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ギャルゲーの主人公に転生した俺にはハッピーエンドが約束されている(仮)

ー/ー



「伊東(いとう)くん、朝だよ。起きて」
 鈴のような声が聞こえる。
「うーん……あと五分……」
「もう、遅刻しちゃうよ!」
「分かった、起きるよ……」
 重い瞼を開けた先には、とびきりの美少女の姿があった。到底地毛とは思えないようなピンク色の髪に、つい視線を向けそうになる大きな胸。
 毎朝俺を起こしてくれるのは、目覚まし時計でもスマホのアラームでもない。隣に住む幼馴染のすももちゃんだ。
「おはよう、伊東くん」
「お、おはよう……」
 にやけそうになるのを必死に堪える。
 何故こんな現実離れしたことが起きているかというと、それはここがギャルゲーの世界だからだ。



 俺は二十九歳のくたびれたサラリーマンで、毎日終電まで続く残業と休日出勤を繰り返していた。無茶なノルマ、上司からのパワハラ、仕事を押しつけてくる同僚、俺のことを舐めきっている後輩……そんな最悪な環境で恋人はおろか友達もおらず、ただ馬車馬のように働かされる日々。とにかく疲れていて、ボロアパートの煎餅布団に寝転がりながら、ああいっそこのまま目覚めなければ会社に行かなくて済むのに、と思いながら床につき……次に目を開けた時には、俺はこの世界にいた。

 今の俺は高校三年生だった。最初の朝もすももちゃんに起こされて、訳が分からないまま学校に行き、そこでたくさんの美少女に出会った。金髪ツインテールのツンデレ、おしとやかなメガネっ子、ちょっとセクシーな教師などなど……みんな俺に好意的だった。そこで俺は気づいた。これはギャルゲーの世界で、俺は主人公なのだと。
 異世界やゲームの世界に転生するアニメや漫画が流行っていることは知っている。しかしまさか本当にそんなことが起こるとは夢にも思っていなかった。特段ギャルゲーに詳しいわけではないから、具体的に何のゲームに転生したのかは分からない。でも状況からしてまず間違いないと確信していた。
 転生ということはつまり元の俺は死んでしまったということか。でも俺が死んだってどうせ悲しむ人なんていない。アパートを事故物件にしてしまって大家さんには申し訳ないと思うけれど、今の俺にはどうすることも出来ない。
 仮に元の世界に戻れたとしても、待っているのはクソみたいな社畜生活だ。それならばこの世界で青春をやり直して充実したスクールライフを送ってやろうと決めたのだ。
 アラサーで制服を着るのはキツいと思ったが、肉体は年相応だった。見た目は少年、頭脳はアラサーというなんとも残念な名探偵のようだが、それはそれとして。
 顔は元々と大して変わらず平凡だった。しかし俺は幸いにも主人公だ。つまり例え見た目が冴えなくてもこれからパラメータを上げていけばその先に待つのはハッピーエンド、彼女いない歴イコール年齢の人生ともおさらばだ。この歳で女子高生に手を出すのもいかがなものかと俺の中の倫理観が警鐘を鳴らしているけれど、もうやるしかないのだ。


 すももちゃんと二人で通学路を歩きながら、攻略キャラと思しきカラフルな髪色の女の子達に挨拶をしていく。まだこの世界に来て日が浅いので、誰のルートを狙うか決めていない。おそらくタイムリミットは卒業式だ。それまでに好感度を上げていかなければ……!
「伊東、おはよ」
 密かに燃え上がっていたら後ろから肩を叩かれた。振り返ってみれば同級生の木嶋(きじま)が爽やかな笑みを浮かべていた。
 彼は俺の親友ポジションらしい。ギャルゲーの親友といえば、やたらと情報通で女の子の好きなものを教えてくれたり、アドバイスをくれたりするキャラだ。俺よりも遥かにイケメンで成績もトップクラスなところは少し気になるけれど、ここは俺に都合のいい世界だから問題はないはずだ。
「もうすぐテストだけど、調子はどうだ? ちゃんと勉強しとけよ」
「あ、ああ……頑張るよ」
 テストでいい点を取ればきっとヒロイン達の好感度が上がるはずだ。絶対失敗するわけにはいかない。あわよくば二人きりでテスト勉強をするイベントが発生するかも……!
 そんな下心……もとい野心を抱えながら、俺は学校へ向かった。



 結論から言うと、ヒロインとのテスト勉強イベントは発生しなかった。代わりに木嶋が勉強に付き合ってくれた。流石ギャルゲーの親友ポジション、いい奴だ。しかし勉強の甲斐も空しく、テストはいまいちだった。それもそのはず、俺の肉体は高校生といえど頭脳はアラサー……つまり高校の勉強なんてほとんど忘れてしまっていたのだ。転生してもチート能力に恵まれなかったのは残念で仕方ない。
 まあ卒業式までは何ヶ月もあるし、これから挽回していけばいいと楽観的に考えていたのだが……この日から異変が起きた。


「友達に噂されたら恥ずかしいから……」
 放課後、一緒に帰ろうとすももちゃんを誘ったらそう言われて断られた。引き留めようとしたがすももちゃんはさっさと帰ってしまった。これはまさか……好感度が下がってしまったせいじゃないだろうか。
 そういえば、古の元祖ギャルゲーのヒロインは好感度が低いとかなりの塩対応になるとネットで見たことがある。それと同じような感じかもしれない。しかし面と向かって言われるとなかなかつらい……。
「伊東、そんなに落ち込むなよ。今日は俺と帰ろうぜ」
「木嶋……」
 やっぱり木嶋はいい奴だ。
 その日は結局、木嶋と二人でゲーセンに寄ってから帰った。


 それからも俺は部活にバイトに勉強と必死にパラメータを上げた。休日にはショッピングモールや公園などイベントが起きそうな場所に出掛けてみた。しかしヒロイン達とフラグが立つ様子は全くない。それどころかどんどん距離が開いていく感じがする。特別嫌われるようなことをした覚えはないのに……。もしかして、これクソゲーなんじゃないだろうか。いつも休日の暇潰しに付き合ってくれる木嶋に申し訳なくなってきた。



 冬休みを迎える前についにすももちゃんが俺を起こしに来なくなった。
「伊東、朝弱いんだろ? 俺が起こしてやるよ」
 代わりに木嶋がモーニングコールをしてくれるようになった。いい奴だ。

 冬休みになっても誰ともイベントが起きなかった。
「伊東、クリスマスに誰も誘えなかったのか? じゃあ俺と遊ぼうぜ。男だけのクリスマスパーティーもたまにはいいだろ」
 クリスマスも正月も木嶋と遊んで過ごした。やっぱりいい奴だ。

 バレンタインは誰からもチョコをもらえなかった。
「伊東、俺いっぱいもらったからひとつ分けてやるよ」
 木嶋がチョコをひとつくれた。いつも通りいい奴だ。でもやけに気合いが入った手作りチョコに見えたけど、俺がもらって良かったのかな……。


 そんなこんなで、およそギャルゲーとは思えないレベルで何のイベントも起きないまま卒業式を迎えてしまった。俺の第二ボタンをもらいにきてくれる人はいなかった。
「今日でこの高校ともお別れだな」
 卒業式を終え、俺は木嶋と二人で通学路を歩いていた。ここを通るのもこれが最後だ。
「卒業式なのに誰にも告白しなくて良かったのか?」
「……いいよ、もう……」
 どうせ誰に告白したってフラれるに決まっている。
 せっかくギャルゲーの主人公になれたのに、最後まで彼女は出来なかった。唯一出来たのは木嶋という親友だけだ。元々の俺には親友と呼べるような友人はいなかったから、確かにかけがえのない存在とも言えるが……思っていたとの違う。このギャルゲー、難易度高すぎるだろ。こんなの初見でどうやってクリアすればいいんだ。それとも、俺は主人公の器ではなかったということなのか……。
「伊東、このあと暇ならお前んち行っていいか?」
「え……何で?」
「高校生活お疲れ様ってことで、打ち上げしようぜ」
 正直なところそんな気分にはなれない。断ってしまおうかと思ったところで、俺はふと、ギャルゲーにも友情エンドがあることを思い出した。
 そうか、俺は知らないうちに親友ルートに入っていたのか。どおりで彼女が出来ないわけだ。そうなってしまったのなら仕方ない、このまま木嶋との友情エンドを迎えることにしよう……。


 木嶋を部屋に通して適当に座った。俺の両親は不在……というか、海外出張中なので実質一人暮らしのようなものだ。こんなおいしい設定を無駄にするなんて、俺はつくづくギャルゲーに向いていない。
 テーブルの上に菓子を広げ、ジュースで乾杯した。
「伊東、結局彼女は出来なかったな」
「傷を抉るなよ……」
「でも自信持っていいと思うぞ。お前って顔は普通だけど性格は良いし」
 褒められているんだろうけれど素直に喜べない……。木嶋は俺の顔をじっと見つめ、こちらに体を寄せてきた。
「伊東が勉強も部活もバイトも頑張ってたところ、俺はずっと見てたよ」
「ああ、うん……ありがとう」
「正直、ずっと不安だった。伊東が誰かに取られちゃうんじゃないかって」
 ……ん? どういう意味だ?
 菓子を食べる手を止めて木嶋に視線を移すと、彼は今までに見たことがないほど真剣な表情になっていた。
「伊東にずっと伝えたかったことがある」
「な……なに……?」
 ちょっと待て、これ友情エンドだよな? この雰囲気、なんかおかしくないか?
 鼓動が俄に騒がしくなる。
「俺、伊東のことが好きなんだ」
 木嶋の言葉に、俺は手にしていたポテトチップスをぽとりと落とした。
「最初は伊東に彼女が出来るように応援してた。でも、頑張ってる姿を見てたらいつの間にか好きになってたんだ」
「い、いや……待って……」
「もし卒業式までに彼女が出来なかったら告白しようって決めてた。だからもう遠慮なんてしない。俺はお前が好きだ……!」
「ちょ、ちょっと待てって!」
 両手を包み込むように握られる。振りほどこうとしてもびくともしない。こいつこんなに力強かったのか?
「お、おかしいだろ、そんなの!」
「どうして? 男同士だからか?」
「いや、その……何て言うか……」
 友情エンドで親友から告白されるなんて流石におかしい。こんな展開、まるでギャルゲーというより……。

「……!」
 ようやく気づいた。

 ここはギャルゲーの世界で、俺は主人公──それは誰かから説明があったわけではなく、状況的にそうだと俺が判断したことだ。でも、もしそれが最初から間違いで、ただの思い込みだったとしたら。ここはギャルゲーの世界なんかじゃなく、本当は……。
「伊東、俺と付き合ってくれ」
「き、木嶋……」
 エンドロールでイベントCGが流れるかの如く、脳内に今までの思い出が蘇ってくる。
 木嶋はいつも俺のそばにいてくれて、相談に乗ってくれて、アドバイスをくれて……木嶋がいなければ、きっと俺はこの世界でも孤独なままだっただろう。彼女こそ出来なかったものの、こうして思い返してみると充実した毎日を過ごせていたと思う。そしてそれは木嶋のおかげだ。
 俺はずっと彼のことを親友だと思っていた。でも、もしかしたら……。
「伊東……返事、聞いてもいいか?」
「あ、う……」
 心臓がばくばくと音を立てている。
 顔が熱い。手のひらに汗がじわりと滲む。
 うまく言葉が出てこなくて、代わりに目を合わせて小さく頷く。すると木嶋の端正な顔が近づいてきて、そっと唇が重なった。

 どうやら、攻略されていたのは俺の方だったようだ。



『BLゲームの攻略キャラに転生した俺にはハッピーエンドが約束されている』
 




みんなのリアクション

「伊東(いとう)くん、朝だよ。起きて」 鈴のような声が聞こえる。
「うーん……あと五分……」
「もう、遅刻しちゃうよ!」
「分かった、起きるよ……」
 重い瞼を開けた先には、とびきりの美少女の姿があった。到底地毛とは思えないようなピンク色の髪に、つい視線を向けそうになる大きな胸。
 毎朝俺を起こしてくれるのは、目覚まし時計でもスマホのアラームでもない。隣に住む幼馴染のすももちゃんだ。
「おはよう、伊東くん」
「お、おはよう……」
 にやけそうになるのを必死に堪える。
 何故こんな現実離れしたことが起きているかというと、それはここがギャルゲーの世界だからだ。
 俺は二十九歳のくたびれたサラリーマンで、毎日終電まで続く残業と休日出勤を繰り返していた。無茶なノルマ、上司からのパワハラ、仕事を押しつけてくる同僚、俺のことを舐めきっている後輩……そんな最悪な環境で恋人はおろか友達もおらず、ただ馬車馬のように働かされる日々。とにかく疲れていて、ボロアパートの煎餅布団に寝転がりながら、ああいっそこのまま目覚めなければ会社に行かなくて済むのに、と思いながら床につき……次に目を開けた時には、俺はこの世界にいた。
 今の俺は高校三年生だった。最初の朝もすももちゃんに起こされて、訳が分からないまま学校に行き、そこでたくさんの美少女に出会った。金髪ツインテールのツンデレ、おしとやかなメガネっ子、ちょっとセクシーな教師などなど……みんな俺に好意的だった。そこで俺は気づいた。これはギャルゲーの世界で、俺は主人公なのだと。
 異世界やゲームの世界に転生するアニメや漫画が流行っていることは知っている。しかしまさか本当にそんなことが起こるとは夢にも思っていなかった。特段ギャルゲーに詳しいわけではないから、具体的に何のゲームに転生したのかは分からない。でも状況からしてまず間違いないと確信していた。
 転生ということはつまり元の俺は死んでしまったということか。でも俺が死んだってどうせ悲しむ人なんていない。アパートを事故物件にしてしまって大家さんには申し訳ないと思うけれど、今の俺にはどうすることも出来ない。
 仮に元の世界に戻れたとしても、待っているのはクソみたいな社畜生活だ。それならばこの世界で青春をやり直して充実したスクールライフを送ってやろうと決めたのだ。
 アラサーで制服を着るのはキツいと思ったが、肉体は年相応だった。見た目は少年、頭脳はアラサーというなんとも残念な名探偵のようだが、それはそれとして。
 顔は元々と大して変わらず平凡だった。しかし俺は幸いにも主人公だ。つまり例え見た目が冴えなくてもこれからパラメータを上げていけばその先に待つのはハッピーエンド、彼女いない歴イコール年齢の人生ともおさらばだ。この歳で女子高生に手を出すのもいかがなものかと俺の中の倫理観が警鐘を鳴らしているけれど、もうやるしかないのだ。
 すももちゃんと二人で通学路を歩きながら、攻略キャラと思しきカラフルな髪色の女の子達に挨拶をしていく。まだこの世界に来て日が浅いので、誰のルートを狙うか決めていない。おそらくタイムリミットは卒業式だ。それまでに好感度を上げていかなければ……!
「伊東、おはよ」
 密かに燃え上がっていたら後ろから肩を叩かれた。振り返ってみれば同級生の木嶋(きじま)が爽やかな笑みを浮かべていた。
 彼は俺の親友ポジションらしい。ギャルゲーの親友といえば、やたらと情報通で女の子の好きなものを教えてくれたり、アドバイスをくれたりするキャラだ。俺よりも遥かにイケメンで成績もトップクラスなところは少し気になるけれど、ここは俺に都合のいい世界だから問題はないはずだ。
「もうすぐテストだけど、調子はどうだ? ちゃんと勉強しとけよ」
「あ、ああ……頑張るよ」
 テストでいい点を取ればきっとヒロイン達の好感度が上がるはずだ。絶対失敗するわけにはいかない。あわよくば二人きりでテスト勉強をするイベントが発生するかも……!
 そんな下心……もとい野心を抱えながら、俺は学校へ向かった。
 結論から言うと、ヒロインとのテスト勉強イベントは発生しなかった。代わりに木嶋が勉強に付き合ってくれた。流石ギャルゲーの親友ポジション、いい奴だ。しかし勉強の甲斐も空しく、テストはいまいちだった。それもそのはず、俺の肉体は高校生といえど頭脳はアラサー……つまり高校の勉強なんてほとんど忘れてしまっていたのだ。転生してもチート能力に恵まれなかったのは残念で仕方ない。
 まあ卒業式までは何ヶ月もあるし、これから挽回していけばいいと楽観的に考えていたのだが……この日から異変が起きた。
「友達に噂されたら恥ずかしいから……」
 放課後、一緒に帰ろうとすももちゃんを誘ったらそう言われて断られた。引き留めようとしたがすももちゃんはさっさと帰ってしまった。これはまさか……好感度が下がってしまったせいじゃないだろうか。
 そういえば、古の元祖ギャルゲーのヒロインは好感度が低いとかなりの塩対応になるとネットで見たことがある。それと同じような感じかもしれない。しかし面と向かって言われるとなかなかつらい……。
「伊東、そんなに落ち込むなよ。今日は俺と帰ろうぜ」
「木嶋……」
 やっぱり木嶋はいい奴だ。
 その日は結局、木嶋と二人でゲーセンに寄ってから帰った。
 それからも俺は部活にバイトに勉強と必死にパラメータを上げた。休日にはショッピングモールや公園などイベントが起きそうな場所に出掛けてみた。しかしヒロイン達とフラグが立つ様子は全くない。それどころかどんどん距離が開いていく感じがする。特別嫌われるようなことをした覚えはないのに……。もしかして、これクソゲーなんじゃないだろうか。いつも休日の暇潰しに付き合ってくれる木嶋に申し訳なくなってきた。
 冬休みを迎える前についにすももちゃんが俺を起こしに来なくなった。
「伊東、朝弱いんだろ? 俺が起こしてやるよ」
 代わりに木嶋がモーニングコールをしてくれるようになった。いい奴だ。
 冬休みになっても誰ともイベントが起きなかった。
「伊東、クリスマスに誰も誘えなかったのか? じゃあ俺と遊ぼうぜ。男だけのクリスマスパーティーもたまにはいいだろ」
 クリスマスも正月も木嶋と遊んで過ごした。やっぱりいい奴だ。
 バレンタインは誰からもチョコをもらえなかった。
「伊東、俺いっぱいもらったからひとつ分けてやるよ」
 木嶋がチョコをひとつくれた。いつも通りいい奴だ。でもやけに気合いが入った手作りチョコに見えたけど、俺がもらって良かったのかな……。
 そんなこんなで、およそギャルゲーとは思えないレベルで何のイベントも起きないまま卒業式を迎えてしまった。俺の第二ボタンをもらいにきてくれる人はいなかった。
「今日でこの高校ともお別れだな」
 卒業式を終え、俺は木嶋と二人で通学路を歩いていた。ここを通るのもこれが最後だ。
「卒業式なのに誰にも告白しなくて良かったのか?」
「……いいよ、もう……」
 どうせ誰に告白したってフラれるに決まっている。
 せっかくギャルゲーの主人公になれたのに、最後まで彼女は出来なかった。唯一出来たのは木嶋という親友だけだ。元々の俺には親友と呼べるような友人はいなかったから、確かにかけがえのない存在とも言えるが……思っていたとの違う。このギャルゲー、難易度高すぎるだろ。こんなの初見でどうやってクリアすればいいんだ。それとも、俺は主人公の器ではなかったということなのか……。
「伊東、このあと暇ならお前んち行っていいか?」
「え……何で?」
「高校生活お疲れ様ってことで、打ち上げしようぜ」
 正直なところそんな気分にはなれない。断ってしまおうかと思ったところで、俺はふと、ギャルゲーにも友情エンドがあることを思い出した。
 そうか、俺は知らないうちに親友ルートに入っていたのか。どおりで彼女が出来ないわけだ。そうなってしまったのなら仕方ない、このまま木嶋との友情エンドを迎えることにしよう……。
 木嶋を部屋に通して適当に座った。俺の両親は不在……というか、海外出張中なので実質一人暮らしのようなものだ。こんなおいしい設定を無駄にするなんて、俺はつくづくギャルゲーに向いていない。
 テーブルの上に菓子を広げ、ジュースで乾杯した。
「伊東、結局彼女は出来なかったな」
「傷を抉るなよ……」
「でも自信持っていいと思うぞ。お前って顔は普通だけど性格は良いし」
 褒められているんだろうけれど素直に喜べない……。木嶋は俺の顔をじっと見つめ、こちらに体を寄せてきた。
「伊東が勉強も部活もバイトも頑張ってたところ、俺はずっと見てたよ」
「ああ、うん……ありがとう」
「正直、ずっと不安だった。伊東が誰かに取られちゃうんじゃないかって」
 ……ん? どういう意味だ?
 菓子を食べる手を止めて木嶋に視線を移すと、彼は今までに見たことがないほど真剣な表情になっていた。
「伊東にずっと伝えたかったことがある」
「な……なに……?」
 ちょっと待て、これ友情エンドだよな? この雰囲気、なんかおかしくないか?
 鼓動が俄に騒がしくなる。
「俺、伊東のことが好きなんだ」
 木嶋の言葉に、俺は手にしていたポテトチップスをぽとりと落とした。
「最初は伊東に彼女が出来るように応援してた。でも、頑張ってる姿を見てたらいつの間にか好きになってたんだ」
「い、いや……待って……」
「もし卒業式までに彼女が出来なかったら告白しようって決めてた。だからもう遠慮なんてしない。俺はお前が好きだ……!」
「ちょ、ちょっと待てって!」
 両手を包み込むように握られる。振りほどこうとしてもびくともしない。こいつこんなに力強かったのか?
「お、おかしいだろ、そんなの!」
「どうして? 男同士だからか?」
「いや、その……何て言うか……」
 友情エンドで親友から告白されるなんて流石におかしい。こんな展開、まるでギャルゲーというより……。
「……!」
 ようやく気づいた。
 ここはギャルゲーの世界で、俺は主人公──それは誰かから説明があったわけではなく、状況的にそうだと俺が判断したことだ。でも、もしそれが最初から間違いで、ただの思い込みだったとしたら。ここはギャルゲーの世界なんかじゃなく、本当は……。
「伊東、俺と付き合ってくれ」
「き、木嶋……」
 エンドロールでイベントCGが流れるかの如く、脳内に今までの思い出が蘇ってくる。
 木嶋はいつも俺のそばにいてくれて、相談に乗ってくれて、アドバイスをくれて……木嶋がいなければ、きっと俺はこの世界でも孤独なままだっただろう。彼女こそ出来なかったものの、こうして思い返してみると充実した毎日を過ごせていたと思う。そしてそれは木嶋のおかげだ。
 俺はずっと彼のことを親友だと思っていた。でも、もしかしたら……。
「伊東……返事、聞いてもいいか?」
「あ、う……」
 心臓がばくばくと音を立てている。
 顔が熱い。手のひらに汗がじわりと滲む。
 うまく言葉が出てこなくて、代わりに目を合わせて小さく頷く。すると木嶋の端正な顔が近づいてきて、そっと唇が重なった。
 どうやら、攻略されていたのは俺の方だったようだ。
『BLゲームの攻略キャラに転生した俺にはハッピーエンドが約束されている』


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