第10話:アキの仕事に触れる日(後編)
ー/ーユウキは、アキの真剣な横顔から目が離せなかった。
ただ、無数の光が点滅するモニターを眺めているだけなのに、アキの背中から伝わる熱意と、張り詰めた緊張感が、ユウキの心を締め付けた。
その時、見学室と運行管理室を隔てる分厚いガラスの向こう側から、キィーン、と甲高い電子音が響き渡った。
「セクターE、気圧、わずかに低下!予測値を超過!」
隣にいたユウキは、思わず息をのんだ。モニターの画面が、一瞬で赤く点滅し、アラートが鳴り響く。周囲の運行管理者たちが一斉にざわつき、緊張の度合いが跳ね上がった。
ユウキは、心臓が大きく跳ねるのを感じた。
つい先ほどまで、アキの仕事の重圧を漠然と感じていたが、それが現実のものとなり、ユウキの目の前に突きつけられたのだ。
アキは、モニターから一歩も動かずに、冷静な声で指示を出す。
彼の口から発せられる専門用語は、ユウキにはほとんど理解できなかったが、その一言一言に、彼の確固とした意志が感じられた。
アキは、まるで自分が操縦する「船」の、たった一人の「船長」のように、冷静に、的確に、状況をコントロールしていた。
数分後、再び電子音が鳴り、モニターのアラートは、緑色へと変わった。
運行管理室に、安堵の溜息が広がった。
アキは、一瞬だけモニターから視線を外し、見学室のガラス越しに、ユウキの姿を探した。二人の視線がぶつかる。
ユウキは、心配で震える唇を固く結び、ガラスに手を当てていた。アキは、ユウキのその表情を見て、フッと柔らかな表情を浮かべ、唇を動かした。
『…大丈夫だ』
声は聞こえない。
だが、ユウキには、アキがそう言っているのが分かった。
彼の顔には、安堵の表情と、わずかな疲労の色が浮かんでいた。ユウキは、ガラス越しに、アキに「すごいね、アキくん」と伝えた。アキは、その言葉に、少しだけ照れたように微笑んだ。
見学の時間が終わり、ユウキとルナは運行管理室を後にした。
ユウキは、エレベーターの前で、アキが来るのを待っていた。
「ユウキさん!お疲れ様でした!いやぁ、アキさん、すごくかっこよかったですね!」
ルナは、興奮冷めやらぬ様子で、ユウキに話しかけた。
「うん…アキくん、本当にすごいね」
ユウキは、ルナの言葉に、静かに頷いた。
その時、エレベーターのドアが開く。そこに立っていたのは、アキだった。
彼は、仕事用のユニフォームから着替え、私服姿に戻っていた。ユウキは、思わず駆け寄って、アキの胸に顔を埋めた。
「アキくん…お疲れ様…」
「ああ、ユウキも…」
アキは、ユウキの頭を優しく撫でた。
「アキくん…私、今日、アキくんの仕事が、どれだけ大変で、どれだけすごいことなのか、初めて知ったよ。ごめんね…今まで、ちゃんと分かってあげられなくて」
ユウキは、アキの胸の中で、涙を流した。アキは、ユウキの言葉に、静かに首を振る。
「…ユウキが、僕の仕事を、そんな風に思ってくれてるって、嬉しいよ。ありがとう」
アキは、そう言って、ユウキの手を優しく握りしめた。彼の指は、先ほどまで、冷たく無機質なキーボードを叩いていた。
しかし、今は、ユウキの温かい手を、しっかりと握りしめていた。
「アキくん…ねえ、私にも教えてくれる?今、何が起こったのか…」
ユウキは、アキの仕事を、もっと深く知りたい、と心から思った。
「いいよ。今度、ユウキが働く地上駅にも、見学に行かせてくれないか?」
アキは、ユウキに、そう提案した。ユウキは、顔を輝かせ、満面の笑みで頷いた。
「もちろんだよ!いつでも来てね!案内するから!」
「…じゃあ、今度は、僕がユウキの夢を乗せる番だ」
アキは、そう言って、ユウキの手をさらに強く握りしめた。
「じゃあ、ユウキさん、アキさん!私はこれで失礼します!アキさんの素敵なユニフォーム姿も見れたし、今日はもう、大満足です!」
ルナは、そう言って、にこやかに二人に挨拶をした。
「ありがとう、ルナ!また明日ね!」
ユウキが手を振ると、ルナは、楽しそうに笑いながら、エレベーターへと向かった。
「邪魔者は退散しますね~!ラブラブなお二人を、これ以上邪魔しちゃいけないですよね!」
ルナは、ユウキをからかうように、そう言って、エレベーターのドアの中に消えていった。ユウキは、真っ赤になった顔をアキの胸に押し付けた。
アキは、そんなユウキを愛おしそうに抱きしめた。
その日、ユウキは、アキの仕事に、初めて触れた。
それは、彼の温かい手を通して、彼の仕事への情熱と、人々の夢を守るという強い責任感に触れることだった。
二人の仕事は、全く違うように見えて、実は、同じ「希望」という一つの光を、守るために繋がっているのだと、ユウキは心から感じていた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
ユウキは、アキの真剣な横顔から目が離せなかった。
ただ、無数の光が点滅するモニターを眺めているだけなのに、アキの背中から伝わる熱意と、張り詰めた緊張感が、ユウキの心を締め付けた。
その時、見学室と運行管理室を隔てる分厚いガラスの向こう側から、キィーン、と甲高い電子音が響き渡った。
「セクターE、気圧《きあつ》、わずかに低下《ていか》!予測値《よそくち》を超過《ちょうか》!」
隣にいたユウキは、思わず息をのんだ。モニターの画面が、一瞬で赤く点滅し、アラートが鳴り響く。周囲の運行管理者たちが一斉にざわつき、緊張の度合いが跳ね上がった。
ユウキは、心臓が大きく跳ねるのを感じた。
つい先ほどまで、アキの仕事の重圧を漠然と感じていたが、それが現実のものとなり、ユウキの目の前に突きつけられたのだ。
アキは、モニターから一歩も動かずに、冷静な声で指示を出す。
彼の口から発せられる専門用語は、ユウキにはほとんど理解できなかったが、その一言一言に、彼の確固とした意志が感じられた。
アキは、まるで自分が操縦する「船」の、たった一人の「船長」のように、冷静に、的確に、状況をコントロールしていた。
数分後、再び電子音が鳴り、モニターのアラートは、緑色へと変わった。
運行管理室に、安堵《あんど》の溜息《ためいき》が広がった。
アキは、一瞬だけモニターから視線を外し、見学室のガラス越しに、ユウキの姿を探した。二人の視線がぶつかる。
ユウキは、心配で震える唇を固く結び、ガラスに手を当てていた。アキは、ユウキのその表情を見て、フッと柔らかな表情を浮かべ、唇を動かした。
『…大丈夫だ』
声は聞こえない。
だが、ユウキには、アキがそう言っているのが分かった。
彼の顔には、安堵の表情と、わずかな疲労の色が浮かんでいた。ユウキは、ガラス越しに、アキに「すごいね、アキくん」と伝えた。アキは、その言葉に、少しだけ照れたように微笑んだ。
見学の時間が終わり、ユウキとルナは運行管理室を後にした。
ユウキは、エレベーターの前で、アキが来るのを待っていた。
「ユウキさん!お疲れ様でした!いやぁ、アキさん、すごくかっこよかったですね!」
ルナは、興奮冷めやらぬ様子で、ユウキに話しかけた。
「うん…アキくん、本当にすごいね」
ユウキは、ルナの言葉に、静かに頷いた。
その時、エレベーターのドアが開く。そこに立っていたのは、アキだった。
彼は、仕事用のユニフォームから着替え、私服姿に戻っていた。ユウキは、思わず駆け寄って、アキの胸に顔を埋《うず》めた。
「アキくん…お疲れ様…」
「ああ、ユウキも…」
アキは、ユウキの頭を優しく撫でた。
「アキくん…私、今日、アキくんの仕事が、どれだけ大変で、どれだけすごいことなのか、初めて知ったよ。ごめんね…今まで、ちゃんと分かってあげられなくて」
ユウキは、アキの胸の中で、涙を流した。アキは、ユウキの言葉に、静かに首を振る。
「…ユウキが、僕の仕事《しごと》を、そんな風に思ってくれてるって、嬉しいよ。ありがとう」
アキは、そう言って、ユウキの手を優しく握りしめた。彼の指は、先ほどまで、冷たく無機質なキーボードを叩いていた。
しかし、今は、ユウキの温かい手を、しっかりと握りしめていた。
「アキくん…ねえ、私にも教えてくれる?今、何が起こったのか…」
ユウキは、アキの仕事を、もっと深く知りたい、と心から思った。
「いいよ。今度、ユウキが働く地上駅にも、見学に行かせてくれないか?」
アキは、ユウキに、そう提案した。ユウキは、顔を輝かせ、満面の笑みで頷いた。
「もちろんだよ!いつでも来てね!案内するから!」
「…じゃあ、今度は、僕がユウキの夢を乗せる番だ」
アキは、そう言って、ユウキの手をさらに強く握りしめた。
「じゃあ、ユウキさん、アキさん!私はこれで失礼します!アキさんの素敵なユニフォーム姿も見れたし、今日はもう、大満足です!」
ルナは、そう言って、にこやかに二人に挨拶をした。
「ありがとう、ルナ!また明日ね!」
ユウキが手を振ると、ルナは、楽しそうに笑いながら、エレベーターへと向かった。
「邪魔者は退散しますね~!ラブラブなお二人を、これ以上邪魔しちゃいけないですよね!」
ルナは、ユウキをからかうように、そう言って、エレベーターのドアの中に消えていった。ユウキは、真っ赤になった顔をアキの胸に押し付けた。
アキは、そんなユウキを愛おしそうに抱きしめた。
その日、ユウキは、アキの仕事に、初めて触れた。
それは、彼の温かい手を通して、彼の仕事への情熱と、人々の夢を守るという強い責任感に触れることだった。
二人の仕事は、全く違うように見えて、実は、同じ「希望」という一つの光を、守るために繋がっているのだと、ユウキは心から感じていた。