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第3楽章〜メヌエット〜⑥

ー/ー



 同日 午前11時〜

 〜黒田竜司の見解〜

 桃華が吹奏楽部の密着取材に合流したことで、練習風景の撮影に関わるメンバーも増えることになった。

 吹奏楽部のパート練習が続く中、オレと壮馬が使わせてもらっている部屋に桃華を招いて、壮馬が撮影していた前日の練習を参照しながら、午後の全体練習の撮影についてのミーティングを行う。

「今日の練習では、昨日の演奏を参考にして、ソロの演奏をする部員を中心に撮影しようと考えているんだ。壮馬、候補者のリストは出来てるか?」

「うん、昨日の夜、部屋に戻ってから作っておいたよ。特に、1人の人物を、画面の中心に捉えて撮影するショットでメインになるのは、寿先輩と紅野さんのサックスパートの二人だ」

「今回の曲は、サックスの演奏がメインなんですね?」

 壮馬の返答に桃華が応じた。

「あぁ、今回のコンクールで演奏する『宝島』は、原曲がフュージョンバンドのT-SQUAREの曲だから、ブラスバンド用にアレンジされたあともサックスの影響が強く残ってるみたいだな。壮馬、ソロの奏者の表情を集中的に追う狙いは、合宿やコンクールのPVを編集するときに、ドラマチックな演出にするためってことで良いのか?」

 オレがたずねると、親友はニヤリとうなずいて返答する。

「そうだね。色んな角度からソロの奏者の表情を追って、1日目と2日目の違いを見比べようと思う。今日は、最大3つのカメラを使えるから、できる限り個人の表情を追って、撮影終了後に確認して良いものを使うことにしよう」

 カメラ撮影に関しては、主導的な立場を取ることが多い壮馬が簡潔に撮影方針を伝えると、桃華は「わかりました!」と快諾した。そして、続けて、「他に注意しておくべきことはありませんか?」と確認する。

「う〜ん、ボクの方からは特に無いかな……竜司はどう?」

「そうだな〜。今回は、いつものクラブ取材と違って、先生やOB・OGの先輩たちも、取材現場に一緒に居るからな〜。その点で、気をつかう取材になることは覚悟しておいてくれ。念のため、午後からの練習が始まる前に桜井先生や久川先生、先輩たちに一緒にあいさつをしに行っておくか?」

 オレが返答すると、下級生は、

「はい! よろしくお願いします」

と嬉しそうに答える。

「じゃあ、午後の打ち合わせは、もうお終いってことで良いですか?」

「あぁ、そうだな」

「それじゃ、ワタシの方から話をさせてもらって良いですか?」

「ん? 別に構わないけど……」

 あらたまって、なんだろう? と、壮馬に無言で問いかけるように確認するが、親友も、「さぁ?」と肩をすくめるだけで、桃華の意図をはかりかねているようだ。

「くろセンパイ、ドライブにアップロードした開会式の映像と取材記録は、見てくれましたか?」

「いや、すまん……まだ、確認できてない。昨日も、夜は色々と作業があったからな……」

 オレが、申し訳ない、と目の前で手を合わせると、桃華は、「え〜」と不満げな口調でつぶやく。

「くろセンパイは、ワタシたち後輩の仕事ぶりには、興味がないんですね?」

「いや、そういうことじゃなくて……こっちに来てからは、色々と忙しかったから―――」

「ふ〜ん、行きの特急電車では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに、ですか?」

 まさか、あの紅野の後輩がSNSにアップロードした写真を桃華が見ているとは思わなかった。想定外の事態に焦りながら、オレは必死にその不測の事態が発生した経緯を述べる。

「い、いや、それは1年の天宮さんが、パンダ列車の写真撮影ができたお礼にって撮ってくれただけで、それ以上の深い意味がある訳では……」

「え〜? そうなんですか? 紅野センパイと二人で、ずい分と楽しげに写っていたように見えたんですけど?」

「そ、そんなことは無いぞ? さっきも言ったみたいに、今回は、吹奏楽部の顧問やOB・OGの先輩たちも一緒だから、取材撮影をするにも気が抜けないんだよ。なあ、そうだよな、壮馬?」

 桃華の追及に困惑したオレは、必死に親友に救いを求める。
 すると、壮馬は、わざとしかめっ面を作りながら、即答した。

「う〜ん、たしかにそれはそうかもね。パート練習の取材は、ずっと桜井先生が付きっきりだったし、個人的には取材しにくかったのは、事実かも知れない。あと、()()()()()()()()()寿()()()()()()()()()()()()みたいだし、()()()()()()()()()()()()()()ようだからね」

 その一言で、桃華の表情が一変するのがわかった。

「なんですか? 夜の時間帯に寿先輩と二人で会ってたんですか!? 同級生だけじゃなく、上級生まで……どういうことか、詳しく話を聞かせてくれますよね?」

 一見すると、微笑んでいるようにも見えるが、彼女の目は、まったく笑っていない。

「落ち着け、桃華。一昨日の夜、寿先輩に呼び出されたのは、今後の生徒会活動と吹奏楽部の活動について、相談を受けていただけだ。こんな時くらいしか話ができないってことでな―――寿先輩も、生徒会長と吹奏楽部の副部長を務めているんだ。色々と考えないといけないことがあるんだろう」

 当然のことながら、紅野のことは伏せつつ返答すると、桃華は、「ふ〜ん、そうですか……」と言って引き下がる。さらに、

「桃華たちの作った動画も取材記録も、いまから一緒に見せてもらうから、それで勘弁してくれ」

と、付け加えると、彼女は「じゃあ、じっくり確認して下さいね」と言って、ようやく機嫌を直したようだ。
 
 ただ――――――。

 オレは、このあとさらに、自分を追い詰める事態が、接近していることに気がついていなかった。


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 同日 午前11時〜
 〜黒田竜司の見解〜
 桃華が吹奏楽部の密着取材に合流したことで、練習風景の撮影に関わるメンバーも増えることになった。
 吹奏楽部のパート練習が続く中、オレと壮馬が使わせてもらっている部屋に桃華を招いて、壮馬が撮影していた前日の練習を参照しながら、午後の全体練習の撮影についてのミーティングを行う。
「今日の練習では、昨日の演奏を参考にして、ソロの演奏をする部員を中心に撮影しようと考えているんだ。壮馬、候補者のリストは出来てるか?」
「うん、昨日の夜、部屋に戻ってから作っておいたよ。特に、1人の人物を、画面の中心に捉えて撮影するショットでメインになるのは、寿先輩と紅野さんのサックスパートの二人だ」
「今回の曲は、サックスの演奏がメインなんですね?」
 壮馬の返答に桃華が応じた。
「あぁ、今回のコンクールで演奏する『宝島』は、原曲がフュージョンバンドのT-SQUAREの曲だから、ブラスバンド用にアレンジされたあともサックスの影響が強く残ってるみたいだな。壮馬、ソロの奏者の表情を集中的に追う狙いは、合宿やコンクールのPVを編集するときに、ドラマチックな演出にするためってことで良いのか?」
 オレがたずねると、親友はニヤリとうなずいて返答する。
「そうだね。色んな角度からソロの奏者の表情を追って、1日目と2日目の違いを見比べようと思う。今日は、最大3つのカメラを使えるから、できる限り個人の表情を追って、撮影終了後に確認して良いものを使うことにしよう」
 カメラ撮影に関しては、主導的な立場を取ることが多い壮馬が簡潔に撮影方針を伝えると、桃華は「わかりました!」と快諾した。そして、続けて、「他に注意しておくべきことはありませんか?」と確認する。
「う〜ん、ボクの方からは特に無いかな……竜司はどう?」
「そうだな〜。今回は、いつものクラブ取材と違って、先生やOB・OGの先輩たちも、取材現場に一緒に居るからな〜。その点で、気をつかう取材になることは覚悟しておいてくれ。念のため、午後からの練習が始まる前に桜井先生や久川先生、先輩たちに一緒にあいさつをしに行っておくか?」
 オレが返答すると、下級生は、
「はい! よろしくお願いします」
と嬉しそうに答える。
「じゃあ、午後の打ち合わせは、もうお終いってことで良いですか?」
「あぁ、そうだな」
「それじゃ、ワタシの方から話をさせてもらって良いですか?」
「ん? 別に構わないけど……」
 あらたまって、なんだろう? と、壮馬に無言で問いかけるように確認するが、親友も、「さぁ?」と肩をすくめるだけで、桃華の意図をはかりかねているようだ。
「くろセンパイ、ドライブにアップロードした開会式の映像と取材記録は、見てくれましたか?」
「いや、すまん……まだ、確認できてない。昨日も、夜は色々と作業があったからな……」
 オレが、申し訳ない、と目の前で手を合わせると、桃華は、「え〜」と不満げな口調でつぶやく。
「くろセンパイは、ワタシたち後輩の仕事ぶりには、興味がないんですね?」
「いや、そういうことじゃなくて……こっちに来てからは、色々と忙しかったから―――」
「ふ〜ん、行きの特急電車では、|紅《・》|野《・》|セ《・》|ン《・》|パ《・》|イ《・》|と《・》|一《・》|緒《・》|に《・》|パ《・》|ン《・》|ダ《・》|列《・》|車《・》|の《・》|写《・》|真《・》|を《・》|撮《・》|る《・》|く《・》|ら《・》|い《・》|余《・》|裕《・》|が《・》|あ《・》|っ《・》|た《・》のに、ですか?」
 まさか、あの紅野の後輩がSNSにアップロードした写真を桃華が見ているとは思わなかった。想定外の事態に焦りながら、オレは必死にその不測の事態が発生した経緯を述べる。
「い、いや、それは1年の天宮さんが、パンダ列車の写真撮影ができたお礼にって撮ってくれただけで、それ以上の深い意味がある訳では……」
「え〜? そうなんですか? 紅野センパイと二人で、ずい分と楽しげに写っていたように見えたんですけど?」
「そ、そんなことは無いぞ? さっきも言ったみたいに、今回は、吹奏楽部の顧問やOB・OGの先輩たちも一緒だから、取材撮影をするにも気が抜けないんだよ。なあ、そうだよな、壮馬?」
 桃華の追及に困惑したオレは、必死に親友に救いを求める。
 すると、壮馬は、わざとしかめっ面を作りながら、即答した。
「う〜ん、たしかにそれはそうかもね。パート練習の取材は、ずっと桜井先生が付きっきりだったし、個人的には取材しにくかったのは、事実かも知れない。あと、|竜《・》|司《・》|は《・》|夜《・》|に《・》|な《・》|っ《・》|て《・》|も《・》|寿《・》|先《・》|輩《・》|に《・》|呼《・》|び《・》|出《・》|さ《・》|れ《・》|て《・》|い《・》|た《・》みたいだし、|取《・》|材《・》|以《・》|外《・》|の《・》|こ《・》|と《・》|で《・》|も《・》|忙《・》|し《・》|か《・》|っ《・》|た《・》ようだからね」
 その一言で、桃華の表情が一変するのがわかった。
「なんですか? 夜の時間帯に寿先輩と二人で会ってたんですか!? 同級生だけじゃなく、上級生まで……どういうことか、詳しく話を聞かせてくれますよね?」
 一見すると、微笑んでいるようにも見えるが、彼女の目は、まったく笑っていない。
「落ち着け、桃華。一昨日の夜、寿先輩に呼び出されたのは、今後の生徒会活動と吹奏楽部の活動について、相談を受けていただけだ。こんな時くらいしか話ができないってことでな―――寿先輩も、生徒会長と吹奏楽部の副部長を務めているんだ。色々と考えないといけないことがあるんだろう」
 当然のことながら、紅野のことは伏せつつ返答すると、桃華は、「ふ〜ん、そうですか……」と言って引き下がる。さらに、
「桃華たちの作った動画も取材記録も、いまから一緒に見せてもらうから、それで勘弁してくれ」
と、付け加えると、彼女は「じゃあ、じっくり確認して下さいね」と言って、ようやく機嫌を直したようだ。
 ただ――――――。
 オレは、このあとさらに、自分を追い詰める事態が、接近していることに気がついていなかった。