(アイツが……十葉がいないと……だいぶ静かで調子狂うな……こりゃ笑えない話だ)
颯志は少年の顔で空を見上げる。相変わらず雲は速い。徐に颯志が呟いた。二人も思わず空を見上げる。
「雲が速いな……」
「あ、私……そう思ってた」
そういえば舞香は演技の前、空を見上げていた。舞羽は少し分った気がした。演技の前、『自分には、そんな余裕がなかった』ことを。舞香に負けた訳を。
舞香も同じように呟く。
「ドレッサージュと同じだなって……ここは風が穏やかなのに、上空は力を尽くしている……」
颯志も舞羽も、舞香の言葉に何かを見た。二人が感じた『それ』は、違うものかもしれない。ただ天才たちは舞香に見惚れていた……舞香の髪が穏やかな風に揺れる。『よしっ』とばかりに颯志が膝を打つ。
「俺も……ドレッサージュが課題だって、こんなにも差がつくなんて、考えが甘かった。ドレッサージュだったら、ジュニアライダーで3番にも入れなかった。だから二人にも教えてもらいたいから、さ」
颯志はそれぞれの顔を見る。
「ドレッサージュでは負けたくないわ」
「あ、私で良ければ……」
三人には誓い合った『絆』ができた、良きライバルとして、互いを高め合う友として、今まで以上の存在として……そう感じた瞬間でもあった。
「またすぐ会えるさ」
颯志はそう言って去って行く……途中一度振り返って、大きく手を振った。舞香はその手が、自分の肩に回されたことを思い出して、笑顔がこみ上げてくるのだった。