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第31話 レベル……たったの5か、ゴミめ

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 木々の陰、茂みの陰を少しずつ経由していき、身を潜めながらも巨大蜂(ビッグホーネット)の巣のある大樹の根元まで近づいていく。
 やはり何十匹と葬ったせいか、向こうもかなり警戒態勢をとっているようだ。

 ブゥーン、ブゥーンと羽音が一段と五月蠅くなってきている。

 もう少し慎重に事を進めておきたかったのだが、コリウスとかいう小僧を助けるのにミモザの魔石をかなりの数使わされてしまった。
 まだ予備があるとは言え、結構な痛手だ。

 魔石が底をついたら何もできなくなるからな。三人仲良く蜂の餌食だ。

「いいか、余計なことはするなよ。死にたくなければな」
「えっ!? なんですかぁ!? ちょっと羽音がうるさくて聞こえないです!!」
 こンのバカ野郎っ!!!!

「しぃーーーーっ! コリウスくん黙って!」
「もがっ!?」
 ミモザがコリウスに体当たりする勢いで口をふさぐ。

 だが、蜂だってバカじゃない。コリウスの大声は直ぐに察知していた。
 羽音が頭上から雨のように迫ってくる。その群れときたら、一気に日が落ちたのかと思わされるほど大きな影になっている。

 今度は何匹だ? 全然目視できないぞ。真上だというのが厄介だ。
 あの蜂どもは一匹一匹が人間の大人並みにデカい。
 まとめて倒せば死骸がそのまま落ちてくる。

 一番有効な炎系統の魔法では、こちらへの被害も大きい。
 かといって、消し炭すら残らぬほど火力を上げれば巨木もろとも巨大蜂の巣まで燃やし尽くしてしまう。
 となると――

貪欲なる美食家共(ビストローヴァー)!!」

 片腕を振り上げ、その手の先から巨大な口が花のように開く。
 そして、次の瞬間には、バクンっと閉じる。それと共に口も掻き消える。
 すると、影になるほどの群れは忽然と消失していた。

 そう、巨大蜂の群れを丸ごと喰ったのだ。これならば死骸も落ちてはこない。

「す、凄い……あの蜂の群れが一気に消えちゃった……」
 コリウスが尻餅をつきながら言う。他人事のように感想を述べているが、キサマが騒いだりしなければこんなことをすることもなかったのだぞ。

 うぅ……、この魔法も燃費が悪いというのに……。
 別に喰ったからといって我の胃袋に繋がってないし、栄養になるわけでもない。

 やっぱりこのクソガキ、ここで置いていってしまった方がいいのでは……。

「見張りの蜂しゃんも、いなくなったみたいれふね。これなら安全に巣までいけるかもしれましぇん」

 確かにふと見上げてみれば、羽音も聞こえないし、巨大蜂の姿も見当たらない。
 まとまっていたせいか、勢い余って一網打尽にしてしまったか。それならそれで好都合だ。

 だが、まだ巣の中にも残っている蜂もいるだろう。警戒に越したことはない。

「やったぁ! これで極上蜜(ローヤルゼリー)も取り放題ですね! ミモザさんのお姉さん、ありがとうございます!」
 そろそろぶん殴ってもいいか、コイツ。

「コリウスくん、巨大蜂は巣の中に残ってるかもしれないでしゅよ? まだ安心するには早いれす」
「あ、そうですね。すみません……つい舞い上がってしまって」
 まったく、ミモザもそんな奴に構う必要もないだろうに。
 なんか見てたら我もモヤモヤしてきたぞ。

「それで、お姉しゃん、ここからどうやって上まで登りまふか?」
 巨大蜂の巣まではえらいまたかなりの高さがある。
 巨木に張り巡らされたツタを駆使して登山の要領で登るのが常套手段だろう。

 無論、この小僧のように何の警戒もせず真正面から登ろうとするのでなく、細心の注意を払って気配を消したり、カモフラージュ用の装備を身につけてな。

 勿論のこと、我もミモザもそのための装備をいくつか用意してきている。
 この小僧とは違ってな。

 どの方法で登ろうか、とその場その場の状況に応じて臨機応変に対応しようと思っていたが、想定外にも巨大蜂を減らしてしまったので、少し手間を省くか。

「ミモザ、コリウス、我の近くに寄れ」
「はい!」
「え、あ、は、はいっ!」
 こうやって三人並ぶと何だか子守をしているみたいだ。

静かなる跳躍(フロウフロウ)……」
「うわっ、足元から風が!?」
 コリウスの奴がオタオタと騒いでいるが、構うことはない。そのまま、跳躍する。一跳びで身長の数倍ほどの高さ、もう一跳びでさらに上へ。ぴょんぴょんぴょんと、巨木の足掛かりに足音も立てぬよう乗っかりながら上を目指す。

「よいしょ、っと」
 巨大蜂がいたら格好の標的だったが、いなければどうということはない。巣より少々距離を置いた枝の上に着地する。枝といっても、あの巨大な巣をぶら下げている巨木の枝だ。
 もう十数人くらいいても余裕があるくらいの太さはある。

「すごい! すごいすごい! お姉さんすご……痛っ!」
「だから騒ぐな馬鹿者。慎重に登ってきたのに見つかったらどうするんだ」
 さすがに拳が下りた。この小僧には緊張感がないのか。わざわざ素早く静かに上れるように風の魔法の応用で跳んできたというのに、台無しにするつもりか。

「す、すみません……」
 頭を両手で押さえながら涙目で返事する。

「ほぁぁ……なんかハチミツのいい匂いがしてきましゅねぇ」
 ミモザの言う通り、確かに甘ったるい匂いが鼻を刺激する。何せ、あのバカデカい蜂どもの巣が目と鼻の先にあるのだから、よっぽど蜜を溜め込んでいるのだろうなと察せる。

「いいか、今度騒いだらこの木から蹴落とすからな? 慎重に、静かに進むんだぞ」
「は、はい。肝に銘じます」

 それにしても上に登ってきて思ったが、この巨木も大したものだな。枝葉だけでもはやここも一つの森みたいになっているじゃないか。下を見下ろすとさっきまで自分が立っていた場所が何処だか分からなくなるくらい小さい。
 こんなところで巨大蜂どもとは戦いたくはないな。

「うわああぁぁぁっ!!」
 今度騒いだら蹴落とすと言った矢先に、いの一番に騒ぎ出したのはやっぱりコリウスだった。いい加減にしてくれ、と思ったが、我には蹴落とすこともできなかった。

 何故ってあの小僧、足を滑らせたのか、自分から落ちようとしていたのだから。

「お、お、落ちるぅぅぅ!」
 枝の端に腕をかけてもがく。
 いっそそのまま落ちてしまえ。そう思ったが、もうさすがに呆れすぎて怒りも引っ込んできた。 もうこいつに何も期待は抱かないでおこう。

「まったく……ほら、腕に掴まれ」
「はぃぃぃ……」
 よいせ、と小僧を持ち上げる。
 枝の上までよじ登り、ひぃひぃぜぇぜぇ言いながら息を整える。本当、こいつ置いていこうかな。

「死にたいのか、小僧」
「ひぃぃ! ごめんなさい! 下を見てたらつい怖くなって」
 本当にコイツ、今までどうやって生きてきたんだ?
 さすがにちょっと気になってきたぞ。

 こっそりと荷物の中からメガネを探り出し、試しに掛けてみる。

【知らない人】(人間)
 ≪LV:5≫
 ≪HP:22/24≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫

 レベル……たったの5か、ゴミめ。
 いや、我もコイツのことを言えた義理でもないのだが、このレベルで巨大蜂に挑もうという無謀っぷりに脱帽だ。
 しかも秘策が安物の魔石だというのだからなおのこと笑えない。

 速やかにメガネをしまい、小さくため息をついた。なんだったら木の上にまで連れてくるんじゃなかった。このあともこの小僧のお守りをしないといけないと思っただけで心が重い。

「あのミモザさん、お姉さんが溜め息ついちゃってますけど、疲れちゃったんですかね?」
「えっと、多分そうれすね」
「やっぱりそうだったのかぁ」
 あははと笑っているがコリウス、気付けよ。ミモザの冷めきったその目に。
 我でもなかなか見れないぞ、その表情は。


次のエピソードへ進む 第32話 ザコのくせに生意気だ


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 木々の陰、茂みの陰を少しずつ経由していき、身を潜めながらも巨大蜂《ビッグホーネット》の巣のある大樹の根元まで近づいていく。
 やはり何十匹と葬ったせいか、向こうもかなり警戒態勢をとっているようだ。
 ブゥーン、ブゥーンと羽音が一段と五月蠅くなってきている。
 もう少し慎重に事を進めておきたかったのだが、コリウスとかいう小僧を助けるのにミモザの魔石をかなりの数使わされてしまった。
 まだ予備があるとは言え、結構な痛手だ。
 魔石が底をついたら何もできなくなるからな。三人仲良く蜂の餌食だ。
「いいか、余計なことはするなよ。死にたくなければな」
「えっ!? なんですかぁ!? ちょっと羽音がうるさくて聞こえないです!!」
 こンのバカ野郎っ!!!!
「しぃーーーーっ! コリウスくん黙って!」
「もがっ!?」
 ミモザがコリウスに体当たりする勢いで口をふさぐ。
 だが、蜂だってバカじゃない。コリウスの大声は直ぐに察知していた。
 羽音が頭上から雨のように迫ってくる。その群れときたら、一気に日が落ちたのかと思わされるほど大きな影になっている。
 今度は何匹だ? 全然目視できないぞ。真上だというのが厄介だ。
 あの蜂どもは一匹一匹が人間の大人並みにデカい。
 まとめて倒せば死骸がそのまま落ちてくる。
 一番有効な炎系統の魔法では、こちらへの被害も大きい。
 かといって、消し炭すら残らぬほど火力を上げれば巨木もろとも巨大蜂の巣まで燃やし尽くしてしまう。
 となると――
「|貪欲なる美食家共《ビストローヴァー》!!」
 片腕を振り上げ、その手の先から巨大な口が花のように開く。
 そして、次の瞬間には、バクンっと閉じる。それと共に口も掻き消える。
 すると、影になるほどの群れは忽然と消失していた。
 そう、巨大蜂の群れを丸ごと喰ったのだ。これならば死骸も落ちてはこない。
「す、凄い……あの蜂の群れが一気に消えちゃった……」
 コリウスが尻餅をつきながら言う。他人事のように感想を述べているが、キサマが騒いだりしなければこんなことをすることもなかったのだぞ。
 うぅ……、この魔法も燃費が悪いというのに……。
 別に喰ったからといって我の胃袋に繋がってないし、栄養になるわけでもない。
 やっぱりこのクソガキ、ここで置いていってしまった方がいいのでは……。
「見張りの蜂しゃんも、いなくなったみたいれふね。これなら安全に巣までいけるかもしれましぇん」
 確かにふと見上げてみれば、羽音も聞こえないし、巨大蜂の姿も見当たらない。
 まとまっていたせいか、勢い余って一網打尽にしてしまったか。それならそれで好都合だ。
 だが、まだ巣の中にも残っている蜂もいるだろう。警戒に越したことはない。
「やったぁ! これで極上蜜《ローヤルゼリー》も取り放題ですね! ミモザさんのお姉さん、ありがとうございます!」
 そろそろぶん殴ってもいいか、コイツ。
「コリウスくん、巨大蜂は巣の中に残ってるかもしれないでしゅよ? まだ安心するには早いれす」
「あ、そうですね。すみません……つい舞い上がってしまって」
 まったく、ミモザもそんな奴に構う必要もないだろうに。
 なんか見てたら我もモヤモヤしてきたぞ。
「それで、お姉しゃん、ここからどうやって上まで登りまふか?」
 巨大蜂の巣まではえらいまたかなりの高さがある。
 巨木に張り巡らされたツタを駆使して登山の要領で登るのが常套手段だろう。
 無論、この小僧のように何の警戒もせず真正面から登ろうとするのでなく、細心の注意を払って気配を消したり、カモフラージュ用の装備を身につけてな。
 勿論のこと、我もミモザもそのための装備をいくつか用意してきている。
 この小僧とは違ってな。
 どの方法で登ろうか、とその場その場の状況に応じて臨機応変に対応しようと思っていたが、想定外にも巨大蜂を減らしてしまったので、少し手間を省くか。
「ミモザ、コリウス、我の近くに寄れ」
「はい!」
「え、あ、は、はいっ!」
 こうやって三人並ぶと何だか子守をしているみたいだ。
「|静かなる跳躍《フロウフロウ》……」
「うわっ、足元から風が!?」
 コリウスの奴がオタオタと騒いでいるが、構うことはない。そのまま、跳躍する。一跳びで身長の数倍ほどの高さ、もう一跳びでさらに上へ。ぴょんぴょんぴょんと、巨木の足掛かりに足音も立てぬよう乗っかりながら上を目指す。
「よいしょ、っと」
 巨大蜂がいたら格好の標的だったが、いなければどうということはない。巣より少々距離を置いた枝の上に着地する。枝といっても、あの巨大な巣をぶら下げている巨木の枝だ。
 もう十数人くらいいても余裕があるくらいの太さはある。
「すごい! すごいすごい! お姉さんすご……痛っ!」
「だから騒ぐな馬鹿者。慎重に登ってきたのに見つかったらどうするんだ」
 さすがに拳が下りた。この小僧には緊張感がないのか。わざわざ素早く静かに上れるように風の魔法の応用で跳んできたというのに、台無しにするつもりか。
「す、すみません……」
 頭を両手で押さえながら涙目で返事する。
「ほぁぁ……なんかハチミツのいい匂いがしてきましゅねぇ」
 ミモザの言う通り、確かに甘ったるい匂いが鼻を刺激する。何せ、あのバカデカい蜂どもの巣が目と鼻の先にあるのだから、よっぽど蜜を溜め込んでいるのだろうなと察せる。
「いいか、今度騒いだらこの木から蹴落とすからな? 慎重に、静かに進むんだぞ」
「は、はい。肝に銘じます」
 それにしても上に登ってきて思ったが、この巨木も大したものだな。枝葉だけでもはやここも一つの森みたいになっているじゃないか。下を見下ろすとさっきまで自分が立っていた場所が何処だか分からなくなるくらい小さい。
 こんなところで巨大蜂どもとは戦いたくはないな。
「うわああぁぁぁっ!!」
 今度騒いだら蹴落とすと言った矢先に、いの一番に騒ぎ出したのはやっぱりコリウスだった。いい加減にしてくれ、と思ったが、我には蹴落とすこともできなかった。
 何故ってあの小僧、足を滑らせたのか、自分から落ちようとしていたのだから。
「お、お、落ちるぅぅぅ!」
 枝の端に腕をかけてもがく。
 いっそそのまま落ちてしまえ。そう思ったが、もうさすがに呆れすぎて怒りも引っ込んできた。 もうこいつに何も期待は抱かないでおこう。
「まったく……ほら、腕に掴まれ」
「はぃぃぃ……」
 よいせ、と小僧を持ち上げる。
 枝の上までよじ登り、ひぃひぃぜぇぜぇ言いながら息を整える。本当、こいつ置いていこうかな。
「死にたいのか、小僧」
「ひぃぃ! ごめんなさい! 下を見てたらつい怖くなって」
 本当にコイツ、今までどうやって生きてきたんだ?
 さすがにちょっと気になってきたぞ。
 こっそりと荷物の中からメガネを探り出し、試しに掛けてみる。
【知らない人】(人間)
 ≪LV:5≫
 ≪HP:22/24≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫
 レベル……たったの5か、ゴミめ。
 いや、我もコイツのことを言えた義理でもないのだが、このレベルで巨大蜂に挑もうという無謀っぷりに脱帽だ。
 しかも秘策が安物の魔石だというのだからなおのこと笑えない。
 速やかにメガネをしまい、小さくため息をついた。なんだったら木の上にまで連れてくるんじゃなかった。このあともこの小僧のお守りをしないといけないと思っただけで心が重い。
「あのミモザさん、お姉さんが溜め息ついちゃってますけど、疲れちゃったんですかね?」
「えっと、多分そうれすね」
「やっぱりそうだったのかぁ」
 あははと笑っているがコリウス、気付けよ。ミモザの冷めきったその目に。
 我でもなかなか見れないぞ、その表情は。