大食堂のバイキングは、味噌汁・千切りキャベツ・漬け物・ご飯・ふりかけ・フリードリンクなどは定番で、その他に、コロッケや焼売、パスタ、ポテトサラダ、プリンなどのデザートまで食べ放題だ。
美都は馬上の悔しさを食べ物にぶつける。
楓乃は美都のようにはできない。舞羽、舞香に『おめでとう』の言葉は何とか渡すことができた。しかしそれ以上できない……後輩たちに笑顔を向けることができない。
食事が終わった後も、参加者のほぼ全ての人間が寝泊まりしている青少年交流の家は、騒がしかった。楓乃は宿舎に着くと、すぐに一人になれる場所を探した。
少し高台になっているベンチを見つけて座る。近隣は自衛隊の演習場になっていて広々した緑色をしている。風が心地よい。
涙なんて出ない。それが楓乃の気持ちを余計に惨めにさせる。
「あ~ぁ……」
「楓乃……」
楓乃が深く息を吐き出したのを見計らったように、隼人が声を掛ける。楓乃は振り返りもせずに、大きく伸びをして、呟いた。
「嫌になっちゃうよ……」
「すげぇ後輩だもんな……俺も立場ないよ」
オリンピックで行われる競技のすべての種目の中で、選手の男女の区別がない唯一の競技が馬術。世界でもハンディ差による垣根が低いスポーツの一つである。
「そうじゃなくって……私自身……嫌になっちゃうのは」
そう言うと楓乃は隼人に向き直る。風に靡いた楓乃の長い黒髪が大きく揺れて、その匂いを隼人に届ける。