旅館に到着した二人は、早速、部屋に案内された。
窓の外には、壮大な山々と、遠くには煌々と輝く軌道エレベーターが、まるで巨大な光の柱のように見えた。ユウキは、窓に駆け寄り、その光景を食い入るように見つめている。
「すごいね、アキくん…!ここから見ると、エレベーターって、すごく雄大で、まるで生きているみたいだね」
ユウキの言葉に、アキは、ただ静かに微笑んだ。彼は、ユウキの言葉に、自分の仕事の誇りを感じていた。
夕食は、部屋で楽しむ懐石料理だった。
一品一品、丁寧に作られた料理を、二人はゆっくりと味わう。
アキは、普段、仕事で食事をゆっくりと取ることができないためか、一品ずつ、その味を噛み締めるように食べていた。ユウキは、そんなアキの姿を、ただ微笑ましく見つめていた。
食後、二人は、部屋に備え付けられた露天風呂へと向かった。
湯気に包まれ、ユウキは、思わず「あ〜…」と幸せそうな声を漏らす。アキは、そんなユウキの隣に静かに座り、ぼんやりと空を見上げていた。
「アキくん、お疲れ様…」
ユウキがそう言って、アキの背中を優しく撫でた。アキは、ユウキの優しい手に、思わず目を閉じる。仕事の重圧から解放され、ユウキと共にいるこの時間が、アキにとって、何よりも幸せだった。
「…ユウキ、ありがとう」
アキは、そう言って、ユウキの頭を優しく撫でた。
「ねぇ、アキくん。私、コンシェルジュの仕事をして、たくさんの人と話をしてきたんだ。宇宙に住んでいる人、宇宙に行ってみたい人、夢を追う人…みんな、宇宙に、それぞれ色々な想いを持ってるんだって知ったの」
ユウキは、そう言って、静かに語り始めた。
「私、ずっと、宇宙に行くのが怖かったんだ。でも、アキくんがいてくれたから、たくさんの人たちが宇宙へ行く姿を見てきたから、いつか、私も…アキくんと、一緒に宇宙へ行ってみたいって、思うようになったんだ」
ユウキは、そう言って、アキの顔をじっと見つめた。
アキは、ユウキの言葉に、驚きを隠せない。ユウキが、自らの意志で宇宙へ行きたいと願うまでに成長したことに、アキは、心から感動した。
「…ユウキ」
アキは、ユウキを優しく抱きしめた。
「…嬉しい。お前が、俺と同じ夢を見てくれて、嬉しい」
夜が更け、二人は部屋で月を見上げていた。地上から見上げる月は、まるで宇宙と自分たちを繋いでいるかのように、優しく輝いていた。
「ねぇ、アキくん。今日の月、すごく綺麗だね」
ユウキがそう話すと、アキは、ユウキの手を握りしめ、静かに微笑んだ。
「そういえばさ、私、アキくんのこと、最初は『高遠くん』って呼んでたよね?それが、いつの間にか『はるきくん』になって、今は『アキくん』。なんか、面白いよね」
ユウキの言葉に、アキは、少しだけ照れたように笑った。
「…そうだな。俺も、お前がいつ『アキ』って呼ぶようになるのか、ずっと楽しみだった」
アキの言葉に、ユウキは、はっと顔を上げた。
「…そうなの?でも、なんで『アキくん』なの?」
ユウキの問いかけに、アキは少しだけ遠い目をした。
「俺の名前、『陽樹』って書くだろ?お前は『はるき』って呼んでたけど、俺の父親も同じ名前なんだ。だから、正直、あまり好きじゃなかった。でも…」
アキは、ユウキの目を見つめ、静かに続けた。
「初めて出会った日、お前が俺の名前を見て、『陽』の字を『あき』って読むんだな、って言ったんだ。俺は、その時、お前が自分のことのように嬉しそうな顔をしてくれたのを、覚えてる。あの時、お前が呼んでくれた『アキくん』という響きが、すごく優しくて、俺の名前を好きになれたんだ」
アキの告白に、ユウキは胸が締め付けられるような思いがした。自分が何気なく口にした言葉が、アキの心をどれほど救っていたのか、初めて知ったからだ。
「…だって、そうじゃない!『陽』っていう漢字は、太陽の光を表す言葉でしょ?太陽は、もちろん夏には力強く輝くけど、秋になると、少し柔らかく、穏やかになる。私は、そういう温かくて優しい光のイメージが、アキくんにぴったりだなって思ったんだよ!」
ユウキは、涙目で、そう言ってアキに抱きついた。
「…アキくん」
ユウキは、そう言って、アキに抱きついた。
「いつか、僕たちの手で、宇宙にたくさんの夢を届けよう。そして、いつか二人で、あの月まで行こう」
アキの言葉に、ユウキは、未来への希望を感じた。
二人の心は、この困難な夜を共に過ごしたことで、さらに深く、強く結びついたのだった。