第8話:忘れ物の恋文(後編)

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 地上駅のコンコースは、今日も多くの人々で賑わっていた。

 ユウキは、来訪者の案内をしながらも、時折、入り口の方に視線を向けてしまう。

 彼のことを待っているというわけではない。アキは運行管理室の担当で、普段は地上駅に降りてくることはない。

 それでも、もしかしたら、という淡い期待が、ユウキの心を占めていた。

「ユウキさん、大丈夫ですか?なんだか落ち着かないみたいですけど」

 同僚のルナ=ヴァレンタインが、心配そうに声をかけてきた。

「あ、大丈夫だよ、ルナ。ちょっとね、忘れ物をしちゃって…」

 ユウキは、そう言って、手のひらに握りしめたアキの鍵を隠した。
 ルナは、ユウキのぎこちない笑顔に、何かを察したように、ただ優しく微笑んだ。




 その時、地上駅に直結するエレベーターのドアが静かに開いた。
 通常、この時間帯に運行管理室のスタッフが地上に降りてくることはない。ユウキは、何事だろうかと目を凝らす。

 そこに立っていたのは、アキだった。

「アキくん…?」

 ユウキは、信じられない、といった顔で、アキの名前を(つぶや)いた。
 アキの顔には、疲労の色がまだ残っていたが、どこか穏やかで、決意に満ちた表情をしていた。

「ユウキ」

 アキは、ユウキのいる受付カウンターへとまっすぐに歩み寄ってきた。ユウキは、彼がこんな場所に来てくれたことが嬉しくて、胸が熱くなるのを感じた。

「アキくん、どうしたの?もしかして、鍵…」

 ユウキは、手のひらの鍵を見せようと、アキに差し出した。
 しかし、アキはそれには目もくれず、ユウキに一つのタブレットを差し出した。
 それは、ユウキがいつも使っているタブレットだった。

「これ、君の忘れ物だ」

 アキは、少しだけ照れくさそうに、そう告げた。

 ユウキは、自分のタブレットをじっと見つめ、そして、その隣にあるアキの手に目をやった。アキの手には、見慣れたはずの、アキのタブレットがない。

「もしかして、アキくん…間違えて、私のタブレット持って行っちゃったの?」

 ユウキがそう尋ねると、アキは、少しだけ頬を赤らめて(うなず)いた。

「…うん」

 ユウキは、アキがわざわざこんな場所までタブレットを届けに来てくれたことに、感動して言葉が出なかった。

「ありがとう、アキくん…でも、なんで…」

 ユウキは、アキの優しさに感謝しながらも、彼の行動が理解できず、首を(かし)げた。

「…これを見て、来たんだ」

 アキは、そう言って、タブレットの画面をユウキに向けた。画面には、ユウキのメモアプリが開かれていた。

「…えっ?」

 ユウキは、自分が書いたメモが、アキに見られてしまったことを知って、顔から火が出るようだった。
 彼女が日々の仕事で感じたこと、そして、アキへの想いが、すべてそこに綴られていたのだ。

「…ユウキが、僕の仕事(しごと)が、人々の(ゆめ)(はこ)んでいるって(しん)じてくれてるって…(うれ)しかった」

 アキは、そう言って、ユウキの頭を優しく撫でた。

「そして…」

 アキは、もう一度、タブレットの画面をスクロールする。

 そこには、ユウキが書いた「最近のアキくん、忙しそうで心配だなぁ…」という一文が表示されていた。

「…心配かけて、ごめん」

 アキは、そう言って、ユウキを優しく抱きしめた。ユウキは、アキの温かい腕の中で、思わず涙を流した。

「ユウキ…僕は、君が隣にいてくれるから、頑張れるんだ」

 アキの言葉に、ユウキは、彼の胸に顔を(うず)めた。

「私もだよ、アキくん。アキくんがいてくれるから、毎日が楽しいんだよ」

 ユウキは、そう言って、アキの背中に手を回した。

 その日、二人は、それぞれの忘れ物を通して、互いの想いを再確認した。アキは、ユウキを食事に誘った。

「ユウキ、もしよかったら…この後、一緒にご飯でもどうかな?」

「いいの?アキくん、疲れてるでしょ?」

「うん。でも、ユウキと一緒なら、きっと大丈夫だ」

 アキの言葉に、ユウキは顔を輝かせた。

 二人は、駅のすぐそばにある、昔ながらのたこ焼き屋へ向かった。

 焼きたてのたこ焼きを二人で分け合いながら、今日あった出来事を語り合う。アキは、ユウキが話すたびに、静かに頷き、時折優しく微笑んだ。

「そういえば、アキくんも忘れ物してたんだね」

 ユウキは、たこ焼きを一つ口に運びながら、楽しそうに言った。

「…ああ。初めてだ」

 アキは、少しだけ照れくさそうに答える。

「アキくんも、やっぱり人間だったんだね。少し安心した」

 ユウキがくすりと笑うと、アキは、ユウキの頭を優しく撫でた。

「…もう二度と、間違えないようにする。大切なものは、ちゃんとこの手で持っておく」

 アキは、そう言って、ユウキの手をそっと握りしめた。ユウキは、アキの言葉に、胸が温かくなるのを感じた。

 アキの仕事への情熱は、ユウキの温かい想いによって支えられ、ユウキの仕事への誇りは、アキの真摯な姿勢によって深まる。

 二人の不器用な愛は、今日もこのエレベーターの下で、静かに育まれていた。






みんなのリアクション

 地上駅のコンコースは、今日も多くの人々で賑わっていた。
 ユウキは、来訪者の案内をしながらも、時折、入り口の方に視線を向けてしまう。
 彼のことを待っているというわけではない。アキは運行管理室の担当で、普段は地上駅に降りてくることはない。
 それでも、もしかしたら、という淡い期待が、ユウキの心を占めていた。
「ユウキさん、大丈夫ですか?なんだか落ち着かないみたいですけど」
 同僚のルナ=ヴァレンタインが、心配そうに声をかけてきた。
「あ、大丈夫だよ、ルナ。ちょっとね、忘れ物をしちゃって…」
 ユウキは、そう言って、手のひらに握りしめたアキの鍵を隠した。
 ルナは、ユウキのぎこちない笑顔に、何かを察したように、ただ優しく微笑んだ。
 その時、地上駅に直結するエレベーターのドアが静かに開いた。
 通常、この時間帯に運行管理室のスタッフが地上に降りてくることはない。ユウキは、何事だろうかと目を凝らす。
 そこに立っていたのは、アキだった。
「アキくん…?」
 ユウキは、信じられない、といった顔で、アキの名前を呟《つぶや》いた。
 アキの顔には、疲労の色がまだ残っていたが、どこか穏やかで、決意に満ちた表情をしていた。
「ユウキ」
 アキは、ユウキのいる受付カウンターへとまっすぐに歩み寄ってきた。ユウキは、彼がこんな場所に来てくれたことが嬉しくて、胸が熱くなるのを感じた。
「アキくん、どうしたの?もしかして、鍵…」
 ユウキは、手のひらの鍵を見せようと、アキに差し出した。
 しかし、アキはそれには目もくれず、ユウキに一つのタブレットを差し出した。
 それは、ユウキがいつも使っているタブレットだった。
「これ、君の忘れ物だ」
 アキは、少しだけ照れくさそうに、そう告げた。
 ユウキは、自分のタブレットをじっと見つめ、そして、その隣にあるアキの手に目をやった。アキの手には、見慣れたはずの、アキのタブレットがない。
「もしかして、アキくん…間違えて、私のタブレット持って行っちゃったの?」
 ユウキがそう尋ねると、アキは、少しだけ頬を赤らめて頷《うなず》いた。
「…うん」
 ユウキは、アキがわざわざこんな場所までタブレットを届けに来てくれたことに、感動して言葉が出なかった。
「ありがとう、アキくん…でも、なんで…」
 ユウキは、アキの優しさに感謝しながらも、彼の行動が理解できず、首を傾《かし》げた。
「…これを見て、来たんだ」
 アキは、そう言って、タブレットの画面をユウキに向けた。画面には、ユウキのメモアプリが開かれていた。
「…えっ?」
 ユウキは、自分が書いたメモが、アキに見られてしまったことを知って、顔から火が出るようだった。
 彼女が日々の仕事で感じたこと、そして、アキへの想いが、すべてそこに綴られていたのだ。
「…ユウキが、僕の仕事《しごと》が、人々の夢《ゆめ》を運《はこ》んでいるって信《しん》じてくれてるって…嬉《うれ》しかった」
 アキは、そう言って、ユウキの頭を優しく撫でた。
「そして…」
 アキは、もう一度、タブレットの画面をスクロールする。
 そこには、ユウキが書いた「最近のアキくん、忙しそうで心配だなぁ…」という一文が表示されていた。
「…心配かけて、ごめん」
 アキは、そう言って、ユウキを優しく抱きしめた。ユウキは、アキの温かい腕の中で、思わず涙を流した。
「ユウキ…僕は、君が隣にいてくれるから、頑張れるんだ」
 アキの言葉に、ユウキは、彼の胸に顔を埋《うず》めた。
「私もだよ、アキくん。アキくんがいてくれるから、毎日が楽しいんだよ」
 ユウキは、そう言って、アキの背中に手を回した。
 その日、二人は、それぞれの忘れ物を通して、互いの想いを再確認した。アキは、ユウキを食事に誘った。
「ユウキ、もしよかったら…この後、一緒にご飯でもどうかな?」
「いいの?アキくん、疲れてるでしょ?」
「うん。でも、ユウキと一緒なら、きっと大丈夫だ」
 アキの言葉に、ユウキは顔を輝かせた。
 二人は、駅のすぐそばにある、昔ながらのたこ焼き屋へ向かった。
 焼きたてのたこ焼きを二人で分け合いながら、今日あった出来事を語り合う。アキは、ユウキが話すたびに、静かに頷き、時折優しく微笑んだ。
「そういえば、アキくんも忘れ物してたんだね」
 ユウキは、たこ焼きを一つ口に運びながら、楽しそうに言った。
「…ああ。初めてだ」
 アキは、少しだけ照れくさそうに答える。
「アキくんも、やっぱり人間だったんだね。少し安心した」
 ユウキがくすりと笑うと、アキは、ユウキの頭を優しく撫でた。
「…もう二度と、間違えないようにする。大切なものは、ちゃんとこの手で持っておく」
 アキは、そう言って、ユウキの手をそっと握りしめた。ユウキは、アキの言葉に、胸が温かくなるのを感じた。
 アキの仕事への情熱は、ユウキの温かい想いによって支えられ、ユウキの仕事への誇りは、アキの真摯な姿勢によって深まる。
 二人の不器用な愛は、今日もこのエレベーターの下で、静かに育まれていた。