ep39 蠢動

ー/ー



 窓から斜めに差し込む夕陽の光が部屋を茜色に染める頃、二人の者がラキアード家の屋敷に勢いよく駆け込んできた。

「クロー! ヤバイぞ!」
「ねえクロー! たいへんなの!」

 玄関に迎え出ていくと、ミックとナオミが逼迫した表情で訴えるように俺を待っていた。理由を知らない俺は、パトリスとロバータと顔を見合わせてから疑問を浮かべる。
 
「どうしたんだ? まさか、また〔フリーダム〕が?」

「ちがう! そうじゃない! ある意味でもっとヤバイぞ!」
「このままじゃ、クローが捕まっちゃうかも!」

「俺が、つかまる?」

 あまりに唐突すぎてきょとんとしてしまう。そんな俺に対して、ミックとナオミは覚悟を決めたように重く頷き合ってから、口をひらいた。

「国際平和維持軍が街にやって来たんだ。目的は、魔剣使いを連行するためだ」
「魔剣使いとは……クロー、あなたのことよ!」

「国際平和維持軍? あっ……」

「オイオイおまえも知ってるだろ? 戦後秩序を守るために、勇者を中心に国際的に組織された平和維持のための軍だよ!」

「その一部隊が街にやってきたってことよ!」

「勇者……(そういえば昨日ドレッド頭のヤツが勇者軍とか言ってたよな)」

「そうだよ!」

「勇者様よ!」

「そ、そうなんだ。でも、俺が魔剣使いって?」

「クローが魔法を斬り裂いたんだろ? それを街の警察が見ていたらしくて、軍組織に報告したら…」

「そいつは魔剣使いだ! 危険な存在だ! となってしまったみたいなの! あたしたちや街を救ってくれたことを説明してもダメなの!」

 俺は再びパトリスとロバータと顔を見合わす。

「な、なあパトリス。これってどういうことなんだろう?」

 その時だった。

『深淵の魔導剣士よ。旅立ちのときです』

『!』

『今はまだ、勇者と争ってはなりません』

『執事のパトリス。メイドのロバータ。クロー様を逃すことに助力しなさい』

〔謎の声〕は、またしてもパトリスとロバータへも声を届かせた。

『あ、貴女は!』
『また、あの〔声〕ですか!?』

『さあ、早くしなさい。もう時間がありません』

『し、しかし!』
『だってクローさまは…』

『もはや選択の余地はないのです。今、また新たな〔結果〕へ向かい、新たな〔原因〕が起こっているのです』

『では私めもぼっちゃまと…』
『私も!』

『なりません。貴方がた二人は、ここへ留まらなければなりません。それが貴方がたの役割なのです』

『し、しかし、今のぼっちゃまをひとりで行かせるなんて……』
『そんな……』

『心配は無用です。ワタクシがついています。それに、貴方がたはクロー様の帰る場所を守っていただかなければなりません。大丈夫。国際平和維持軍とやらも、貴方たちへどうこうすることはないでしょう』 

〔謎の声〕は、ふたりを説得し終えると、いよいよといった塩梅で俺に訊いてくる。

『クロー様。覚悟は決まりましたか?』

『覚悟、か。今度は選択じゃないんだな』

『もうおわかりでしょう? 貴方はすでに選択しているはずです』

『ああ、わかったよ』

『ではクロー様。今すぐ部屋へ剣を取りに。そして旅の支度を』

『そうだな』

 俺は、パトリスとロバータ、ミックとナオミへ向かい、平静に微笑んで見せる。

「じゃあ、俺は行くよ。ミック、ナオミ。知らせてくれてありがとう。パトリス、ロバータ。旅の支度を手伝ってくれないか?」

「クロー! すまねぇ! なにもしてやれなくて!」
「あたしも、助けてもらったのに何もできなくて……」

「ぼっちゃま。急ぎましょう!」
「クローさま! お手伝いします!」

 俺は駆け足で部屋へ戻ると、壁に立てかけてあった剣を手に取った。
 
「よくよく考えたらこれ……鞘はないのか? このまま持っていくのって、結構キツくないか?」

 今更ながらの当たり前の懸念。時間がないだけに切実な問題だ。

『クロー様。〔グラディウス〕と唱えてください』

『は?』

『考えている暇はありません』

「わ、わかったよ。〔グラディウス〕」

 その瞬間だ。俺の手に握られていたはずの剣が、パッと消失した。

「え? なに? 消えた?」

『〔魔導剣〕と〔魔導剣士〕は一体のもの。剣を出したい時は同様に〔グラディウス〕と唱えてください。つまり、剣の出し入れはクロー様の意思で自由に行えます』

『マジか。便利だな』

『ちなみに〔魔導書〕の方ですが…』

『あっ! そういえばどこいったんだ? 完全に忘れてた!』

『大丈夫です。今度は〔マギーア〕と唱えてください』

『お、おう。〔マギーア〕』

 次の瞬間、今度は何処からボンと〔魔導書〕が現れて、俺の左手におさまった。

『こ、これは?』

『魔導書に関してはワタクシにもアクセス権を設定できるので、貴方が街で気を失った際にワタクシの方で閉まっておきました』

『そ、そんなことできるなら最初からそうやっとけば』

『いえ、しばらくの時を経てから起動したので、いったん時間を置く必要があったのです。でないと不具合が生じる可能性がございますので』

『はあ。てゆーかマジで取説くれよ……』

『そんなことより、旅の支度です。急ぎましょう!』

『そんなことって……まあ、今はとにかく急がないと!』


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 窓から斜めに差し込む夕陽の光が部屋を茜色に染める頃、二人の者がラキアード家の屋敷に勢いよく駆け込んできた。
「クロー! ヤバイぞ!」
「ねえクロー! たいへんなの!」
 玄関に迎え出ていくと、ミックとナオミが逼迫した表情で訴えるように俺を待っていた。理由を知らない俺は、パトリスとロバータと顔を見合わせてから疑問を浮かべる。
「どうしたんだ? まさか、また〔フリーダム〕が?」
「ちがう! そうじゃない! ある意味でもっとヤバイぞ!」
「このままじゃ、クローが捕まっちゃうかも!」
「俺が、つかまる?」
 あまりに唐突すぎてきょとんとしてしまう。そんな俺に対して、ミックとナオミは覚悟を決めたように重く頷き合ってから、口をひらいた。
「国際平和維持軍が街にやって来たんだ。目的は、魔剣使いを連行するためだ」
「魔剣使いとは……クロー、あなたのことよ!」
「国際平和維持軍? あっ……」
「オイオイおまえも知ってるだろ? 戦後秩序を守るために、勇者を中心に国際的に組織された平和維持のための軍だよ!」
「その一部隊が街にやってきたってことよ!」
「勇者……(そういえば昨日ドレッド頭のヤツが勇者軍とか言ってたよな)」
「そうだよ!」
「勇者様よ!」
「そ、そうなんだ。でも、俺が魔剣使いって?」
「クローが魔法を斬り裂いたんだろ? それを街の警察が見ていたらしくて、軍組織に報告したら…」
「そいつは魔剣使いだ! 危険な存在だ! となってしまったみたいなの! あたしたちや街を救ってくれたことを説明してもダメなの!」
 俺は再びパトリスとロバータと顔を見合わす。
「な、なあパトリス。これってどういうことなんだろう?」
 その時だった。
『深淵の魔導剣士よ。旅立ちのときです』
『!』
『今はまだ、勇者と争ってはなりません』
『執事のパトリス。メイドのロバータ。クロー様を逃すことに助力しなさい』
〔謎の声〕は、またしてもパトリスとロバータへも声を届かせた。
『あ、貴女は!』
『また、あの〔声〕ですか!?』
『さあ、早くしなさい。もう時間がありません』
『し、しかし!』
『だってクローさまは…』
『もはや選択の余地はないのです。今、また新たな〔結果〕へ向かい、新たな〔原因〕が起こっているのです』
『では私めもぼっちゃまと…』
『私も!』
『なりません。貴方がた二人は、ここへ留まらなければなりません。それが貴方がたの役割なのです』
『し、しかし、今のぼっちゃまをひとりで行かせるなんて……』
『そんな……』
『心配は無用です。ワタクシがついています。それに、貴方がたはクロー様の帰る場所を守っていただかなければなりません。大丈夫。国際平和維持軍とやらも、貴方たちへどうこうすることはないでしょう』 
〔謎の声〕は、ふたりを説得し終えると、いよいよといった塩梅で俺に訊いてくる。
『クロー様。覚悟は決まりましたか?』
『覚悟、か。今度は選択じゃないんだな』
『もうおわかりでしょう? 貴方はすでに選択しているはずです』
『ああ、わかったよ』
『ではクロー様。今すぐ部屋へ剣を取りに。そして旅の支度を』
『そうだな』
 俺は、パトリスとロバータ、ミックとナオミへ向かい、平静に微笑んで見せる。
「じゃあ、俺は行くよ。ミック、ナオミ。知らせてくれてありがとう。パトリス、ロバータ。旅の支度を手伝ってくれないか?」
「クロー! すまねぇ! なにもしてやれなくて!」
「あたしも、助けてもらったのに何もできなくて……」
「ぼっちゃま。急ぎましょう!」
「クローさま! お手伝いします!」
 俺は駆け足で部屋へ戻ると、壁に立てかけてあった剣を手に取った。
「よくよく考えたらこれ……鞘はないのか? このまま持っていくのって、結構キツくないか?」
 今更ながらの当たり前の懸念。時間がないだけに切実な問題だ。
『クロー様。〔グラディウス〕と唱えてください』
『は?』
『考えている暇はありません』
「わ、わかったよ。〔グラディウス〕」
 その瞬間だ。俺の手に握られていたはずの剣が、パッと消失した。
「え? なに? 消えた?」
『〔魔導剣〕と〔魔導剣士〕は一体のもの。剣を出したい時は同様に〔グラディウス〕と唱えてください。つまり、剣の出し入れはクロー様の意思で自由に行えます』
『マジか。便利だな』
『ちなみに〔魔導書〕の方ですが…』
『あっ! そういえばどこいったんだ? 完全に忘れてた!』
『大丈夫です。今度は〔マギーア〕と唱えてください』
『お、おう。〔マギーア〕』
 次の瞬間、今度は何処からボンと〔魔導書〕が現れて、俺の左手におさまった。
『こ、これは?』
『魔導書に関してはワタクシにもアクセス権を設定できるので、貴方が街で気を失った際にワタクシの方で閉まっておきました』
『そ、そんなことできるなら最初からそうやっとけば』
『いえ、しばらくの時を経てから起動したので、いったん時間を置く必要があったのです。でないと不具合が生じる可能性がございますので』
『はあ。てゆーかマジで取説くれよ……』
『そんなことより、旅の支度です。急ぎましょう!』
『そんなことって……まあ、今はとにかく急がないと!』