十月末日。ある賃貸マンションの一室。
突然、部屋の照明が消えた。
「うわっ」
「なんだ」
「きゃっ」
どたばたと三人は慌てた。互いに体がぶつかり、足を踏む。
「ちょっと落ち着けよ」
低音の男の声。
「危ないって」
テノールな男の声。
「どこ触っているのよ」
甲高い女の声。
「僕は触ってないよ」
とテノール。
「じゃあ、武雄でしょ」
「俺も触ってねーよ」
もう一人の男。
「嘘」
「本当だって」
「あ、なんか、目がやっと暗闇に慣れてきた」
テノールが言った。
「そこにいるには亮介?」
「そうだよ」
テノールの亮介が答える。
「こっちが武雄かぁ」
女が言うと、
「そうだ」
低音の武雄が返した。
「奈美は怪我はない?」
亮介が聞いた。
「大丈夫」
「そろそろ、電気つかないかな」
武雄が言った。
「周りが一斉停電したのかな?」
亮介の疑問に、他の二人は少し思案して、
「あれ、でも、おかしいぞ」武雄が疑問を口にした。「窓から見える他の家は灯りが点いている」
「あっ」と亮介。
「本当だ」と奈美。
「ということは、ブレーカーが落ちたのか?」武雄がどたどたと足を踏み鳴らして玄関のほうに向かった。「待ってろ。スマフォのライトを頼りに、ブレーカーをあげる」
暗闇の中、スマートフォンの明かりが蛍のように浮かんだ。
「よし。これだな」
数秒後、部屋の照明は点灯した。
――血だらけ姿の男女が立っていた。
「あれ?」
亮介が愕然とした。彼は中肉中背で眼鏡をかけている。
「ああ」
奈美は青ざめていた。彼女の華奢な腰は今にも折れそうだ。
「どうした?」
武雄が戻ってきた。ずんぐりむっくりとした体型だ。
亮介が異変を伝える。
「いないんだ。死体が……」
部屋中央にある血だまりの場所を、三人は呆然と見つめた。
*
(こんなにもうまくいくとは思わなかったな)
城島は大通りにでると、緊張がとけ、ニヤニヤと笑った。彼の姿は全身が血糊で真っ赤に染まっており、通行人は一瞬ぎょっとして振り返るが、悲鳴をあげることはなかった。
今日はハロウィンなので、血だらけ男の仮装をしていても怪しまれることはない。
あの三人の計画に気づいたのは、一週間前だった。城島を殺害した後、ハロウィンに便乗して変装で身を包み、肩車をして死んだ城島を堂々と運ぶという計画だった。
彼は、その逆をついて、切っ先が引っ込む包丁で刺されたふりをした。血糊を大量に放出し、倒れ、時限式でブレーカーが落ちるようにしていた。
(今頃、あいつら、泡を食っているだろうな)
城島は愉快な気分になり、スキップした。
(もしかしたら、計画が上手くいかなかったので、喧嘩になっているかもな。一人くらい、死者がでるかもな)
哄笑した。まるで世界が味方しているような感覚だ。
*
* *
* * *
「先生! 城島先生! 起きてください」
僕は激しく肩を揺さぶられ、目を覚ました。
「教卓で眠るなんて、珍しいですね」
少年は怪訝な顔で僕を見た。僕の教え子の中学生男子だ。
「いや、懐かしい夢を見たよ」
「どんな夢ですか?」
「若い時に現実にあった出来事だよ。教え子に襲われる夢だよ」
「怖いですね。それ」
少年はぶるりと身震いした。
「なに、怖くはないさ。僕が死んだふりをして、撃退したからね」
「すごいですね。その人たちは今、何しているのですか?」
少年に問われ、僕は指を指した。
「そこにいるよ」
その少年の父親・武雄と母親・奈美がいた。
――本日は三者面談だ。