ep40 旅立ち
ー/ー
大急ぎで支度を終える。
旅装束にローブを羽織り、コンパクトにまとめた荷物を背負い、屋敷の裏口に立った。それはまるで冒険者の出立の風体だ。
「よし……」
屋敷の裏手には木立が広がっている。そこを進んでいくと高い柵にぶつかるが、今の俺なら問題ない。柵を越えればそのまま林間から街の外へと抜けていくことができる。
「ぼっちゃま! 必ず戻ってきてください! (生きているうちに……)」
「クローさま! くれぐれもお気をつけて!」
不安と心配と寂しさと哀しさと、それらを抑え込もうとする僅かな希望とをない混ぜにした表情で、パトリスとロバータは言った。
「クロー! いつかまた戻ってこいよ!」
ミックも、今回ばかりはチャラ男らしくないしんみりした面持ちで言った。
「クロー!」
ナオミは俺の胸に飛び込んできた。
「ナオミ」
「あたし、反省してるの」
「?」
「クローに、良くない感情を抱いてたことがあって」
「そんなの、気にすることないよ」
「クローは、あたしを守ってくれた。あたしやミックや街の人たちを守ってくれた。感謝してもしきれないよ。それなのに、以前のあたしは……」
「もういいって。それに、ナオミとミックがいち早く知らせてくれたから、俺はこうして難を逃れて行けるんだろ?」
「ねえクロー、覚えてる? あたしとクローが出会ったばかりのころ、あたしに言ってくれたよね? あのときあたし、はいともいいえとも言わなかった。なにも答えなかった。でもね? 今ならあたし、クローと……」
「ナオミ」
俺はナオミの言葉をさえぎり、やさしく抱擁を解いた。
ナオミは言いかけた言葉を飲み込んで、訴えかけるような目で俺を見た。
「……」
俺はなにも答えず、沈黙のまま微かに微笑んだ。そして前を向くと、二歩三歩と進んでから、クルッと振り返る。
「じゃあ、俺は行くよ」
「ぼっちゃま!」
「クローさま!」
「クロー!」
「クロー!」
四人の顔を、目に焼きつけるようにじっと見た。それから最後に改めてパトリスに視線を向けた。もう余計な言葉はなにもいらなかった。
「行ってらっしゃいませ。ぼっちゃま」
「ああ、行ってくる」
足を踏み出し、木立の中へ入っていった。一歩一歩、前へ前へ。
途中、一度も振り返ることはなかった。もう、進むしかないのだから。
「さよなら。みんな」
おそらく、俺の命が尽きるまでに、もうここへ戻ってくることは叶わないだろう。もう二度と、彼らと会うこともないだろう。
「これからどうなるのか……なんて今さら考えてもしかたない。今の俺には、剣とその力がある。やるべきことは、もう決めたのだから……」
木々を抜けると、草原に浮かぶ広大な空は濃紫色に染まっていた。
まもなく夜がやってくる。俺の旅立ちを迎えるのは、太陽ではなく月だ。
「なんだろうな、この気分……」
吹き抜ける風を感じながら、俺はひとり、遠い月を目指して歩くように、大いなる世界を突き進んでいく。
これは俺の、最初で最後の、冒険の旅。
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旅装束にローブを羽織り、コンパクトにまとめた荷物を背負い、屋敷の裏口に立った。それはまるで冒険者の出立の風体だ。
「よし……」
屋敷の裏手には木立が広がっている。そこを進んでいくと高い柵にぶつかるが、今の俺なら問題ない。柵を越えればそのまま林間から街の外へと抜けていくことができる。
「ぼっちゃま! 必ず戻ってきてください! (生きているうちに……)」
「クローさま! くれぐれもお気をつけて!」
不安と心配と寂しさと哀しさと、それらを抑え込もうとする僅かな希望とをない混ぜにした表情で、パトリスとロバータは言った。
「クロー! いつかまた戻ってこいよ!」
ミックも、今回ばかりはチャラ男らしくないしんみりした面持ちで言った。
「クロー!」
ナオミは俺の胸に飛び込んできた。
「ナオミ」
「あたし、反省してるの」
「?」
「クローに、良くない感情を抱いてたことがあって」
「そんなの、気にすることないよ」
「クローは、あたしを守ってくれた。あたしやミックや街の人たちを守ってくれた。感謝してもしきれないよ。それなのに、以前のあたしは……」
「もういいって。それに、ナオミとミックがいち早く知らせてくれたから、俺はこうして難を逃れて行けるんだろ?」
「ねえクロー、覚えてる? あたしとクローが出会ったばかりのころ、あたしに言ってくれたよね? あのときあたし、はいともいいえとも言わなかった。なにも答えなかった。でもね? 今ならあたし、クローと……」
「ナオミ」
俺はナオミの言葉をさえぎり、やさしく抱擁を解いた。
ナオミは言いかけた言葉を飲み込んで、訴えかけるような目で俺を見た。
「……」
俺はなにも答えず、沈黙のまま微かに微笑んだ。そして前を向くと、二歩三歩と進んでから、クルッと振り返る。
「じゃあ、俺は行くよ」
「ぼっちゃま!」
「クローさま!」
「クロー!」
「クロー!」
四人の顔を、目に焼きつけるようにじっと見た。それから最後に改めてパトリスに視線を向けた。もう余計な言葉はなにもいらなかった。
「行ってらっしゃいませ。ぼっちゃま」
「ああ、行ってくる」
足を踏み出し、木立の中へ入っていった。一歩一歩、前へ前へ。
途中、一度も振り返ることはなかった。もう、進むしかないのだから。
「さよなら。みんな」
おそらく、俺の命が尽きるまでに、もうここへ戻ってくることは叶わないだろう。もう二度と、彼らと会うこともないだろう。
「これからどうなるのか……なんて今さら考えてもしかたない。今の俺には、剣とその力がある。やるべきことは、もう決めたのだから……」
木々を抜けると、草原に浮かぶ広大な空は濃紫色に染まっていた。
まもなく夜がやってくる。俺の旅立ちを迎えるのは、太陽ではなく月だ。
「なんだろうな、この気分……」
吹き抜ける風を感じながら、俺はひとり、遠い月を目指して歩くように、大いなる世界を突き進んでいく。
これは俺の、最初で最後の、冒険の旅。