「……私の前に舞羽の演技だったでしょ? 私そのとき思っちゃったのよ、『ミスしちゃえ』って」
「……」
再び隼人から目を逸らす楓乃。揺れる草木、楓乃の視線はその辺りを泳いでいる。隼人も同じ物を見ていると確信できるほどのフィーリング。
「今回思ってたの、私。この大会で舞羽に勝てたのなら……自信が持てるかなって……想いを告げようって……それだけのことをやって来たって、その覚悟をもって臨もうって……」
「楓乃……」
「でもあの子の演技が始まって、『あぁ、やっぱりこの子には勝てないんだな』って思ったら……私は自分の演技をする前に、舞羽に白旗を上げちゃったのよ。自分の実力で勝つことを放棄した」
黙って一歩を踏み出す隼人。
「来ないで、隼人……舞羽のこと……好きなんでしょう?」
「…………」
楓乃の目に涙が溢れる。何でさっきは涙が出なかったのだろう……。きっとそれは一生懸命じゃなかったから……分かっている。隼人を好きと思う気持ち程、馬術に真剣ではなかったから……。
今、振られようとしている自分が、惨めで悲しいって気付いてしまったから……。
「私を、選んでくれないのなら……このまま放っておいて……」
分かっている。沈黙が答えだ。楓乃は隼人に背を向けた。気持ちと裏腹に自ら隼人を拒んだ形をとる。それが、せめてもの優しさだった。
隼人は歩みを踏み出せなかった……。