが店の外へと出て行く。無論、我も後ろをついていった。
 すると、人だかりができていた。これは概ね予想通りだったが、どうもおかしい。店の前に空間を空けるように何者かが人払いしているようだった。

 一体何故こんなことを、と思っていたらその答えは向こうから直ぐ現れた。

 パッパカパッパカと、石畳を蹴りながら通りを走ってきたのは何とも高そうな馬車だった。まるで貴族か王族でも乗っているかのよう。

 既に外に待機していた使用人らしき男が赤絨毯をミモザの店の前まで引き、そして馬車の扉に手を掛ける。中から現れたのは――

「コリウスくん!?」
「どうもミモザさん。お久しぶりです。といっても、まだそんなに経っていないですかね。あはは」
 何故か、よりにもよってあの小僧だった。

 しかもなんだ、その姿は。随分とまあ高級感溢れるお召し物で。
 貧乏な冒険者見習いじゃなかったのか、お前は。

「うちの弟が世話になったようだね。いやはや、ご迷惑をお掛けした、といった方がいいか」
 コリウスと共に馬車から赤絨毯に降り立った男は、コリウスによく似た顔でいて、もう少し渋みが増したイケメン男子だった。
 コイツが病に伏せていたというコリウスの兄か。あれから元気になったのだな。

「はわぁ……コリウスくんのお兄しゃん?」
「キミがミモザさんだね? 今日はお姉さんはご一緒ではないのかい?」
 我はここにいるが、名乗り出るわけにはいかない。
 何せ、今はミモザの姉ではなく、令嬢フィーなのだから。

「ええ、はい、その、お姉しゃんは今、冒険に、その」
 しどろもどろになりながらも、我の方をチラチラ見て答える。
「そうか、それは残念だ。是非ともお礼を言いたかったのだが……」
 わざわざご苦労なことだ。

 今からでも変装グッズを取り出すか?
 いや、どう考えてもこの場で出ていくのはマズい気がする。

 ミモザには、我の正体は極力隠すように協力してもらっている。

 一応は我の正体が魔王であることは今もミモザにも隠しているので、主な理由としては、令嬢でありながら人外染みた魔法を使えることがバレると何かと目立ってしまい不都合だから、と説明はしている。

 無論、これでも間違いではない。

 当初は、この街の治安維持に努めている勇者どもに知られると魔王であることがバレてしまうリスクを考えてのことだったが、今ではもう普通に我が魔王であることもバレてしまっている。

 ので、実情から言ってしまえば、ミモザに説明した通りで大体あってる。

 何より下手に混乱を招いてしまうことは、即ちこの街、パエデロスの治安を乱すことと同義であり、それは勇者どもとの交わした契約を破ることになる。

 そう、我は勇者どもの温情によって令嬢としてこの街に滞在させてもらっていて、厄介ごとを起こせば何らかの対処されるということになっているのだ。
 あれからご丁寧に契約書にサインまで書かされたからな。真面目な奴よ。

 パエデロスを追い出されるだけで済めばいいが、おそらくは今度こそ容赦なく心臓をグサーっと討たれてしまうことだろう。それは勘弁願いたい。

 ということで、今この場でミモザの姉としてしゃしゃり出て、「実は我が姉でした~!」などと名乗るのは却下だ。

 大体、なんなんだろうな、この仰々しい感じは。
 馬車で現れて、赤絨毯まで引いて、一般人じゃないことは明らかだ。

「お姉さんに会えるの、楽しみにしてたんだけどなぁ~……」
「あの~、コリウスくん? 聞いてもいいのか分かりましぇんが……ひょっとして偉い人だったのれすか?」
 しょんぼりとうなだれるコリウスに訊ねる。みなまで言うな、ミモザ。

「ボクは大したものじゃないよ。だってミモザさんたちの足手まといになってばかりだったしね」
 その辺りは否定しない。助けられたのも事実ではあるが。

「はっはっは、コリウス。お前はろくに自己紹介もしてこなかったのだな。そうか、ならば申し遅れた。オレはソレノス、そしてこれは弟のコリウス。一応はそう、レッドアイズ国の王子だ」
「王子しゃま!?」
 おいおい、急に大物感が出てきたな……。

 というか、レッドアイズ国だと?
 あの二人がソレノス王子とコリウス王子なのか。
 我の記憶が確かなら、勇者が一時所属していた軍事国家じゃないか。軍を率いて魔王城をガンガン攻め立ててきた連中だ。とんでもない繋がりもあったもんだな。

「でもコリウスく……王子、お兄しゃんのために蜜を依頼するお金もないって」
 そういえばそんなことも言っていたな。
「ぁー……うん。こっそり家出してたから路銀、そんなに持ってこなかったんだ」
 王子なら金持ってこいよ! と言いたくはなる。
 ただまあ、コリウスだしなぁ。そのマヌケっぷりも納得だ。

「バカな弟だよな。オレも大丈夫だとは言ったんだが、病気を治すために蜜を探してくる、って家出しちまって、もう城中大混乱よ! はっはっは!」
 割と普通に笑い事じゃないぞソレ。大事件じゃないか。

「病気も治りかけだったんだがな、巨大蜂の巣に向かったんだと聞かされて、むしろこっちで死ぬほどビックリさせられた」
 あっけらかんとよくもまあ喋れるものだ。危うくレッドアイズ国の王子が行方不明のまま、人知れず蜂の餌になるところだったんだな。

「オレの弟の命を救ってくれて、ありがとう。今日はそれを言いに来たんだ」
「あ、いえ、あの、あうあうあ……」
 一国の王子を目の当たりにしてミモザも目が泳いでいるな。

「さて、せっかくここまで来たのだから、キミのお店を見させてもらってもいいかな? オレの国でも評判は届いているよ。良質な魔具の店だとね」
「はうあーっ!? きょ、恐縮れしゅぅぅ」
 なんだか、我が初めてミモザと出会ったときのことを思い出さないでもない。


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 蜂の巣から帰還して早数日。十分な蜜を持ち帰ったミモザは存分にブンブンと腕を振るい、新しい商品開発に臨んでいった。
 やはり上質な蜜ということもあって、豊富な魔力もたっぷりで、仕事の効率化もかなり捗った様子だ。
 我もその蜜の品質に関してはこの身をもって体感している。
 しかし、根本的な問題点を解決しているのかと言われたら、少々疑問は残る。
 そもそもミモザの経営する魔具の店は薄利多売ではない。
 元々品質には何ら問題がないのだから、質を高めた新商品を並べることで売り上げが劇的に伸びるようには思えない。
 まあ、ミモザが現状の売り上げに不安を抱いているだけであって、実際問題はライバル店との差別化もハッキリしているから経営不振と捉えるのは早計だ。
 何にしても、現状維持でも直ちに店が潰れる状況ではないことは確かだろう。
 それを言い出したらあの命がけの冒険は何だったんだということにはなるが、もはや何も言うまい。我はミモザの思うようにやらせるだけだ。
 ミモザが望むなら溶岩の中だろうと深海の底だろうと付き合ってやるさ。
「これで開店の準備が整いましら!」
 何はともあれ、我の使用人も動員して、店内は準備万端。新商品もズラリと並び、これなら金に糸目を付けない冒険者どもも大満足だろう。
 ミモザもなんだかんだ腕を上げてきているし、不満を漏らす客もいない。
 仮に、そんな輩がいたら我がぶっ飛ばしてやるがな。
 ふははははははははははっ!!!!
「――ミモザ様、大変です!」
「なんれすか?」
 開店前だというのに、血相を変えて店内に入ってきたのはボディガードだ。
 なんだ、また店の前に行列でもできたのか?
 ミモザの魔具も信頼度はこのパエデロスでも指折りだからな。
 慌ててミモザが店の外へと出て行く。無論、我も後ろをついていった。
 すると、人だかりができていた。これは概ね予想通りだったが、どうもおかしい。店の前に空間を空けるように何者かが人払いしているようだった。
 一体何故こんなことを、と思っていたらその答えは向こうから直ぐ現れた。
 パッパカパッパカと、石畳を蹴りながら通りを走ってきたのは何とも高そうな馬車だった。まるで貴族か王族でも乗っているかのよう。
 既に外に待機していた使用人らしき男が赤絨毯をミモザの店の前まで引き、そして馬車の扉に手を掛ける。中から現れたのは――
「コリウスくん!?」
「どうもミモザさん。お久しぶりです。といっても、まだそんなに経っていないですかね。あはは」
 何故か、よりにもよってあの小僧だった。
 しかもなんだ、その姿は。随分とまあ高級感溢れるお召し物で。
 貧乏な冒険者見習いじゃなかったのか、お前は。
「うちの弟が世話になったようだね。いやはや、ご迷惑をお掛けした、といった方がいいか」
 コリウスと共に馬車から赤絨毯に降り立った男は、コリウスによく似た顔でいて、もう少し渋みが増したイケメン男子だった。
 コイツが病に伏せていたというコリウスの兄か。あれから元気になったのだな。
「はわぁ……コリウスくんのお兄しゃん?」
「キミがミモザさんだね? 今日はお姉さんはご一緒ではないのかい?」
 我はここにいるが、名乗り出るわけにはいかない。
 何せ、今はミモザの姉ではなく、令嬢フィーなのだから。
「ええ、はい、その、お姉しゃんは今、冒険に、その」
 しどろもどろになりながらも、我の方をチラチラ見て答える。
「そうか、それは残念だ。是非ともお礼を言いたかったのだが……」
 わざわざご苦労なことだ。
 今からでも変装グッズを取り出すか?
 いや、どう考えてもこの場で出ていくのはマズい気がする。
 ミモザには、我の正体は極力隠すように協力してもらっている。
 一応は我の正体が魔王であることは今もミモザにも隠しているので、主な理由としては、令嬢でありながら人外染みた魔法を使えることがバレると何かと目立ってしまい不都合だから、と説明はしている。
 無論、これでも間違いではない。
 当初は、この街の治安維持に努めている勇者どもに知られると魔王であることがバレてしまうリスクを考えてのことだったが、今ではもう普通に我が魔王であることもバレてしまっている。
 ので、実情から言ってしまえば、ミモザに説明した通りで大体あってる。
 何より下手に混乱を招いてしまうことは、即ちこの街、パエデロスの治安を乱すことと同義であり、それは勇者どもとの交わした契約を破ることになる。
 そう、我は勇者どもの温情によって令嬢としてこの街に滞在させてもらっていて、厄介ごとを起こせば何らかの対処されるということになっているのだ。
 あれからご丁寧に契約書にサインまで書かされたからな。真面目な奴よ。
 パエデロスを追い出されるだけで済めばいいが、おそらくは今度こそ容赦なく心臓をグサーっと討たれてしまうことだろう。それは勘弁願いたい。
 ということで、今この場でミモザの姉としてしゃしゃり出て、「実は我が姉でした~!」などと名乗るのは却下だ。
 大体、なんなんだろうな、この仰々しい感じは。
 馬車で現れて、赤絨毯まで引いて、一般人じゃないことは明らかだ。
「お姉さんに会えるの、楽しみにしてたんだけどなぁ~……」
「あの~、コリウスくん? 聞いてもいいのか分かりましぇんが……ひょっとして偉い人だったのれすか?」
 しょんぼりとうなだれるコリウスに訊ねる。みなまで言うな、ミモザ。
「ボクは大したものじゃないよ。だってミモザさんたちの足手まといになってばかりだったしね」
 その辺りは否定しない。助けられたのも事実ではあるが。
「はっはっは、コリウス。お前はろくに自己紹介もしてこなかったのだな。そうか、ならば申し遅れた。オレはソレノス、そしてこれは弟のコリウス。一応はそう、レッドアイズ国の王子だ」
「王子しゃま!?」
 おいおい、急に大物感が出てきたな……。
 というか、レッドアイズ国だと?
 あの二人がソレノス王子とコリウス王子なのか。
 我の記憶が確かなら、勇者が一時所属していた軍事国家じゃないか。軍を率いて魔王城をガンガン攻め立ててきた連中だ。とんでもない繋がりもあったもんだな。
「でもコリウスく……王子、お兄しゃんのために蜜を依頼するお金もないって」
 そういえばそんなことも言っていたな。
「ぁー……うん。こっそり家出してたから路銀、そんなに持ってこなかったんだ」
 王子なら金持ってこいよ! と言いたくはなる。
 ただまあ、コリウスだしなぁ。そのマヌケっぷりも納得だ。
「バカな弟だよな。オレも大丈夫だとは言ったんだが、病気を治すために蜜を探してくる、って家出しちまって、もう城中大混乱よ! はっはっは!」
 割と普通に笑い事じゃないぞソレ。大事件じゃないか。
「病気も治りかけだったんだがな、巨大蜂の巣に向かったんだと聞かされて、むしろこっちで死ぬほどビックリさせられた」
 あっけらかんとよくもまあ喋れるものだ。危うくレッドアイズ国の王子が行方不明のまま、人知れず蜂の餌になるところだったんだな。
「オレの弟の命を救ってくれて、ありがとう。今日はそれを言いに来たんだ」
「あ、いえ、あの、あうあうあ……」
 一国の王子を目の当たりにしてミモザも目が泳いでいるな。
「さて、せっかくここまで来たのだから、キミのお店を見させてもらってもいいかな? オレの国でも評判は届いているよ。良質な魔具の店だとね」
「はうあーっ!? きょ、恐縮れしゅぅぅ」
 なんだか、我が初めてミモザと出会ったときのことを思い出さないでもない。