ep41 旅の少女

ー/ー



 ぼくが旅に出てから、早一カ月が経ちます。
 本来であれば、もう家に帰るころだと思います。ぼく自身、そうするつもりでした。
 だけど、ぼくはまだ旅を続けることにしました。理由は、目が離せない人と出会ってしまったからです。
 その人は……なんだろう。ぼくの書く物語の中で、英雄として登場する人物になるかもしれません。
 なにを言っているのかよくわからないよね。本当にいつも心配かけてばかりでごめんなさい。そして十代の一人娘のワガママをいつも聞いてくれてありがとうございます。
 近いうちに、また手紙書きます。
 またね、お母さん。

  シヒロ

 ◇ ◇ ◇
 
「この街を取材したら、帰還の途につこうかな」

 ぼくがそう思ったのは、お母さんや村のみんなの顔を思い出して、家が恋しくなったからではありません。それもあるけど、それだけじゃないんです。
 それ以上に、近辺に何やら危険が迫っているという話をそこかしこで耳にしたからです。

「この間、また東の方の街がやられたんだって?」

「らしいな。一か月前、クオリーメンが派手にやられて以来、国際平和維持軍も本格的に動きだしているとは聞くが、それでもな」

 旅の冒険者風の恰好に身を包んだぼくは、街の酒場で食事をしながら、住民や冒険者や他の旅人達の会話に耳を傾けていました。そこは、この街でもっとも多くの人々が集まる酒場で、ぼくはこっそり取材活動を行っていたのです。

「まったく一年前にやっと戦争が終わったってのに、また物騒な連中が現れやがって」

「でもよ。その〔フリーダム〕てのは、いったいなんなんだろうな」

「さあな。一応、連中は〔自由〕を叫んでいるらしいが、戦争が終わって行き場のなくなった戦士や戦場でメシ食ってたゴロツキどもが集まってるって話も聞く。中には魔術師までいるんだとか。本当かどーかは知らねーけどな」

「ただのチンピラ連中ってわけでもないのか? ますますヤベえじゃねえか」

「多くはチンピラなんだろうが……とにかくなんだか不気味な連中だよ」

「勇者様になんとかしてもらえないのかねぇ」

「あの御方は色々と忙しいんだろ。まあおれたち一般庶民にゃあ計り知れねえことだがね」

 ぼくはパンを片手に、ノートにメモを取っていました。ノートは二冊あって、こっちはぼくの取材ノート。もう一冊は、創作ノートです。

「やっぱり、村を出ると、色んな人がいて、色んな情報や話を聞ける。外を歩けば色んな風景も見られる。これでまた創作イメージが広げられるぞ」

 ぼくの夢は、作家になること。そのために、ぼくは旅をしているのです。
 本当はそれこそ一年でも二年でも時間をかけて世界中を旅してまわりたいけど、今のぼくにはまだそこまでの芸当はできません。だから、とりあえず一か月間ということで、一生懸命お金も貯めて、お母さんにも納得してもらって、短期間限定で旅に出たんです。

「まだ一か月には満たないけど、今日一泊したら、明日からは村に引き返そう」

 さすがに事件や紛争に巻き込まれるわけにはいかない。〔フリーダム〕とかいう連中が何者なのか興味はあるけど、やっぱり危険すぎるよね。
 せっかく戦争が終わって安心して旅ができると思っていたのに残念です。

「でも、この一ヶ月弱でかなりイメージも膨らんだし、実際に執筆も進んだんだよね」

 ぼくは創作ノートを開き、書きかけの小説を見返し始めました。
 
「まだまだヘタだよなぁ。でもすっごく楽しい。書けば書くほど、新しい世界がどんどん広がっていく感じ」

 自分で書いた小説をニヤけながら読んでいるぼくは、はたから見ればちょっとアヤしいかも?


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 ぼくが旅に出てから、早一カ月が経ちます。
 本来であれば、もう家に帰るころだと思います。ぼく自身、そうするつもりでした。
 だけど、ぼくはまだ旅を続けることにしました。理由は、目が離せない人と出会ってしまったからです。
 その人は……なんだろう。ぼくの書く物語の中で、英雄として登場する人物になるかもしれません。
 なにを言っているのかよくわからないよね。本当にいつも心配かけてばかりでごめんなさい。そして十代の一人娘のワガママをいつも聞いてくれてありがとうございます。
 近いうちに、また手紙書きます。
 またね、お母さん。
  シヒロ
 ◇ ◇ ◇
「この街を取材したら、帰還の途につこうかな」
 ぼくがそう思ったのは、お母さんや村のみんなの顔を思い出して、家が恋しくなったからではありません。それもあるけど、それだけじゃないんです。
 それ以上に、近辺に何やら危険が迫っているという話をそこかしこで耳にしたからです。
「この間、また東の方の街がやられたんだって?」
「らしいな。一か月前、クオリーメンが派手にやられて以来、国際平和維持軍も本格的に動きだしているとは聞くが、それでもな」
 旅の冒険者風の恰好に身を包んだぼくは、街の酒場で食事をしながら、住民や冒険者や他の旅人達の会話に耳を傾けていました。そこは、この街でもっとも多くの人々が集まる酒場で、ぼくはこっそり取材活動を行っていたのです。
「まったく一年前にやっと戦争が終わったってのに、また物騒な連中が現れやがって」
「でもよ。その〔フリーダム〕てのは、いったいなんなんだろうな」
「さあな。一応、連中は〔自由〕を叫んでいるらしいが、戦争が終わって行き場のなくなった戦士や戦場でメシ食ってたゴロツキどもが集まってるって話も聞く。中には魔術師までいるんだとか。本当かどーかは知らねーけどな」
「ただのチンピラ連中ってわけでもないのか? ますますヤベえじゃねえか」
「多くはチンピラなんだろうが……とにかくなんだか不気味な連中だよ」
「勇者様になんとかしてもらえないのかねぇ」
「あの御方は色々と忙しいんだろ。まあおれたち一般庶民にゃあ計り知れねえことだがね」
 ぼくはパンを片手に、ノートにメモを取っていました。ノートは二冊あって、こっちはぼくの取材ノート。もう一冊は、創作ノートです。
「やっぱり、村を出ると、色んな人がいて、色んな情報や話を聞ける。外を歩けば色んな風景も見られる。これでまた創作イメージが広げられるぞ」
 ぼくの夢は、作家になること。そのために、ぼくは旅をしているのです。
 本当はそれこそ一年でも二年でも時間をかけて世界中を旅してまわりたいけど、今のぼくにはまだそこまでの芸当はできません。だから、とりあえず一か月間ということで、一生懸命お金も貯めて、お母さんにも納得してもらって、短期間限定で旅に出たんです。
「まだ一か月には満たないけど、今日一泊したら、明日からは村に引き返そう」
 さすがに事件や紛争に巻き込まれるわけにはいかない。〔フリーダム〕とかいう連中が何者なのか興味はあるけど、やっぱり危険すぎるよね。
 せっかく戦争が終わって安心して旅ができると思っていたのに残念です。
「でも、この一ヶ月弱でかなりイメージも膨らんだし、実際に執筆も進んだんだよね」
 ぼくは創作ノートを開き、書きかけの小説を見返し始めました。
「まだまだヘタだよなぁ。でもすっごく楽しい。書けば書くほど、新しい世界がどんどん広がっていく感じ」
 自分で書いた小説をニヤけながら読んでいるぼくは、はたから見ればちょっとアヤしいかも?