「瑞稀、何で俺に黙っていた?」
「申し訳ありません」
「お前は初めから知っていたんだろう?」
「……はい、素性は調べてありました」
帰りの道中、一颯は瑞稀を問いただした。
音色を送り届けて社に戻ってきた瑞稀。音色が『いかないで』と言わんばかりの目を向けるのを見たときには心が揺れた。
あんなことがあったんだ、一人でいることの不安は良く分かる。瑞稀は会長の許可を得て父親を呼び寄せる。一颯の世話をしていたこともある瑞稀の父はこの家のことも良く分かっている。
面識のない人間では音色も不安ではあるだろうが、ずっと接しているわけではない。『信用できる人間が近くに居る』ことが安心につながる。
その辺りはさすがにベテラン執事である。『着き過ぎず離れ過ぎず』適度な距離感と存在感が温かい人の気配だけを跡す。
瑞稀は『なるべくすぐ戻る』と約束して出てきた。
一颯の問いにしっかりと答えるものの、瑞稀の心はここに有らざるを感じる一颯。そう思うといつもより運転も荒くなっているようにも感じる。
その心は一颯のも分かる。音色の側へ一刻も早く戻ってあげたい。
(そうか……瑞稀もきっと……)
一颯はそれ以上瑞稀に問うのを止めた。道路を照らす街灯は光の線となってその残像を後ろへと伸ばしていく……。